第二十六週 片道年賀状を送ってしまった!(土曜日)
紺島みどり――こんしまちゃんはクラスメイトや友達を大切にする一方で、人間関係について妙にドライなところがある。
こんしまちゃんだって人間だから嫌われることもそりゃあるんだけど、自分を嫌う相手に対してはほどほどに距離を置く。
それでいて完全には関係を断ち切らない。こんしまちゃんは人から嫌われるのを恐れていないようなのだ。まあ意中の人である鵜狩くんに嫌われるのはさすがに嫌みたいだけど……。
じゃあ好かれた場合はどうか……?
好意に気づいて、こんしまちゃんは心の距離を詰める。しかし相手に接近しすぎないように一定の間合いをあける。もちろんこれについても鵜狩くんのような例外はあるが……!
つまりこんしまちゃんのスタンスは基本的に不即不離――「つかず離れず」なのである……ッ!
今回はそんな彼女が送る年賀状の話だ。
※ ※ ※ ※ ※ ♢ ※
土曜日の午前。朝食後。
十二月初頭の期末テストを終えて余裕が出てきたこんしまちゃんは年賀状を書くことにした。
用意した年賀ハガキは二十七枚。
現在のクラスメイト全員に年賀状を送るつもりなのだ……ッ!
こんしまちゃんは小学生のころからクラスメイト全員に年賀状を送るようにしている。
ただし担任の先生や昔のクラスメイトには送らない。そこまでやると大変になってしまうからだ。
心のなかでこんしまちゃんは現クラス担任の立合広夢先生に謝った。
※ ※ ※ ※ ※ ♢ ※
なお、こんしまちゃんはただの年賀状を書こうとしているのではない……っ!
最近ウワサの「片道年賀状」をしたためようとしている。
片道年賀状とは、一方通行の年賀状のことである。
特徴は二つ。
一、相手の住所を知らなくても相手の名前と自分の名前を書きさえすれば送付できる。
二、片道年賀状を受け取った人はお返しで年賀状を送り返す必要がない。
すでにこんしまちゃんはクラスメイト一人一人に「片道年賀状を送っていいかな……」と聞いて各自から承諾を得ている。
自分の住所をわざわざ教えなくていいなら、年賀状を送ってもらうリスクも低いというもの。
もし相手の住所が必要な通常の年賀状であれば、全員の承諾は望めなかったであろうが……!
さらに片道年賀状を受け取ってもお返しの年賀状を送らなくていいことになっているので、もらう側も気楽に年賀状を待つことができる。
送る側にもメリットがある。お返しをもらうことが前提でないので相手から年賀状が届かなくても傷つかずに済むのだ。
世間には「年賀状ギスギス案件」なるものが存在する。
意識していなかった人から年賀状を受け取って、めんどくさいと思いつつもお返しの年賀状を書く。でも自分の負担を増やした相手を恨んでしまう。返さずにいると相手から逆恨みされるんじゃないかと怖くなる。
友達だと思っていた相手に年賀状を送ったけれど相手からは年賀状が届かずショックを受ける。あとから年賀状が返されたら「ああ、自分はこの人に年賀状を書くことを強要してしまったんだな」と思ったりする。お返しがまったくなければ、もっとショックである。
こういう「年賀状ギスギス案件」はあんまり経験したくない。
だったらSNSで新年のあいさつを済ませるほうがラクだしギスギスにも発展しづらいってことになる。
そもそも個人情報が昔よりも大切になってきた昨今において自分の住所をペラペラ話すこと自体リスクが高い。
年賀状を書く人が減っているのもそりゃ当然な感じもする。
そこで「片道年賀状」が発明された。
互いに住所を知らなくても送れるし、双方向的なものじゃないので気をラクにして年賀状を書くことができる。
もちろんイタズラに利用される可能性もあるから、送る前にチェックされて不適切だったら廃棄される……っ! なお同姓同名の相手がいる場合はAIが正しい受取人を判定してくれる。
片道年賀状の登場により、全盛期ほどではないにせよ年賀状の売り上げも回復するかもしれない。
ともあれ、こんしまちゃんはこの年賀状のウワサを聞いて「いいね……」と思った。
※ ※ ※ ※ ※ ♢ ※
自分の部屋の机に二十七枚の片道年賀ハガキを積むこんしまちゃん……っ!
