第三十四週 告白をリテイクしてしまった!(水曜日)
今週のしまったちゃん略してこんしまちゃんと呼ばれる紺島みどりはクラスメイトの鵜狩慶輔くんのことが恋愛的な意味で好きだ。
鵜狩くんもこんしまちゃんに対して同じ気持ちをいだいている。
そんな二人はこのあいだサイクリングに行ったとき互いに「好き」という気持ちを伝え合った。
でもこんしまちゃんも鵜狩くんも「付き合う」と相手に言うのをうっかり忘れてしまった……!
今回の話は、あれから三週間以上が経過した日の出来事だ……ッ!
※ ※ ♢ ※ ※ ※ ※
水曜日の朝。天気は晴れ。気温はものすんごく低い。
そんな日も学校にやってきたこんしまちゃんは校門で鵜狩くんとばったり会った。
相変わらずあごがシュッとしている。少しツリ目なところもこんしまちゃんのドストライクゾーンである……っ!
二人は互いにあいさつを交わして校舎へと歩を進める。
こんしまちゃんが右横の鵜狩くんに流し目を向け、言う。
「わたしたち……付き合おっか……」
「そうだな、付き合おう」
突然のこんしまちゃんの言葉にも動揺せず鵜狩くんが快諾する……ッ!
そして二人は左手の甲と右手の甲をふれ合わせ、ちょっとほおを染めた。
なんにせよ正式に付き合うことになって……よかったね!
※ ※ ♢ ※ ※ ※ ※
付き合っていることはみんなに秘密にしたりしないという方向性で二人の意見は一致した。
廊下を歩きながらこんしまちゃんが聞く。
「わたし……アヤメちゃんと矢良さんには伝えるつもりだけど……いいかな……?」
「もちろん」
ツリ目を優しく細める鵜狩くん……っ!
というわけでこんしまちゃんと鵜狩くんは教室に入ったあと真っ先にアヤメの席に向かった。
アヤメこと菖蒲佳代子さんは、こんしまちゃんと鵜狩くんが付き合うことになったという報告を聞いて……ちょっと無理に笑顔を作った。
「おめでとう。こんしまちゃん、鵜狩くん。それにしても」
長い前髪を少しかき上げ、アヤメがジト目で二人を見る……っ!
「わたしが好きな人と……わたしが好きな人と付き合うことになった友達が両方同時にその報告に来るというシチュはなかなかくるものがあるね」
ついで次のように続ける。
「こうなったら二人で絶対に幸せになってね。それとアヤメはいつまでも……鵜狩くんとこんしまちゃんの友達だから」
「アヤメちゃん……」
「アヤメ」
こんしまちゃんと鵜狩くんが同時にそっと口をひらいた。
「ありがとう……」
「そ、それよりさ」
明るい声でアヤメがささやく。
「どうして今まで二人とも『付き合おう』って言わなかったの? 両思いって、もう確定してたのに」
「い、いや……それがね……」
両手の指を重ねてこんしまちゃんがうつむく……っ!
「意識すると恥ずかしくなっちゃって……」
「うん。俺も……」
鵜狩くんもちょっとモジモジする。
「うっかりこんしまちゃんに先に言わせてしまった感じになった……こんしまちゃんが先に切り出してくれたのはありがたかったし、俺もうれしかったけど」
「……へえ」
ほおづえをつき、冷静にアヤメがあいづちをうつ。
実のところアヤメは、ちょっとしおらしくなっている鵜狩くんを目にして気分がよくなっていた……ッ!
(弱点のなさそうな鵜狩くんにもこんな一面があるんだ。かわいいなあ……)
小さく笑い、上目づかいで二人を見つめる。
「だったら告白をリテイクしようか。告白リテイク勝負だよ」
※ ※ ♢ ※ ※ ※ ※
そして時間は流れ、お昼になった。
なおそのあいだにこんしまちゃんと鵜狩くんが付き合っているという情報はクラス全体に流れ……たくさんのクラスメイトが「おめでとう」「よかったね」「やっとか」と言ってくれた。
二人は一人一人に「ありがとう」とお礼を返した。
ともあれ昼食をとる……!
