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第三十二週 アニメ好きの一家と話してしまった!(月曜日)

 紺島(こんしま)みどりの異名(いみょう)である「今週のしまったちゃん」の「今週のしまった」の由来(ゆらい)はアニメだという説がある。


 そもそも「今週のしまった」という言葉自体はこんしまちゃん発祥(はっしょう)でもなんでもない……ッ!

 つまり毎週放送されているアニメで毎回のごとく登場人物が「しまった」と言うことから「今週のしまった」略して「こんしま」という言葉が生まれたわけだ。諸説(しょせつ)あるけど……。


 当のこんしまちゃんもアニメはそれなりに好きである。

 前にカラオケで『鉄腕(てつわん)アトム』の主題歌を始めとするアニソンを歌っていたしね!


♢ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 月曜日、祝日の午後。

 こんしまちゃんはクラスメイトの(ちょう)ひなぎくさんの(いえ)(たず)ねていた。


 (むらさき)の屋根の平屋(ひらや)である。屋根の傾斜(けいしゃ)はゆるやかだ。

 ちなみに(ちょう)さんの家はお米農家なんだけど……所有する田んぼなどは平屋から(はな)れた場所にあるらしい。



 しかしなぜ、こんしまちゃんが(ちょう)さんのお(たく)に訪問しているのか……?

 先週、冬休み明けの教室で蝶さんがクラスのみんなに向かってこんなことを言ったのだ……ッ!


(来週の月曜は休みだけどその日にアタシとアニメ鑑賞(かんしょう)したい人おる? 先着一名(いちめい)まで受け付けるぞー)


 こんしまちゃんはそんな蝶さんの募集に対し、すぐに名乗りを上げたわけだ……っ!



 そんな経緯(けいい)があって、蝶さんはこんしまちゃんをおうちに(むか)えることになった。

 黒いジャケットと深紅(しんく)のチェックスカートを着た蝶さんが玄関(げんかん)で顔を見せる。(かみ)の後ろはチョウチョ結びのようにまとめられている……。


「おっ、こんしまちゃん。(ちょう)待ってたよー。さっそくなかに(はい)ってってってー」

「おじゃまします、(ちょう)さん……」


 白いセーターと黒いズボンを身にまとったこんしまちゃんがウェーブのかかったくせ()をゆらす。

 (くつ)()いで蝶さんのお宅に()がる……!


 蝶さんは廊下(ろうか)を歩きながら、後ろについてくるこんしまちゃんに笑いかけた。


「いやー、来てくれてマジで感謝だわ~。アタシの(いえ)、今は繁忙期(はんぼうき)じゃないから余裕(よゆう)あんだよねー。つーわけで、この機会にだれかとアニメについて(はな)したかったんだ。テンション()がるな~」

「といってもわたし少々たしなむ程度で……全然アニメ博士(はかせ)じゃないよ……」


 こんしまちゃんは正直に言った。

 それに対して蝶さんがほほえんだまま返す。


「だいじょぶじょぶ。知識量は関係ないって」

(ちょう)さん……」


「あ、それとアタシのこと、『ひなぎく』って名前で呼んでほしいな。家のなかだと(ちょう)ややこいからさ」

「うん……ひなぎくちゃん……」


 素直(すなお)にこんしまちゃんは名前を呼んだ。

 興奮したのか蝶さんは両手を(たて)()った。


「あー、いい(ひび)き~! アタシの『ひなぎく』って名前はとあるアニメキャラが由来なんだよねー。アタシもそのキャラ好きでさー。原作は少年誌のマンガなんだよ!」

「へー……ひなぎくちゃん自身にも合っている名前だよね……」


「ありがと~。お母さんによると『なでこ』も候補(こうほ)だったっぽいけどね。こっちは小説原作のアニメが元ネタだね。まあそれはいいとしてアタシもこんしまちゃんのこと、『みどりちゃん』って呼ぼっか?」

「うれしいけど……」


 照れつつ、こんしまちゃんが小さく首を横に振る。


「わたしとしては『こんしまちゃん』のほうがしっくりくるかな……」

「おっけー。アタシもこんしまちゃんって名前、(ちょう)()きだし」


 蝶さんが左目を閉じてウインクする。


「アタシってけっこう昔のアニメも配信で見るんだけどさ、こんしまちゃん見てると毎回あるアニメ思い出してほっこりするんだよ。鳥をモチーフにしたスーツに身をつつんで科学の忍法(にんぽう)使うヤツ。SF(エスエフ)としてもめっちゃおもろくて小学生のときにかじりつくように見てた。そのアニメでも主人公サイドが毎回『しまった』って言ってた覚えがある」