なおハガキのデザインはどれも一緒だ。
片道年賀状であることを示す「片道」という文字が表面の右下に印刷されている。
(来年の干支は「午」だったかな……)
二十四色の色鉛筆を用意する。
一枚一枚、五十音順に手書きで年賀状を作成することにした……ッ!
それぞれの表面に相手の名前を書く。「あけましておめでとう」といったお祝いの言葉と馬のイラストを裏面に添える。
ただし「ことしもよろしく」とは書かない。
片道年賀状の特性上、相手に強要することがあってはならないからだ。
※ ※ ※ ※ ※ ♢ ※
こんしまちゃんのクラスには、二十八名の生徒がいる。
男子が十三名。女子が十五名。
その出席番号は五十音順に準ずる。
出席番号一番・赤金しろみさん。
長い下まつげを持つ女の子。クラスメイトの筈井友春くんと付き合っている。下の名前で呼ばれることを望んでいる。口癖というほどでもないけど自分を「君」と呼ぶ筈井くんに対して「君じゃないよ、しろみだよ」とツッコむ赤金さんの声がこんしまちゃんの脳みそに強く焼きついている。あと、肉まんが大好物。
(しろみちゃん……筈井くんと幸せにね……)
こんしまちゃんはハガキに、ニンジンをおいしそうにほおばる白い馬の絵をかいた。
出席番号二番・飯吉庚くん。
だれよりも整ったかたちの耳を持つ男の子。了承なのか拒絶なのか分かりにくい「いいよ」が口癖である。矢良みくりさんの中学時代の元カレにして、またいとこ。最近、学校を休みがちだ。ほぼ生まれたときからの知り合いの矢良さんいわく、飯吉くんはかなりのイケメンなので小学校に入る前からめっちゃモテていたらしい。かっこいいというよりも、かわいい系の顔をしている。
(飯吉くん……もしかして矢良さんのことで悩んでいるのかな……)
こんしまちゃんはハガキに、雄々しく走る銀色の馬の絵をかいた。
出席番号三番・勢さくらさん。
頭頂部にアホ毛を生やした女の子。口癖は「勢いで」など。ノリで生きているゆるふわ少女だ。人に流されない度合いを示す人間摩擦係数は自己申告で〇・一八であり、けっこう低め。ときおり急にマジメになる。海外に住んでいたこともあるので英語が得意。しゃべり方はゆる~っとしているが頭はよく、実は異性に人気がある。
(勢さん……独自のノリと勢いで自分の生き方をつらぬくその姿を尊敬してるよ……)
足を曲げてくつろぐ茶褐色の馬を年賀ハガキにかく。
出席番号四番・鵜狩慶輔くん。
あごがシュッとしている、少しツリ目の男の子。よく「うっかり」と言う。小学生のころからのこんしまちゃんの友達。よく転んでいたこんしまちゃんを受けとめ続けてくれた。中学校では別々になったけど高校でこんしまちゃんと再会。恋愛的な意味でこんしまちゃんの好きな人。本を逆さまにして読むクセがあり、その身体能力は忍者そのもの。料理部に所属している。鵜狩クウガくんという小学生の弟がいる。あと、逆立ちしながら眠ることもできる。
(鵜狩くん……本当はわたし、鵜狩くんに片道年賀状を送るか迷った……だって距離を置こうとしているって思われたくなかったから……だけど送るよ……これが、わたしだから)
黒と白のまだら模様の馬が、ハガキの上で宙を舞う。
出席番号五番・加布里璃々菜さん。
前髪を水平に切りそろえたぱっつんの女の子。キャラかぶりを恐れており、周囲にいる人によってキャラクターを変える。ほかのクラスメイトがぱっつん前髪にしたら時間を置いて髪型を変える可能性大。「ちょっと冷めた目で物事を見つめるエセギャル」というのが今のキャラ設定。みんなには隠しているが小説をかなり読む。なお完全にではないがこんしまちゃんはなんとなく加布里さんの性格を察し始めている。ちなみにこれは機密情報だけど、素の加布里さんは歯を磨いているときにもっとも幸せを感じるタイプだ。
(加布里さん……加布里さんって一番みんなのことを見ている気がする……本当に人に優しくできるのは加布里さんみたいな人なんだろうな……)
銀色の細身の馬が優雅に緑の芝生を蹴る。
出席番号六番・久慈小鮎さん。
