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魔法学院の七誤解  作者: チョコレ
終章 深淵より出でし者
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第2話 夜を統べる覇王

 魔王を前にして、俺が絶望に沈みかけたそのとき――

 二つの影が、闇を裂いて現れた。


 一つは白銀の影。

 学院の盾、生徒会長セリーヌ。


 一つは金色の影。

 光の才女、特待生アルマ。


 本来であれば、学院長や教員たちが倒れても、生徒会の精鋭が次なる盾となって立ち向かっていたはずだった。


 だが中庭は、魔王の降臨とともに黒きドームに包まれ、外界との接触は断たれた。 セリーヌの指示で魔石保管庫へと向かった生徒たちは、今やこの闇の中には入れない。


 誰も――

 俺たちを助けに来ることはできない。


 魔王が現れる少し前、学院長が言っていた。

「光魔法に長けた者は、誤解の影響を受けにくい」と。


 つまり、俺の“封印の説明会”には、最初からそうした光属性の魔法使いたちはほとんど来ていなかった。


 結果として――

 いま、魔王という絶対的な“闇”に抗える光の使い手たちは、この闇の結界の外にいる。


 だが、濃すぎる闇がすべてを覆い隠し、視界も気配も遮断されている。

 外の仲間たちに、この中の状況はまるで届かない。


 つまり――

 ここに残された俺たちだけで、この魔王に立ち向かうしかない。


 ……どう考えても、詰んでるだろこれ。


「……これは、ただの“誤解”で終わらせない」


 アルマが、低く言い放つ。

 手に現れたのは、光で出来た一本の剣。

 それは、“意志”そのものの具現だった。


 ――うそでしょ。

 俺が諦めてる間に、恋する乙女、マジの覚醒入っちゃってる……。


 その隣では、セリーヌが静かに氷槍を編み上げていた。

 女王のように凛とした佇まい。

 けれど、その瞳には怒りと覚悟が宿っている。

 さすが、生徒会長。

 俺の姉貴、歩く死神と渡り合うだけのことはある……!


「学院が……仲間たちが……あなたに奪われるなんて、絶対に許さない」


 ……お、おい……これ、もしかしていけるんじゃね?

 俺、助かるパターンある??


 冷気が鳴り、霧が揺れる。


 二人は、視線を交わし、深く頷いた。


「――私たちが、止める」


 アルマの光の剣が、光を引いて閃く。

 セリーヌの氷の槍が、氷の轟きを残して疾る。


 それは、美しかった。

 まるで光と氷が奏でる“拒絶”の協奏。

 世界が絶望へ沈もうとする中で、それでも抗おうとする二つの光。


 だが――


「……これが、抵抗か。」


 ヴェル=ノクティスが口を開いた。

 その声は、静かでありながら、どこまでも深く、冷たかった。


「――すべては“終わり”へ収束せよ。我が名は深淵。この手にて、世界の律を塗り替える。今ここに、帳を下す――闇の裁定(アビス・ディクタム)。」


 空間が、ねじれた。


 “音”が消えた。

 “感覚”が剥がれた。


 次の瞬間、二人の全ての攻撃が――

 “消滅”した。


 アルマの光剣は砕け、

 セリーヌの氷槍は霧と化す。


 あまりに唐突で、あまりに理不尽。

 まるで“最初から存在しなかった”かのように。


「な……っ……!?」

 アルマの瞳が揺れる。


「そんな……こんな……っ……!」

 セリーヌの声が震える。


 それでも、二人は立っていた。

 折れない。諦めない。

 それが、彼女たちの“核”だった。


 ヴェル=ノクティスは、ゆっくりと片手を掲げた。

 その動き一つで、空気が、世界が――沈む。


「抗いは美しい。だが、美しさなど、力にはなれぬ。」


 空が落ちる。

 地が沈む。

 光が、溶けていく。


「この世界において、“闇”はすべてを超越する。」


 学園に張られたあらゆる術式が、呆気なく塗り潰された。

 それは、黒に染まるだけの話だった。


「抗うことなど、許されない。」


 アルマの手から、光が消えた。

 セリーヌの氷が、音もなく融け落ちた。


「これが……“魔王”……!」


 二人の顔に、ついに“恐怖”の色が滲む。


 それでも、最後の光を振り絞るように――


「天に座する聖の理よ、偽りを裁き、闇を裂け。真理の光、いま走らせよ──聖閃条(ホーリー・アーク)!」


 アルマが叫ぶ。

 裁きの光が、爆ぜるように走る。


「氷は天を裂き、槍と化す。砕け、穿て、全てを白銀の墓標へと変えん――氷天槍グレイシャル・スパイト!」


 セリーヌもまた、氷の魔法陣を発動し、

 凍てつく奔流が夜を裂く。


 ――だが。


「無駄だ。」


 ヴェル=ノクティスが、ただ指先を動かした。


 そして。


 世界が、静止した。


 音が止み、時間が沈黙し、すべてが“凍った”。


 光は砕け、

 氷は溶け、

 剣も、槍も、魔法も。

 何一つ――届かない。


「貴様らの“希望”は、儚く美しいが――それだけだ。」


 彼は手を広げ、ゆっくりと下ろす。


「光も氷も、闇の前では無に等しい。」


 黒の波動が、地を裂きながら押し寄せる。

 その濁流が、アルマとセリーヌを呑み込もうとしていた。


 俺は――ただ、見ているしかなかった。


 彼女たちの勇気が、美しすぎて。

 その無力さが、残酷すぎて。

 この場で戦う“意味”すら、見失いそうになっていた。


 ――どうして、こうなった?


 その答えは、闇の中で笑っていた。


 ヴェル=ノクティスは、微笑みながら囁いた。


「さあ、次は……お前の番だ、我が器よ。」


 俺は、震えていた。


 これは、もう抗いじゃない。

 これは、支配だった。

この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。


https://ncode.syosetu.com/n8980jo/


「続きを読みたい!」と思っていただけた際は、ぜひ【★★★★★】の評価やコメントをいただけると嬉しいです。Twitter(X)でのご感想も励みになります!皆さまからの応援が、「もっと続きを書こう!」という力になりますので、どうぞよろしくお願いいたします!


@chocola_carlyle

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