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第二十六週 片道年賀状を送ってしまった!(土曜日)

 紺島(こんしま)みどり――こんしまちゃんはクラスメイトや友達を大切にする一方(いっぽう)で、人間関係について(みょう)にドライなところがある。


 こんしまちゃんだって人間だから(きら)われることもそりゃあるんだけど、自分を嫌う相手に対しては()()()()()距離(きょり)を置く。

 それでいて完全には関係を断ち切らない。こんしまちゃんは人から嫌われるのを(おそ)れていないようなのだ。まあ意中の人である鵜狩(うかり)くんに嫌われるのはさすがに(いや)みたいだけど……。


 じゃあ()かれた場合はどうか……?

 好意に気づいて、こんしまちゃんは心の距離を()める。しかし相手に接近しすぎないように一定(いってい)の間合いをあける。もちろんこれについても鵜狩くんのような例外はあるが……!


 つまりこんしまちゃんのスタンスは基本的に不即(ふそく)不離(ふり)――「つかず(はな)れず」なのである……ッ!


 今回はそんな彼女(かのじょ)が送る年賀状の話だ。


※ ※ ※ ※ ※ ♢ ※


 土曜日の午前。朝食後。

 十二月初頭(しょとう)の期末テストを終えて余裕(よゆう)が出てきたこんしまちゃんは年賀状を書くことにした。


 用意した年賀ハガキは二十七枚。

 現在のクラスメイト全員に年賀状を送るつもりなのだ……ッ!


 こんしまちゃんは小学生のころからクラスメイト全員に年賀状を送るようにしている。

 ただし担任の先生や昔のクラスメイトには送らない。そこまでやると大変になってしまうからだ。


 心のなかでこんしまちゃんは現クラス担任の立合(たちあい)広夢(ひろむ)先生に(あやま)った。


※ ※ ※ ※ ※ ♢ ※


 なお、こんしまちゃんは()()()年賀状を書こうとしているのではない……っ!

 最近ウワサの「片道(かたみち)年賀(ねんが)(じょう)」をしたためようとしている。


 片道年賀状とは、一方通行(いっぽうつうこう)の年賀状のことである。


 特徴(とくちょう)(ふた)つ。


 一、相手の住所を知らなくても相手の名前と自分の名前を書きさえすれば送付できる。

 二、片道年賀状を受け取った人はお返しで年賀状を送り返す必要がない。


 すでにこんしまちゃんはクラスメイト一人(ひとり)一人に「片道年賀状を送っていいかな……」と聞いて各自から承諾(しょうだく)を得ている。

 自分の住所をわざわざ教えなくていいなら、年賀状を送ってもらうリスクも低いというもの。

 もし相手の住所が必要な通常の年賀状であれば、全員の承諾は望めなかったであろうが……!


 さらに片道年賀状を受け取ってもお返しの年賀状を送らなくていいことになっているので、もらう(がわ)も気楽に年賀状を待つことができる。

 送る側にもメリットがある。お返しをもらうことが前提でないので相手から年賀状が届かなくても傷つかずに済むのだ。


 世間には「年賀状ギスギス案件」なるものが存在する。


 意識していなかった人から年賀状を受け取って、めんどくさいと思いつつもお返しの年賀状を書く。でも自分の負担を増やした相手を(うら)んでしまう。返さずにいると相手から逆恨(さかうら)みされるんじゃないかと(こわ)くなる。


 友達だと思っていた相手に年賀状を送ったけれど相手からは年賀状が届かずショックを受ける。あとから年賀状が返されたら「ああ、自分はこの人に年賀状を書くことを強要してしまったんだな」と思ったりする。お返しがまったくなければ、もっとショックである。


 こういう「年賀状ギスギス案件」はあんまり経験したくない。

 だったらSNS(エスエヌエス)で新年のあいさつを済ませるほうがラクだしギスギスにも発展しづらいってことになる。


 そもそも個人情報が昔よりも大切になってきた昨今(さっこん)において自分の住所をペラペラ話すこと自体リスクが高い。

 年賀状を書く人が減っているのもそりゃ当然な感じもする。


 そこで「片道(かたみち)年賀(ねんが)(じょう)」が発明された。


 (たが)いに住所を知らなくても送れるし、双方向的(そうほうこうてき)なものじゃないので気をラクにして年賀状を書くことができる。

 もちろんイタズラに利用される可能性もあるから、送る前にチェックされて不適切だったら廃棄(はいき)される……っ! なお同姓同名(どうせいどうめい)の相手がいる場合はAI(エーアイ)が正しい受取人(うけとりにん)を判定してくれる。


 片道年賀状の登場により、全盛期ほどではないにせよ年賀状の売り上げも回復するかもしれない。

 ともあれ、こんしまちゃんはこの年賀状のウワサを聞いて「いいね……」と思った。


※ ※ ※ ※ ※ ♢ ※


 自分の部屋の(つくえ)に二十七枚の片道(かたみち)年賀(ねんが)ハガキを積むこんしまちゃん……っ!