「そんなアニメもあるんだ……おもしろそうだね……」

「でしょー! そのアニメでとくに印象に残っているのは」


 しかしハッとして蝶さんが(くち)もとを()さえる。


「……って、危ない。ネタバレするところだった。ごみん……」

「あ、言っていいよ、ひなぎくちゃん」


 ウェーブのかかった自分のくせ()をこんしまちゃんがくしけずる。


「特定のキャラが死ぬとかそういうネタバレじゃないなら、いくらでも……」

「じゃ、言うぞー。うろ覚えだからちょっち(ちが)ってるかもしんないけど、主人公と博士が数十年後の未来に飛ばされるエピがあるんだ。その未来はかなり高度に発展しているっぽかった。だけど実はその未来の世界は(てき)が作り出したニセモノだったんだよ」


「な、なんだってー」

「でも博士はその世界がニセモノだと見抜(みぬ)いていたわけ。主人公がその理由をたずねると、確か『たった数十年で世界があんなに発展するはずがない』とか博士が言ってたんだよね。アタシ、それ聞いて『なるほどー』って思った。SFって、そういう考証も重要だよねと」

「確かにおもしろいね……」


 こんしまちゃんが小さくうなずく。


「たとえ科学が発達して『できること』が増えても、それでも『できないこと』は依然(いぜん)としてある……ここをしっかり考えているSF作品は名作が多い印象……っ! ポケットから未来の道具を出すネコ型ロボットのアニメにしても、『未来の道具は便利だねー』で終わってないからおもしろいもんね……使い方によっては悪いことにも転用できたり逆効果になったりするからSFとしても極上(ごくじょう)なわけで……」

「それなー。こんしまちゃん、分かってる~」


 目を(かがや)かせ、蝶さんが言葉を引き継ぐ……ッ!


「……『ネットとかが発展して人々は表面的(ひょうめんてき)には幸せになったものの相変わらず犯罪は減っていない』とか『VRMMOの世界が実現すれば楽しいけれど新しいリスクも同時に生まれる』とか『人々に幸せをもたらすユートピアのような世界が実はおぞましいシステムで運営されていたディストピアだった』とか、そこらへんの設定がしっかりしているアニメも(ちょう)最高なんだわ」

「ひなぎくちゃんはSFアニメがとくに好きなんだね……」


 こんしまちゃんが、あたたかい目で蝶さんを見つめる。

 蝶さんはフッと笑う。


「というかアニメは全部好きだよ。今期の冬アニメも可能な限り全部チェックしているし。神アニメはもちろんだけど……どんなにク○と言われるものも実際に自分の目で最後まで視聴して判断するから愛着が()くんだ。作画崩壊(ほうかい)も棒読みも破綻(はたん)したシナリオも虚無(きょむ)展開もメチャクチャな設定もみんなに(きら)われるようなキャラもアタシは愛している」


 ここで蝶さんがとまる。こんしまちゃんも足をとめる。

 見ると、赤茶色のセーターを着たお姉さんが右前方のドアの隙間(すきま)からこちらを見ている……!


「ひなぎく……お友達を連れてきたの?」

「そーなの。アニメの話をしてた」


 蝶さんがこんしまちゃんとお姉さんとに交互(こうご)に視線をやる。


「あ、こんしまちゃん。この人、うちの姉。高二(こうに)だね」

「初めまして……おじゃましてます……」


 こんしまちゃんはていねいに頭を下げた。

 対するお姉さんは隙間から手招(てまね)きする……っ!


「よかったらひなぎくだけじゃなくてとウチとも語り合わないかな? かな?」

「喜んで……」


 快諾(かいだく)するこんしまちゃん。

 蝶さん――ひなぎくさんと共にお姉さんの部屋に入る。


 お姉さんの部屋の(かべ)は、アニメのポスターでうめつくされていた。

 イケメンの男性キャラばかりだ……!