ベリーショートの髪の女の子。くじや占いが好きで、一緒に過ごしたり遊んだりする相手すらくじ引きで決める。ただし無理やりさそったりはせず、必ず相手の意思を確認する。マジメな性格や気品のある言動も特徴的。どこか天然っぽく、素でとぼけることもわりと多い。網の目のようなメロンの皮に視線を走らせて「無限あみだくじ楽しいわね」とか言っちゃう人。
(久慈さん……くじに身をゆだねつつ芯のとおった哲学も持つ久慈さんはかっこいいよ……)
前のほうは銀色だけど後ろにいくにしたがって白っぽくなるグラデーションの馬をかく。
☆出席番号七番・見藤幸也くん。(今回初めて名前が出たクラスメイトには☆をつけている。以下同様)
大きな舌を持つ男の子。口癖は「検討する」「見当がつかない」など。クラスのなかではこんしまちゃんの机のちょうど一つ前の席に座っている。なにごとにも慎重な性格だけど、やっていることを途中で投げ出したりしないなど意思の強さも持ち合わせている。みんなで鍋を囲んだら、いろいろ仕切り始めるタイプ。焼き肉とかでも、まあ同じような感じ。でも本人はリーダーをやろうとしているわけじゃなく、あくまで参謀のつもりだ。
(見藤くん……わたしは見藤くんから立ち止まる大切さも、それでも進もうとする勇気も教えてもらっているよ……)
焦げ茶色の筋肉質な馬を、ローアングルから見上げるようにかいた。
出席番号八番・紺島みどり。
ウェーブのかかったくせ毛を持つ女の子。「しまった」が口癖。
ただし彼女は年賀ハガキの送り主のこんしまちゃん本人なので片道年賀状の対象ではない。よってパス……ッ!
出席番号九番・流石星乃さん。
ほっそりとしたきれいな指を持つ女の子。一応「さすが」が口癖だが、ほかのみんなに比べるとあんまり口癖を連発しないほう。クラスで一番テストの点数がいい。右利きでも左利きでも両利きでもなく、テストでは特別にタブレットとキーボードを利用しての解答がみとめられている。人間摩擦係数は一・八九と高い。マンガ好き。プラネタリウムも好き。プラネタリウムの薄暗い空間のなか、眠るか眠らないかの瀬戸際をさまよっているときがすごく気持ちいいらしい。
(流石さん……わたしは流石さんのことを素直にすごいと思ってる……流されない強い心をずっと見せられている感じがする……)
ツヤのある灰色の毛並みの馬を、デフォルメしてぬいぐるみ風にする。
出席番号十番・標葉令太くん。
だれよりもキラキラした二つの瞳を持つ男の子。「~だしね」といった言葉をよく語尾にするけれど最近は抑え気味。もちろんその口癖は悪口で言っているんじゃない。自然に口をついて出る場合もあれば一種のアンガーマネジメントとして意図的に発される場合もある。このごろ世界史にハマっているそうだ。あと、ハムスターを飼っている。中学時代まではバスケ部に所属していたが、そのとき使っていた練習用のマイボールは捨てていない。自宅で勉強するとき、そのボールをひざに乗せている。そうすると集中できるらしい。
(標葉くん……自分の言葉を別方面に昇華させるってすごいことだよ……世界史のテストもがんばってたみたいだね……)
小さな赤茶色の馬を三匹重ねる。表情はみんな穏やかだ。
出席番号十一番・菖蒲佳代子さん。
今は表情の見えづらい長い髪をしているけれど小学生のころは紫の髪飾りをつけてツインテールにしていた女の子。よく「勝負」を持ちかける明るくノリのいい子だった。今は性格がだいぶ内向的になっているが、もともとの明るさやノリのよさがすべてなくなっているわけじゃない。こんしまちゃんの小学校からの友達。鵜狩くんとは違ってこんしまちゃんと中学校は同じだったがそのことがバレないように顔をそむけたりしていた。本来は一学年上。こんしまちゃんと鵜狩くんからは「アヤメ」と呼ばれている。こんしまちゃんと同じく恋愛的な意味で鵜狩くんが好き。毎年アサガオを家の庭で育てて押し花にしている。
(アヤメちゃん……わたし負けないよ……だけどアヤメちゃんとわたしはずっと友達だからね……)
ハガキの上で、立派なたてがみを持つ赤っぽい馬が上空を見つめている。