 なおハガキのデザインはどれも一緒(いっしょ)だ。

 片道年賀状であることを示す「片道」という文字が表面(おもてめん)の右下に印刷されている。


(来年の干支(えと)は「(うま)」だったかな……)


 二十四色の色鉛筆(いろえんぴつ)を用意する。


 一枚(いちまい)一枚、五十音順に手書きで年賀状を作成することにした……ッ!

 それぞれの表面(おもてめん)に相手の名前を書く。「あけましておめでとう」といったお祝いの言葉と馬のイラストを裏面に()える。


 ただし「ことしもよろしく」とは書かない。

 片道年賀状の特性上、相手に強要することがあっては()()()()からだ。


※ ※ ※ ※ ※ ♢ ※


 こんしまちゃんのクラスには、二十八名の生徒がいる。

 男子が十三名。女子が十五名。


 その出席番号は五十音順に(じゅん)ずる。



 出席番号一番・赤金(あかがね)しろみさん。


 長い下まつげを持つ女の子。クラスメイトの筈井(はずい)友春(ともはる)くんと付き合っている。(した)の名前で呼ばれることを望んでいる。口癖(くちぐせ)というほどでもないけど自分を「(きみ)」と呼ぶ筈井くんに対して「君じゃないよ、しろみだよ」とツッコむ赤金さんの声がこんしまちゃんの脳みそに強く焼きついている。あと、肉まんが大好物(だいこうぶつ)


(しろみちゃん……筈井(はずい)くんと幸せにね……)


 こんしまちゃんはハガキに、ニンジンをおいしそうにほおばる白い馬の絵をかいた。



 出席番号二番・飯吉(いいよし)(かのえ)くん。


 だれよりも整ったかたちの耳を持つ男の子。了承(りょうしょう)なのか拒絶(きょぜつ)なのか分かりにくい「いいよ」が口癖(くちぐせ)である。矢良(やら)みくりさんの中学時代の元カレにして、またいとこ。最近、学校を休みがちだ。ほぼ生まれたときからの知り合いの矢良さんいわく、飯吉くんはかなりのイケメンなので小学校に(はい)る前からめっちゃモテていたらしい。かっこいいというよりも、かわいい系の顔をしている。


飯吉(いいよし)くん……もしかして矢良(やら)さんのことで(なや)んでいるのかな……)


 こんしまちゃんはハガキに、雄々(おお)しく走る銀色の馬の絵をかいた。



 出席番号三番・(いきおい)さくらさん。


 頭頂部にアホ()を生やした女の子。口癖は「(いきお)いで」など。ノリで生きているゆるふわ少女だ。人に流されない度合いを示す人間(にんげん)摩擦(まさつ)係数(けいすう)は自己申告で〇・一八(れいてんいちはち)であり、けっこう低め。ときおり急にマジメになる。海外に住んでいたこともあるので英語が得意。しゃべり(かた)はゆる~っとしているが頭はよく、実は異性に人気(にんき)がある。


(いきおい)さん……独自のノリと勢いで自分の生き方をつらぬくその姿を尊敬してるよ……)


 足を曲げてくつろぐ茶褐色(ちゃかっしょく)の馬を年賀ハガキにかく。



 出席番号四番・鵜狩(うかり)慶輔(きょうすけ)くん。


 あごがシュッとしている、少しツリ目の男の子。よく「うっかり」と言う。小学生のころからのこんしまちゃんの友達。よく転んでいたこんしまちゃんを受けとめ続けてくれた。中学校では別々になったけど高校でこんしまちゃんと再会。恋愛的(れんあいてき)な意味でこんしまちゃんの好きな人。本を逆さまにして読むクセがあり、その身体能力は忍者(にんじゃ)そのもの。料理部に所属している。鵜狩クウガくんという小学生の弟がいる。あと、逆立ちしながら(ねむ)ることもできる。


鵜狩(うかり)くん……本当はわたし、鵜狩くんに片道年賀状を送るか迷った……だって距離(きょり)を置こうとしているって思われたくなかったから……だけど送るよ……これが、わたしだから)


 黒と白のまだら模様(もよう)の馬が、ハガキの上で宙を()う。



 出席番号五番・加布里(かぶり)璃々菜(りりな)さん。


 前髪(まえがみ)を水平に切りそろえた()()()()の女の子。キャラかぶりを(おそ)れており、周囲にいる人によってキャラクターを変える。ほかのクラスメイトがぱっつん前髪にしたら時間を置いて髪型(かみがた)を変える可能性(だい)。「ちょっと()めた目で物事を見つめるエセギャル」というのが今のキャラ設定。みんなには(かく)しているが小説をかなり読む。なお完全にではないが()()()()()()()()なんとなく加布里(かぶり)さんの性格を(さっ)し始めている。ちなみにこれは機密情報だけど、()加布里(かぶり)さんは歯を(みが)いているときにもっとも幸せを感じるタイプだ。


加布里(かぶり)さん……加布里さんって一番(いちばん)みんなのことを見ている気がする……本当に人に(やさ)しくできるのは加布里さんみたいな人なんだろうな……)