アヤメの席にこんしまちゃんと鵜狩くんと……あとポニーテールの矢良みくりさんが集まってお弁当を食べる。
内心アヤメは思っていた。
(付き合って初日なのにこんしまちゃんも鵜狩くんも二人きりになろうとしないんかい。まあ二人とも人との距離感が絶妙なとこあるし、わりと恋愛観も独特なのかも)
このなかで一番露骨に喜んでいるのは矢良さんだった。
「いや~、こんしまちゃんと鵜狩くんが付き合うことになったとは本当にめでたいねっ、佳代子ちゃんっ」
「まあ、そうだね……」
本当のことを言えばアヤメはまだ割り切れていない。
とはいえ二人のことを祝福したいと心の底から思ってもいる。
「でさ、わたしが朝に言ってた告白リテイク勝負なんだけど」
アヤメがたまごやきを飲み込み、鵜狩くんとこんしまちゃんを順に見る。
「二人とも……お互いに何回もいろんな告白をしてみたら?」
いったん箸を置き、軽く腕を組む。
「やりなおすってわけじゃない。ただ……『告白は一回で終わり』とだれが決めたわけでもない。だからすでに付き合った人同士でも自分たちが納得するまで互いに告白をくりかえしていいんだと思う。そのたびに『好き』とか『付き合って』とか、あらためて伝え合うわけ」
「けさはわたしが先に鵜狩くんに『付き合おっか』って告白したけど……」
きんぴらごぼうをそしゃくしたあと、こんしまちゃんが言う……ッ!
「今度は鵜狩くんが……わたしに……」
「こんしまちゃん」
ここで鵜狩くんがお弁当箱を置いてこんしまちゃんをまっすぐ見つめる。
「好きだ、付き合おう」
「ひゃあああ……っ。喜んで……」
鵜狩くんのほうからドストレートにコクられたためか、こんしまちゃんの耳もおでこも真っ赤になる……ッ!
アヤメはそれをまじまじと見ていた。
(や……やば。鵜狩くんとこんしまちゃんが付き合う瞬間を目の前で再現されるなんて脳破壊もいいとこなのに……なんでだろ、いろいろキュッとなって切なくなって……なんかちょっとクセになりそう)
なお、ここで言う脳破壊とは自分が好きな人が別のだれかと仲よくしている場面を見たときに感じる「あ……あ……ああ……っ!」という心のさけびのことである。
嫉妬とはちょっと違う。もともとアヤメと鵜狩くんは付き合っていないので浮気を目撃したとかそういうことでもない。
一方、矢良さんは俵形おにぎりをごくんと飲んだあと手をたたいた……っ!
「お熱いっ! これで今年の冬も乗りきれるっ!」
「わたしの心臓も湯たんぽになったみたいだよ……」
などと供述しながら、こんしまちゃんが首をかしげる。
「だけどアヤメちゃん……告白リテイク『勝負』って言ったよね……? 勝負要素はいずこに……」
「まだまだ告白リテイクを続け――」
前のめりになるアヤメ……っ!
「より相手を照れさせたほうが勝ちって勝負」
「以前やった食レポ・ポエム・デスマッチみたいに……」
こんしまちゃんが質問を重ねる。
「より恥ずかしい告白を成功させたほうが勝ちなのかな……」
「そこは個人の裁量にゆだねるよ」
アヤメが鵜狩くんのほうにもチラッと視線を送る。
「さて二人とも……この告白リテイク勝負、やる?」
「やる」
鵜狩くんもこんしまちゃんもノリノリである……ッ!
※ ※ ♢ ※ ※ ※ ※
お昼ごはんを食べ終わったあと、鵜狩くんとこんしまちゃんは屋上に上がった。
こんしまちゃんの通う高校は生徒にも屋上を開放している。
アニメやマンガだとなぜか主要キャラしかやってこない屋上だが――。
実際に開放されていたら普通は多くの生徒がそこに来るに決まっている。たとえ寒い日であったとしても……!
屋上に続くドアをあけると、二十人以上の生徒がワイワイしている現場に出くわした……ッ!
ついてきた矢良さんがにぎやかな屋上を見回す。
「おおっ。これだけいれば、かえってあたしたち目立たないねっ」
「わたしは屋上に入るの初めてだから緊張するよ、みくりちゃん」
告白リテイク勝負を見届けるべく同行しているアヤメが尻込みする……!
