第三十週 羽根を突いてしまった!(金曜日)
「あけましておめでとうございます……」
年が明けたとき紺島みどりは、だれにともなくそう言った。
今週のしまったちゃんことこんしまちゃんの名をほしいままにする彼女だけれど、今年も無事に新春を迎えることができたようだ。
果たして新しい年も週に一度は「しまった」と口にしてしまうのか……?
それはこんしまちゃん本人にも分からない……っ!
※ ※ ※ ※ ♢ ※ ※
一月最初の金曜日の午後。天気は晴れ。
ウェーブのかかったくせ毛をなびかせながら、こんしまちゃんはとある運動公園を訪れていた。
なんで年が明けて間もないのに運動公園に行くんだ……? とも思われるが、こんしまちゃんは広いスペースのある運動公園で羽根突きをしようと思い立ったのである……!
今どきの高校生が羽根突きをするのはめずらしい気がするけれど、こんしまちゃんがやりたいと思ったのだからしょうがない。
なにが目的なのか……?
いや目的とかないよ。楽しそうだからやる! ……それでいいじゃん。
運動公園の芝生のフリースペースでこんしまちゃんはとまった。
ほかに利用者はいない模様……ッ!
現在のこんしまちゃんの服装はモコモコの白いジャケットに暖かい素材でできた赤い半ズボン。黒いタイツと白いスニーカーもはいている。
あとリュックサックをしょっている。そのリュックサックを茶色いベンチに置いてなかをガサゴソ探る……っ!
そうして羽根突きに使う「羽根」と「羽子板」を取り出した。
今回こんしまちゃんが使用する羽根は、黒くて固い直径一センチの球体に緑の羽根一つと赤の羽根一つをつけたものだ。で、羽子板は三十センチの長さ。クリーム色の木目のみを映しており、とくに絵などはかかれておらぬ……!
「よし……」
こんしまちゃんが、ひとりごつ……ッ!
まずこんしまちゃんは右手に羽子板を持ち、その上に羽根を載せた。
ついで右腕を振り上げる。すると羽根が小気味いい音を立ててポーンと浮いた。
宙のその羽根に向かって羽子板を真横から放つ……ッ!
「とああ~……っ!」
気合いの入ったかけ声と共に羽子板が羽根を襲う。
が……!
こんしまちゃんの渾身の一撃は結局羽根を捕らえられなかった。
羽根は羽子板が当たる直前に芝生に落ちたのである。
勢い余ってよろめきつつ、こんしまちゃんが口にする。
「しまった」
これが、今年のこんしまちゃんの「初しまった」であった……。
※ ※ ※ ※ ♢ ※ ※
次にこんしまちゃんは、一つの羽子板を両手で持った。
なるほど、これなら片手だけで持つよりも安定するであろう……!
しかしこんしまちゃんは気づいた。両手で羽子板を握った場合、羽根を羽子板の上にどうやっても載せられないと……っ!
羽根が芝生にむなしく転がっておる……ッ!
「しまった……」
あたふたするこんしまちゃん。
でもすぐに、いい方法をひらめく……ッ!
「そうだ……両手で羽子板を持ったあとに羽根を置くんじゃなくて、羽根を置いたあとに羽子板を両手で持てばいいんだ……」
どうやらきょうのこんしまちゃんはさえているようだ……!
というわけでいったん羽子板を右手だけで持ってその上に羽根を載せる。それから左手を右手にかぶせる。
「といやあ~……」
鬼気せまる声を出して両手を振り上げる。
羽根は、さっき右手だけで打ち上げたときよりも大きく浮いた。
さらに落ちてきた羽根に、下から羽子板を当てるこんしまちゃん……っ!
すると羽根が、ポイーンと上がった。
「やったあ……」
声をはずませながら、こんしまちゃんは羽根を何回もポイーンポイーンと打ち上げる。
十回続いたところで羽根は左のほうに飛んでいき、芝生に落ちた。
「しまった……でもけっこう続いた気がする……」
こんしまちゃんはトテトテと羽根に近寄り、しゃがんで拾った。
※ ※ ※ ※ ♢ ※ ※
ここでこんしまちゃんはベンチに置いているリュックのもとに戻る……っ!
今まで使っていた緑と赤の二枚羽根をしまう。
さすがに飽きたか……?
否……!
代わりにこんしまちゃんはリュックから、四枚羽根を取り出したのだ……ッ!