 銀色の細身の馬が優雅(ゆうが)に緑の芝生(しばふ)()る。



 出席番号六番・久慈(くじ)小鮎(こあゆ)さん。


 ベリーショートの(かみ)の女の子。くじや(うらな)いが好きで、一緒(いっしょ)に過ごしたり遊んだりする相手すらくじ()きで決める。ただし無理やりさそったりはせず、必ず相手の意思を確認する。マジメな性格や気品のある言動も特徴的(とくちょうてき)。どこか天然(てんねん)っぽく、()でとぼけることもわりと多い。(あみ)の目のようなメロンの皮に視線を走らせて「無限あみだくじ(たの)しいわね」とか言っちゃう人。


久慈(くじ)さん……くじに身をゆだねつつ(しん)のとおった哲学(てつがく)も持つ久慈さんはかっこいいよ……)


 前のほうは銀色だけど後ろに()()()したがって白っぽくなるグラデーションの馬をかく。



☆出席番号七番・見藤(けんとう)幸也(こうや)くん。(今回(はじ)めて名前が出たクラスメイトには☆をつけている。以下同様)


 大きな舌を持つ男の子。口癖は「検討(けんとう)する」「見当(けんとう)がつかない」など。クラスのなかではこんしまちゃんの(つくえ)のちょうど(ひと)つ前の席に(すわ)っている。なにごとにも慎重(しんちょう)な性格だけど、やっていることを途中(とちゅう)で投げ出したりしないなど意思の強さも持ち合わせている。みんなで(なべ)を囲んだら、いろいろ仕切(しき)り始めるタイプ。焼き肉とかでも、まあ同じような感じ。でも本人はリーダーをやろうとしているわけじゃなく、あくまで参謀(さんぼう)のつもりだ。


見藤(けんとう)くん……わたしは見藤くんから立ち()まる大切さも、それでも進もうとする勇気(ゆうき)も教えてもらっているよ……)


 ()げ茶色の筋肉質な馬を、ローアングルから見上げるようにかいた。



 出席番号八番・紺島(こんしま)みどり。

 ウェーブのかかったくせ()を持つ女の子。「しまった」が口癖(くちぐせ)

 ただし彼女(かのじょ)は年賀ハガキの送り(ぬし)のこんしまちゃん本人なので片道(かたみち)年賀(ねんが)(じょう)の対象ではない。よってパス……ッ!



 出席番号九番・流石(さすが)星乃(ほしの)さん。


 ほっそりとした()()()()指を持つ女の子。一応(いちおう)「さすが」が口癖だが、ほかのみんなに比べるとあんまり口癖を連発しないほう。クラスで一番(いちばん)テストの点数がいい。右利(みぎき)きでも左利(ひだりき)きでも両利(りょうき)きでもなく、テストでは特別にタブレットとキーボードを利用しての解答がみとめられている。人間摩擦係数は一・八九(いってんはちきゅう)と高い。マンガ()き。プラネタリウムも好き。プラネタリウムの薄暗(うすぐら)い空間のなか、(ねむ)るか眠らないかの瀬戸際(せとぎわ)をさまよっているときが()()()気持ちいいらしい。


流石(さすが)さん……わたしは流石さんのことを素直(すなお)にすごいと思ってる……流されない強い心をずっと見せられている感じがする……)


 ツヤのある灰色の毛並(けな)みの馬を、デフォルメしてぬいぐるみ(ふう)にする。



 出席番号十番・標葉(しねは)令太(れいた)くん。


 だれよりもキラキラした(ふた)つの(ひとみ)を持つ男の子。「~だ()()」といった言葉をよく語尾(ごび)にするけれど最近は(おさ)気味(ぎみ)。もちろんその口癖は悪口(わるくち)で言っているんじゃない。自然に(くち)をついて出る場合もあれば一種(いっしゅ)のアンガーマネジメントとして意図的に(はっ)される場合もある。このごろ世界史にハマっているそうだ。あと、ハムスターを飼っている。中学時代まではバスケ部に所属していたが、そのとき使っていた練習用のマイボールは捨てていない。自宅で勉強するとき、そのボールをひざに乗せている。そうすると集中できるらしい。


標葉(しねは)くん……自分の言葉を別方面に昇華(しょうか)させるってすごいことだよ……世界史のテストもがんばってたみたいだね……)


 小さな赤茶色の馬を三匹(さんびき)重ねる。表情はみんな(おだ)やかだ。



 出席番号十一番・菖蒲(しょうぶ)佳代子(かよこ)さん。


 今は表情の()えづらい長い(かみ)をしているけれど小学生のころは(むらさき)髪飾(かみかざ)りをつけてツインテールにしていた女の子。よく「勝負」を持ちかける明るくノリのいい子だった。今は性格がだいぶ内向的になっているが、もともとの明るさやノリのよさがすべてなくなっているわけじゃない。こんしまちゃんの小学校からの友達。鵜狩(うかり)くんとは(ちが)ってこんしまちゃんと中学校は同じだったがそのことがバレないように顔をそむけたりしていた。本来は一学年(いちがくねん)上。こんしまちゃんと鵜狩くんからは「アヤメ」と呼ばれている。こんしまちゃんと同じく恋愛的(れんあいてき)な意味で鵜狩くんが好き。毎年アサガオを(いえ)の庭で育てて()(ばな)にしている。


