71. 二度目の跳躍
第三試合、準決勝戦三本目のクライマックスです。
どうぞよろしくお願いいたします。
1ポイントを取られて一瞬足が止まったカテリーナだったが、すぐにヨアニスへと迫った。
――今度は私が太陽を背負う位置。前と同じ手は使えないはず……。
しかし、ほんの一投でも当たれば敗北するという恐れから、カテリーナを慎重にさせ、わずかに歩みを鈍らせてしまった。
その躊躇を、ヨアニスは見逃さなかった。
「……じゃあ、こちら側に落ちてるナイフを拾わせてもらうよ」
そのわずかな隙に、ヨアニスは素早く移動しながら、地面に落ちているナイフを回収していく。
――拾ったのは5本……。やはり、あの跳躍の高さを出すためには最小限しか持てないのね。……いや、これも“思い込ませる”ための罠かもしれない。
カテリーナの脳裏に疑念が渦巻く。その一瞬の迷いが新たな隙を生んでしまった。
「カテリーナ、思い切って前に出ろ! 消極的だと逆にやられるぞ!」
アレクシオスは身を乗り出し、自らの声が届けと言わんばかりに、必死に声を張り上げた。
――今だ!
ヨアニスはカテリーナのためらいを感じ取り、怒涛の突きはまだ来ないと判断し、試合場の広さを利用して一気に動き、太陽を背負う位置へと回り込んだ。
――しまった!
カテリーナは慌てて相手の位置取りを阻止しようと踏み込み、突きを放つ。
しかし、わずかな初動の遅れが致命的となり、太陽を背負う位置まで奪われてしまった。
「ふふふ、後がなくなってから隙だらけだよ。これなら地上から投げるナイフでも当たるんじゃないかな?」
ヨアニスはあえて挑発めいた口調で告げた。
そこには、カテリーナを慎重にさせ、スピードを削がせる意図があった。
しかし逆にその言葉が、カテリーナに一つの確信を与えた。
――1つ、ナイフは5本しか拾わなかった。2つ、リスクを冒してまで位置取りを優先した。3つ、牽制し意図を隠すかのような言動……。やはり本命は、さっきと同じ空中戦!
覚悟を決めたカテリーナは、再び猛烈な突きの連撃を繰り出していく。
連撃が光の矢のように放たれ、観客席にまでその風圧が感じられるほどの勢いだった。
――シュッ、シュッ、シュッ!
――私が気付いたことを態度に出してはダメ。同じ戦い方を演じて、同じ状況を作る! それにナイフの手持ちが少ないのだから、攻撃が最大の防御になる!
追い詰められたことで、カテリーナは逆に吹っ切れ、怒涛の突きで距離を詰めていく。
「いいぞ、カテリーナ! それでいいんだ!」
アレクシオスは少し安堵の色を浮かべながらも、身体からは緊張の汗が滲んでいた。
――クッ! さすがに簡単にはいかないか!
カテリーナの鋭い連撃に、ポーカーフェイスを崩さないものの、ヨアニスは緊張感を持って躱していく。
いくらポイントでリードしていても、一突きをもらえば終わりだった。
数が少なく牽制のナイフを投げる余裕もないため、カテリーナの突きは重圧となって、ヨアニスの神経を削り続けていった。
――シュッ、シュッ、シュッ!
地上からの投げナイフの可能性を完全に頭から捨てて、カテリーナは持ち味のスピードを生かした突きを繰り出していった。
逆にその思い切りのよさが自らの隙を消し、ヨアニスを追い詰めていくことになった。
――全然スピードが落ちない! こんな小柄なのに、どんな体力してるんだよ!
ヨアニスが驚くのも無理はなかった。
カテリーナはこのレベルに至るまで、兄アレクシオスの神聖魔法による強制回復を伴う“地獄の特訓”を乗り越えてきたのだ。
その結果、もともと持っていたスピードに加え、強靭な体幹と異常なほどの持久力まで身についていたのだった。
――そのとき、事件は起きた。
敷き詰められた石畳の溝に、小さな石が紛れていた。
その上に左足を踏み込んだ瞬間、カテリーナのバランスがわずかに崩れる。
体幹の強さと柔軟性で体勢は立て直すものの、次の一歩の踏み込みがほんの僅か遅れた。
――いけるッ!
ヨアニスはこの機会を逃さなかった。
先ほどと同じようにバックステップからバク転へ移行し、一気に距離を取る。
そして――
風を切り裂きながら走り込み、太陽を背負うかのように再び跳躍した!
「カテリーナッ!」
アレクシオスの叫び声は、大歓声にかき消されて彼女には届かなかった。
小説を書くのが初めてです。
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