第二十九週 トナカイ落札ゲームに興じてしまった!(水・木曜日)
今週のしまったちゃんこと紺島みどり――通称こんしまちゃんは年がら年中「しまった」を連発している。
年末になってもその勢いはおとろえない。
こんしまちゃんという異名はだてじゃないのだ……ッ!
世間がクリスマスで浮き足立っている……じゃなくて、クリスマスに浮かれているときだって、こんしまちゃんはこんしまちゃんであり続けるだろう。
というわけで今回はこんしまちゃん高校一年生のクリスマスの話だ。
※ ※ ♢ ♢ ※ ※ ※
水曜日――はっきり言ってしまえば十二月二十四日。
学校がちょっと早めに終わったあと、こんしまちゃんはテクテク歩いてクラスメイトの男の子の家を訪ねた。
マンションの十階まで上がり、教えられた部屋におもむく。
その男の子の家には、すでに六人のクラスメイトが来ていた。全員、制服姿である……。
学級委員の中能美都風くんと鹿出舞さん。
文化祭で脚本を担当していた水戸目永志くん。
こんしまちゃんととくに仲がいい鵜狩慶輔くんと、アヤメこと菖蒲佳代子さん。
そして見藤幸也くん。
みんなは見藤くんの家に集まっているのだ。
十二月二十五日の計画を立てるためである……っ!
見藤くんはみんなを自分の部屋に招き入れたあと、大きな舌を見せながら言った。
「えー、きょうはお集まりいただきありがとうございます。これからみなさんには、あしたのクリスマスパーティーをどうするかについて検討していただきたいと思います」
見藤くんの白い部屋には、ベッドや机といった最低限のものしか置かれていない。
でも広い。それでこんしまちゃんも含む七人は車座になっている。
こんしまちゃんから時計回りで、アヤメ、鹿出さん、中能くん、見藤くん、水戸目くん、鵜狩くんの順に並んでいる……!
そんなみんなを見渡して、見藤くんが渋面を作る……!
「とはいえ現状、どんなパーティーにすればいいのかまったく見当がつきません!」
「ろくでもねえな……」
髪をセンターで分けた女の子、鹿出さんが目をピクピクさせる。
「そもそも美都風がクリパを企画したのがおとといの月曜。この時点で終わってるだろ。急に言われてもみんな集まれねえって」
「そ、そうだね。鹿出さんの言うとおりで返す言葉もないよ……」
鼻の高い男の子、中能美都風くんが肩を落とす。中能くんは、こんしまちゃんが以前お弁当を忘れたときにミニトマトをくれた男の子でもある。
「ともかくみんなの都合がつくように夕方までには打ち切るつもり。もちろん、すでに全員に知らせてあるよ。強制参加じゃないってこともね」
「これでわたしたち以外来なかったら笑えるな……」
鹿出さんが、髪をかき上げながらため息をつく。
ここで、透きとおるような肌を持つ水戸目くんが小さく右手を挙げる。
「あー、それについてなんだけど、ぼくも参加無理なんだよね。クリスマスが妹の誕生日と重なってるから、そっちの準備があるんだよ」
それから手を下ろし、みんなの顔を見る水戸目くん……!
「でも不参加だとしても力になれることがあるはず。というわけでパーティーの案を考えてきたよ~」
そう言って自分のカバンからノートを取り出し、パラパラめくる。
「ぼかあ、ちょっとした話を書いてきたんだ」
車座の中心にノートを広げる。
「これをもとにして、なんかゲームを作れないかな?」
水戸目くんが考えたのは、サンタさんとトナカイの話だった。
クリスマスが来たのでサンタさんはプレゼントを配ろうと思った。
だけどトナカイは乗り気じゃない様子。
サンタさんがトナカイにわけを聞くと、プレゼントが多すぎてソリを引くのも大変だとトナカイが不満を漏らした。
しかもトナカイはボイコットの構えだ。「あ~、このまま労働環境が改善されなかったらぼく、ほかのサンタさんのところに行っちゃうかもな~」などと言っている。
このままだとサンタさんはプレゼントを配ることができない。
困ってしまったサンタさん! さあ、どうする……?
