73. セバスティアノス・レオニダス
第三試合、決勝戦が始まります。
どうぞよろしくお願いいたします。
カテリーナは決勝戦までの間、それまでと同じように控室で待機していた。
スタジアムの喧噪とは対照的に、厚い石壁に囲まれた部屋の中はとても静かで、心を落ち着かせてくれる空間だった。
カテリーナは試合の疲れが溜まっていたため、椅子に腰掛けたまま、いつの間にか深い眠りへと落ちていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
選手を案内する係員が、カテリーナの控え室の前に訪れた。
――コンコン
「……決勝戦の準備をお願いいたします」
返事がなかったため、係員も一瞬迷ったが、今度は強い力で扉を叩く。
――ドンドン!
「……ルクサリスさま、決勝戦の準備をお願いいたします!」
大きなノック音と声により、カテリーナははっと目を覚ます。
「ふぁいっ!」
間の抜けた返事と同時に、カテリーナは跳ね起きた。
慌てて身なりを整えながらも、ふと脳裏をよぎったのは、準決勝で剣を交えたヨアニスのことだった。
――そういえば、三位決定戦があるって言っていたけど、勝てたのかな?
短い時間ではあったものの、カテリーナは短い眠りに落ちていたため、心も身体も十分に回復していた。
不思議なことに、決勝戦を前にしていても胸を締めつけるような重圧はなく、逆にヨアニスのことを考えるような余裕さえあった。
部屋を出て、係員の案内に従ってスタジアムへと向かう。
――決勝かぁ……最後の相手はどんな人かしら。やっぱり、強い人なのかなぁ。
ゲートを抜けた瞬間、これまで以上に異様な熱気を帯びた大歓声が、カテリーナを包み込んだ。
「さすがは聖女さまの娘だ! 応援しているぞ!」
「得意の剣技を見せてくれ!」
「久しぶりの女性優勝者を目指せー!」
決勝戦ともなると、観客の熱意も声援も明らかに違っていた。
カリスティア王国では、貴族・平民を問わず、騎士や魔導師に対する敬意が根付いている。
宮廷大学の受験生の中でも、特に選抜者トーナメントに進んだ者たちは、将来国家を支えていく人材として見られていた。
さらにその中でも、決勝まで勝ち進んだ者に対しては、受験生という立場を超えて、多くの期待と尊敬の眼差しが向けられるのであった。
そのような視線を一身に受けながらカテリーナが試合場へと進んでいくと、向こう側から威風堂々とした、気品あふれる長身の騎士が歩いてくるのが見えた。
――セバスティアノス・レオニダス!
現国王の妹を母に持ち、王家とも深い縁を持つ名門レオニダス公爵家の長男。
長身で容姿端麗、貴族社会でも名高い貴公子。
若年層の騎士大会では数々の実績を誇り、魔法も得意で雷撃魔法の名手として知られる存在。
……そして、最初の魔力測定のとき、私を助けてくれた人。
相手を意識したせいか、カテリーナは少し恥ずかしくもなり、伏し目がちに歩み寄っていく。
一方のセバスティアノスは、堂々とした足取りでカテリーナへ向かって歩いてくる。
彼に向けられる歓声は、カテリーナに対するものよりもさらに一段と大きなものだった。
名門公爵家の出身で、凛々しく整った顔立ちの貴公子。
貴族・平民を問わず人気があり、特に若い女性からは、黄色い声が途切れることなく飛び交っていた。
二人が近づいたところで、カテリーナの様子を察したのか、先にセバスティアノスが声をかけた。
「カテリーナ殿。このような舞台で、また会えるとは思っていなかった。本当に嬉しく思うよ」
その優しさが含まれた言葉に、カテリーナも自然と顔を上げ、返事をすることができた。
「あ、ありがとうございます。あのとき、あなたが声をかけてくださらなければ……私は、ここまで来られていません」
「いや、それは違う!」
セバスティアノスはきっぱりと言い切る。
「僕は騎士を目指す者として、当然のことを言ったまでだ。ここまで来れたのは、明らかに君自身の実力だ」
「……!」
その言葉に、おどおどとしていたカテリーナの心が解けていく。
「ほら」
セバスティアノスは視線をスタンドの一角へと向けた。
「陛下もご覧になっている。テオフラストスに啖呵を切ったときのように、自信を持つんだ」
その男らしい、はっきりとした言葉に、カテリーナははっと我に返る。
カテリーナは深く息を吸ったあと、心の中で「ありがとうございます」と呟いて、背筋を伸ばした。
次の瞬間、その表情からは迷いが消えていた。
セバスティアノスの目の前に立っている者は、ルクサリス家の名誉を背負い、剣を取る一人の騎士へと変わっていた。
――ふふっ、本当に、別人みたいだ。……それにしても、どちらが本当の彼女なんだろう?
セバスティアノスは、どこか楽しそうな表情でカテリーナを見つめていた。
小説を書くのが初めてです。
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