4話 いいからちゃんと走れやメロス!
シラクスの街の近く。そこで騎士が二人待っていた。
「なぁアトラス。俺達って何でここにいるんだ?」
「なんかさメロスとかいう奴が来るのかどうか。見張っておけとのウィリアム様の命令だよ」
ワットと呼ばれた騎士がそう仲間に答える。
「あぁ噂には聞いた。とんでもないのがいたらしいな。ウィリアム様も頭の痛いことで」
「ハハハ!来るわけねぇだろう。だって赤の他人だぜ?しかも噂ではとんでもないクズと言うことだ。来ないに200万賭けた」
「まぁどうせ来ねぇだろ。逆に来るって賭けてる奴いんのか?」
「シラクスの護衛のセルシウスの野郎は来るに500万賭けてたぜ」
「出たな。アイツの逆張り癖wwwあんなんだから競艇で負けて奥さんに愛想つかされんだよ」
「まぁ今回は俺らの獲得ってことで」
二人の騎士、レックスとアトラス、そしてセルシウスは賭け事が好きな悪癖があった。
メロスはシラクスの近くまで来て騎士を見つけた。
「やぁやぁ貴殿たち。シラクスの街ってどこだったか分かるか?」
レックスとアトラスは一度あちらを逡巡した。
「シラクスはあっちだが…何用だ?」
メロスは全ての事情を話した。
「私はメロス。向こうにいるセリヌンティウスを助けにやって来た!」
途端二人の騎士はこそこそ話し出す。
「おいおうどうするよレックス…何か来たじゃねぇかよ!」
「買えるかこんなもん!でも200万かぁ…嫌だなぁアイツに払うの…」
セルシウスは酒と女にだらしないということは有名であった。と言うより今まで散々カモってきた相手に金を払いたくなかったのだ。
しかしレックスは思いつく。
「あのよ…要はシラクスにこの男がこなけりゃいいんだろ?じゃあよ…」
「お、おいレックス?まさかそれは!」
「バカ野郎アトラス。てめぇもあのバカに金を払いたいのか?」
レックスはアトラスを諭す。そして…
「待て」
「何をするのだ。私は陽の沈まぬうちに王城へ行かなければならぬ。放せ。」
「どっこい放さぬ。持ちもの全部を置いて行け」
「私にはいのちの他には何も無い。その、たった一つの命も、これから王にくれてやるのだ」
「お前をシラクスに入れるわけにはいかないんだよ!」
「さては、王の命令で、ここで私を待ち伏せしていたのだな!許せない愚か者が!」
本当はディオニスはそんな命令はしていないのだが本当の理由を言えるわけもない。
二人の騎士は無言で剣を抜く。しかしメロスは恐れない。なぜなら妹の方がずっと恐ろしいからである。
「クソっ…こうなったら仕方ない…」
メロスは携帯を持ってくると電話を掛けた。
「助けて~お巡りさん!」
「ちょ、警察に電話すんのはやめろ!って言うか時代背景考えやがれ!」
「るせぇ!ブタ箱に入れられたくなきゃとっとと道を開けろ!」
「は、はい…」
レックスとアトラスはメロスに道を開けた。メロスは走って峠を下った。一気に峠を駈け降りたが、よく考えたら全く運動してないのにめちゃくちゃ走ったせいで息が切れる。
「お、俺はマラソン選手じゃないんだぞ!」
メロスはすぐに座り込んでしまった。
(よく考えたらあの王は俺がどこに住んでるかも聞かなかったんだ。俺が全力で走った結果ここで行き倒れててもそれはセリヌンティウスのために走ったことになるだろう。友情の証明にはなるだろう)
ほとんどの距離をタクシーで移動した癖にメロスは普通にそんなことを考えていた。
「セリヌンティウスに合掌…」
メロスが手を合わせようとしていると別の人間がやって来た。
「ああ、メロス様」
「誰だ」メロスは座ったまま尋ねた。
「フィロストラトスでございます。セリヌンティウス様の弟子でございます」
「あぁ弟子がいたのか…それで?」
「何でここでお休みになっているのです!あなたはメロスでしょう。走らなければ麺の無いラーメンに等しいのですよ!」
「いや陽はまだ沈まぬ」
「あの方が死刑になるんですよ!アンタのバカな約束のせいで!死んだら恨みますぜ!セリヌンティウスの妹君も恨みますぜ!」
メロスの目つきが変わった。
「何!?セリヌンティウスには妹がいたのか!」
「えぇシラクス一の美人でミスシラクスに選ばれ」
「女の子を悲しませるわけにはいかない!」
可愛い女の子が絡んでいると知った途端メロスは元気百倍。シラクスに走り出した。
「アンタおかしすぎだろ!まぁいいうんと走るがいい!」
フィロストラトスも後から追う。