赤・白・黒・青の計四つの羽根が一センチの黒い球体に癒着している。
実は、この四枚羽根こそが今回のこんしまちゃんの秘密兵器なのだ。
「ふふ……」
右手に新たな羽根を持ち、不敵に笑うこんしまちゃん……っ!
でもいったん羽根をベンチに置く。
ベンチのそばに設置されているフリーのウォータークーラーで水分補給をおこなう。
そのウォータークーラーからは、ちょっとあたたかい水が出てくる。
「ごくごっく……」
温水が五臓六腑にしみ渡る。
万全の態勢を整えたうえで、こんしまちゃんが再び芝生に立つ……っ!
左手に新しい羽根を構え、右手に羽子板を握る。
続いて羽根をひゅうっと宙に浮かせ、斜め上から羽子板の表面を当てた。
「ちょああ~ッ……」
羽子板は羽根にクリーンヒットした。
このままでは羽根が遠くに飛んでいってしまう――かと思いきや。
羽根は超がつくほどのスローで空中をふよふよ飛行し始めた……!
「す、すごい……ッ」
こんしまちゃんが感動のあまり、瞳を輝かす。
羽根がスローモーになっているのは、こんしまちゃんのおかげにあらず……。
四枚の羽根がついたその羽根自体に秘密が隠されている。
なんか、こう……よく分からんけどとにかくすごい技術が使われているらしく、その羽根は強く突いてもゆっくり飛ぶようになっているのだ……ッ!
おまけに滞空時間が長く、なかなか落ちない。
ゆえに空中を舞う羽根をより楽しむことが可能になっている。羽根突きの進化、あなどりがたし……ッ!
まるで小鳥がちっちゃい翼を一生懸命はばたかせているようで、愛くるしさも感じられる。
じきに羽根はゆるやかに弧をえがいて芝生に着陸した。
こんしまちゃんは羽根を拾い、今度は真上に打ち上げる……ッ!
といっても、あんまり高く浮かなかった。最高高度はさっきまでの二枚羽根のほうが上らしい。
ふよふよ~んっとタンポポの綿毛みたいに落ちてくる。
それを斜め下から、こんしまちゃんが打つ……!
「といやあ~……っ」
ポコーンという音と共に、羽根が左斜め上へと軌道を修正する。
「あ、いいこと考えた……」
こんしまちゃんは口の端をちょっと引き上げ、羽根に向かって走った。
羽根の下をくぐり抜け、つま先の方向を百八十度転回……っ!
自分に向かってくる羽根を見据え、羽子板を当てる。
羽根がベンチのほうへと飛んでいく。
一方こんしまちゃんはまた走り、ベンチの前へと回り込む。
体の向きを再度転回し、羽根を打ち上げた。
で、また走ってベンチから離れ、その羽根をベンチに向かって打つ。
直後またまた走ってベンチに近づき、羽根を羽子板に当ててベンチとは逆方向に飛ばす。さらにその羽根へと追いつき、やっぱり打ち返す――これをループさせる……!
まさに無限羽根突き……ッ!
人の足よりもめっちゃ遅く飛ぶ羽根の特性を利用して実現する、一人羽根突きの極致と言えよう。
だが「無限」とは理論上の値にすぎぬ。
事実こんしまちゃんは羽根をぽいーんぽいーんと飛ばし続けていたものの、二十三回目でついに失敗。
ベンチの前でスカッと空振りした。
「……しまった。ラリーが途切れちゃった……」
ゆっくりと羽根が芝生に落ちて横たわる。
墜落した羽根をじっと見て、こんしまちゃんが問う……!
「楽しい……?」
しかし羽根は四枚の羽根を芝生に載せたまま、なにも答えぬ。
※ ※ ※ ※ ♢ ※ ※
そしてこんしまちゃんはベンチに座り、羽根をぽよ~んぽよ~んと軽く打ち上げ続けた。
これは一種の瞑想のような効果を彼女にもたらした。
羽根の黒い球体が羽子板にこつーんと当たるたびに脳が刺激される。
赤・白・黒・青の羽根がゆれるさまをただ見つめる。
こんしまちゃんが羽根を見ているのか、あるいは羽根がこんしまちゃんを見ているのか――それは判然とせぬ。
羽子板の固くて懐かしい感触が右手から全神経へと徐々にめぐる。
今のこんしまちゃんは集中とリラックスとを両立させている状態なのだッ!