(アヤメちゃん……わたし負けないよ……だけどアヤメちゃんとわたしはずっと友達だからね……)


 ハガキの上で、立派(りっぱ)なたてがみを持つ赤っぽい馬が上空を見つめている。



☆出席番号十二番・束花(そっか)りくくん。


 笑ったときに出るえくぼが特徴的(とくちょうてき)な男の子。口癖は「そっか」だ。適当にあいづちをうっているのではなく、相手にどう答えるべきかいろいろ考えてしまって結局「そっか」と返してしまうだけである。束花(そっか)くんの「そっか」には百種類以上の意味が()められていると言っても誇張(こちょう)ではない。クラスではこんしまちゃんの左隣(ひだりどなり)の席に(すわ)っている。クラスで三番目に成績がいい。虫が好きだけど殺すのは(いや)なので、紙粘土(かみねんど)に色をつけて擬似的(ぎじてき)な標本を作っている。


束花(そっか)くん……束花くんの(やさ)しさ、みんな気づいていると思うよ……笑顔(えがお)素敵(すてき)だね……)


 人を乗せて力強(ちからづよ)く草原を()ける馬をハガキいっぱいにかく。



☆出席番号十三番・(ちょう)ひなぎくさん。


 (かみ)の後ろをチョウチョ結びのようにまとめている女の子。言葉の頭に「(ちょう)」をつけるのが口癖。実は束花(そっか)くんのことが好き。でも本人は恋愛に興味がないフリをしている。成績はクラスのなかでビリだけどIQ(アイキュー)自体はまあ平均以上。記憶(きおく)理詰(りづ)めは不得意だが直感で物事の本質を見抜(みぬ)くことには()けている。放送中のアニメは視聴可能なものであればすべて最初から最後までチェックしている。


(ちょう)さん……ポテンシャルは人一倍(ひといちばい)なんだよね……いざというときに(たよ)れるのってきっと蝶さんみたいな人じゃないかな……)


 ちょっと青っぽい馬の上半身(じょうはんしん)をズームアップでえがく。



 出席番号十四番・鳥松(とりまつ)月次郎(つきじろう)くん。


 かっこいいもみあげを持つ男の子。「とりあえず、まあ」を意味する「とりま」が口癖。運動神経がよく、大抵(たいてい)のスポーツは難なくこなせる。特定の部活には所属していないが、(すけ)()として呼ばれることもありすべての運動部とコネがある。おとなに()じって地域のスポーツ大会に出場するのが小学生のころからの趣味(しゅみ)。スポーツ選手にならないかと言われることもしばしばだが、本人にそんな気はまったくない。地域の知り合いに影響(えいきょう)されてか、落語(らくご)歌舞伎(かぶき)もかなり好き。


鳥松(とりまつ)くん……いろんなスポーツをリスペクトしてるよね……鳥松くんと一緒(いっしょ)にプレーすると、とてもすがすがしい気持ちになれるよ……)


 重厚な蹄鉄(ていてつ)をつけた足の長い馬が(なな)め上からのアングルによって躍動感(やくどうかん)を見せつける。



☆出席番号十五番・中能(なかよく)美都風(みつかぜ)くん。


 高い鼻を持つ男の子。「仲よくしたい」などが口癖(くちぐせ)。学級委員の一人(ひとり)。だれとでも分け(へだ)てなく(せっ)する点はこんしまちゃんに似ている。小学生のときは引っ()思案(じあん)人見知(ひとみし)りだった。グイグイくるので距離感(きょりかん)がバグっていると思われたりすることもあるが本当はとても繊細(せんさい)。人から冷たくされても、おこったりしない。ただ落ち込む。クラス(がい)にも友達が多い。どんなときでも身だしなみをきちんとする紳士(しんし)でもある。だけど(いえ)の自室ではメッチャだらけて、()けたアイスのようである。どんなふうに()()()()()()()については中能くんの名誉(めいよ)のためにも()せておく。


中能(なかよく)くん……(あつ)く広い人間関係を築くことのできるすごい人……それは中能(なかよく)くんの誠実で真摯(しんし)人柄(ひとがら)のなせるわざ……)