――とまあ、こんな話である。
こんしまちゃんがゴクリとつばを飲む……っ!
「ど、どうなるの……」
「ぼくにも分かんないんだよね~」
水戸目くんが気まずそうに笑う。
「こんな中途半端だと、企画としてみとめられないかもしれないけれど……」
「いやいや、助かるよ。ありがとう、水戸目くん」
中能くんがさわやかにお礼を言う。
鹿出さんも見藤くんも水戸目くんに感謝した。
見藤くんが腕組みする。
「じゃあ、この話をどうゲームに落とし込むか検討しないとな。うーん、そうだなあ。サンタがトナカイに日ごろの感謝を込めてプレゼントするって感じにしたらどうだ? それでトナカイの機嫌を回復させるみたいな趣旨で」
「いや、見藤」
鹿出さんがあぐらをかき、片手を振る。
「トナカイの不満はプレゼントが多すぎることにあるんだよな? その問題も解決せずに適当に贈り物をしてご機嫌をとるっていうのは、なんかごまかされている感が強いぞ」
「確かに……」
うなずいた見藤くんが、ほかのみんなをチラチラ見る。
鵜狩くんも意見を述べる。
「俺としては、サンタ陣営とトナカイ陣営の真剣勝負で決着をつけたい。まずは世界中のサンタとトナカイが一堂に会する場面から――」
「う、鵜狩くん……」
アヤメが遠慮がちにツッコむ。
「勝負するのはいいけれど、あんまり風呂敷を広げすぎると完結までに時間がかかるよ……」
「うっかりしてた」
鵜狩くんが真顔でつぶやく。
水戸目くんは小さく笑い、鹿出さんはあきれ、中能くんと見藤くんは「鵜狩の意見も好き」と言ってフォローした。
で。
「みんな……」
このタイミングでこんしまちゃんが動く……っ!
「わたし、とあるゲームを思いついちゃった……その名も『トナカイ落札ゲーム』……!」
トナカイ落札ゲームとは、なんぞ。
こんしまちゃんが数分で考え出したパーティーゲームである……ッ!
まず参加者はトナカイとサンタに分かれる。
トナカイは一人だけど、サンタは二人以上であれば何人いてもいい。
ゲームの目的は、トナカイを落札すること。
ソリに載せるプレゼントが多すぎて仕事が大変だよ~と嘆いたトナカイは、サンタたちに言う。
「これからサンタのみなさまには、自分の運ぶプレゼントの個数をそれぞれ宣言してもらいます。そのなかで、ぼくが無理なく運べる個数を提示してくれたサンタさんにぼくは落札されることにします。トナカイとして、ぼくはそのサンタさんと一緒にプレゼントを配るんです!」
ようはサンタ同士のトナカイの奪い合い……!
こんしまちゃんは説明を終え、鼻息を荒くした。
「ど、どう……?」
対して、水戸目くん以外の男の子三人は「おもしろそう」とほめてくれた。
でも水戸目くんは目を細めて首をかしげる。
「こんしまちゃん。トナカイの言う『無理なく運べる個数』って、具体的にはどれくらいの数なのかな」
「……しまった。イメージできてなかった……」
ちょっと考えて、こんしまちゃんが手をたたく。
「そうだ……プレゼントが少なければ少ないほどいいんだよ……」
「ま、待った」
鹿出さんがおでこに手を当てつつ、かぶりを振る。
「それだとサンタ側全員が『ゼロ個』を宣言してゲームにならねえわ」
「しまった……ホントだ。トナカイ落札ゲーム破れたり~だね……」
こんしまちゃんがションボリする。
鵜狩くんが口をひらく。
「いや、こんしまちゃんのアイディアはおもしろい。破れたり~にするのは、もったいない。ここではトナカイの気持ちに着目するのが鍵になる」
右の人差し指を立て、ふりふりする……っ!