 部屋の中央には木製のちゃぶ台がある。

 そのそばの赤い座布団(ざぶとん)にこんしまちゃんとひなぎくさんは(こし)を下ろした。


 いったんお姉さんは部屋から出て、おぼんに乗せた湯呑(ゆの)みを(みっ)つ持ってきた。

 おぼんをちゃぶ台にコトリと置く。


粗茶(そちゃ)です。お茶です。あったかいものです、どうぞ」

「あ、これはありがとうございます……」


 湯呑みには緑茶が入っていた。湯気(ゆげ)がほとばしっている。

 それを(くち)(ふく)んだあと、こんしまちゃんがお姉さんに聞く。


「お姉さんのオススメアニメはなんですか……ちなみにわたしは『鉄腕アトム』()しです……みんなのためにがんばる姿が素敵(すてき)なんです……」

「へえ、アトムとは……やるね。日本史の教科書に()せてもいいレベルの作品だもんね」


 お姉さんも座布団に(すわ)り、自分の湯呑みに両手を()える。


「ウチは最近、時間感覚が壮大(そうだい)なアニメにハマってるよ」


 湯呑みを右回りにくるくる動かすお姉さん。


「それも十年とか百年とかそんな規模(きぼ)じゃない。人の一生(いっしょう)()える膨大(ぼうだい)な時間が作中で流れるヤツ」

「……もしかして、あれですか」


 こんしまちゃんが、湯気の向こうのお姉さんを見つめる。


「エルフの魔法使いが主人公の作品ですね……作画も音楽もきれいで、世界観も落ち着きと緊張感(きんちょうかん)が調和していて……とってもいいですよね……」

「そうだね、それもあるかな」


 向かって右前にいるお姉さんが湯呑みを少しだけかたむける……っ!

 こんしまちゃんの左前に(すわ)るひなぎくさんも(くち)をひらく。


「エルフは基本的に長命だからいろんな作品に出てくるわけだしねー。だってそれだけでドラマになるしッ! ファンタジー世界だけじゃなく、現代日本に転移してくる作品も(ちょう)多い印象」

「うん……といっても時間の流れが壮大なのはエルフが出てくる作品だけじゃない」


 お姉さんが両手の親指でちゃぶ台のふちをなぞる。


「最近のだと、人間の寿命(じゅみょう)自体が優に百歳(ひゃくさい)()える転生(てんせい)モノもあったっけ」

「夢がありますね……」


 その設定をちょっとうらやましいとも思うこんしまちゃん。

 お姉さんは親指の動きをとめ、少し身を乗り出す。


「ほかには、そもそも主人公が死なないアニメ。作中で不死ってだけじゃなくて時間もどんどん進んで世界の文明すら発展していくの。主人公自体が今まで会った人たちに変身したりできるから物語の(じく)もぶれない。あと原作のないオリアニで、ロボットが主人公の作品もオススメ。人間が住めなくなった地球のホテルが舞台なんだけど、これも作中時間がぽんぽこ経過するタイプのアニメ。暗くなりすぎない作風だからかなり見やすい。普通(ふつう)に神だった」

「興味がむらむらと()きます……機会があったら見てみたいです……」


 そう言ってこんしまちゃんが緑茶をごくごくと飲む……っ!


「お姉さんはファンタジーアニメがとくに好きなんですね……」

「それは、そうなんだけど……」


 ちょっと()を置いて、お姉さんが言葉を()ぐ。


「やっぱりアニメはどんなものでも好きかな。さっき言ったホテルのアニメもどっちかといえばSFアニメだし。とくにイケメンか美少女かかわいいマスコットが出てくると……なおいい。もちろん、しぶいおじさんも大好物(だいこうぶつ)だけどさ。ビジュに限らず声優さんの演技を聞くと一瞬(いっしゅん)で推しになるよ」

「アニメは耳も幸せですよね……」

「うん」


 ついで緑茶を一気(いっき)に飲み干すお姉さん……っ!


「……ぷっは。個人的には六つ子とか五つ子とか……なぜか顔が似ている人がたくさん出てくるシリーズ作品とかで一人(ひとり)一人の声がきちんと(ちが)うヤツがいい。まあきちんと理由があるなら同じ声でも全然いいんだけど」

「ほいほーい、声といえばアタシにも独自の楽しみ方があるのであります」


 ひなぎくさんが右手を挙げる。


「昔のアニメ見てるとさ~、今の超有名声優がポッと()のモブ役で出てきたりするんだよね。それに気づくと、この声優さんもこの時期からずっとがんばってきたんだなーって思えて勇気と元気をもらえるんだわ~」

「うんうん。最初は棒読みだった人がどんどん上達していくっていうパターンもあるし、逆に最初から演技が神がかっている人もいる」


 カラになった湯呑みをお姉さんがちゃぶ台に置く。


「こんしまちゃんにも推しの声優さんとかいる?」

「声優さんは全員すごいと思います……」


 マジメな顔でこんしまちゃんが答える。


素人(しろうと)意見で恐縮(きょうしゅく)ですが……声優さんにはその人だけにしか出せない強烈(きょうれつ)な声を持つ人と、いろんな声を演じ分けることに()けた人とがいるような気がします……」

「そうそう」


 お姉さんが両手を()ばし、こんしまちゃんとひなぎくさんのカラの湯呑みをつかむ。


「アニメは声優さんを始めとするたくさんの人のいのちが()もっているから最高なんだよね。まさに時間や時代を()えて愛されるべきすばらしいコンテンツだよ」


♢ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 話が一段落(いちだんらく)したところでお姉さんの部屋から出るこんしまちゃんとひなぎくさん。

 廊下(ろうか)でひなぎくさんがこんしまちゃんにささやく……!


