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1話 メロスとセリヌンティウス

 メロスは激怒した。必ず、この邪智暴虐の王を除かなければならぬと決意した。メロスには政治どころか何もかもが分からぬ。全て学校で授業を寝ていたからである。まぁそんなテストは赤点まみれであるけれど邪悪とお金と酒の匂いにだけは人一倍敏感であった。

 メロスには父も、母も無い。画面の奥に引きこもった女房兼妹(空想上)と十六の、内気な妹と二人暮しだ。この妹は「もうニートの面倒は見切れんわ!」と知らない間に村の一牧人の家に花嫁として嫁ぐことになったらしい。世話をしてくれるものが居なくなったメロスは困惑したが一牧人は昔なじみの相手でそんなに悪い人間ではないということは知っていたので、まぁこれでいいのだと思ってわざわざ重い腰を上げて色々そろえるためにシラクスの街を訪れたのである。

 2時にシラクスに着き、歩いているうちにメロスはあることに気づいた。やけに町がひっそりと静かなのだ。市全体が、やけに寂しい。店の一つも開いていない。仕方がないのでメロスは千鳥足で歩いている人をとっ捕まえて話を聞く。

「なぁ何でこの街ってこんなに静かなのだ?2年前はもうちょっと賑わってただろ」

「ふぇ?何だって?」

「何でこの街が静かなんだって聞いてんだよ!」

 メロスは肩を持ってぶんぶんと揺さぶった。

「そりゃお前さぁ…」

 赤ら顔の男は鬱陶しそうに声を上げた。




「今が午前2時だからだよ!こんな時間にほっつき歩いてる奴なんか酔っ払いか泥棒だろうが!店開いてるわけねぇべ!」

「なんだと…夜のキャバクラも開いていないとはこの辺りの国王はご乱心か…」

「ご乱心なわけねぇだろ!夜の治安が悪すぎて犯罪の温床だったから夜のその手の店は規制が強くなったの!もう(自主規制)も(自主規制2)もこの街ではできねぇの!分かったらてめぇもさっさとクソして寝ろ!あぁ酔いがさめちまったよ。クソがよ」

 頭を抱える酔っ払いにメロスはあることを持ちかける。

「まぁまぁお詫びに俺が奢るからさ」

「あ?いいのか?最近は店も減ってきて酒代はたけぇぞ?」

「いいんだよ。丁度金はいっぱい持ってる」

「ありがとな!俺はセリヌンティウスって言う石工なんだ」

 そうしてメロスは妹の結婚式用のお金でセリヌンティウスと飲みに行ったのだった。



「「カンパ~イ!」」

 メロスは酔っぱらっていた。この男はセリヌンティウスと言うらしい、酒を飲みかわすとすぐに意気投合した。

「セリヌンティウスはどうしてこんな所にいるんだ?」

「あぁん?仕事をクビになったからだよ!それでやけ酒してんだ」

「それは政治が悪いからなのか?」

「まぁそうだろうな。でないと俺みたいな優秀な奴がクビになるわけないもんな!すべて政治が悪い。国王は何も信用しないらしいからなぁ……もう何を信じたらいいかもわかんねぇよ!」

「なるほど、セリヌンティウスはクビになったのか」

「あぁそうだよ。だからこんな所でヤケ酒飲んでんだよ!俺の人生全て政治が、あの国王が悪いんだ!」

 そう聞いて、メロスは酔った勢いで激怒した。「なるほど呆れた王だ。生かして置けぬ」



 メロスは、単純な男であった。酔った勢いで足元もおぼつかないまま王城に入って行った。ロープで上から侵入したところをたちまち彼は、巡邏の警吏に捕縛された。調べられて、メロスの懐中からは龍の人形が巻き付いた短剣が出て来たので、騒ぎが大きくなってしまった。メロスは、王の前に引き出された。

「ふわぁ…起こしやがって…それでこの短剣で何をするつもりだったんだ」

 暴君ディオニスは静かに、けれども威厳を以もって問いつめた。その王の顔は蒼白で、眠ってたところを叩き起こされたため頭が働いていなかった。

「市を暴君の手から救うのだ。」とメロスは悪びれずに答えた。

「夜中に突然やって来たおまえがか?」王は、憫笑した。

「ふわぁ…冗談じゃない。夜に従者に叩き起こされた私の気持ちにもなれよ…そして天井から黒い衣装でロープで垂れ下がっていたお前を見た時の感情もな…わしも驚いたよ。寝る前にト〇ク〇ーズのスパイ映画見てたせいで夜に夢を見たのかと思ったわい」

「言うな!俺もようやく目が覚めてこんなことになったのを悔やんでるんだから!」

「陛下。このアホは殺してエク〇ディアよろしく5つに分けてどっかに封印しておきましょう」

 近衛騎士ウィリアムがそう冷酷なことを言う。

「何で俺が殺されなきゃならないんだよ!」

「普通に城に侵入してきたからだろ!城への不法侵入は重罪なんだよ!そこら辺の秩序をちゃんと保ってこその平和なんだ!」

「罪の無い人をクビにして、何が平和だ」

「知らねぇ!そもそもこの一件で城の警備が弱いとお叱りを受ける羽目になってるんだ。下手打てば兵士全員クビだ!ねぇ陛下」

 ウィリアムはディオニスに向きなおる。

「知らん。どうでもいいからワシをとっとと寝かせてくれ…」

 暴君ディオニスはあくびをしながらそう答える。メロスは俯いて続ける。

「ただ、私に情をかけたいつもりなら、処刑までに三日間の日限を与えて下さい。たった一人の妹に、亭主を持たせてやりたいのです。三日のうちに、私は村で結婚式を挙げさせ、必ず、ここへ帰って来ます」

「信用できるか!帰ってくるわけないだろそんな話でお前を逃がしたら末代までの恥だ!」

「そうです。帰って来るのです。」メロスは必死で言い張った。「私は約束を守ります。私を、三日間だけ許して下さい。妹が、私の帰りを待っているのだ。そんなに私を信じられないならば、よろしい確かセリヌンティウスとか言う男がいたはずだ。それを人質にして置いておこう。私が帰ってこなかったらそいつをエク〇ディアでも奴隷調教でもなんでもしていいですから」

「いやそれが親友に対する礼節かよ!」

 ウィリアムは激怒するが堪忍袋の緒が切れたディオニスは怒鳴る。

「もう何だっていいから早くワシを寝かせろ!明日も政務で早いんだよ!とっとと終わらせてくれ」

 ディオニスは寝ぼけ眼を擦ってそう言う。ウィリアムは困惑するが…

(いやマズいと思うけど。ディオニス様の命令は絶対だしな。まぁこの男は帰ってこないと思うけど。多分絶対に)

 さっき酒を飲んだだけのほぼ初対面の相手、セリヌンティウスは、深夜、寝ぼけたまま王城に召された。暴君ディオニスの面前で、佳よき友と佳き友は、30分ぶりで相逢うた。メロスは、何も知らない彼に一切の事情を語った。

「と言うわけでお前は人質になった」

「ハイワカリマシタ」

 セリヌンティウスは寝たままメロスに頭を持たれて何回かうなずかされメロスは裏声で腹話術のようにセリヌンティウスが話したことにして、メロスをひしと抱きしめさせた。実際ウィリアムも眠かったのでそれでごまかせた。またしても何も知らされていないセリヌンティウスさん(34)は、半ば寝ぼけたまま縄打たれた。メロスは、すぐに出発した。初夏、満天の星である。

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