最終話 走り切った?メロス
そこからのメロスは早かった路行く人を押しのけ、高そうな犬を蹴けとばし、それに怒った人も殴り飛ばし、風のように走っていった。後にこの道を通ったものはこう評した。
「あれは災害が通ったようだった」
まぁメロスはそんなことを気にせずに刑場に突入していった。
刑場ではある女性とウィリアムは言い争っていた。
「お願いします!兄を助けてください!兄は何もしていないではありませんか!」
「ダメです…本当にダメです。王様とメロスがそう約束してしまったのです」
「噓でしょ?バッカみたい何で王様がそんなことを…」
奥にいたディオニスが答える。
「あぁ…何でワシはそんな約束をしたんじゃ…寝ぼけてたとはいえセリヌンティウスは何も関係ないではないか…」
「なら早く磔台から降ろしてください!お兄ちゃんも何か言ってよ!」
セリヌンティウスの妹は上を見上げる。
「ハハハ…いいのさ…俺の命はもう尽きるのさ…見たかったなぁお前の花嫁姿…きっとお前はいい花嫁になるんだろう…まぁ結婚したら人を疑うことせず互いに秘密の無いようにな…」
「お兄ちゃん!」
妹がセリヌンティウスの足元にすがろうとして、兵士に抑えられる。
「近づくのはやめろ」
「何ですかあなたは!」
「俺はセルシウス…実を言うとメロスに帰ってきてほしいものだ」
セルシウスはメロスが帰ってくる方に賭けていたので絶対帰ってきてほしいと思っていた。
「そろそろ時間ですね…帰ってこなくて残念です」
「やはり人は信じられぬ。ワシも人間不信になるわい」
ウィリアムとディオニスは顔を俯ける。
「まぁ良いセリヌンティウスよ…貴様の最期の遺言くらいは聞いてやっても」
「そうですか…ならば俺の財宝はこの世のすべてをそこに置いてきたと…」
セリヌンティウスが遺言を言おうとしたところでメロスが磔台に飛び掛かった。
群衆は、どよめいた。あっぱれ。ゆるせ、と口々にわめいた。セリヌンティウスの縄は、ほどかれたのである。
メロスはセリヌンティウスの肩を持った。
「セリヌンティウス…私を殴れ。ちから一杯に頬を殴れ…私は途中で」
メロスがそう言い終わる前にセリヌンティウスがメロスのことを思いっきり殴った。
「ぎゃぁ!」
「言われなくても殴るわバカ野郎!何で俺がお前のために磔にされなきゃならないんだ!」
「何?!君は私を信用していなかったと…」
メロスがそう言い終わる前に後ろから頬をはたかれた。
「アンタね!お兄ちゃんを身代わりにして逃げてったのは!」
「あ、あなたはセリヌンティウスの妹さん?確かに髪も美しく顔も可愛らしい。どうだい私とお付き合いをするというのは…」
「お断りよ!」
セリヌンティウスの妹はメロスの股間を蹴り上げた。
暴君ディオニスは、群衆の背後から悶絶するメロスの様を、まじまじと見つめていたが、やがて静かに二人に近づき、顔をあからめて、こう言った。
「お前らの望みは叶ったぞ。お前らは私の予想に勝ったのだ。どのみち友情はもうそうではなかった。どうか、わしも仲間に入れてくれないか…お前たちの仲間に入れてほしい」
「い、いえいえ王様にそこまでしていただくわけには…」
固辞するセリヌンティウスに対し、その言葉を聞いてメロスは
「それならば…この後運転手が来ると思うのでタクシー代を払っておいてください」
ディオニスはひどく呆れた。