「もう察しているだろうけど、アタシの家族全員、超がつくほどのアニオタなんだ」

「アニオタ……アニメオタクってことは」


 こんしまちゃんも小声で返す。


「アニメが大好(だいす)きでアニメに(くわ)しい一家(いっか)ってことだね……?」

「そういう認識で間違(まちが)いないぞー」


 ささやき声を続けるひなぎくさん……っ!


「うちはおじいちゃん・おばあちゃん・お父さん・お母さん・お姉ちゃん・アタシの六人で暮らしてるし……だいたいこの家族構成自体、例のアニメっぽいじゃん」

「最後にジャンケンするヤツ……?」


「違うよ、間違っているよ、こんしまちゃんっ! オープニングで(おど)っているほう」

「しまった……ともあれ、よかったらお姉さん以外の家族のかたからもアニメの話を聞きたいな……」


「よしきた! だったらアニメ鑑賞はあとにして、しばらくアタシと地獄(じごく)に付き合ってもらうねー」

「あ……それ、ロボットアニメの次回予告のセリフのパロディ……」


「なんで知ってんの……」

「中学生のときに公式配信サイトで偶然(ぐうぜん)見たことあるからだけど……苦いコーヒーとかバトリングとかコンクリートミキサーにぶちまけたりするのとかいいよね……」

「……そういえばこんしまちゃん、アトムとネコ型ロボットについても()()()()()()()? ここから導き出される結論は――」


 ひなぎくさんが頭の後ろのチョウチョ結びをいじる。


「こんしまちゃんってロボットアニメがとくに好きなんだねー」

「たぶん、そうだと思う……。たとえば昆虫(こんちゅう)みたいなロボットに乗るアニメは異世界転生モノとしてもよくできてるし……八十年代のアニメなのに作中で『異世界』って言葉を使ってた覚えがある……。ほかには白旗の意味が『降伏(こうふく)』とは(ちが)うロボアニメも好き……」

「ふーん、そこらへんが好みなんだ。どっちも印象深いセリフが多いし、キャラにも血が(かよ)っていて超見応(みごた)えがあるもんな~」


 うれしそうに、ひなぎくさんがあごを上下(じょうげ)させる。


「じゃあまずはお父さんに引き合わせよう。きょうはうちの一家(いっか)全員仕事休みだし」

「ひなぎくちゃんのお父さんもロボが好きなの……?」


「もちろん好きだよー。だけど、お父さんがとくに好きなのはホビーやスポーツのアニメだね。カードゲームで世界が(ほろ)びたりするヤツとか」

「なんでカードで世界が滅びるのかな……」

「え? カードゲームアニメではよくあることだよ。負けたら死ぬよ」


 ここでひなぎくさんが廊下を右に折れる。

 その先の()き当たりにある黒いドアをノックする。


「お父さーん、今アタシの友達のこんしまちゃんが遊びに来てるんだけど、お父さんからもアニメの話を聞きたいってさー」

「そういうことなら、入ってきなさい」


 お父さんの声を受け、ひなぎくさんとこんしまちゃんが黒いドアをあけてなかに入る。

 黒い厚着(あつぎ)をしたお父さんが、黒いクッションのイスにこんしまちゃんを座らせる。


 こんしまちゃんはことわろうとしたけれど、お客さんなんだから遠慮(えんりょ)しなくていいと言われたので結局(すわ)ることにしたのだ……ッ!


 簡素(かんそ)なデスクやパソコンのある室内は小綺麗(こぎれい)であり、お姉さんの部屋とは違ってアニメの気配はみじんもない。


 ひなぎくさんとお父さんは壁に背を預けた。向かって左にひなぎくさんが、右にお父さんがいる。

 こんしまちゃんが口火(くちび)を切る……っ!


「お父さんはカードゲームアニメが好きなんですよね……」

「そうだね」


 低めのダンディな声でお父さんが言う。


「おとなになってもホビーとかを題材にしたアニメが好きなんだ。ある意味では変だね。そう思うかな、こんしまちゃんも」

「いいえ……」


 イスのクッションのやわらかさを感じながら、こんしまちゃんがかぶりを振る。


何歳(なんさい)になっても好きなことに夢中になれるのは素敵なことです……だから、笑えばいいと思います……」

「ありがとう」


 お父さんは歯を見せずにほほえんだ。


「ボクがホビーアニメを好きな理由は、その登場人物たちが自分たちの世界観のなかで全力(ぜんりょく)で生きているさまを見るのが、好きだからかな。ホビーやカードは遊びに使うおもちゃでもあるんだけど……同時に、そのなかには遊びだけでは片付けられない深い思いもあるわけだね」