ここで思い出す。
「そういえば羽根突きって……打ち返すのを失敗したときに墨でぐっちょぐちょにされるんだっけ……」
ぐっちょぐちょは言いすぎだけど……まあ顔にラクガキする程度なら、よくある羽根突きのイメージだね。
「だけど……墨をつけられたくないよ~! ……って人もいるんじゃないかな……お化粧とかしてる場合はとくに……。それに、筆とか用意するの手間かもしれないし……服がよごれる可能性もあるし……」
一人でマジレスをかます、こんしまちゃん……!
「とはいえ失敗した相手に墨をつけるのは羽根突きの唯一無二の個性でもあるよね……だったら頭ごなしに墨はダメ~! って言うのもつまんない……」
左ひじをひざに食い込ませ、ほおづえをつく。
「問題は墨が羽根突きというゲームのなかで役割を持たないことにある……。得点した側の報酬かつ失点した側の罰にしかなっていないんだよね……墨って。『だから勝とう、負けないようにしよう』っていうやる気スイッチを押すことはできるけど……ゲーム自体には影響を与えないからぶっちゃけ罰を設定するなら墨じゃなくてもいいじゃんって話になる……。ここで羽根突きというゲームと墨という罰とが切り離され……結果、羽根突きの個性が消えてしまう……だったらなにかを打ち合うにしてもテニスやバトミントンでええやん……ってことになる……」
一応ツッコんでおくと、バ「ト」ミントンではなくバ「ド」ミントンのほうが正しい言い方である。
「あ、だったらこうしよう……!」
こんしまちゃんは羽根を打ち上げるのをやめ、羽子板と羽根をリュックにしまった。
リュックをしょってベンチから立ち上がり、芝生を離れる。
※ ※ ※ ※ ♢ ※ ※
芝生をあとにしたこんしまちゃんは、同じ運動公園内の灰色のグラウンドに移動した。
グラウンドには砂が敷かれている。
こちらもフリースペースであり、今はこんしまちゃん以外だれもおらぬ……ッ!
「さてとっと……」
グラウンドすみっこの白いベンチにリュックを置く。
右手に羽子板を、左手に四枚羽根を持つ。
ついで右のつま先でグラウンドに線を引く。
長方形のコートを作る。一辺十メートルの正方形二個をくっつけたかたちだ。あいだにネットのようなものはない。
「これで準備は整った……あとはキャラ設定……」
こんしまちゃんは羽根をその場でぽいい~んと打ち上げつつ考える。
「同じ人が戦ったら盛り上がらないね……だったらパワータイプの『こんしマッスル』とスピードタイプの『こんしマスター』の対決でいこう……!」
ベンチに近いほうの正方形にこんしまちゃんは入る。
「そんじゃ……いっぷう変わった羽根突き開始……」
羽根を宙でパシッとつかみ、こんしまちゃんが羽子板を相手側の正方形に向ける。
「きょうこそ決着をつけちゃるけえのお……こんしマスター!」
で、今度はベンチから遠いほうの正方形に移動し、体の向きを変える。
「ふふ……こんしマッスル。それでほえづらをかくのはあなたのほうかもしれませんよ……」
左手の人差し指でめがねをクイッと持ち上げるジェスチャーをして、こんしまちゃんが向こう側のコートに笑いかける。実際のこんしまちゃんはめがねをかけていないんだけど……。
「では……勝負といきましょう、ちょああ~……ッ」
羽根を左手で浮かせたあと、右手の羽子板で相手コートめがけて打ち込むっ!
ただし羽根はめっちゃ遅いので、しばし空中を浮遊する。
そのあいだにこんしまちゃんはこんしマスターのコートからこんしマッスルのコートに移動。
また体の向きを変えて羽子板を構える。
「おうおうおう~……。ぬるい羽根じゃのお~……っ」
ロールプレイしつつ、ばちこおーん! と羽根を打ち返す。
直後こんしマスター側のコートに移るこんしまちゃんだったが、今回は間に合わず羽根はコートの左側に落ちた。
「ふん……最初の一点はあなたに差し上げますよ……」
こんしマスターとしてつぶやく。
で、すぐにこんしマッスルに切り替える。
「では得点したわしからおぬしに墨をつけちゃるけえのお~……」
どういうキャラやねん……。
「おぬしのコートを、こうしちゃる~っ……」
ほかにだれもいないと思っているのでこんしまちゃんは童心に帰って相当はしゃいでいるようだ。
こんしマッスルの右足が、こんしマスターのコートにぐりぐり~っと線を引いた。
こんしマスターの正方形の陣地に斜めの線が加えられたのだ。
当のこんしマスターから見て上の辺の左側から左の辺の下側に向かっていびつな直線ができあがった。
「これでわしの領土が拡大したのお……」
そう……こんしまちゃんが思いついた羽根突きは、陣取りゲームから着想を得ている。
得点したプレイヤーは「墨をつける」と称して相手陣地に線を加え、自分のコートを拡大できるのだ……!
