2話 走りたくないメロス&死にたくないセリヌンティウス
メロスは自宅に帰った。
「おっクソ兄貴。ちゃんと結婚式のものは買ってきたんでしょうね?」
メロスの妹が尋ねる。しかしメロスはその金をほぼ使いこんでしまったのでどうしようかと悩んだ。その結果そこら辺で拾ったものを出すことにした。
「えっとまずこれが花だな」
メロスはそこら辺で摘んできた花を一輪持ってくる。
「少なすぎるし、どう考えてもそこら辺で拾ってきたようにしか見えないけど?!」
「まぁまぁそれでこれが食べ物だな」
メロスは居酒屋から取ってきた余り物を出す。
妹は凍り付きそうな冷酷な目つきでメロスを見る。
「ねぇ兄貴…結婚式用のお金どこやった?」
「君のように勘のいい妹は嫌いだよ」
メロスは全ての事情を話した。
「ばっかやろーーーーーー!」
メロスは妹にストレートパンチを食らった。
「何で居酒屋に酒つぎ込んだ挙句。それで深夜に王城に裸一貫で突入して捕まってんのよ!」
「う~む・・・若気の至りで…」
「ふざけんな!あちらがやるまでもなくこっちがお前を磔にしてやるわ!」
「まぁまぁ落ち着いて。まぁそんな訳であす、おまえの結婚式を挙げる。早いほうがよかろう」
妹は憤りで顔を赤らめた。
「そんな状態で結婚式なんてあげられるかぁ!とっととそのセリヌンティウスとかいう奴を助けて来なさい!」
なむさん妹は邪知暴虐の乱暴者であった。
「嫌だ!殺されたくない!」
「だまらっしゃい!酒飲みのギャンカスにはふさわしい末路よ!それよりここで殺された方がお好み?」
「ひ、ひぃ~!」
こうしてメロスは言われるがままに村から矢のように蹴りだされた。
私は、今宵、殺される。戻っても妹に殺される。どっちみち殺される為に走るのだ。何でこんなことになったのだろう。メロスは心の中で後悔しながら走った。
王城の中でウィリアムは磔にされていたセリヌンティウスと話していた。
「貴様も可哀そうなもんだ。どうせ帰ってこない親友のために命を張るとはな」
「フン…アイツはそんなんじゃねぇ。俺に酒を奢ってくれたんだ」
セリヌンティウスはそう答える。ウィリアムはしばらく思案していてあることを考えた。
そういえばメロスの実家ってどこにあるのか聞いていなかったな…ともしも家がシラクスのすぐ隣町にあるんだったら3日でも帰って来れるだろう。でもメロスの家が地球の反対側にあるようなところだったらまず行くだけで3日なんて経つんじゃないかと…
(ディオニス様も変な約定をしたもんだなぁ…寝ぼけてたからか?)
せめて家くらい聞いておいてもよかったのではないかとウィリアムは考えた。その為セリヌンティウスに尋ねる。
「そういえばメロスの家ってどこにあるんだ?」
「知らねぇ。行ったことないからよ」
「じゃあどこら辺の村にあるとかは…」
「知らねぇよ!俺はアイツと昨日このシラクスの街で会っただけなんだ!妹がいることも初めて知ったよ!」
ウィリアムは黙る。
「貴様…それで親友って言っていいのか?アイツの家がどこにあるかも家族構成も知らないんだろ?」
セリヌンティウスは悟った。朝起きてみたらここで磔にされていた。その時はメロスが絶対帰って来るだろうと思ったのだが…彼は恐る恐る聞いてみる。
「なぁ…降ろしてもらうことは不可能ですかね…」
「ダメです」
ウィリアムはため息をつきながらそう言った。