 草原を悠然(ゆうぜん)闊歩(かっぽ)する黒っぽい馬をかく。ただし(ひたい)は白である。



 出席番号十六番・子々津(ねねつ)絵千香(えちか)さん。


 清楚(せいそ)にまとまった()()みが特徴的な女の子。口癖は「ねねっ」だ。三つ編みにしているのは、自分の髪を三つ編みにまとめてくれた母方(ははかた)のおばあちゃんといつも三つ編みをほめてくれた父方(ちちかた)のおじいちゃんを忘れないためでもある。親戚(しんせき)同士の仲が非常によく、家族のことをとても大切に思っている。実家がかなり太い。そして子々津(ねねつ)さんにとっての育ての親は自分の両親だけじゃない。父方の祖父母(そふぼ)に対しても母方の祖父母に対してもそれ以外の親戚に対しても、子々津さんは感謝と尊敬の念を覚えている。美術部やマンガ研究部には(はい)っていないが絵をかくのが好きで、コンクールにも積極的に作品を出している。


子々津(ねねつ)さん……心の底から家族を思って行動できる素晴(すば)らしい人……)


 少しシマウマにも見える黒と白の()じった馬が薄茶色(うすちゃいろ)(おけ)から水を飲んでいる。



 出席番号十七番・筈井(はずい)友春(ともはる)くん。


 首が太い男の子。「はずかしい」という意味の「はずい」という言葉をよく使う。赤金(あかがね)さんと付き合っており、とことん彼女(かのじょ)一途(いちず)である。普段(ふだん)の筈井くんは堂々としている。自信に満ちている。なにかをためらったりする性格ではない。でも好きな人相手だと照れてしまう。よって赤金さんの(した)の名前を呼ぶことだけは難しい。文字にすることすら(きび)しい。「君」と言ってしまう。最近は赤金さんを「しろ」と呼んだりもしている。あと、ホラー映画やホラーゲームが好きという一面(いちめん)もある。


筈井(はずい)くん……しろみちゃんのことを(した)の名前で呼べるようになったのかな……だけど筈井くんはしろみちゃんと一緒(いっしょ)で幸せなんだよね……それが一番(いちばん)……)


 四肢(しし)を広げて水辺(みずべ)に立つ灰色の馬をかく。



 出席番号十八番・委文(ひとり)知砂(ちさ)さん。


 ショートボブの髪型(かみがた)の女の子。「一人(ひとり)がいい」「一人でいい」が口癖。クラスでの成績は二番目。なんでも()()()()こなせる。一方(いっぽう)で人が苦手(にがて)(きら)いという感情とは少し(ちが)う。「本当は友達がほしい」とか、そういう気持ちはない。かつ、自分のことはそんなに嫌いじゃない。プライベートでは一人(ひとり)になりたがるが、だれかと協力する必要があるときはきちんと協力する。普通(ふつう)に学んで普通に働いて普通に死ぬのが理想。家族にもほとんど心を許していない。担任の立合(たちあい)先生のことも苦手だけど、先生と話しているとほんの少しだけ気がラクだなとは思っている。一人(ひとり)で市民プールに()って、ひたすら流れていく天井(てんじょう)()つつ背泳(せおよ)ぎするのが至福(しふく)の時間だ。


委文(ひとり)さん……あんまり話せないけれど……委文さんが生きたいように生きているなら、それはとても……なんだろ……分かんないや……ここで(かる)はずみに委文さんのことを一方的(いっぽうてき)に「すごい」とか「かっこいい」とか言うのは……違うのかも……わたしの届かない場所に……委文さんはいるのかもしれない……)


 赤茶色の毛並(けな)みと()げ茶色のたてがみを持った馬を、右(なな)め前から見ている感じでえがく。ハガキに(はい)らなかったので足は見切れている。



☆出席番号十九番・伏木(ふしぎ)守久(もりひさ)くん。


 威厳(いげん)のあるあごひげを(たくわ)えている男の子。口癖は「不思議(ふしぎ)」……ではなく「不可思議(ふかしぎ)」だ。なんにでも興味を示す、文武両道の多才な人。盆栽(ぼんさい)()りなどさまざまな趣味を持っている。雑学が好き。地域のボランティアにもよく参加する。クラスのなかで一番(いちばん)背が高い。将来(しょうらい)は小学校の先生になるつもり。細かくちぎってライスみたいになったパンの上にカレールーをかけて食べるのが大好(だいす)き。


伏木(ふしぎ)くん……広い視野を持っているよね……それも表面上(ひょうめんじょう)だけじゃなくて深く見とおしたり考えたりできる……見習いたいところがいっぱい……きっといい先生になれるよ……)


 まるで雪をかぶったような白いまだら模様の馬が雪原にたたずんでいる。



☆出席番号二十番・()七瀬(ななせ)さん。


 軽めの天然パーマの女の子。安心したときの「ほっ」や感心したときの「ほー」や笑うときの「ほほっ」やすごむときの「ほ~」が口癖。読みが一字(いちじ)であるめずらしい名字を持っていることがなんとなく(ほこ)らしいようだ。()さんをフルネームで呼ぶときは「ホナナセさん」と一気(いっき)に言うんじゃなくて「ホ・ナナセさん」って感じで名字と(した)の名前のあいだに一拍(いっぱく)置くと喜ばれる。同性よりも異性の友達のほうが多いタイプ。男子に()じってサッカーとかやるのが好き。制服はスカートではなくスラックスをはいている。元気で、かなり声が高い。親戚(しんせき)がよくタケノコを送ってきてくれるのだが、おかげでタケノコの皮をはぐのにハマってしまった。