「オススメはなんですか」


 すかさず、こんしまちゃんがたずねた。

 迷わずお父さんは返答する。


「ホビーを題材にした最近のアニメだと新幹線のロボットのおもちゃのヤツとか? 単純にかっこいいからね。そして、あれかなあ。ホビーアニメとは少し違うかもしれないけどスライムが主人公の。スライムが出てくるアニメもすでにけっこうあるとはいえ、そのなかでも子ども向けマンガが原作の作品だね。なんというか……十把一絡(じっぱひとから)げにはできない『自分』と向き合い、肯定するっていう作品の方向性がしっかりしていて非常に考えさせられた。あれは子どもにもおとなにも()さる内容だった」


 そしてまばたきし、続ける。


「最近のじゃなくてボクが子どものころのアニメなら……小さな車を走らせるアニメが好きだね。レースアニメとしてもおもしろいし、冷静な()け引きや熱血要素もふんだんにある。ベーゴマを現代風にしたおもちゃとかビー玉を()ち出すおもちゃとかのアニメも好きだった。いや、今でも好きだ」

「昔からアニメを見ていたんですね……」


 こんしまちゃんが優しくうなずく……っ!

 お父さんは少しほおを紅潮(こうちょう)させる。


「そう、昔は配信とかなかったからもっぱらテレビでね。そしてボクの両親はボクがテレビアニメを見ていてもおこったりしなかった。思い出すよ……農作業の手伝いや宿題を終わらせたりしたあと、録画したぶんをボクはまとめて見ていたっけ」

「でねー、お父さんはアニメの影響(えいきょう)でカードゲームにもなかなかハマっていたわけでねー」


 ひなぎくさんが両手を自分の後頭部に()えて言う。


「そのアニメシリーズも(ちょう)長くてさ、でもお父さん……全部視聴してんの。おかげで『伝説』『満足』『ファンサービス』って単語に過剰(かじょう)に反応するようになっちゃった」

「なんで……?」


 こんしまちゃんが困惑(こんわく)する。

 お父さんが説明する。


「個性的すぎるキャラが作中でその言葉を使っていたから印象に残っているんだよ。もちろんほかのカードゲームアニメのシリーズも好きだし、セリフだっていくらでも思い出せる。スポーツアニメのセリフはとくに自分を(ふる)い立たせてくれる。的確なBGMや声優さんの熱演、神作画や演出が思い出されて元気が出るわけだね」

「セリフですか……」


 座ったままこんしまちゃんが背筋をピンと立てる……!


「確かにアニメのセリフはものすごく心に刻まれますよね……わたしも『駆逐(くちく)』って言葉を聞くたびに、あるロボットアニメと巨人(きょじん)が出てくるマンガ原作のアニメ……その二種類(にしゅるい)を思い出します……」

「へ~、なかなかいいところを()さえているね。ほかには船の駆逐艦(くちくかん)擬人化(ぎじんか)したアニメもあるし、今までの言葉の意味を更新(こうしん)するのもアニメのすごいところだ。そしてこれはホビーやスポーツのアニメじゃないんだけど、『体が軽い』『その必要はない』『わけが分からない』って言葉を耳にするとボクは魔法(まほう)少女モノのとある神アニメを連想する」


「それは、よほど印象的な作品だったんですね……」

「ほかにもアニメの影響(えいきょう)でボクは食事前に手を合わせるとき『錬成(れんせい)』って言ったりしてた。あとは例のカードゲームアニメのせいで『融合(ゆうごう)』って言葉も頭に()かぶ」

「アニメと生活が結びついてるんですね……尊敬します……」


 皮肉ゼロでそう(くち)にするこんしまちゃんなのであった!


「ほかにアニメで印象に残っているセリフはなんですか」

「それは秘密」


 (くち)もとに人差し指を立て、いたずらっぽくお父さんが笑った。


♢ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 お父さんの部屋をあとにしたひなぎくさんとこんしまちゃんは、廊下を進んで今度はお母さんのいる場所に向かう。


 (むらさき)の毛布みたいなショールを(かた)にかけたお母さんがリビングの黄色いソファに(こし)を下ろしていた。

 こんしまちゃんに気づいて、お母さんが立ち()がる。


「ひなぎくのお友達ですね。なにかお菓子(かし)でも出しましょうか」

「ありがとうございます……」


 やんわりと遠慮するこんしまちゃん……っ!


