63. 信じられない痛み
もしかしたら、読んでいて痛みを想像してしまう方がいるかもしれません。
申し訳ございませんが、どうぞよろしくお願いいたします。
「ぬッ!」
ニコポリテスは、カテリーナの予想外の踏み込みに思わず身を固くし、防御姿勢からのカウンターを狙った。
その瞬間だった。
視界から、カテリーナの姿が急に消えた。
――!? どこだっ!
――ズシャーッ、ガキン!
「ぐわーッ!」
鋼のぶつかる音とともに、ニコポリテスは剣と盾を取り落とし、その場に崩れ落ちて悶絶していた。
「一本!」
僅かに遅れて、審判の声が響いた。
ニコポリテスは地面を転がりながら、うめき声を漏らしている。
「あ、あの、ごめんなさい。大丈夫ですか?」
「ぐぅ……だ、大丈夫だ。しばらく放っておいてくれ」
ニコポリテスの兜は、下半分が前に張り出した形状をしているため、下方向の視界が悪かった。
そこでカテリーナは、突進からのスライディングで股下を通り抜け、足の付け根の可動部の隙間へ剣先を突き込んだのだ。
――すごく痛そう……。軽くついたつもりだったけど、そんなに痛かったのかしら?
カテリーナは気付いていなかったし、そもそも知らなかった。
世の男性にとって、急所の一撃がどれほどの激痛を生むのかを。
あまりの悶絶ぶりに、審判も思わず駆け寄る。
「……きみ、続行して大丈夫か?」
「だ、大丈夫です。戦えます……少しだけ回復の時間を……」
「わ、分かった!」
ニコポリテスが苦しみに耐えているあいだ、司会が場を盛り上げようと声を張り上げた。
「まずはルクサリス選手、見事な一本です! 可憐な少女が、なんと鋼鉄の巨人を倒しました!」
スタジアムには惜しみない拍手が広がる。
「どうやら、タマタマ大事なところに当たってしまったようです!」
その瞬間、観客席が爆笑の渦に包まれた。
カテリーナだけは、何が起きているのか分からずキョトンとしている。
――??? 何でみんな笑っているのかしら?
観客席で見守っていたアレクシオスは、一本に安堵し席に腰を下ろした。
ただ無意識の内に、両手をそっと股間を守るように移動させていた。
笑いと歓声がまだ収まらない中、ニコポリテスがようやく立ち上がる。
「……待たせて済まない。君に悪意がないのは分かっているし、むしろ、この隙を見つけて勝負を賭けた貴女の勇気を称えたい」
「あ、ありがとうございます。……あの、私、何かしました?」
「……ふはは。気にしないで欲しい。あなたは、そのままでいる方が素敵だから」
「はい?」
カテリーナは意味が呑み込めず、首を傾げたまま返事をするしかなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
審判が両者の状態を確認し、二人は定位置へ戻った。
礼を交わし、剣を構える。
「始めっ!」
二本目の試合が始まった。
ニコポリテスは盾を地面に立てて身体の中央へ置き、低い姿勢で剣を構えた。
股抜きを防ぎ、徹底して防御を固めた戦い方だった。
「まずいな。接近戦狙いだ」
観客席のアレクシオスが、思わず声を上げた。
カテリーナもニコポリテスの意図に気付いていた
――さらに防御が堅くなった。
このままエリアを狭められるのを待って、接近戦に持ち込むつもりね。
一本を取られ後がないニコポリテスにとって、この戦い方は必須だった。
接近戦になれば、カテリーナの距離を取った突きを封じることができ、防御力と体格差を生かしてエリア外に押し出すこともできる。
カテリーナは審判に消極的と判断されないように、動きながら安全な突きを繰り返す。
しかし、ニコポリテスも無理をせず、防御を固め確実に受け流していく。
――困ったわ。さすがに長時間膠着状態が続けば、エリアを狭められる……あっ!
カテリーナが何かに気付いた。
だが、外から見る限り、彼女の攻撃は変わっていないように見えた。
――キン、キン、キン!
カテリーナはひたすら右腕だけを攻め続ける。
だが肘まで覆っている鋼鉄の小手には、ダメージが通らない。
審判も小手の装備で防御していると判断し、一本の声を上げることはない。
しかし、カテリーナの執拗な攻撃は続く。
――キン、キン、キン!
「無駄だ! 俺は焦らないし、隙を作るような攻撃はしないぞ」
スタジアムの観客席に、戸惑いと落胆が広がりつつあった。
「何の意味があるんだ、あの攻撃は」
「ただ戦ってるふりじゃないのか?」
「もうエリアを狭めて、早く決着つけろよ!」
そんな声が飛び交う中、カテリーナだけが確かな「手ごたえ」を感じていた。
小説を書くのが初めてです。
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