たった今、こんしマッスルはこんしマスターのコートに線を引いた。
それにより三メートルかける七メートルの直角三角形の領土を奪い取ったのだ。
そうやって相手のコートをすべて征服したほうの勝ちである。
ただし一度に奪える領土には制限があり、加える線は一筆書きでなければならない。かつ自分および相手のコートに飛び地を発生させてはならないし、移動が不可能なほどにせまい場所を作るのも禁止である。
というわけで一歩リードしたこんしマッスル……ッ!
しかも次の攻撃はそのこんしマッスルから始まる。
「このままおぬしを蹂躙しちゃるわあい……ッ。こんしマスター……!」
こんしマッスルのコートに戻り、こんしまちゃんが羽根を放つ。
さっきと同じ場所に打ち込む……っ!
だがこんしマスターは自分のコート内でにやりとする。(あと……なんかいちいちコートを移動しただの体の向きを変えただの書くのもめんどくさいので、以降はそういう描写を省くね)
「くく……」
「な、なにをわろうとる、こんしマスター……ッ!」
「お忘れですか、こんしマッスル」
さきほど奪われた三メートルかける七メートルの直角三角形の領土にぽてんと落ちた羽根を見て、こんしマスターが肩をすくめる。
「そこ……すでにあなたのコートですよ。さっきこんしマッスル自身が墨をつけたんじゃありませんか。よってあなたの失点です」
「し、しまったのう~……っ」
じだんだを踏み、悔しがるこんしマッスル。
こんしマスターが羽根を拾う。
「墓穴を掘りましたね……こんしマッスル。この機会に肝に銘じるといいでしょう、羽根突きにおける領土拡大は相応のリスクをともなうと……っ!」
さらにこんしマスターがこんしマッスルのコートに足を踏み入れ、線をスウッと引いた。
さっき取られた領土を取り返すかと思いきや、こんしマスターは自分から見て下の辺の右側から右の辺の上側にまっすぐな線を作成したのだ。
ちょうど三メートルかける七メートルの直角三角形と同じかたちの領土が広がる……ッ!
こんしマッスルがぷるぷる震える……!
「なんのつもりじゃい、おぬし……! わしと同じ三角形をえがきよってからにぃ~……それで仕返しした気になっているのかのう……ッ!」
「くくく……動揺していますね。ほいそれ……っ」
こんしマスターが羽子板に羽根を当てる。
さすがスピードタイプのこんしマスター。相手が会話に気を取られている隙を突き、向かって左の三角形の相手コートに羽根をぶち込む……ッ!
「これでわたしの連続得点ですね……」
「しまった……っ。やりおるわい……ッ」
こんしマッスルもこんしマスターの目にもとまらぬ速さに感心しているようだ。(そういう設定だからね)
こんしマスターは、さっきの三かける七メートルの三角形と合同の三角形をこんしマッスルのコートにかいた。斜辺同士をくっつける感じで……!
結果、縦七メートル横三メートルの長方形の領土を相手コートの向かって右に持ったことになる。
「この調子であなたのコートをわたしの墨でぐっちょぐちょにしてあげましょう……っ」
「調子に乗っとるではないか……ッ。おもしろうなってきたわい……」
今度はこんしマッスルが羽根を打つ。
こんしマッスルは、こんしマスターのせり出した長方形の領土に羽根をたたき込んだ……っ!
「領土を広げればそのぶんカバーも難しいじゃろうて……っ」
「ふふ……」
だが、こんしマスターは長方形の領土で迷わず待ち構えていた……!
こんしマッスルが驚がくする。
「な、なぜわしの羽根の軌道が読まれとんじゃああ……」
「あなたがわたしの領土拡大を逆手に取り、新領土の長方形のほうをねらうことは分かっていたのです……ッ」
素早く、こんしマスターの右手が振り下ろされる……ッ!