「でもお構いなく……」

「しっかりしてますね~。だけど、よかったらソファに座ってプリンでも食べてください」


 リビングのそばには台所がある。お母さんがその台所の冷蔵庫をあけ、スプーンとプリンを(ふた)つずつ持ってきた。プリンは透明(とうめい)なカップに入っているものだ。

 ソファに()したこんしまちゃんとひなぎくさんにプリンを(わた)し、その場から去ろうとする。


 そんなお母さんをひなぎくさんが呼びとめる。


「待った、お母さん。こんしまちゃんがお母さんからもアニメの話を聞きたいって」

「ワタシの?」


 ひなぎくさんに(うなが)され、お母さんがソファに座りなおす。右にこんしまちゃんが、左にひなぎくさんがいる……っ!


「といってもワタシの趣味(しゅみ)と合うかは分かりませんよ」

「……いえ、わたしが聞きたいんです……」


 プリンの表面(ひょうめん)をスプーンですくってこんしまちゃんがストレートに問う。


「ひなぎくちゃんをひなぎくと名づけたのは、お母さんなんですか……」

「そうですよ」


 紫のショールのはしっこを右手でつかんで胸に引き寄せるお母さん。


「好きなアニメキャラの名前が元ネタですが、それはあくまで参考にしただけです。『ひなぎく』という言葉は(ひび)きが美しいわけですし、デイジーとしてきれいな花も()かせます。だからでしょうか」


 お母さんはひなぎくさんのほうにも視線を送った。


「この子に合う名前だと直感したんです」

「はい……わたしもひなぎくちゃんにとっても合う名前だと思います……」


 あまいプリンを飲み込んで、こんしまちゃんが静かに言った。

 当のひなぎくさんは目を泳がせて照れている。


「も~。アタシの名前はもういいんだってばよ~。それよりお母さんが好きなアニメのジャンルをこんしまちゃんに教えてやって」

「ワタシもアニメはなんでも好きだけど……とくに好きなのは日常系アニメかなあ」


 ショールのはしっこをいじくりながら、お母さんが少しだけ目を閉じる。


「ほのぼのとした日常を見るだけで()やされるというか……。ワタシ、ただの人間にも興味があるし。とくに目的もなく、まったりスローライフを謳歌(おうか)するのも最高ですね。学生がだべっているだけのアニメとかも無限に見られます。とはいえハイテンションなギャグアニメも(きら)いじゃないですよ~」

「そういう楽しみ方もあるんですか……」


 目を閉じたお母さんの顔をこんしまちゃんがちらちら見る。


「お母さんのオススメはなんです……?」

「カエルやイカやネコっぽい宇宙人が地球を侵略(しんりゃく)するヤツとか学校でアイドルをやる作品とか……? まあ今の若い子向けだと異世界でいろんな料理をするアニメもオススメしたいところですね。とくに、いろんな企業(きぎょう)がスポンサーについていて作画もガチな作品があってそれはだれが見ても楽しめます。本当に飯テロです」


 お母さんがまぶたをあけ、聞き取りやすいペースで続ける。


「あと去年のアニメだと女子大学生が料理を作って食べるという作品があったんですが、それもよかったです。たぶん原作のないオリジナルアニメだったと思うんですけど、主人公たちが大学生っていうのがいいんですよねー。高校生じゃなくてもここまで話を広げられるんだと感じました。あ、高校生向けならバンドのアニメにもいいものがたくさんありますね。成長要素も見所だし、かといって押しつけがましくもなく、見ていて気分が晴れますよ~」

「やっぱりアニメは人を元気にしてくれますよね……」


 こんしまちゃんはプリンをスプーンですくいつつ、言う。


「どうしてお母さんは日常系アニメが好きなんでしょうか……」

「もう(ひと)つのリアルだからでしょうね」


 ショールから手を(はな)すお母さん。


「ワタシはアニメが現実逃避(とうひ)の手段だとは思わないんです。むしろアニメ視聴とは、画面の向こうにある別のリアルをのぞき込む行為(こうい)なんだと考えています。目と耳から(ひと)つのリアルを感じたあとは、『じゃあ自分は自分のリアルをどう生きようか』という問いが生まれるわけです。単純に癒やされるだけでなく、この問いを自然に投げかけてくれるからワタシはアニメすべてが大好きなんです。とくに日常系が好きなのは、自分たちのリアルと比べやすいからなのでしょう」

哲学(てつがく)があるんですね……」


 感心しながらこんしまちゃんは、スプーンですくったプリンを次々と(くち)に運んでいった。


「アニメとは総合的な『体験』をもたらしてくれるものなんでしょうか……」

「だと思います」


 お母さんの顔が小さくほころぶ。


「アニメは、それぞれの作品で絵柄(えがら)や画風が違います。だからこそワタシたちのリアルと乖離(かいり)した部分が明示されており、よりリアルを相対化しやすいわけです。この相対化されたリアルに入り込もうとするからアニメ視聴者はいっそうの体験を脳内にえがくことができるんです」