☆出席番号十二番・束花りくくん。
笑ったときに出るえくぼが特徴的な男の子。口癖は「そっか」だ。適当にあいづちをうっているのではなく、相手にどう答えるべきかいろいろ考えてしまって結局「そっか」と返してしまうだけである。束花くんの「そっか」には百種類以上の意味が込められていると言っても誇張ではない。クラスではこんしまちゃんの左隣の席に座っている。クラスで三番目に成績がいい。虫が好きだけど殺すのは嫌なので、紙粘土に色をつけて擬似的な標本を作っている。
(束花くん……束花くんの優しさ、みんな気づいていると思うよ……笑顔も素敵だね……)
人を乗せて力強く草原を駆ける馬をハガキいっぱいにかく。
☆出席番号十三番・蝶ひなぎくさん。
髪の後ろをチョウチョ結びのようにまとめている女の子。言葉の頭に「超」をつけるのが口癖。実は束花くんのことが好き。でも本人は恋愛に興味がないフリをしている。成績はクラスのなかでビリだけどIQ自体はまあ平均以上。記憶や理詰めは不得意だが直感で物事の本質を見抜くことには長けている。放送中のアニメは視聴可能なものであればすべて最初から最後までチェックしている。
(蝶さん……ポテンシャルは人一倍なんだよね……いざというときに頼れるのってきっと蝶さんみたいな人じゃないかな……)
ちょっと青っぽい馬の上半身をズームアップでえがく。
出席番号十四番・鳥松月次郎くん。
かっこいいもみあげを持つ男の子。「とりあえず、まあ」を意味する「とりま」が口癖。運動神経がよく、大抵のスポーツは難なくこなせる。特定の部活には所属していないが、助っ人として呼ばれることもありすべての運動部とコネがある。おとなに交じって地域のスポーツ大会に出場するのが小学生のころからの趣味。スポーツ選手にならないかと言われることもしばしばだが、本人にそんな気はまったくない。地域の知り合いに影響されてか、落語や歌舞伎もかなり好き。
(鳥松くん……いろんなスポーツをリスペクトしてるよね……鳥松くんと一緒にプレーすると、とてもすがすがしい気持ちになれるよ……)
重厚な蹄鉄をつけた足の長い馬が斜め上からのアングルによって躍動感を見せつける。
☆出席番号十五番・中能美都風くん。
高い鼻を持つ男の子。「仲よくしたい」などが口癖。学級委員の一人。だれとでも分け隔てなく接する点はこんしまちゃんに似ている。小学生のときは引っ込み思案で人見知りだった。グイグイくるので距離感がバグっていると思われたりすることもあるが本当はとても繊細。人から冷たくされても、おこったりしない。ただ落ち込む。クラス外にも友達が多い。どんなときでも身だしなみをきちんとする紳士でもある。だけど家の自室ではメッチャだらけて、溶けたアイスのようである。どんなふうにだらけているかについては中能くんの名誉のためにも伏せておく。
(中能くん……厚く広い人間関係を築くことのできるすごい人……それは中能くんの誠実で真摯な人柄のなせるわざ……)
草原を悠然と闊歩する黒っぽい馬をかく。ただし額は白である。
出席番号十六番・子々津絵千香さん。
清楚にまとまった三つ編みが特徴的な女の子。口癖は「ねねっ」だ。三つ編みにしているのは、自分の髪を三つ編みにまとめてくれた母方のおばあちゃんといつも三つ編みをほめてくれた父方のおじいちゃんを忘れないためでもある。親戚同士の仲が非常によく、家族のことをとても大切に思っている。実家がかなり太い。そして子々津さんにとっての育ての親は自分の両親だけじゃない。父方の祖父母に対しても母方の祖父母に対してもそれ以外の親戚に対しても、子々津さんは感謝と尊敬の念を覚えている。美術部やマンガ研究部には入っていないが絵をかくのが好きで、コンクールにも積極的に作品を出している。
(子々津さん……心の底から家族を思って行動できる素晴らしい人……)
少しシマウマにも見える黒と白の交じった馬が薄茶色の桶から水を飲んでいる。
出席番号十七番・筈井友春くん。