羽根はこんしマッスルのコートの、向かって右奥のスペースに突き刺さった。
「これで三連続得点……! さしものこんしマッスルも腕がさびたようですねえ……」
「お、おのれぃ……っ!」
ぷりぷり悔しがるこんしマッスル……!
こんしマスターは三かける七メートルの長方形の左隣にまた三かける七メートルの直角三角形を追加した。
「あなたに墨をつけまくり、わたしのコートもだいぶ広がりました……。このまま一方的に羽根突きが終わる確率は五十二パーセントと言ったところでしょう……っ!」
「むむ……ッ! 微妙な数字を言いよってからにぃ……!」
こんしマッスルがハアハア言う。
こんしマスターもハアハアする。
「どうやらお互い体もあったまってきた模様……ギアを上げていきましょうかね……とれええッ!」
そして会話を続けるように見せかけて、こんしマスターが羽根を羽子板に当てていきなり飛ばす。
これはセコ……じゃなくて、なんとも頭脳派なプレーである……ッ!
だがこんしマッスルはふお~っと深い息をついた。
「わしも血迷うたのお~……っ。最初から小細工などせずただ純情におのれのパワーをぶつけりゃよかったんじゃわい……ッ」
こんしマッスルは羽子板を持つ右手に左手をかぶせた。
羽子板を両手で持った状態で、羽根を思いっきり打ち返すっ!
「どおりゃああ……っ!」
すると力強い打球――否、打羽根が斜め下に飛んだ。
こんしマスターの広げた領土にぽいーん! と直撃するッ!
「反撃開始じゃああ……っ!」
「ひ……ひぃィッ!」
こんしマッスルの迫力にガクガクするこんしマスター……!
ここからこんしマッスルの怒濤の攻めが始まった。
なんとこの反撃を皮切りに、十一回連続でこんしマスターから得点をもぎ取ることとなったのだ……っ!
取られた領土を取り返し、こんしマスターのコートに墨をつけまくる……ッ!
こんしマスターはこんしマッスルの領土が広がったことをいいことに、なるだけ羽根をいろんな場所に飛ばしてかく乱したが……こんしマッスルはど根性で羽根に追いつき、ことごとく打ち返してくる。もはや執念のなせる業だ……!
とうとうこんしマスターはコートの右奥に追い詰められてしまった。
もはやもとの正方形のコートはこんしマッスルの「墨」によってぐっちょぐちょにされ、四平方メートルほどの領土しかこんしマスターには残っていない……ッ!
しかも次は、こんしマッスルから羽根を打つことになっている。
「これで羽根突きも終わりじゃのお~……ッ!」
互いに肩を上下させながら、こんしマッスルとこんしマスターがにらみ合う。
ここでこんしマッスルが左手で羽根を宙に浮かせる。
すかさず羽子板を両手に持ち、真上から羽根をばちこりーんっ! とたたいた。
対するこんしマスターは、左手でめがねをクイッと上げる仕草をする。
「まだです……っ!」
墨をぬられまくったこんしマスターは確かに自陣の大半を失っている。これ以上失点すればすべてのコートに墨をつけられ、こんしマスターは羽根突きに敗北する。
だがコートがせばまっているということは、相手から打ち込まれる羽根の弾道も読みやすいということ。
最後に残った四平方メートルに打羽根が来ることは先読みするまでもない……!
「ならば、わたしのコートに来る羽根をただ羽子板で返すのみッ!」
四枚の羽根をうごめかせながら、こんしマッスルのパワーを宿した羽根がこんしマスターを襲撃する。
こんしマスターは右手の羽子板を矢状面に立て、それを羽根めがけて一気に振り下ろした……ッ!