「ちょっと難しいです……だけどそれもアニメだけの魅力(みりょく)なんですね……」


 ここで、こんしまちゃんがプリンを食べ終わった。


「ごちそうさまでした……おいしかったです……」

「はい、おそまつさまでした」


 お母さんが立って、カラのカップとスプーンを回収した。

 ついでひなぎくさんがこんしまちゃんに耳打ちする。


「さっきのプリン……お母さんが作ったヤツだからね。ほめられてうれしかったと思うぞー」


♢ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 さてこんしまちゃんとひなぎくさんはお母さんのいるリビングを去り、次はおばあちゃんの部屋に()く。


 おばあちゃんの部屋は(たたみ)()かれた部屋だった。

 その部屋には小さなコタツがあった。


 腰から下をそのコタツに差し入れて、こんしまちゃんがひなぎくさんのおばあちゃんを見る。

 おばあちゃんは赤くて厚いフードをかぶっている……。


「あの……おばあちゃんもアニメを見るんですか……」

「当然ワシも見るさ。アニメと米作りが老後の楽しみだからね」


 不敵に笑うおばあちゃん……っ!


「なにか? ババアがアニメ見たら悪いんか?」

「しまった、いえ……そんなことないです……」


 対面のこんしまちゃんが萎縮(いしゅく)する。

 おばあちゃんはケラケラと笑い返す。


「ははっ。ビビらせてすまなかったね。ちょっとからかっただけさ」

「なんだ、そうだったんですか……」


 コタツに両手を()っ込んで、こんしまちゃんが安堵(あんど)の息をつく……ッ!


「おばあちゃんのオススメアニメはなんですか」

「ワシもアニメ全般(ぜんぱん)が好きだが、ホラー・サスペンス・推理モノがとくに好みだわな。いろんな妖怪(ようかい)が登場するアニメとかスパイ家族のアニメとか推しのアイドルをめぐるサスペンスアニメとか小さくなった名探偵(めいたんてい)のアニメとかな」


「わたしもいくつか知っています……好きです……」

「おお、そうか!」


 おばあちゃんが、あごでコタツの(つくえ)の部分をたたく。


「なんか若い子とアニメ談議ができるのはいいな。人と話すのがハッピーを生むというのは本当なわけだ。で、最近のアニメだと薬屋の作品も最高だなあ。あとラブコメ」

「ラブコメはホラーでも推理モノでもないんじゃないですか……」


「いやいや、ラブコメは奥深(おくぶか)いぞ。ライバル同士を蹴落(けお)とし合うのはホラーだし、だれがだれとくっつくかは予想のつかないサスペンスだし、そもそもどういう経緯(けいい)を積み重ねて恋愛(れんあい)成就(じょうじゅ)するか考え始めたらこりゃ立派な推理モノじゃあないかね。まあこのごろはだれもフらずに全員を不幸にしない優しいラブコメも増えてきている感じがするが」

「勉強になります……ラブコメをそんなふうに(とら)えることもできるなんて……」


「そうだろう、そうだろう。とはいえアニメで一番(いちばん)大切なのは作画だよ」

「まあ、絵があってこそのアニメですもんね……」


肝心(かんじん)なところで作画が(くず)れたら、脚本も音楽も台無しだからねえ。一種のホラーになっちまうよ。まあそれはそれでワシは好きなんで、ク○作画も大歓迎(だいかんげい)だがなあ。それを逆手に取ってあえて作画を崩すアニメも複数知っているがそれらもすべて大好(だいす)きさ。しかしこのごろはアニメの作画もとても見応えがある。映画だととくにな。(おに)の首を()るアニメや頭がチェンソーになる作品もすばらしい。グリグリ動いて、かつ見やすい。芸術だよ」

「なんかわたしも見たくなってきました……」


 こんしまちゃんも背中を丸め、机の部分にあごを()せる。

 そのとき――。


「おお、ひなぎくのお友達かい。こんにちは」


 茶色いマフラーを巻いてニット(ぼう)をかぶったおじいちゃんが廊下から姿を現した。

 こんしまちゃんとあいさつを()わしたあと、おじいちゃんもコタツのなかに(あし)()れる。


 おばあちゃんが右(なな)め前のおじいちゃんを軽く小突(こづ)く。


「こんしまちゃんはワシらからアニメの話を聞いているんだと。アンタからも(はな)してやりな」

「そういうことなら、オレからも……」


 おじいちゃんがマフラーを巻きなおし、居住まいをただす……っ!