()さん……なんか見てるといやされる……みんなにパワーを(あた)えてるね……魅力的(みりょくてき)(かがや)いてるよ……)


 (おか)の上に立って日の出をじっと見る薄茶(うすちゃ)の馬をのびのびとハガキにかいていた。



 出席番号二十一番・間地(まじ)柚季(ゆずき)さん。


 (かみ)の左右からマフラーみたいなボリュームのある「おさげ」を垂らす女の子。「マジ」が口癖。服飾部(ふくしょくぶ)に所属しており、いろんな服のコーディネートを考えたりオリジナルの服を作ったりする。服全般(ぜんぱん)が好きだけど、そのなかでもとくに大好きな和服をもっとポピュラーなものにしたいと思っている。意外と運動も得意で朝は毎日ジョギングしている。


間地(まじ)さん……いろんな人が和装(わそう)に身をつつむ未来も……ありえるのかもしれないね……わたしも(たの)しみ……)


 ものものしい馬具をつけた赤褐色(せきかっしょく)の馬がおしりを向けたまま少しだけ首を動かし、こちらを見ている。



 出席番号二十二番・水戸目(みとめ)永志(ながし)くん。


 ()きとおるような(はだ)を持つ男の子。「みとめてほしいわけじゃない」「みとめられないね」が口癖……というよりも決めゼリフに近い。文化祭のときは劇の脚本(きゃくほん)を担当した。本を読むのは苦手だけど、そのぶん一生懸命(いっしょうけんめい)読み()もうとする。絶対に折れない心の持ち(ぬし)。心が強いから折れないのではなく、心が(ひと)つ残らず折れ曲がっていてこれ以上折れることができないレベルにまで変形しているから折れないのだ。心が折れに折れた理由は、自分の読書能力のなさを自覚したから。でも今は江戸川(えどがわ)乱歩(らんぽ)の小説を少しずつ読み進めている。なお完全なインドア派であり、日焼け対策はバッチリやっている。自分の切り落としたツメを意味もなく()()()()ながめているうちに一日(いちにち)が終わったこともある。


水戸目(みとめ)くん……文化祭の劇が成功して本当によかったね……あと、わたしも乱歩(らんぽ)の作品……『人間(にんげん)椅子(いす)』以外もいろいろ読んでみたりしてるけど、おもしろいね……)


 しっぽの短い銀色の馬をかく。その馬が前足(ふた)つを同時に出し、白い(さく)()えようとしている。



☆出席番号二十三番・六月一日(むりはり)涼芽(すずめ)さん。


 髪型(かみがた)を短いサイドポニーにしている女の子。「ムリ」が口癖(くちぐせ)機嫌(きげん)がいいときは六月一日(むりはり)さんから見て右にサイドポニーを作り、機嫌が悪いときは左にサイドポニーを垂らす。バレー部であり、クラスのなかでは伏木(ふしぎ)くんの次に()が高い。別の高校に通う年上の男子と付き合っているが友達にも彼氏(かれし)のことはいっさい話さない。ソシャゲ()き。無課金カジュアル(ぜい)。なお六月一日(むりはり)さんの「ムリ」は一種(いっしゅ)()()()()()みたいなもの。その言葉をくりかえすことで逆に「いやムリじゃない、できる!」という前向きな気持ちになれるらしい。


六月一日(むりはり)さん……メリハリがある人だよね……王道を()き進みつつも自分の弱さと向き合う強さがある……その背中はとっても大きい……)


 かわいくデフォルメされた明るい茶色の馬が正座になり、黒い(ひとみ)(かがや)かせている。



 出席番号二十四番・谷高(やたか)誠一(せいいち)くん。


 眉毛(まゆげ)が太い男の子。失敗フラグの代名詞とも言える「やったか」が口癖。そのフラグじみた口癖と共に、今まで失敗をくりかえしてきたようだ。とはいえ最近は自分の口癖を肯定的(こうていてき)(とら)えられるようにも()()()()()。小学生のころによく野球をしていた影響(えいきょう)もあって、野球観戦が趣味。ただし自分が応援(おうえん)しているときに限ってひいきのチームが負けてしまうような気がするので、対戦している両チームともを平等に応援しつつ観戦する。野球以外を見るときも、そんな感じ。あと、親友の嫁田(よめた)くんとゲームで遊ぶのも好き。中学二年生になるまで書道教室に(かよ)っていたため、字がとてもきれい。


谷高(やたか)くん……谷高くんの言葉は、絶対に成功への(まえ)ぶれ……いい意味でのフラグになるよ……)


