第3話 絶望の波動
魔王が、俺に向かって一歩、また一歩と近づいてくる。
おい、やめろ、やめてくれ。
その歩幅、なんか処刑前のやつ!!
笑って誤魔化そうとしても、足が震えてんだよこっちは!
もうダメだ、俺も学院も詰んだ。
そう悟って、覚悟しかけた――
その瞬間だった。
二つの影が、俺の前に飛び出す。
一人目、漆黒の信奉者ゼノ。
「やれやれ……ナイトロード伝説へのこの愛が、封印由来の影響だったなんて、正直信じたくはありませんが……」
それ、信じたんかお前。
「……起源がどうであろうと、僕が信じているのは“ナイトロード様”という事実。それを蹂躙せんとする魔王には、抗わせていただきますよ」
ちょっと待て、なんでそんな正義の味方みたいな顔してんだよ!?
ちょっと前まで“暗黒の祭壇”とか言ってたよなお前!?
しかも黒マント脱がねぇのかよ!
誤解解けたんじゃねーのか!!
二人目、風紀委員長ユージン。秩序の塊。
「ふん……このノクティスとやらを完全に倒せば、この伝説騒動も終わるのだろう」
おおっと、これは典型的“誤解は暴力で終わらせる派”。
「ゼノ、貴様と共闘するなど屈辱以外の何物でもないが……秩序のためなら致し方ない」
ブレねぇな風紀委員長。制服の襟も角度も完璧だなおい。
ゼノが、魔法陣を展開する。
闇が渦巻き、空間を噛み砕くように召喚獣が顕現していく。
「影より出でよ、深淵のしもべたち……ナイトロードの威光をこの身に宿し!」
宿すなよ!?
誤解が解けても前フリ変わってねぇんだけど!?!?
黒狼が咆哮し、蛇が蠢き、闇の獣がノクティスへと突撃する。
同時に、ユージンが学院の地面に拳を叩きつけた。
「汝、大地の律に従い、静かにして強靭なる守りを示せ。鉄の胎より刃を生み、侵す者を穿て――《断鋼岩》!」
大地が隆起する。鋼鉄混じりの岩壁が、刃の群れを孕みながらせり上がる。
うわ……相変わらず性格みてぇに魔法も硬ぇ。
金属の槍が、魔王へと迫る。
ゼノの召喚獣たちが地を蹴り、黒の奔流となって突撃する。
「魔王だろうが関係ない……ここは、“学院”だ!!」
その言葉に、空気が揺れる。
戦場の端で、アルマとセリーヌが息を呑んで見守っていた。
「……これなら……!」
アルマの顔に、ほんの僅かに希望が灯る――
──その瞬間だった。
「――闇の咎」
ノクティスが淡々と呟くと、周囲の空気が一変した。
ゼノの召喚獣が突進した瞬間、それらの影がまるで紙のように"潰された"。
黒狼の体が圧縮され、蛇たちが次々と断ち切られていく。
「な……!?」
ゼノの目が驚愕に見開かれる。
彼の周囲の影がノクティスに吸い込まれ、逆に彼自身が呑み込まれそうになる。
「影の召喚を……"逆流"させた!?」
ユージンの土の壁が猛然と迫る。
金属の槍が無数に降り注ぎ、学院の大地の全てが魔王を押し潰さんと動く。
しかし――
ノクティスは、ただ片手をかざしただけだった。
「──闇穿つ波動」
轟音とともに、黒い波動が炸裂する。
土の壁は粉々に砕け、金属の槍がひしゃげて落ちる。
ユージンが眉をひそめ、すかさず次の魔法を詠唱するが――
「遅い。」
ノクティスの指が軽く動いた。
――ドンッ!!!
衝撃が広がる。
ゼノの体が、召喚獣ごと弾き飛ばされる。
ユージンの足元が崩れ、闇に蝕まれる。
「ぐ……っ!」
二人は膝をつきながらも、それでも立ち上がろうとする。
「まだ……だ……」
「秩序は、そう簡単に……崩れん……!」
けれど、ゼノの影はもう消え、ユージンの大地も応えない。
マナは尽き、術は発動すら叶わなかった。
「……これが、“魔王”……」
ゼノが、悔しげに目を伏せる。
ノクティスが、冷淡に宣告する。
「無力な者は、ただ“絶望”するほかない」
――だが。
「ゼノ!」「ユージン!」
生徒たちが駆け寄る。信奉派も秩序派も、関係なかった。
仲間として、学院生として、回復の魔法とポーションが差し出される。
「まだ、終わっていません……!」
ゼノが、震える手で立ち上がろうとする。
「伝説になんぞ……屈してたまるものか……!」
ユージンもまた、拳を握りしめる。
アルマが唇を噛みしめ、セリーヌが凍えるような指先で魔法陣を描こうとする。
戦場に、恐怖と沈黙と、それでも消えぬ灯が漂っていた。
ノクティスが、わずかに口角を吊り上げる。
「――さて。“器”よ。次は貴様だ」
その眼差しが、まるで世界の摂理を定めるかのように、真っ直ぐに俺を射抜いてきた。
……マジかよ。
いや、ちょっと待ってくれ。
俺、ただの“学院生”だからな!?
戦うためにここにいるんじゃないんだよ!?
俺の得意分野はレポート提出の〆切遵守であって、
魔王と対峙することじゃねぇんだよ!!!
――そう、心の中で必死にツッコんでも、
魔王の視線も、冷笑も、寸分たりとも揺らぐことはなかった。
この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。
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