首が太い男の子。「はずかしい」という意味の「はずい」という言葉をよく使う。赤金さんと付き合っており、とことん彼女に一途である。普段の筈井くんは堂々としている。自信に満ちている。なにかをためらったりする性格ではない。でも好きな人相手だと照れてしまう。よって赤金さんの下の名前を呼ぶことだけは難しい。文字にすることすら厳しい。「君」と言ってしまう。最近は赤金さんを「しろ」と呼んだりもしている。あと、ホラー映画やホラーゲームが好きという一面もある。
(筈井くん……しろみちゃんのことを下の名前で呼べるようになったのかな……だけど筈井くんはしろみちゃんと一緒で幸せなんだよね……それが一番……)
四肢を広げて水辺に立つ灰色の馬をかく。
出席番号十八番・委文知砂さん。
ショートボブの髪型の女の子。「一人がいい」「一人でいい」が口癖。クラスでの成績は二番目。なんでもそつなくこなせる。一方で人が苦手。嫌いという感情とは少し違う。「本当は友達がほしい」とか、そういう気持ちはない。かつ、自分のことはそんなに嫌いじゃない。プライベートでは一人になりたがるが、だれかと協力する必要があるときはきちんと協力する。普通に学んで普通に働いて普通に死ぬのが理想。家族にもほとんど心を許していない。担任の立合先生のことも苦手だけど、先生と話しているとほんの少しだけ気がラクだなとは思っている。一人で市民プールに行って、ひたすら流れていく天井を見つつ背泳ぎするのが至福の時間だ。
(委文さん……あんまり話せないけれど……委文さんが生きたいように生きているなら、それはとても……なんだろ……分かんないや……ここで軽はずみに委文さんのことを一方的に「すごい」とか「かっこいい」とか言うのは……違うのかも……わたしの届かない場所に……委文さんはいるのかもしれない……)
赤茶色の毛並みと焦げ茶色のたてがみを持った馬を、右斜め前から見ている感じでえがく。ハガキに入らなかったので足は見切れている。
☆出席番号十九番・伏木守久くん。
威厳のあるあごひげを蓄えている男の子。口癖は「不思議」……ではなく「不可思議」だ。なんにでも興味を示す、文武両道の多才な人。盆栽や釣りなどさまざまな趣味を持っている。雑学が好き。地域のボランティアにもよく参加する。クラスのなかで一番背が高い。将来は小学校の先生になるつもり。細かくちぎってライスみたいになったパンの上にカレールーをかけて食べるのが大好き。
(伏木くん……広い視野を持っているよね……それも表面上だけじゃなくて深く見とおしたり考えたりできる……見習いたいところがいっぱい……きっといい先生になれるよ……)
まるで雪をかぶったような白いまだら模様の馬が雪原にたたずんでいる。
☆出席番号二十番・穂七瀬さん。
軽めの天然パーマの女の子。安心したときの「ほっ」や感心したときの「ほー」や笑うときの「ほほっ」やすごむときの「ほ~」が口癖。読みが一字であるめずらしい名字を持っていることがなんとなく誇らしいようだ。穂さんをフルネームで呼ぶときは「ホナナセさん」と一気に言うんじゃなくて「ホ・ナナセさん」って感じで名字と下の名前のあいだに一拍置くと喜ばれる。同性よりも異性の友達のほうが多いタイプ。男子に交じってサッカーとかやるのが好き。制服はスカートではなくスラックスをはいている。元気で、かなり声が高い。親戚がよくタケノコを送ってきてくれるのだが、おかげでタケノコの皮をはぐのにハマってしまった。
(穂さん……なんか見てるといやされる……みんなにパワーを与えてるね……魅力的に輝いてるよ……)
丘の上に立って日の出をじっと見る薄茶の馬をのびのびとハガキにかいていた。
出席番号二十一番・間地柚季さん。
髪の左右からマフラーみたいなボリュームのある「おさげ」を垂らす女の子。「マジ」が口癖。服飾部に所属しており、いろんな服のコーディネートを考えたりオリジナルの服を作ったりする。服全般が好きだけど、そのなかでもとくに大好きな和服をもっとポピュラーなものにしたいと思っている。意外と運動も得意で朝は毎日ジョギングしている。