 白い綿(わた)のような毛並みの馬が、暗い星空の(した)でいなないている。



 出席番号二十五番・矢良(やら)みくりさん。


 いつもポニーテールの女の子。「やらかした」「なんとやら」が口癖。いや、「やらかした」に(かん)しては心のなかで言うほうが多いかもしれない。そして明るく友達思い……というキャラを意識的に作っている。またいとこで元カレの飯吉(いいよし)くんのことを気にしている。病気にかかっており、数パーセントの確率で卒業前に死ぬかもしれない。病気のことはクラスの全員が聞いているけれど、死ぬかもしれないことについては矢良さんの保護者と病院の関係者と飯吉くんとこんしまちゃんとクラス担任の立合(たちあい)先生しか知らない。マンガ研究部所属。世界史よりも日本史が好き。ゲームセンターのクレーンゲームでぬいぐるみを取ってそれを自分の部屋に置くのが趣味。ぬいぐるみを取れずになんの収穫(しゅうかく)もなくスゴスゴ帰るのも、それはそれで興奮する。


矢良(やら)さん……わたしは、矢良さんとの時間を覚えてる……そして矢良さんの時間になれているのかな……)


 黄褐色(おうかっしょく)の毛が木漏(こも)()を受けてまだら模様(もよう)を作り出している。



 出席番号二十六番・嫁田(よめた)(しゅう)くん。


 (くち)をあけたときにのぞく八重歯(やえば)特徴的(とくちょうてき)な男の子。「読めてた」「読めた」が口癖。言葉に非常に敏感(びんかん)であり、ただのあいさつに対してすら裏に悪意があればそれを読み取ることができる。国語の成績はいいが、どちらかというと理系科目のほうが得意。自分の使う言葉も、かなり厳選(げんせん)している。そんな自分とは対照的に裏も(おもて)もなく純粋(じゅんすい)に「やったか」と(くち)にする谷高(やたか)くんのことを気に()っており、(かれ)とはよく一緒(いっしょ)にゲームをする。嫁田くんはけっこうなガチ(ぜい)であり、とあるオンラインゲームの世界ランキングにも()っている。なにかに集中する前は脳内でそろばんをカチカチ言わせる。嫁田くん本人にそろばんの知識はないが、なんか適当にカチカチはじいているイメージを頭のなかでえがくと頭がさえるらしい。あと、実は(いきおい)さんのことが好き。


嫁田(よめた)くん……今もだれかの言葉を聞いているのかな……わたしの片道年賀状を、嫁田くんはどう受け取るの……?)


 こんしまちゃんはハガキに、小屋のなかで身を横たえて気持ちよさそうに(ねむ)る赤茶色の馬をかいた。



☆出席番号二十七番・鹿出(ろくで)(まい)さん。


 髪型をセンターパートにしている女の子。「ろくでもねえな」という口癖を持つ。中学(いち)年生のときと三年生のときも、こんしまちゃんと同じクラスだったそうだ。(おさな)いころのケガの後遺症(こういしょう)嗅覚(きゅうかく)がほとんど機能していないが、本人はまったく気にしていない。中能(なかよく)くんと共に学級委員を(つと)める。点字や手話(しゅわ)を学ぶのが好き。特別(とくべつ)支援(しえん)学校(がっこう)に就職することを望んでいる。ピアノが得意。ヴァイオリンなどの演奏もできる。口笛(くちぶえ)もうまい。アメをなめずにボリボリかむクセがある。


鹿出(ろくで)さん……中学生のときから、()き届いていて……それでいて気持ちのいいまなざしを持っていたっけ……人を気づかうことができて正義感もあって実は謙虚(けんきょ)で……だれかとの出会いを大切なものにできる人……)


 後ろ足を()り上げる屈強(くっきょう)漆黒(しっこく)の馬をこんしまちゃんはハガキにかく。



☆出席番号二十八番・和南(わなん)統人(とうと)くん。


 ぷるっぷるのくちびるを持つ男の子。「ワナじゃん」とかが口癖。面倒見(めんどうみ)がよく顔もいいので同性異性関係なく告白されまくっているらしいが、すべてことわっている。そもそも恋愛(れんあい)感情がなんなのかを理解していない。「じゃあそれを理解するために(ため)しに付き合ってみるのは?」と友達の見藤(けんとう)くんから言われたこともあるけど、和南(わなん)くんは「なんとなくだけど、それワナじゃね? 実際に付き合ってみて得られるものは恋愛感情に似た、もっと別のものなんじゃね? つまり(かる)はずみに付き合えば、本来(ほんらい)恋愛感情じゃないものを恋愛感情と誤解したままその固定(こてい)観念(かんねん)一生(いっしょう)ひきずる可能性があるんじゃねえの? それ考えると恋愛感情をきちんと理解する前にお(ため)しでだれかと付き合うのはリスクしかなくね?」と答えたそうだ。あと、小学校高学年のころまで飼っていたネコとたわむれる夢をよく見る。一人(ひとり)黒石(くろいし)白石(しろいし)碁盤(ごばん)に置いていく「一人(ひとり)()」を好む。


和南(わなん)くん……わたしだって恋愛がなんなのか分かんない……それぞれ自分の答えを見つけられるといいね……)