「オレはファミリー向けのアニメが好きだ」

「たとえばだれが見ても楽しめる五歳児のアニメとか短い時間でサクッと見られるなんかかわいいアニメとかですか……?」


 こんしまちゃんも机からあごを離し、姿勢をただした。

 うなずいて、おじいちゃんがにんまりとする。


「そうだよ。子どももおとなも性別も年齢(ねんれい)も関係なく見ることができるアニメがとくに好きなんだ。顔が食べ物でできているヒーローとか女児向けのキラキラしたヒロインとかも……見るとかなり(おく)が深くておもしろいわけだ。大きくなったあとにあらためて見るといろんな発見があってオススメだぞ」

「はい……今度見てみます……」


「そりゃいい! アニメだろうとそうでなかろうと若さゆえの(あやま)ちを(おそ)れずに興味のあるもんはどんどん吸収したらいい。ふふ……せがれが小さいころもよく一緒(いっしょ)にアニメを見ていたもんよ。なにもかもが(なつ)かしい……まあ今もあんまり変わらんけど!」

「な、なるほど……本当にアニメ好きの一家なんですね……なんか素敵です……」


 コタツのぬくもりを感じつつ、こんしまちゃんがほっこりする。


「ところでおじいちゃんはアニメで一番(いちばん)大切なことってなんだと思いますか……」

「原作へのリスペクト」


 ノータイムでおじいちゃんは答えた。


「作者が()くなったあとも続いているアニメも多いが……どんなときも原作を大切にしてほしい。時代に合わせて表現を変えるのは必要だが原作を改悪するのだけはやめてほしい。それが一番(いちばん)だろうな」


♢ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 コタツから()け出たこんしまちゃんとひなぎくさんは、最後にひなぎくさん自身の部屋に入った。


 ひなぎくさんの部屋には大きな画面のテレビがあった。

 アニメキャラのフィギュアやロボットのプラモデルなども(かざ)られている。


 十二月のトナカイ落札ゲームで手に入れたキャラのぬいぐるみをかかえ、ひなぎくさんがベッドに横たわる。


「こんしまちゃん……(たの)しかった?」

「うん……とっても」


 こんしまちゃんはゆかの上にぺたん座りをしてうなずいた。

 だけどひなぎくさんは小さく首を振った。


「ホントは(ちょう)ドン()きしたんじゃないの? 家族全員がアニオタだなんて気持ち悪いって……」

「そんなこと……思わないよ……」


 こんしまちゃんはぺたん座りのまま、ベッドのひなぎくさんに近づいた。


「好きなことに夢中になれて、それをみんなと全力で共有できるってすごいことだよ……ファミリーアニメが好きなおじいちゃんは原作を大切にしていて、推理モノとかが好きなおばあちゃんは作画のよさが分かる人で、日常系アニメが好きなお母さんはアニメをもとにした哲学を持っていて、ホビーアニメが好きなお父さんは印象的な言葉をよく覚えていて、ファンタジーアニメが好きなお姉さんはアニメにいのちを()き込む声のすばらしさを知っていて、SFアニメが好きなひなぎくちゃんはそんな素敵な人たちに囲まれてアニメのすべてを愛しているんだもん……」


 上目づかいでこんしまちゃんが、ひなぎくさんを真剣(しんけん)に見つめる。


「だから、ひなぎくちゃんの家族はとっても素敵な一家(いっか)だよ……」

「こんしまちゃん……あんがと……」


 ひなぎくさんは上半身(じょうはんしん)を起こし、やわらかく口角(こうかく)を上げた。


「そんじゃま(おそ)くなったけどアニメ鑑賞するぞー。こんしまちゃんは、なに見たい?」

「そうだね……」


 ニヤリとするこんしまちゃん……っ!


「きょう出てきたアニメ全部かな……」

「さすがに時間が足りないよっ! 倍速視聴しても速さが足りない!」

「しまった……」


 というわけで、とあるロボットアニメ映画を大きな画面に映して見ることになった。

 こんしまちゃんとひなぎくさんはベッドに座りながら、それを夢中で鑑賞したのであった。



 で、こんしまちゃんがひなぎくさんの平屋の玄関から出るとき、おじいちゃん・おばあちゃん・お父さん・お母さん・お姉さんも見送りに来てくれた。


「きょうは来てくれて……話を聞いてくれて、ありがとう。これからも、ひなぎくと仲よくしてくれるとうれしい」


 ひなぎくさんの家族は、明るい調子でそう言った。

 照れるひなぎくさんの(となり)で、こんしまちゃんはうなずいた。


♢ ※ ※ ※ ※ ※ ※


☆今週のしまったカウント:三回(累計(るいけい)百三十七回)

次回「第三十三週 ボランティアに参加してしまった!(土曜日)」に続く!(一月二十三日(金)午後七時ごろ更新)

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それにしてもアニメもいろいろ奥深いですね!

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