「トナカイは、サボりたいんじゃないんだよ。あくまで労働環境を改善したいだけ。プレゼントが多すぎて大変なのは嫌だけど、自分にできる範囲でなら一生懸命仕事をしたいと思っている。だよな、永志?」
「そだね」
水戸目くんが、うれしそうに首肯した。
続いてアヤメが手を挙げる。
「だったら最低落札価格ならぬ『最高落札個数』を設けるのがいいんじゃないかな……っ」
トナカイは運ぶプレゼントの数を減らしたいと考えている。
でも、まったく運びたくないわけじゃない。それなりには運びたいとも思っている。
だからトナカイ側はサンタ側との入札が始まる前に「この個数の範囲内でなら、なるだけ多く運びたいな。でもちょっとでもこのラインを超えたら運ばないけどね」という基準を設定しておくのだ。その基準となる個数が「最高落札個数」である。
つまりこのゲームの勝利条件は――。
トナカイの設定する最高落札個数を超過しない範囲で、ほかのサンタよりも多めの個数を提示すること。
なお最高落札個数はサンタの合計人数よりも多く設定するものとする。
――ここまで説明してアヤメは口を閉じた。
鵜狩くんやこんしまちゃんを始め、みんなが賛同する。おかげでアヤメは顔を赤くして照れてしまった。
ただ、見藤くんが指摘する。
「菖蒲。疑問なんだが……最初から『ここまでの数なら運んでいい』という基準がトナカイにあるのなら、もともと一緒に仕事をしていたサンタ一人と話し合いで交渉すればいいんじゃないのか」
「そ、それは」
アヤメは少し言葉につまった。でも落ち着いて、きちんと回答する。
「確かにサンタと良好な関係を築いているトナカイはそれでいいんだけど、どこの職場も一様にうまくいっているわけじゃないと思う。なかにはサンタのほうが立場が強くて、トナカイが自由に意見を言えない職場もあるはず。だからトナカイは複数のサンタとの落札ゲームによって公平に自分の仕事を選ぼうとしている……これじゃダメかな、見藤くん」
「いや、スジがとおっている、あんがと。オレもきつめの言い方をして悪かったな」
見藤くんもアヤメの説明に納得したようだ。
ついで中能くんが身を乗り出す。
「パーティーの企画について意見もまとまったね。みんな、ありがとう」
「てか美都風~」
冗談めかして鹿出さんが言う。
「あんただけ、ろくに発言してなくね? クリパ企画したヤツがそれでいいんか~」
「めんぼくない」
「ま、そう落ち込むなって。ろくな準備もせずグイグイいくのが美都風なんだからさっ」
鹿出さんの左手が中能くんの背中をなでる。
ともあれ、ここに集まった七人で「トナカイ落札ゲーム」をやってみようじゃないかという流れになった。
トナカイ役を水戸目くんが務める。
水戸目くんは自分のノートを持ち上げてみんなに見せないようにしながらペンで数字を書き込む。
プレゼントの最高落札個数を記入したのだ。そのノートを閉じてひざに置く。
「それじゃあサンタのみなさまは、いくつプレゼントを運ぶ予定なのか宣言してください」
その水戸目くんの言葉を皮切りに、それぞれが思い思いの個数を指定する。
鵜狩くんは「百」を宣言。アヤメは「四百五十」、中能くんは「十三」、鹿出さんは「二百四十」、見藤くんは「一万」、こんしまちゃんは「二十八」を指定……ッ!
「みなさまのなかでトナカイをみごと落札したのは――」
全員の個数を聞いた水戸目くんが、トナカイ落札ゲームの勝者を発表する。
「鹿出さんです!」
「しゃあっ!」
右手にグーを作り、笑みを浮かべる鹿出さん……っ!