(間地さん……いろんな人が和装に身をつつむ未来も……ありえるのかもしれないね……わたしも楽しみ……)
ものものしい馬具をつけた赤褐色の馬がおしりを向けたまま少しだけ首を動かし、こちらを見ている。
出席番号二十二番・水戸目永志くん。
透きとおるような肌を持つ男の子。「みとめてほしいわけじゃない」「みとめられないね」が口癖……というよりも決めゼリフに近い。文化祭のときは劇の脚本を担当した。本を読むのは苦手だけど、そのぶん一生懸命読み込もうとする。絶対に折れない心の持ち主。心が強いから折れないのではなく、心が一つ残らず折れ曲がっていてこれ以上折れることができないレベルにまで変形しているから折れないのだ。心が折れに折れた理由は、自分の読書能力のなさを自覚したから。でも今は江戸川乱歩の小説を少しずつ読み進めている。なお完全なインドア派であり、日焼け対策はバッチリやっている。自分の切り落としたツメを意味もなくしばらくながめているうちに一日が終わったこともある。
(水戸目くん……文化祭の劇が成功して本当によかったね……あと、わたしも乱歩の作品……『人間椅子』以外もいろいろ読んでみたりしてるけど、おもしろいね……)
しっぽの短い銀色の馬をかく。その馬が前足二つを同時に出し、白い柵を越えようとしている。
☆出席番号二十三番・六月一日涼芽さん。
髪型を短いサイドポニーにしている女の子。「ムリ」が口癖。機嫌がいいときは六月一日さんから見て右にサイドポニーを作り、機嫌が悪いときは左にサイドポニーを垂らす。バレー部であり、クラスのなかでは伏木くんの次に背が高い。別の高校に通う年上の男子と付き合っているが友達にも彼氏のことはいっさい話さない。ソシャゲ好き。無課金カジュアル勢。なお六月一日さんの「ムリ」は一種のおまじないみたいなもの。その言葉をくりかえすことで逆に「いやムリじゃない、できる!」という前向きな気持ちになれるらしい。
(六月一日さん……メリハリがある人だよね……王道を突き進みつつも自分の弱さと向き合う強さがある……その背中はとっても大きい……)
かわいくデフォルメされた明るい茶色の馬が正座になり、黒い瞳を輝かせている。
出席番号二十四番・谷高誠一くん。
眉毛が太い男の子。失敗フラグの代名詞とも言える「やったか」が口癖。そのフラグじみた口癖と共に、今まで失敗をくりかえしてきたようだ。とはいえ最近は自分の口癖を肯定的に捉えられるようにもなっている。小学生のころによく野球をしていた影響もあって、野球観戦が趣味。ただし自分が応援しているときに限ってひいきのチームが負けてしまうような気がするので、対戦している両チームともを平等に応援しつつ観戦する。野球以外を見るときも、そんな感じ。あと、親友の嫁田くんとゲームで遊ぶのも好き。中学二年生になるまで書道教室に通っていたため、字がとてもきれい。
(谷高くん……谷高くんの言葉は、絶対に成功への前ぶれ……いい意味でのフラグになるよ……)
白い綿のような毛並みの馬が、暗い星空の下でいなないている。
出席番号二十五番・矢良みくりさん。
いつもポニーテールの女の子。「やらかした」「なんとやら」が口癖。いや、「やらかした」に関しては心のなかで言うほうが多いかもしれない。そして明るく友達思い……というキャラを意識的に作っている。またいとこで元カレの飯吉くんのことを気にしている。病気にかかっており、数パーセントの確率で卒業前に死ぬかもしれない。病気のことはクラスの全員が聞いているけれど、死ぬかもしれないことについては矢良さんの保護者と病院の関係者と飯吉くんとこんしまちゃんとクラス担任の立合先生しか知らない。マンガ研究部所属。世界史よりも日本史が好き。ゲームセンターのクレーンゲームでぬいぐるみを取ってそれを自分の部屋に置くのが趣味。ぬいぐるみを取れずになんの収穫もなくスゴスゴ帰るのも、それはそれで興奮する。
(矢良さん……わたしは、矢良さんとの時間を覚えてる……そして矢良さんの時間になれているのかな……)
黄褐色の毛が木漏れ日を受けてまだら模様を作り出している。
出席番号二十六番・嫁田秀くん。
