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6. 母と父と義母

 今回は、主人公の両親の紹介になります。

 どうぞよろしくお願いいたします。


 兄や父が不在のときのルクサリス家では、私は肩身の狭い思いを強いられている。


 現在、ルクサリス侯爵家の継承権第一位を持つ私が、なぜないがしろにされるかといえば、その主たる原因は、義母カリスタによるものだ。



   ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



 私の母がいなくなったとき、ルクサリス侯爵家の名跡は、兄のアレクシオスが継ぐ事になった。

 なぜ、父、ネフィリオスが継()なかったかといえば、正確に言えば、父はルクサリス家の継承権を持っていなかったため、継()なかったからだ。


 父はグリュファス伯爵家の五男として生まれた。

 当時のグリュファス家には、父、ネフィリオスに継がせられるような領地や財産の余裕は、全くなかった。

 そこで、余裕の無い貴族の子弟ではよくある話だが、特に三男以下の男性は、女性の子供しかいない貴族の家へ、婿養子入りを目指すことが多い。


 一定の魔力を有する貴族出身の者は、高貴なる血統の責務というプライドや、先祖に対する責任感などから、庶民の身分にまでは落ちたくないと思うものがほとんどだった。

 所領がなければ、次の代からは貴族の身分が保証されない。

 優れた魔法の才能でもない限り、騎士として専業軍人になるか、王家や大きな貴族の家臣入りを目指すしかない。


 父はとても内向的で、騎士としての力量は正直乏しく、文官向きの人間だった。

また父は、自らの将来に対する野心も無かったため、王家の直臣として、地味な行政官僚としての職に就いていた。

 平時は行政官僚として働き、有事の際は騎士団の補給関連の仕事を行う。

毎日が裏方の仕事で、自分の人生は平穏なまま一生を終えるのだろうと、父は考えていたそうだ。


 しかしある日、父の運命を変えてしまう、大変な出来事が起こった。


 母、アナスタシア・ルクサリスは、ルクサリス侯爵家の女性当主で、神聖騎士団の団長を務めており、また、神聖魔法で人々を救った聖女として、国内ではその名を知らぬ者がいないほど、有名な存在になっていた。


 さらに、かなりの美人でもあったため、「カリスティアの聖女」の名は、数々のうわさや尾ひれが付いた状態で、自国のみにとどまらず、近隣諸国にまで広がっていった。


 実際、母の元には、国内外の有力貴族から、縁談が引っ切り無しに届いていたそうだ。

 また、当時評判の悪かった第三王子からも、求婚のアプローチがしつこく行われており、周囲の認識はすでに嫌がらせの域にまで達していたそうだが、そのことにも母はうんざりしていたようだった。


 しかし、母は貴族社会の有力者でありながら、当時は国家の宝ともいわれる聖女も兼ねており、その聖女様が結婚適齢期に来ていたため、将来の婚姻自体が、政治問題化、および、外交問題化し始めていた。

 当時の国王もこの問題を憂慮したため、ついには王命が下される事態となった。


――聖女アナスタシアへ。私はそなたの意志を最大限尊重したい。

 しかし、そなたの婚姻を巡って、国内外で様々な問題が起き始めてしまっている。

 この問題を解消するためにも、必ず6か月以内に、国内の貴族の中から婚姻相手を選ぶようにして欲しい


 王命を受けた以上、侯爵家の当主として、全うしなければならない。

 母としては、ルクサリス侯爵家の名跡を残さなければならないという義務感と、同時に、他の有力貴族が権勢のために、自らの名を利用することだけは、避けたいと思っていた。


 そこで、母の目に止まったのが、父、ネフィリオスだった。

 父は当時、各騎士団の補給業務も担当をしており、地味だが堅実な仕事ぶりが評価されていた。

 母も幾度となく、共に仕事をしたことがあったため、母はその人柄や、出自なども含めて、ネフィリオスの事をよく知っていた。


 父は、素顔こそ美男子の部類に入る顔つきではあったものの、雰囲気は暗く、声も小さく、引っ込み思案な性格も相俟あいまって、頼りなさそうで、全く目立たない存在だった。

 さらには、出自は小さな伯爵家の五男で、継ぐべく財産もなく、騎士としての強さも全く無かったため、女性たちからの人気は皆無だった。


ある日、父は母から、唐突に声をかけられた。


「やあネフィリオス殿。私と結婚しよう!」

「???」


 当時父は、地位や財産や才能を何一つ持たない自分に、かの有名な聖女様が、どのような意図を持って、そのような冗談を言っているのだろうと思ったそうだ。


「はい、か、いいえ。どちらだ?」

「はぁ」

「よし、決まりだな。あとはこちらで進めておく」


 父曰く、一瞬の出来事だったらしい。


 そして、母主導のもと、あれよあれよと物事が進み、父ネフィリオスは、ルクサリス家の権利を一切持たないまま、聖女の元へ婿入りすることになった。

 母にとっては、野心もなく誠実で、外戚としての影響もほとんどなく、自らの足りないところを補填してくれるような、理想の存在だったらしい。


 やがて兄が生まれ、私が生まれた。

 今にして思えば、家族四人が揃っていた頃が、一番幸せな時期だったかも知れない。


 しかし、私が3歳の頃、母がいなくなると生活が一変した。

 父は領地経営において、主に補佐や事務管理的な仕事を受け持っていたが、母が行っていた、決済や方針を決める仕事までも、行わなければならなくなったからだ。

 当時、母の名声はルクサリス領内における人の出入りを多くし、それに附随して領内の経済が発展していく過渡期であった。

 ルクサリス家にも家宰や家臣たちはいたが、急激な発展に対して人手が足りておらず、すでに対応しきれていない状態だった。


 そのような中、父ネフィリオスの実家であるグリュファス家が、強く干渉してくるようになった。

 グリュファス家としては、母がいなくなった今こそが好機とばかりに、発展著しいルクサリス家との取引を増やし、また、内部から利益を誘導できる人物を、ルクサリス家に置きたかったのである。


 そして送り込まれた人間が、義母カリスタだった。


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