「水戸目。あんた最高落札個数三百前後にしてただろ」
「へ~、よく分かったね」
水戸目くんがノートをひらき、さっき数字を書き込んだページを見せる。
そこには「二百九十八」と書かれてあった。
「ぼかあ、もともと三百にするつもりだったけどキリがよすぎるかなと思ってちょっと下げたんだ。でも鹿出さんはどうやってぼくの考えを読んだのかな」
「水戸目っていいヤツだから、初めてやるゲームで極端に大きい数や小さい数は設定しねえよな。だから三桁の数字あたりが濃厚になる。そのなかで一番連想しやすいのは『三百』だとわたしは思った。なんとなく」
「なるほどー、さすが鹿出さん。きょうすけと菖蒲さんが三桁を指定していたのも、適当じゃなかったんだね~」
感心して水戸目くんがほほえむ。
ほかのみんなは「おお~」と言って拍手する。
見藤くんがパチンと手をたたく。
「よし、ゲームとしてちゃんと成立しているし、あすのクリスマスパーティーではこのトナカイ落札ゲームをやろうぜ」
「さんせーい!」
みんなが一斉にうなずく。欠席する水戸目くんにも異論はないようだ。
ついで中能くんが言葉を継ぐ。
「ゲームで勝った人から順番にプレゼントを取っていく感じにしようか」
「プレゼントって……」
冷静に鹿出さんがツッコミを入れる。
「だれが用意すんだよ。おととい急にクリパ企画した手前、プレゼントを持ち寄れなんて今さらみんなに言えねえだろ」
このとき見藤くんちのインターホンがペンポーン! と鳴った。
見藤くんが立って玄関のほうに歩いていった。
一分後、ポニーテールの女の子と共に戻ってきた。
その女の子はこんしまちゃんの友達の矢良みくりさんであった。ここに集まったみんなのクラスメイトでもある……!
「いや~、病院から意外と早く解放されたんで来ちゃったよんっ」
制服姿の矢良さんが車座に加わる。
アヤメと鹿出さんとのあいだに腰を下ろす。あしたのパーティーでトナカイ落札ゲームをやることに決まったけれど肝心のプレゼントがないという事情を聞く。
「あっ、それなら、なんとかできるかもっ」
矢良さんがスマートフォンを取り出し、画面を見せる。
そこには大量のぬいぐるみが映し出されていた。赤鼻のトナカイ、イヌ、ネコ、パンダ、イルカ、ツバメ、ワニ、サンショウウオ、タコ、グソクムシ、カピバラ、マンモス、ティラノサウルス、サヘラントロプス・チャデンシスなどぬいぐるみの種類は多岐にわたる。
しかもどれも新品のようにきれいだ。最近の人気キャラクターのぬいぐるみもある。
「あたし、ゲーセンでぬいぐるみを取るのが趣味なんだけど……このごろ部屋がそのぬいぐるみでうまっちゃってるんだよねっ。だからこの写真のぬいぐるみたちをプレゼントとして放出できるなら助かるな~って。かわいい系もかっこいい系もふしぎ系も取りそろえているから、いろんな人の好みに合うと思うっ!」
「ありがとう!」
みんなが矢良さんにお礼を述べた。
このあと中能くんがそのぶんのお金を払うと言いだしたけれど、矢良さんはそれを断固拒否した。かつ矢良さんは、自分がぬいぐるみを用意したとほかのみんなに言わないでほしいと頼んだ。
※ ※ ♢ ♢ ※ ※ ※
一夜明けて、十二月二十五日木曜日の午後。
クリスマスパーティーの会場に、クラスメイトたちが集まっていた。
場所は、見藤くんの家である。言い出しっぺの中能くんは自分ちでクリパを開催しようと思っていたようだが、中能くんの家を下見した見藤くんが「やっぱオレんちでやろうか」と優しく提案してくれたのだ。
パーティーといっても派手な飾りつけはしていない。
けっこう広めのリビングに二メートルのもみの木を置いているくらいだ。
模型なのか本物なのかは分からぬ。巻きついたオーナメントがキラキラと紫や金色に光っている。そのクリスマスツリーの下に二十八体のきれいなぬいぐるみが置かれている。
リビングの中心には白いテーブルが据えられ、そのまわりをベージュのソファが囲む。
中能くんはクラスメイト一人一人に声をかけたものの、当然ながら二十八人全員が来ているわけじゃない。一週間以上前から告知していたなら、もっと話は違っていただろうけど……。
来ているのは――。
鵜狩くん。
久慈小鮎さん。
見藤くん。
こんしまちゃん。
流石星乃さん。
標葉令太くん。
アヤメ。
束花りくくん。
蝶ひなぎくさん。
中能くん。
穂七瀬さん。
間地柚季さん。
六月一日涼芽さん。
谷高誠一くん。
矢良さん。
嫁田秀くん。
鹿出さん。
和南統人くん。
以上十八名だ。水戸目くんを始めとするほかの十名は欠席している。
まあ、わりと集まったほうじゃないかな……?