 こんしまちゃんはハガキに、太い足を軽快にしならせて前進する白い馬を横からのアングルでかいた。


※ ※ ※ ※ ※ ♢ ※


 ――これで。

 片道(かたみち)年賀(ねんが)ハガキ二十七枚すべてが完成した。


 すでに時刻は十三時を(まわ)っている。

 こんしまちゃんは色鉛筆(いろえんぴつ)(つくえ)の引き出しにしまったあと、二十七枚の片道(かたみち)年賀(ねんが)(じょう)(たば)を持ち上げた。


「あとはポストに投函(とうかん)するだけ……」


 この片道年賀状が、相手にどう受け取られるかは分からない。

 歓迎(かんげい)されるかもしれないし、拒絶(きょぜつ)されるかもしれない。


 でも、どう()()()()()()としても、文句を言う権利はこんしまちゃん()()ない。

 だって片道年賀状を出そうと決めたのは、こんしまちゃん自身なのだから。


 こんしまちゃんが片道年賀ハガキの束をかかえて自分の部屋から出たとき、六歳(ろくさい)年上のお姉さんと廊下(ろうか)でバッタリ顔を合わせた。


 紺島(こんしま)まふゆさんである。

 まふゆさんは、こんしまちゃん以上に(かみ)が長い。こんしまちゃん以上に、ウェーブのかかったくせ()の曲がり具合がすごい……っ!


「あ、みどり。もしかして年賀状を書いてたの?」

「そうだよ、お姉ちゃん……」


 こんしまちゃんがまふゆさんに近づき、ハガキの(たば)(わた)す。


「こんな感じ……」

「へえ~、これ片道年賀状ってヤツ?」


 まふゆさんが、繊細(せんさい)な手つきでハガキを見る。


「それにしてもイラスト、けっこう()()()かけてるね~。馬だけに」

「あ……あはは……おもしろいね……」

「いいんだよ~、みどりっ。無理に笑わなくても……って、おや?」


 なにかに気づいたのか、まふゆさんがハガキの表面(おもてめん)凝視(ぎょうし)する。

 一枚(いちまい)だけじゃなくて、二十七枚のハガキすべての表面をチェックする。


「みどり……年賀状は素敵(すてき)だけど、このままだと届かないよ……」

「ど、どうして……お姉ちゃん」


 うろたえる、こんしまちゃん……っ!

 対するまふゆさんは、念を()すように聞く。


「片道年賀状は相手の名前と自分の名前を書きさえすれば住所を記入しなくても届くんだよね?」

「うん……」

「でも見たところハガキには相手の名前は書かれているけど、肝心(かんじん)の送り(ぬし)のみどりの名前が一個(いっこ)もないよ」

「え……ホント……?」


 ハガキを返してもらってから、自分でも確認するこんしまちゃん。

 全部の表面(おもてめん)を見終わってから、まふゆさんの言っているとおり相手の名前しか書いていなかったことに気づいた……ッ! このままでは片道年賀状であっても相手に届かぬ……ッ!


「しまった。でも危なかった……お姉ちゃん、ありがとう……」

「ドンマイ! みどり。でも自分の名前を書き忘れていたのは送る相手一人(ひとり)一人のことをみどりが()()()()考えていた証拠(しょうこ)だよ!」


 そんなふうに(はげ)ますまふゆさんにもう一度(いちど)お礼を言ってから、こんしまちゃんは部屋に(もど)った。


 ハガキ一枚(いちまい)一枚に、自分の名前を書いていく。

 相手の名前よりも小さく、二十七回「紺島(こんしま)みどり」と記入した。


 その(たば)を持って、肌寒(はだざむ)(そと)に出る。

 五分(ごふん)ほど歩いたのちに、赤いポストにハガキを()れる。


 一枚(いちまい)、一枚……名前を書いた表面(おもてめん)とイラストやお祝いの言葉を()えた裏面とを確認し、ていねいに投函(とうかん)した。

 出席番号順に()れた。ハガキを(くち)に差し()んで手を(はな)すたびに、カツン、カツンと(おと)が鳴った。最後のほうは、トオン、トオン……という音も混じった。


 二十七枚目を手放(てばな)し、トトオン……という音を聞いたあと、こんしまちゃんは赤いポストを(はな)れた。


 その直後だれかが来て、さらにトトオン……と(ひび)かせた。

 こんしまちゃんは()り返らなかった。立ち()まりもしなかった。ただ寒空(さむぞら)にこだまする一個(いっこ)静寂(せいじゃく)を聞いた気がした。


※ ※ ※ ※ ※ ♢ ※


☆今週のしまったカウント:一回(累計(るいけい)百七回)

次回「第二十七週 水平観覧車が回ってしまった!(日曜日)」に続く!(更新は十二月十二日(金)午後七時ごろです)


いつもお読みいただき、ありがとうございます。評価やブックマーク等も大変励みになります。

作者の私が調べた限りでは、登場人物の名字は全て実在するものです。「六月一日」で「むりはり」とか「委文」と書いて「ひとり」とか、いろいろ面白い名字がたくさんあるものですね!

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