とりあえず四人は、すみっこの金網付近に移動した。
アヤメが金網に背を預け、下にハンカチを敷いて腰を下ろす。
「やっぱり寒いね……っ」
……アヤメもほかの三人も、ぶるりと身を震わせる。
「ともかく告白リテイク勝負開始」
「みんなあたしたちのほうを気にしてないし、どんどんやっていこうっ」
矢良さんも自分のハンカチを敷き、アヤメの左隣に座った。
ついでアヤメの両手を両手でにぎる……ッ!
「佳代子ちゃん、あたしの湯たんぽになってください」
「よしんば湯たんぽになれたとしても」
アヤメは答える。
「なかのお湯もいつかは冷めるよ」
「そのときは」
矢良さんがアヤメの両手を自分の胸に近づける。
「あたたかいのをそそぎなおすよっ!」
「おお~……それならぽかぽか……」
見ていたこんしまちゃんと鵜狩くんが拍手する……っ!
そんな二人に呆れた声でアヤメがツッコむ……!
「って、アヤメとみくりちゃんの勝負じゃないし。鵜狩くんとこんしまちゃんの勝負だし!」
「しまった……」
「うっかりしてた」
あたふたして、あらためて互いに顔を見合う……ッ!
しかし互いに見合ったまま、どちらも動かぬ。
どうやら鵜狩くんもこんしまちゃんも相手の様子を注意深く観察し、自分の仕掛けるべきときを見計らっているようだ。
矢良さんもアヤメも固唾をのんで見守っている。
ここでこんしまちゃんがトコトコ歩き、鵜狩くんの背後に移動した。
ちょっとつま先立ちになって後ろから彼の左耳に口を近づけ、ささやき声を出す……!
「鵜狩くんを……わたしの彼女にしてあげる……」
「なら俺は」
瞬時に鵜狩くんがこんしまちゃんの真後ろに移り、彼女の右耳にささやく。
「こんしまちゃんを彼氏にするよ」
「わーっ、男女逆転シチュも燃えるねっ。焼きイモできそうっ」
興奮したのか矢良さんが体とポニーテールを左右にゆらす……っ!
アヤメにしても……どこかこの脳破壊が気持ちよくなってきた……!
(け、健全な脳破壊というのもこの世にはあるんだね。足もとが崩れ落ちていく感覚があるのに、自分がいまだにこの場にとどまっているという矛盾……! ここに生と死が合一したかのような境地が顕現し、ある種の浮遊感さえ生じるのかもしれないうんぬんかんぬんあーだこーだよいしょっよいしょっそいやそいや)
その脳も、少しオーバーヒートしている模様……ッ!
だがアヤメが脳破壊に快を覚えているあいだも、こんしまちゃんと鵜狩くんの告白リテイク勝負は続く。
鵜狩くんのほうに振り向き、こんしまちゃんが右の人差し指をクイクイ動かす。
「さっきはわたしが先制攻撃をかけたから……今度は鵜狩くんから攻めてね……」
どうやらこの勝負、ターン制バトルだったようだ……!
さらにこんしまちゃんが両腕を左右に広げる。
「さあ鵜狩くん……どこからでもかかってきて……」
「いくよ……こんしまちゃん……っ」
そう言って鵜狩くんが制服のポケットから黒い折紙とペンを取り出す。
折紙の白い裏地にサラサラ~っとなにか書いた。それを折って手裏剣のかたちにし、こんしまちゃんに手渡す……!
「はい」
「わたしに……? ありがとう……」
こんしまちゃんは両手で手裏剣を持ち、ためつすがめつ見た。
「あけてもいいかな……」
「どうぞ」
鵜狩くんがほんのり答えた。
対するこんしまちゃんが、そっと手裏剣のかたちをひらく。
手裏剣のなかの白い裏地にはメッセージが書かれていた……!
文面を読み上げるこんしまちゃん……っ!
「愛してる」
メッセージはシンプルだったけれど、おかげでこんしまちゃんの胃や肺までもがぽわ~っと温暖化に見舞われた。
「直球すぎるよ……照れちゃってわたしまで温暖化しちゃう……」
「これは鵜狩くん優勢かなっ」
矢良さんが笑顔で状況を分析する。
で、アヤメはまさに「あ……あ……ああ……っ!」と心でさけんでいた。
(あ……愛してるって、ド真ん中ストレートで剛速球を投げるにもほどがある。それも半永久的に残る文字にして。告白リテイクってことで鵜狩くんも普段のキャラから外れた大胆なことをやっているんだ)
まばたきをパチパチッ、パチパチッとくりかえす。
(しかも折紙手裏剣使っているところが脳破壊ポイント高すぎる。アヤメと鵜狩くんの仲はアヤメが小学校で折紙手裏剣を拾ったところから始まったんだから……! いや、こんしまちゃんと鵜狩くんの仲も折紙手裏剣から始まっていたのかもしれない、アヤメよりも先に。もちろん鵜狩くんにわたしの脳を破壊してやろうって考えはみじんもないんだろうけれど、なにこの感覚。逃げ出したいのに心地いい……!)