ともあれ中能くんが立ち上がり、ソファに座ったみんなの顔を見る。
「メリークリスマス。きょうはみんな、パーティーに集まってくれてありがとう」
せきばらいをはさみ、表情をやわらげる。
「今からみんなには『トナカイ落札ゲーム』という余興を楽しんでほしい。トナカイ落札ゲームというのは水戸目くんやこんしまちゃんたちが考えてくれたもので――」
ルールを説明したあと、クリスマスツリーの下のぬいぐるみを指差す。
「勝った人から順に好きなぬいぐるみを取ってね。これはある人からのプレゼントだよ。なにか質問は?」
「中能~」
髪の後ろをチョウチョ結びみたいにしている女の子、蝶さんが口をひらく。
「それに加えて、勝ったサンタはトナカイになんでも命令できるってことにすれば超おもろいんじゃないの?」
「あー、王さまゲームと組み合わせる感じ? ただ今回そういうのはナシの方向なんだ。ごめんね、蝶さん」
「ちえー。でも最近アニメ化したキャラのぬいぐるみもあるし、アタシは勝ちにいくぞー」
とまあ、そんなやりとりを経て……。
トナカイ落札ゲームがスタートする。
最初のトナカイ役はこんしまちゃん……ッ!
こんしまちゃんは自分のスマートフォンのメモアプリをひらき、だれにも見られないようにしながら数字を入力。その後、画面を伏せる。
「トナカイのわたしが最高落札個数を設定したよ……。さあサンタのみんな……張った張った……」
そんなこんしまちゃんの合図と共に、各自がプレゼントの個数を宣言する。
全員が宣言を終えたあと、こんしまちゃんがスマートフォンを立てた。
「わたしが設定した個数は『二十』……だからこのトナカイ落札ゲームは嫁田くんの勝ちだね……」
「まさかジャストで当たるとはね」
嫁田くんはプレゼントの個数として、ちょうど「二十」を宣言していたのだ……ッ!
最初に勝利したことにより嫁田くんは好きなぬいぐるみを選ぶ権利をいち早く得たわけだけど、その前にトナカイ役をやることになった。
嫁田くんは最高落札個数として『百億』を設定した。
結果、蝶さんが勝ちを収めた。蝶さんは『四十五億』を宣言していた。かつ四十五億以上の個数を指定した人はほかにいなかった。
これで嫁田くんが抜ける。嫁田くんは、アホ毛を生やしたカピバラのぬいぐるみを選んだ。ソファに戻ってぬいぐるみをひざに置き、ゲームの行方を見守る……!
次は、さっき勝った蝶さんがトナカイになる。そして鵜狩くんがトナカイ落札に成功する。
この流れをくりかえすごとに、落札ゲームに参加するサンタの数が一人ずつ減っていく。
※ ※ ♢ ♢ ※ ※ ※
さらに十八人中十三人が勝ち抜け……。
ついに残りのサンタは五人になった。
標葉くん、中能くん、間地さん、鹿出さん、こんしまちゃんの五名はいまだにトナカイを落札していない……!