口をあけたときにのぞく八重歯が特徴的な男の子。「読めてた」「読めた」が口癖。言葉に非常に敏感であり、ただのあいさつに対してすら裏に悪意があればそれを読み取ることができる。国語の成績はいいが、どちらかというと理系科目のほうが得意。自分の使う言葉も、かなり厳選している。そんな自分とは対照的に裏も表もなく純粋に「やったか」と口にする谷高くんのことを気に入っており、彼とはよく一緒にゲームをする。嫁田くんはけっこうなガチ勢であり、とあるオンラインゲームの世界ランキングにも載っている。なにかに集中する前は脳内でそろばんをカチカチ言わせる。嫁田くん本人にそろばんの知識はないが、なんか適当にカチカチはじいているイメージを頭のなかでえがくと頭がさえるらしい。あと、実は勢さんのことが好き。
(嫁田くん……今もだれかの言葉を聞いているのかな……わたしの片道年賀状を、嫁田くんはどう受け取るの……?)
こんしまちゃんはハガキに、小屋のなかで身を横たえて気持ちよさそうに眠る赤茶色の馬をかいた。
☆出席番号二十七番・鹿出舞さん。
髪型をセンターパートにしている女の子。「ろくでもねえな」という口癖を持つ。中学一年生のときと三年生のときも、こんしまちゃんと同じクラスだったそうだ。幼いころのケガの後遺症で嗅覚がほとんど機能していないが、本人はまったく気にしていない。中能くんと共に学級委員を務める。点字や手話を学ぶのが好き。特別支援学校に就職することを望んでいる。ピアノが得意。ヴァイオリンなどの演奏もできる。口笛もうまい。アメをなめずにボリボリかむクセがある。
(鹿出さん……中学生のときから、行き届いていて……それでいて気持ちのいいまなざしを持っていたっけ……人を気づかうことができて正義感もあって実は謙虚で……だれかとの出会いを大切なものにできる人……)
後ろ足を蹴り上げる屈強な漆黒の馬をこんしまちゃんはハガキにかく。
☆出席番号二十八番・和南統人くん。
ぷるっぷるのくちびるを持つ男の子。「ワナじゃん」とかが口癖。面倒見がよく顔もいいので同性異性関係なく告白されまくっているらしいが、すべてことわっている。そもそも恋愛感情がなんなのかを理解していない。「じゃあそれを理解するために試しに付き合ってみるのは?」と友達の見藤くんから言われたこともあるけど、和南くんは「なんとなくだけど、それワナじゃね? 実際に付き合ってみて得られるものは恋愛感情に似た、もっと別のものなんじゃね? つまり軽はずみに付き合えば、本来恋愛感情じゃないものを恋愛感情と誤解したままその固定観念を一生ひきずる可能性があるんじゃねえの? それ考えると恋愛感情をきちんと理解する前にお試しでだれかと付き合うのはリスクしかなくね?」と答えたそうだ。あと、小学校高学年のころまで飼っていたネコとたわむれる夢をよく見る。一人で黒石と白石を碁盤に置いていく「一人碁」を好む。
(和南くん……わたしだって恋愛がなんなのか分かんない……それぞれ自分の答えを見つけられるといいね……)
こんしまちゃんはハガキに、太い足を軽快にしならせて前進する白い馬を横からのアングルでかいた。
※ ※ ※ ※ ※ ♢ ※
――これで。
片道年賀ハガキ二十七枚すべてが完成した。
すでに時刻は十三時を回っている。
こんしまちゃんは色鉛筆を机の引き出しにしまったあと、二十七枚の片道年賀状の束を持ち上げた。
「あとはポストに投函するだけ……」
この片道年賀状が、相手にどう受け取られるかは分からない。
歓迎されるかもしれないし、拒絶されるかもしれない。
でも、どうあつかわれたとしても、文句を言う権利はこんしまちゃんにはない。
だって片道年賀状を出そうと決めたのは、こんしまちゃん自身なのだから。
こんしまちゃんが片道年賀ハガキの束をかかえて自分の部屋から出たとき、六歳年上のお姉さんと廊下でバッタリ顔を合わせた。
紺島まふゆさんである。
まふゆさんは、こんしまちゃん以上に髪が長い。こんしまちゃん以上に、ウェーブのかかったくせ毛の曲がり具合がすごい……っ!