とはいえアヤメは冷静をよそおいながら、みずから提案した告白リテイク勝負の行方を見届けようとしていた……ッ!
さて、次はこんしまちゃんのターン。
こんしまちゃんは紙を手裏剣のかたちに折りなおしたあと制服のポケットに入れた。
ついでメモ用紙を取り出し、ペンでしゅっしゅっしゅ~っとなんか書く。
恋文には恋文で反撃するつもりらしい。
メモを四つ折りにして畳み、鵜狩くんに託す。
「読み上げてくれるとうれしいな……」
「ありがとう、どれどれ」
鵜狩くんは無音で紙を広げた。そこに書かれていることを声に出す……!
「あなたが一緒にいたいとき、わたしは必ず一緒にいるよ。そういう関係性でいいかな」
読み上げたあと、こんしまちゃんと目を合わせる。
「当然、いいに決まってる。俺もそういうときに、こんしまちゃんのそばに必ずいるから」
「鵜狩くん……そう言ってもらえると、もっとうれしい……」
やっぱりこんしまちゃんは体をほてらせつつ答えた。
矢良さんも満足げに首を縦に振る……っ!
「いいじゃんっ。重すぎず軽すぎない感じがいいっ。にしても佳代子ちゃん、夏は怖い話で涼もうっていうのは定番だけど……これからは冬に人の恋愛を見て暖を取ろうっていうのも新定番になるかもねっ」
「そう単純でもないかもよ……みくりちゃん」
脳破壊に身を任せつつ、慎重にアヤメが答える。
「人の恋愛を見て『許せない』とか思ったりする人もいるわけだし」
「だったら」
背中の金網をガシャリと鳴らす矢良さん……っ!
「そのいかりのパワーが体をあっためてくれるねっ」
「あるいは脳破壊のエネルギーがね……」
事実、アヤメも体内で醸成される「熱」を全身で感じている。
人の恋路をどう解釈するかはそれぞれの勝手とはいえ、やっぱりだれかの恋愛とは一つのたき火のようなものだ。
(あたたかいんだ、とくに冬には。わたしは告白リテイク勝負と言って薪をくべたわけだ。だけど無尽蔵に薪を放り込んだら関係ないところにも燃え広がるかもしれない。それに……必要以上に手を伸ばせば当然やけどはまぬかれない。たき火にあたるときは、距離感をしっかり考えないといけないね)
続いて鵜狩くんの告白ターンに移る。
鵜狩くんはちょっと考える。
「こんしまちゃん。なにか、いい案はあるかな」
「じゃあエア壁ドン……!」
エア壁ドンとは、存在しない壁に相手を追い詰めてからその壁に手を置いたフリをしてなんかいろいろ話しかけたりする上級者向けの技である。
鵜狩くんはこんしまちゃんの要望に黙ってうなずき、パーにした右手をそっとこんしまちゃんの左肩のすぐ上の空間に伸ばした。
その鵜狩くんの全身が十五度ほどかたむく。
しかし鵜狩くんは倒れることなく、右手に重心を置いたまままるでこんしまちゃんのすぐ後ろに見えない壁があるかのように体を安定させている……ッ!
こんしまちゃんは、鵜狩くんの染まったほおを見つつさらに求める……!
「よかったら左手も使って……あと、もっと命令口調で……」
「ああ」
鵜狩くんは左手もパーにして、こんしまちゃんの右肩のすぐ上の空間に持っていく。
そこにも重心を置く。やはり見えない壁があるかのように、鵜狩くんの体はかしいでいるのにド安定のまま……っ!
ちょっとだけ両ひじを曲げ、エア壁ドン状態の鵜狩くんがこんしまちゃんの顔にツリ目を近づける。
「俺と付き合えよ、こんしまちゃん。好きなんだよ」
「わわわ……っ、わたしも好き……付き合う……っ」
普段とは違う感じの鵜狩くんにせまられて、こんしまちゃんの体を微熱が暴れ馬のごとく駆け回った……ッ!