現在のトナカイ役はさっき勝利した矢良さん。
ほかの九人はソファに座し、ひざにぬいぐるみを置いたまま勝負を見守っている。なお鵜狩くんと見藤くんとアヤメは姿を消しており、代わりとしてソファにはタコとサヘラントロプス・チャデンシスとティラノサウルスのぬいぐるみが鎮座している。
矢良さんが数字を入力したのちにスマートフォンを裏向きにセットする。
「さあ、サンタのみんなは、いったい何個のプレゼントをわたしに運ばせるつもりかなっ」
現在のサンタの人数は五名。
トナカイ落札ゲームには「最高落札個数はサンタの合計人数よりも多く設定する」というルールがある。
となるとトナカイの矢良さんが設定したプレゼントの個数は六以上で確定。
矢良さんがその「六」を最高落札個数にしている場合、サンタ側が「六」を宣言すれば勝てる。七よりも上の数を指定すれば敗北する。
だがそう決めつけることはリスキーな選択でもある。最高落札個数がもっと上であるとき、下限の六を宣言した時点でそのサンタに勝ち目はないと言っていい。
かといってあまりにも大きな数を選べば最高落札個数を超過する可能性が高い。
では多くもなく少なくもない数を宣言すればいいのか? ……いや、そう単純な話でもない。中途半端な数では結局のところ最高落札個数の範囲内での一番を獲得できないし、あるいはうっかりその範囲から逸脱するリスクもある。
こんしまちゃんはそう考え、半端な選択をするくらいなら賭けに出るべきではないかと思った。
だからこの局面で「六」を宣言した……ッ!
ほかのみんなは、それよりも大きな数を口にする。
矢良さんがうなずき、伏せたスマートフォンをひっくり返す。画面のメモアプリに表示された数を読み上げる。
「あたしの最高落札個数は三百六十五だよんっ」
「しまった……」
賭けに負けたこんしまちゃん……っ!
トナカイを落札したのは標葉くんであった。彼は「三百六十」を宣言していた。
矢良さんがいったんソファから離れ、マンモスのぬいぐるみと共に戻ってくる。
標葉くんがトナカイ役となり、スマートフォンを伏せる。
サンタは残り四名。
こんしまちゃんは思いきって「五」と言った。
だけど標葉くんは最高落札個数として「五十二」を指定していた。
「し、しまった……」
また見当違いの数を宣言してしまったこんしまちゃん……っ!
間地さんが勝ち、新たなトナカイとなる。
残るサンタは三人。中能くん、鹿出さん、こんしまちゃんだ……!
こんしまちゃんは悟った。下限の個数を宣言する戦法はもはや通用しないと。
だから今度は数を一気につり上げて「千二十四」と言った。
果たして間地さんが指定した最高落札個数は……?
彼女のスマートフォンが表向きになり、その数が明かされる。
画面には「四」と表示されていた。
「ひゃあ、しまったああ……」
短く悲鳴を上げたこんしまちゃん……。
なお中能くんは「百十八」を、鹿出さんはジャスト「四」を宣言していた。
したがってトナカイを落札したのは鹿出さん。
鹿出さんがトナカイと化し、最高落札個数をスマートフォンに入力……ッ!
「これが最後のトナカイ落札ゲームになる」
静かにスマートフォンをテーブルに置く。
「じゃ、こんしまちゃんのマネじゃねえけど、サンタのお二人さま、張った張った!」
空気が震える……!
ほかのみんなも固唾をのんで決着を見届けようとしている……っ!
中能くんサンタとこんしまちゃんサンタの一騎打ち……ッ!
こんしまちゃんはまず「三」と宣言すべきか考える。
でも、その可能性を否定した。
トナカイの鹿出さんが最高落札個数として「三」を指定していた場合、中能くんとこんしまちゃんの両方が四以上を宣言した時点でどちらもトナカイ落札に失敗し、引き分けという結果に終わる。
中能くんも当然、「三」を選ぶべきか迷っているだろう。しかしここで二人のサンタがどちらも「三」を選択すれば両者の個数が並ぶのでやはり引き分けとなる。
この最後の最後の局面で、ゲームを楽しんでいる鹿出さんが引き分けなどという生ぬるい結果を受け入れるはずがない。
それにさきほどの「これが最後のトナカイ落札ゲームになる」という彼女の発言……。
これはあまりにも断定的なセリフではないか。
ちょっとでも引き分けの可能性を考えれば「だろう」や「かも」といった言葉を最後につけるはずだ。
鹿出さんは引き分けという結果を可能性から排除している。
よって最高落札個数は下限の「三」じゃない! ……こんしまちゃんはそう推論した……!