「あ、みどり。もしかして年賀状を書いてたの?」
「そうだよ、お姉ちゃん……」
こんしまちゃんがまふゆさんに近づき、ハガキの束を渡す。
「こんな感じ……」
「へえ~、これ片道年賀状ってヤツ?」
まふゆさんが、繊細な手つきでハガキを見る。
「それにしてもイラスト、けっこううまくかけてるね~。馬だけに」
「あ……あはは……おもしろいね……」
「いいんだよ~、みどりっ。無理に笑わなくても……って、おや?」
なにかに気づいたのか、まふゆさんがハガキの表面を凝視する。
一枚だけじゃなくて、二十七枚のハガキすべての表面をチェックする。
「みどり……年賀状は素敵だけど、このままだと届かないよ……」
「ど、どうして……お姉ちゃん」
うろたえる、こんしまちゃん……っ!
対するまふゆさんは、念を押すように聞く。
「片道年賀状は相手の名前と自分の名前を書きさえすれば住所を記入しなくても届くんだよね?」
「うん……」
「でも見たところハガキには相手の名前は書かれているけど、肝心の送り主のみどりの名前が一個もないよ」
「え……ホント……?」
ハガキを返してもらってから、自分でも確認するこんしまちゃん。
全部の表面を見終わってから、まふゆさんの言っているとおり相手の名前しか書いていなかったことに気づいた……ッ! このままでは片道年賀状であっても相手に届かぬ……ッ!
「しまった。でも危なかった……お姉ちゃん、ありがとう……」
「ドンマイ! みどり。でも自分の名前を書き忘れていたのは送る相手一人一人のことをみどりがちゃんと考えていた証拠だよ!」
そんなふうに励ますまふゆさんにもう一度お礼を言ってから、こんしまちゃんは部屋に戻った。
ハガキ一枚一枚に、自分の名前を書いていく。
相手の名前よりも小さく、二十七回「紺島みどり」と記入した。
その束を持って、肌寒い外に出る。
五分ほど歩いたのちに、赤いポストにハガキを入れる。
一枚、一枚……名前を書いた表面とイラストやお祝いの言葉を添えた裏面とを確認し、ていねいに投函した。
出席番号順に入れた。ハガキを口に差し込んで手を放すたびに、カツン、カツンと音が鳴った。最後のほうは、トオン、トオン……という音も混じった。
二十七枚目を手放し、トトオン……という音を聞いたあと、こんしまちゃんは赤いポストを離れた。
その直後だれかが来て、さらにトトオン……と響かせた。
こんしまちゃんは振り返らなかった。立ち止まりもしなかった。ただ寒空にこだまする一個の静寂を聞いた気がした。
※ ※ ※ ※ ※ ♢ ※
☆今週のしまったカウント:一回(累計百七回)
次回「第二十七週 水平観覧車が回ってしまった!(日曜日)」に続く!(更新は十二月十二日(金)午後七時ごろです)
いつもお読みいただき、ありがとうございます。評価やブックマーク等も大変励みになります。
作者の私が調べた限りでは、登場人物の名字は全て実在するものです。「六月一日」で「むりはり」とか「委文」と書いて「ひとり」とか、いろいろ面白い名字がたくさんあるものですね!




