69. 陽に隠されたナイフ
第三試合、準決勝戦三本目です。
どうぞよろしくお願いいたします。
ヨアニスは手に持ったナイフをゆっくりと下ろし、それを静かにしまった。
「……まあ、これは刃引きされた練習用の剣だからこそ使える手なんだけどね」
「いえ、完敗です。思い込みって本当に怖いですね」
カテリーナはヨアニスに優しい笑顔を向けた。
――大貴族の令嬢なのに、対等に……いや、敬意を持って話してくれる。
ヨアニスの心の中に、じわりと温かいものが広がっていった。
大貴族だからといって、すべての貴族が平民を見下しているわけではない。
優しくて穏やかで、謙虚で、誠実な人もいる。
――先入観や思い込みに囚われてはいけないんだ!
ヨアニスも、そう実感させられた、そして同時に、心地よい瞬間でもあった。
「そうだね。お互い、思い込みには気を付けないといけないね」
ふと、自分の顔がどうなっているのか自信がなくなったため、ヨアニスは顔を見られないよう背を向け、急いで地面に散らばったナイフを拾いに行くのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
準備を終えた二人は審判の前に並び、審判は両者に状態の確認を行う。
二人はそれぞれ定位置につき、お互いに静かに礼を交わす。
カテリーナは剣を構えた。一方のヨアニスは、今度は両手にナイフを持った状態で構えていた。
「これまでの戦い方と違うのか……?」
観客席からアレクシオスが息を呑んだ。その手のひらには汗が滲んでいた。
――接近戦の戦い方はもう使えないと判断して、また別の戦い方を選んだのね。
今度はどんな戦い方なのかしら?
アレクシオスとは対照的に、カテリーナに緊張はなかった。
一本を取られて後がないにもかかわらず、強敵との戦いにむしろ胸が高鳴っていたのだった。
「始めっ!」
三本目……最終戦が幕を開けた。
ヨアニスは即座にバックステップで距離を取る。
その動きを読んでいたカテリーナは、もともと緩めていた留め具を外し、左腕に着けていた革の小手を投げ捨てる。
「なるほど、小手を保護する意味はほとんどないから、スピード重視ってことだね!」
さらに速くなったカテリーナの突きは、まるで空気まで切り裂く光の線のように見えた。
その凄まじい連撃は、相手との距離を一気に縮める。
対するヨアニスも、軽やかなフットワークで剣を躱しつつ、空中から複数の軌道のナイフを投げることで、距離を保とうとする。
だが――。
――キンッ!
カテリーナは前進するとともに、空中で放たれたナイフの軌道を完全に読み切っていた。
まさに、そこに投げると分かっていたかのように、放たれたナイフはその直後に撃墜された。
――キンッ!
次に投げたナイフも、カテリーナはピタリと剣を合わせて弾く。
「なっ!?」
ポーカーフェイスを貫くはずのヨアニスも、目を見開き驚愕の表情を隠せなかった。
予知したかのように迎撃してくるカテリーナの正確な突きに、思わず声まで漏れてしまう。
――お兄さまに教わった“先”! ナイフも同じ!
回転と腕の振りから、投げるタイミングが分かる!
その後も素早い回避やジャンプを繰り返しながら、何とか距離を取ろうとするヨアニスだったが、放たれたナイフは、ことごとく躱されるか撃墜されてしまった。
「……くっ」
明らかに距離を詰められる場面が増えていた。
――このままじゃ捕まる!
まだ使いたくなかったけど……今しかない!
切迫する中、ヨアニスはついに秘策を切った。
バックステップから身体を二回転スピンさせ、その回転の勢いを乗せた高速のナイフをカテリーナめがけて放つ。
――キンッ! バチン!
カテリーナの剣は確かにナイフを弾いた手応えを感じていた。
ただほぼ同時に、左脛を打つ鮮烈な痛みが走った。
「――ッ!」
カテリーナの動きが一瞬鈍る。
すかさず審判が大きな声を上げた。
「青、1ポイント!」
――しまった! 一本目と同じ状況! でも、今回は間違いなく両手を見てた!
右手からは確かにナイフが放たれて、左手には何もなかった……。
でも、どうやって――?
――あの表情――まだ気付いていない……か?
ヨアニスはポイントでリードしても、気を緩めることができなかった。
一本を取られれば即敗北という事実が、心を強く縛っていた。
カテリーナも攻撃の手を緩めず、突きの連撃を繰り出しながら思考を回転させる。
――共通点は何?
二回とも、脛を狙った低軌道だった。あとは……
あっ! 太陽の位置! さっきも太陽を背にする位置に移動していた!?
ということは――!
カテリーナの思考は火花を散らすように加速し、ついに一つの答えへ辿り着こうとしていた。
小説を書くのが初めてです。
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