鵜狩くんもエア壁ドンを続けたまま、紅潮した顔を見せる。シュッとしたあごの先っぽまで赤い。
「ごめん……こんしまちゃん。うっかり強引な感じになった。嫌じゃなかったか……?」
「そんなことないよ……グイグイ来る鵜狩くんも……好きだよ……」
ここでこんしまちゃんが、背中を後ろに倒した。
だけど……背後に壁がないのを思い出して慌てた。鵜狩くんのエア壁ドンがあまりにも完璧だったから、こんしまちゃんも後ろに本当の壁があるのだと錯覚してしまっていたのだ……!
今の驚きをあらわすとすれば……あれだ。
階段をのぼっているときに、まだ段があると思って足を上げたらそれ以上段がなくて空振りする……そのときのなんとも言えない感情に近いと言えよう。
ともあれこんしまちゃんの体がふわりと浮いたようにかたむく。
だが次の瞬間、屋上のゆかにあお向けになったのは鵜狩くんのほうだった。
当のこんしまちゃんは左右の手をパーにし、エア壁ドンの体勢で屋上に立っていた……!
あお向けの鵜狩くんが、ほっとしたようにゆるく笑う。
「よかった……変わり身の術は成功したみたいだな」
「そうだったんだ……鵜狩くんが助けてくれたんだね……ありがとね……」
こんしまちゃんは中腰になり、起き上がる鵜狩くんに両手を差し出した。
鵜狩くんも「ありがとう」と返して彼女の左右の手を優しく握り、そのまま起き上がりこぼしのように立ち上がった。
で、あらためて二人は見つめ合う。
それを見て目を輝かせ、鼻息を荒くする矢良さん……っ!
そしてアヤメの体はじゅうじゅうしていた。まるで自分の皮膚でバーベキューをやっているような感覚である。
あるいは、金網の上でもちを焼いているイメージがアヤメの心に去来する。
おこっているんじゃないし恥ずかしがっているのとも違う。
それもちょっと、ヤキモチではない心持ち。二人から伝わってくる幸せそうな気持ちが鼻持ちならないわけでもない。
自分は二人の太鼓持ちというわけじゃない。オモチャですらない。
でも小さくない感情がアヤメの心身の内部に生まれている。おそらく立っていたら持ちこたえられず確実に尻もちをついていただろう。
こんしまちゃんと鵜狩くんは持ち前のありのままの性格を用いており、持ちつ持たれつって感じでなんか幸せそうだ。この幸せは長持ちし、二人が身を持ち崩すことも身持ちが悪いと言われることもない。
この感情を持ち帰ってなんらかのモチーフにすれば、新しい持ち物を作ってそれを手持ちにすることさえできるかもしれない。
それほどの熱が生じているけれどアヤメにこの熱の処理方法は分からずこのままでは宝の持ち腐れになりそうなので、もちはもち屋ということでだれかを頼りたい。
けれど探しても力になってくれる縁の下の力持ちのもち屋はいないから棚からぼたもちを期待するしかないような気がするが、それも結局絵にかいたもち。
現在のアヤメの気持ちを汲めばまあそんな感じに心象を描写できるものの、ある種の快い脳破壊の感覚に満たされたアヤメに対してどう意を用いるのが正解か――この答えはもちろん回答する人によっても違う。
(もちもちするなあ……)
鵜狩くんのターンを終えて攻勢に転じるこんしまちゃんのもち肌を観察しつつ、アヤメは内側からその身をあたためていたのだ……ッ!
なにはともあれ、こんしまちゃんの告白リテイク……!
「言葉も文字も使ったから……今度は……」
そうつぶやいてこんしまちゃんが軽く助走をつけて鵜狩くんに突進する……っ!
まさかだきつくつもりでは? とアヤメは疑った。
(いや抱擁自体は構わないけど校内ではラインを越えないように自重しないと……)
しかしこんしまちゃんは正面から左右の手で鵜狩くんの両手をつかみ、それを合わせてお腹の前に持っていった。
ついで胸の前に持ち上げ、鵜狩くんをじっと見る。
顔は赤いし、上目づかいである。
冬の乾燥した両手同士が、指先や手の平を介して互いの体温を交換する。
言葉はない。が……ッ!