「えーい……っ」
示現流よろしくかけ声を上げる。
が、気合いの入った一撃は外れ、羽根は無情にもこんしマスターのコート内にぽよんと着地した。
「……しまった」
「わしの勝ちじゃのお~……っ!」
こんしマッスルがやってきて、最後のこんしマスターのコートをぐしぐし踏んで「墨」をつけた。
対するこんしマスターが、奪われた自陣を見渡してすがすがしく笑う。
「さすがです……。こんしマッスル、どうやらわたしの最大の誤算はあなたを本気にさせたことのようですね……」
「おう……ッ!」
がははとこんしマッスルが破顔一笑する。
「じゃがこんしマスター、次も羽根突きの機会があれば全力で勝負といこうじゃないけえ……っ」
「きょうで決着がついたのでは……?」
「いやいや、おぬしとの勝負は燃えた……ッ! ゆえに、まだ決着は先よ……!」
「ふ……こんしマッスル。あなたとの羽根突きは、本当に退屈しませんね……」
こんしまちゃんはその場でクルクル回転しながらこんしマッスルとこんしマスターになりきっていた。
ともあれ死闘は終わったので、右手に羽子板を持ったまましゃがんで羽根を拾う。
このとき――。
「ねえねえ、おねえちゃん! なにしてんの!」
――と声をかけられた。
見ると、小学校低学年とおぼしき三人の子どもたちがこんしまちゃんに話しかけていた。
こんしまちゃんはしゃがんだまま子どもたちのほうを向く。
右手の羽子板と左手の羽根を見せながらほほえむ。
「羽根突きしてたんだよ……」
「へー、おねえちゃん、ずっとたのしそうだったよね!」
「え……」
ちょっと焦るこんしまちゃん……っ!
「もしかして……見てた……?」
「見てた見てた~。おねえちゃんがじめんにせんかきはじめたときから見てた~」
「しまったあ……」
こんしまちゃんがグラウンドに入ったときはだれもいなかったけど、そのあとでこの子どもたちが来たようだ。
白いベンチから離れているグラウンドのはしっこに目を移すと、子どもたちの保護者さんっぽい人たちも自分のほうに視線を向けていた……ッ!
「一人羽根突き……ぜ、全部見られちゃってたんだ……うぅ~……っ」
恥ずかしさのあまり、こんしまちゃんの顔面と耳と首が一瞬で熱くなった。
そんなこんしまちゃんに、子どもたちが優しく声をかける。
「だいじょうぶ? おねえちゃん、ねつあるの?」
「あ、ありがと……」
こんしまちゃんはハッとし、冷静に答える。
「でも平気だよ……」
「じゃあさじゃあさ、まぜてよ、さっきのに! あそんでたんだよね!」
子どもたち三人が、こんしまちゃんに詰め寄る。
そんな子どもたちを保護者さんが注意しようとしたけれど、こんしまちゃんはその前に大きくうなずいた。
「じゃ……よかったら、やろっか……羽根突き……。ちょっとアレンジを加えたヤツだけどね……」
そう言ってこんしまちゃんは保護者さんたちの許可も得たうえで子どもたちを羽根突きにさそった。
でも、気づいた。
「しまった……羽子板、一つしか持ってきてなかった……」
「あー、それなら心配ないですよ。これを使いましょう!」
保護者さんの一人がカバンから焦げ茶色の羽子板を三つ取り出した。
どれも有名人の絵がかかれた羽子板のようだ……! 小さな子どもでも持ちやすいミニサイズである。
「いやあ~、今どき正月に羽根突きなんてだれもやらないじゃないですかー。だから羽子板を運動公園に持ってきたはいいものの、なんか『羽根突きしよう』とも言い出せず宝の持ち腐れになるところでした! でもあなたが楽しそうに羽根突きをしているところを見て、『やってみよう』って気になったんです。ご迷惑でなければ、この羽子板で子どもたちとも遊んでもらえるとうれしいです」
「迷惑だなんて思いません……」
こんしまちゃんは上品に、保護者さんに笑顔を向ける。
「むしろ、ありがとうございます……」
「いえいえ、こちらこそありがとうございます」
保護者さんとこんしまちゃんはお礼を言い合ったあと、子どもたちと一緒にコートの線を引きなおす。
そして羽子板を構える三人の子どもたちを見ながらこんしまちゃんは、さっきまで使っていた羽根を宙に浮かせる。
羽子板を振り下ろすとき、ひとりごちた。
「しまったなあ……」
新春の風を受けながら、こんしまちゃんがゆる~く笑う。
「わたし……一人だけで楽しんでる気になってたかも……」
そう言い終わらないうちに羽根と羽子板がぶつかって、ポコーン! という音を響かせた。
とても気持ちのいい音だ。
※ ※ ※ ※ ♢ ※ ※
☆今週のしまったカウント:十回(累計百三十回)
次回「第三十一週 おとな向け三輪車をこいでしまった!(月曜日)」に続く!(一月九日(金)午後七時ごろ更新)
あけましておめでとうございます。
それにしても「羽根とばし」でもなく「羽根たたき」でもなく「羽根うち」でもなく、「羽根突き」って言うところがなんかいいですよね!




