25. 面白くない者
この物語では、騎士は比較的重装備で、戦いに特化した仕事をしています。衛士は、比較的軽装備で機動力があり、主に治安維持の仕事を行い、ちょっとした魔物退治などもしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
「ここのところ、ずっとカテリーナさまに付きっきりねぇ」
「でもそのお陰で、強くなっているらしいわよ」
メイドたちの会話が耳に入り、それを面白くないと感じている者がいた。
義母、カリスタだった。
――アレクシオスさまの溺愛ぶりには、本当に呆れるわ。
ダメな人間に無駄な時間を費やすより、キリロスのように才能がある弟の方に、稽古をつけてくれてもよさそうなのに……。それどころか、決闘の約束までするなんて!
――万が一、万が一、負けるようなことでもあったら……
カリスタも人の親であり、母親として、我が子への心配が募り始めていた。
――次にアレクシオスさまが家を空けるのは、確か約1ヶ月後だったわね。
カリスタは屋敷内の執務室に行き、それぞれの予定表に目を通し始めた。
――やはり、ダメな人間には、ダメな結末が相応しいわ。
そうだわ、予定を組みましょう。予定を……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ルクサリス家の執事が、少し慌てた感じでカテリーナの元にやって来た。
「カテリーナさま、近くのニキタス村で魔狼による被害がでて、救援要請が来ております」
「魔狼はどのくらいでたの?」
「一頭だけとのことです」
「え、一頭だけ? 群れではないの?」
「はい、そのように聞いております」
本日は、父や兄だけでなく、義母たちも不在だった。
そのため、今は責任ある立場の人間が、カテリーナしかいなかった。
「今日は偶然にも皆の予定が重なっているし、騎士も含めて本当に誰もいないわね」
「はい。屋敷の騎士たちも、ネフィリオスさまと魔物討伐に出ておられますし、いかがいたしましょうか?」
――お兄さまもお父さまもいないし、お義母さまもいない。
ここは、私が決めなければならないんだわ!
「分かりました。領民の安全を守らなければなりません。近くですし、私が行きましょう!」
――魔狼一頭だし、大した魔物でもないわ。今までの訓練の成果を試すには、ちょうど良い機会かも。
カテリーナは衛士3名と従者2名を連れ、馬を使い、ニキタス村まで約半日をかけて赴いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
カテリーナたち一行は、被害状況を確認した後、村民に対し損害の一部補償と、魔狼討伐の約束をした。
「あちらです! あちらの森に逃げ込みました!」
「分かりました。私たちが魔狼を討伐しましょう」
「カテリーナさま、本当にありがとうございます!」
ひれ伏す領民の姿に、少し照れる気持ちを隠せないまま、カテリーナは三名の衛士とともに、魔狼が逃げ込んだ森に入っていった。
「うーん、このような村で、魔狼が出ることは ほとんどないのですが……」
「確かにそうね。魔狼は群れる習性があるし、自分たちのテリトリーからあまり出ないはずなんだけど」
カテリーナは、以前学んだ本の知識から、魔狼のことはある程度知っていた。
カテリーナたち一行は、弱い魔物の引き寄せる効果がある魔石をぶら下げ、隊列を組みながら慎重に森の奥へと進んでいった。
「うわぁー!」
最後尾を歩いていた衛士が突然襲われた。
三人が咄嗟に振り返ると、従者の1人が倒れており、その横に大きな魔狼が立っていた。
「ガルルルゥーーッ!」
魔狼が威嚇の声をあげた。
「よくもやったな!」
二人の衛士が魔狼に突撃した。
魔狼は衛士たちの攻撃を躱すと、一人の衛士の腕に噛みつき、衛士を咥えたまま放り投げた。
もう一人の衛士は、戸惑いながらも剣を構えて、魔物と向き合っている。
――ただの魔狼の動きじゃない!?
カテリーナは、違和感を覚えた。
通常の飢えた魔狼であれば、一人を襲った時点で、その獲物に執着するはず。
しかし、この魔狼は、一人ずつ私たちを倒すことを考えている。
「待って、普通の魔物ではないわ!」
カテリーナの言葉が届くと同時に、最後の衛士が腕を嚙まれたまま、遠くまで投げ飛ばされていた。
――知性があるっ!
カテリーナが魔狼の目を見ると、そこには支配魔法をかけられた痕跡があることに気付いた。
これは人の手によるものだ!
――一体誰が?
考えているカテリーナに、魔狼はズシリ、ズシリと一歩ずつ近づいてくる。
「ガオォォーーーーーーン!」
魔狼の咆哮が、森中に響き渡った。