こんなこと、恋愛的に好きな人相手にしかやらない。
事実としてこんしまちゃんは、ものも言わずに告白しているも同然だ。
しばし鵜狩くんは耐えていたものの、こんしまちゃんにじ~っと見つめられるうちに無言であわあわし始めた。こんしまちゃんがまばたきしてまつげとまぶたをバチンと動かすたびに、鵜狩くんの肩がビクッと震える。
肌を染め、ぽっかぽかにあったまった状態で鵜狩くんが言う。
鵜狩くんのあたたかい吐息がこんしまちゃんのほおを優しくすべっていく。
「伝わったよ……こんしまちゃん……」
ここで、逆に鵜狩くんの両手がこんしまちゃんの手をにぎりなおす。
「より相手を照れさせたほうが勝ちっていう告白リテイク勝負は……こんしまちゃんの勝ちだ。俺もこんしまちゃんが好きだし、付き合いたい」
「うん……!」
こんしまちゃんがふわりとほほえみ、ようやく口をひらいた。
瞬間、屋上で拍手が巻き起こった。
屋上に集まっていたほかの二十人以上のみんながこんしまちゃんと鵜狩くんの告白の様子に気づき、祝福の音を響かせたのである……ッ!
めっちゃ照れつつ二人はみんなに「ありがとう」とお礼を言う。
こんしまちゃんが鵜狩くんにささやく。
「しまったね……ちょっと盛り上がりすぎちゃった……」
「俺もうっかりしてた」
鵜狩くんが小さく笑いかける。
「でも……」
「うん、そうだね……わたしたちは、これでよかったんだよね……」
それからこんしまちゃんは、腰を下ろしたままのアヤメに声をかける。
「これもアヤメちゃんが告白リテイク勝負を提案してくれたおかげ……ありがとね……」
「アヤメ、本当にありがとう」
鵜狩くんもアヤメに心を込めて感謝した。
アヤメはちょっとだけ顔をほころばせて言葉を返す。
「こっちこそ。アヤメもあったまることができた。それにわたしはもとから、勝負を持ちかけるのが好きなんだ」
口には出さないけれど、同時にこんなことも思っていた。
(鵜狩くん、わたしをフったからにはこんしまちゃんと幸せにならないとダメだよ。こんしまちゃん、わたしの恋路を断ったからには鵜狩くんと絶対に幸せになってね。そしてこれからも……告白リテイクでもなんでもして、わたしの脳を破壊し続けてほしいな。思った以上にわたしにとっては、それが心地いいものみたいだからね)
少しだけ体内から熱が抜け、胸がスッとする。
(二人が罪悪感をいだいてわたしから距離を置いたりわたしに対して変に気をつかったりすること以上につらいことはないもの。そうじゃないって分かって……よかった)
息をふう~っとはく。
左隣の矢良さんがそんなアヤメに目配せしている。
「佳代子ちゃん、きょうはいいものが見れたねっ。おかげであたし、コタツに入っている気分だよ~」
「ぬくぬくだね。ところで」
アヤメが少しほおを染め、矢良さんを横目で見返す……っ!
「みくりちゃん……その……いつまでそうしているのかな。ちょっと恥ずかしいんだけど……」
やんわりと言った。
屋上での告白リテイク勝負のあいだ、矢良さんはずっとアヤメの両手を両手でにぎり続けていたのだ……!
「あ、やらかしちゃった! ごめんねっ」
「いや、気にしてないから。むしろ」
本当に嫌なら途中でふりほどいているよとアヤメは心のなかでつぶやいた。
「助かったのかもしれない。みくりちゃんのおかげで」
「それは……どういたしましてっ」
そしてアヤメと矢良さんは立ち上がり、敷いていたハンカチを畳んだ。
こんしまちゃんと鵜狩くんと共に屋上をあとにした。
ちなみにみんなの体内のぽかぽかは、教室に戻ってからも続いていた。
※ ※ ♢ ※ ※ ※ ※
☆今週のしまったカウント:二回(累計百四十三回)
次回「第三十五週 鬼が豆をまいてしまった!(火曜日)」に続く!(二月六日(金)午後七時ごろ更新)
評価やブクマも励みになります!
それにしても屋上が開放されている学校ってなんかいいですよね~。