「ふふ……」
不敵に笑う……!
(わたしは『二十五』を宣言するよ……)
自分のスマートフォンのメモアプリにその数字を入力し、伏せる。
なお最終ゲームにおいては公平を期すために口で宣言するのはやめたほうがいいと嫁田くんがアドバイスしてくれている。
ともあれ本当は『千二百二十五』を指定しようと思っていたこんしまちゃんだったが、それはやめた。
あまりにも大きな数を指定して最高落札個数を超えてしまっては目も当てられない。
対する中能くんもスマートフォンにサッと数字を打ち込み、裏向きにしてセットする。緊張のためか、中能くんの高い鼻がちょっとひくつく。
「じゃ、オープン!」
鹿出さんの言葉と共に、トナカイと二人のサンタのスマートフォンが表になる。
その数字は――。
こんしまちゃんが「二十五」で中能くんが「三」であった。
そしてトナカイの鹿出さんの最高落札個数は「三」ピッタリ……っ!
「しまったあ~……深読みしすぎたよう……」
こうして最高落札個数と同じ数を宣言した中能くんがトナカイの鹿出さんを落札したのだった。
こんしまちゃんはトナカイを落札できなかったたった一人のサンタとなった。
そんなこんしまちゃんを見た矢良さんは、以前やった「やったかババ抜き」を思い出した。
(あのときもこんしまちゃんは自分の考案したゲームで最下位になったっけ)
中能くんがグソクムシのぬいぐるみを取る。
そのあとで矢良さんがマンモスのぬいぐるみをゆらしつつ、こんしまちゃんに話しかける。
「こんしまちゃんっ」
「矢良さん……」
「こんしまちゃんもトナカイと一緒がいい?」
「うん……落札はできなかったけどね……」
「そうだね。だけどまだこんしまちゃんと一緒にプレゼントを運びたいっていうトナカイがいるよっ」
そう言って矢良さんがクリスマスツリーの下に視線をやる。
そこにぬいぐるみたちがいる。最初は二十八体だったぬいぐるみも、今では十一体に減っている。
この先頭に、赤鼻がある。
赤鼻のトナカイがよつんばいでこんしまちゃんのほうを見つめているのだ。
「あのトナカイも、選ばれなかったみたいだね」
「……あ」
こんしまちゃんはソファから立ち上がり、ツリーの下のトナカイのそばにしゃがんだ。
よつんばいの赤鼻のトナカイをかかえ、もとの場所に戻る。
「ありがとう……矢良さん……みんなも。わたしもトナカイと一緒になれたよ……」
「え、なんのことかなっ」
みんなは笑顔ですっとぼける。
こんしまちゃんはトナカイの赤鼻を優しくなでながら、ふんわりと笑った。
そのあと鵜狩くんと見藤くんとアヤメが再び姿を見せた。
三人はクリスマスのごちそうを作るために、いったん抜けていたようだ。
ごちそうといっても、夕方までに終わるクリパなので量はひかえめだ。
肉汁たっぷりのローストチキンやツリーのかたちのかわいいポテサラをおなかに収める。
あまくてふわふわのブッシュドノエルの感触が口のなかで広がる。
クリスマスでも「しまった」を連発しちゃったこんしまちゃんだけど……。
それでもこんしまちゃんは、今という幸せをかみしめていた。
※ ※ ♢ ♢ ※ ※ ※
☆今週のしまったカウント:六回(累計百二十回)
次回「第三十週 羽根を突いてしまった!(金曜日)」に続く!(更新は一月二日(金)午後七時ごろ)
では、良いお年を。
(小説家になろうで「ท(トータハーン)」という作品の更新を始めました。ジャンルはハイファンタジーで、毎週土~水曜日午後7時ごろに投稿しています。今週のしまったちゃんとは完全に別の作品ですが、読んでもらえると嬉しいです!)




