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魔法学院の七誤解  作者: チョコレ
第七誤解 封印の臨界点
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第4話 影の学者

 図書館での死闘(俺vs魔法理論書)を終え、

 精神的HPをゼロにしながら廊下をふらふら歩いていたそのとき――


 どこか不穏な気配を感じた。


 学院の掲示板に、一枚の文書が張り出されていた。

 しかも、やたら目立つレイアウトと黒インクの怪文書感。


『封印はすでに解かれた』

『ナイトロードは覚醒しており、いずれ魔王となる』

『学院の封印は、実は覚醒を促すための装置だった』


 ――署名:影の学者


「…………は?」


 思考が一瞬止まった。

 なにこの陰謀フルコース。


「おい、誰だよ影の学者って!? あと、何この電波文書!?」


 頭を抱えながら思わず声が漏れる。


 だが――気づいたときには、もう遅かった。


 この手の話題に、学院生たちは異常なまでの反応速度を見せる。

 文書が張り出されてから数分もしないうちに、もう噂は広まっていた。


「え、マジ? これ本物なのか!?」

「最近、封印のマナが不安定だったって話もあったし……」

「つまり魔王は、もういつ覚醒してもおかしくない……?」


「いやいやいやいやいや!!!!」


 慌てて叫んだ。


「俺、今も昔も普通だって言ってんだろ!!!!!」


 なのに、耳を貸す者はいない。


 情報という名の暴走列車は止まらず、誤解は伝説へ、伝説は既成事実へと進化していく。


「くそっ、またかよ……!」


 俺が頭を抱えてうずくまっていると――

 横から、あまりにも楽しそうな声がした。


「学院の噂の広がり方って、素晴らしいですよねぇ♪」


 黒衣のメイド、リリスが紅茶片手に微笑んでいた。

 どこから出てきた。

 というか、お前いつもタイミング完璧かよ。


「楽しんでる場合か!!」


「いえいえ。“ナイトロード伝説”が新たな章を迎える瞬間ですから♪」


「そんな連載方式で語るな!!」


 リリスは掲示板の怪文書を指先でトントン、と軽く叩く。


「……しかし、“影の学者”とは、妙な署名ですね。」


 瞳が一瞬だけ細くなる。


「これは、単なる誤解の類ではありません。

 お坊ちゃまを利用しようとする、意図的な情報操作の気配がします。」


「誤解でも操作でも、俺にとってはどっちも等しく迷惑なんだけど!?」


「つまり――誰かが裏で動いているということ。」


 リリスはそう言うと、何事でもないように紅茶を一口。

 その仕草が優雅すぎて、逆に怖い。


「……となれば、黒幕を炙り出すのも、私の役目ですね。」


 淡々とした口調の奥に、ほんのり殺意がにじんでいた。


「おい、また面倒ごとが増えたんじゃねぇの……?」


 俺がうんざりした顔をしていると、リリスは実に楽しそうに微笑んだ。


「学院の混乱は、ある意味“お祭り”のようなものですから。」


「いや、普通の祭りはもうちょっと平和だよ!?」


 そしてそのとき。


「ふぉっふぉっふぉ……どうやら事態が、ずいぶんと賑やかになっておるようじゃのう」


 ゆるやかな声が空気を割る。


 現れたのは、学院長。

 長い白髭を撫でながら、いつもの調子で歩み出る。

 だがその足取りには、微かな圧があった。


 杖をひと突き。

 トン、と地を鳴らすだけで、ざわついていた生徒たちが一斉に静まりかえる。


「これは流石に、放置すれば混乱を招くやもしれんの。

 学院の外からの干渉も繰り返され、疑心と不安が積もっておる。

 ……ならば、明かすとしようか。わしらの学院で何が起きておるのかをのう」


 彼の目が、まっすぐこちらを見据える。

 その口調は穏やかだが、何かを“始める”者の声だった。


「封印術式を研究しておるヴィクトル教授に、正式な場を設けてもらおう。

 “ナイトロード封印の真相”についての、学院としての説明会じゃ」


 ──えっ。


 聞き間違いかと思った。


 だがその瞬間、周囲の教師たちが動き出し、

 生徒たちが「説明会!?」「やっと正式発表が!?」とざわめき始めていた。


 こうして――

 封印に関する説明会が、正式に開催されることとなった。


 ……いや、何この展開。

 いつの間に俺、“公式対応案件”になってたんだ?

 誰も俺に確認すら取ってないけど???


 俺は深く、重く、ため息を吐く。


「……俺の意思、どこいった……?」


遠くから聞こえる、やたら元気な声。


「封印説明会の整理券、あと三枚ですー! お急ぎくださーい!」


 ……いや待て、整理券って何だよ!?

 説明会にプレミアつくのおかしくね!?俺、出演者じゃないよな!?


「ふむ……希望者があまりにも多すぎては、大講堂では混乱が起きるやもしれんのう」


 学院長がゆるりと首をひねりながら一言。


「ならば……毎年学院祭で使っておる特設会場を、少し早めに出してもらおうかの」


 ……は???


「おぉ、お坊ちゃま専用の舞台が。これはもう、誤解を超えて“神話の演目”と化しましたね」


 リリスが紅茶を啜りながら、実に楽しげにとどめを刺してくる。


「俺は!出し物じゃねえっつってんだろおおお!!!

 なんで学院祭のステージに、俺が立たされてんだよぉぉぉ!!」


 叫ぼうが嘆こうが、誰も止まってくれない。

 学院の設営班は魔導幕を展開しはじめ、生徒たちは整理券を手に大はしゃぎ。

 そしてヴィクトル教授は「演出資料の再構成が必要だな……」と魔導スライドとにらめっこ中。


 ……俺の学院生活は、もはや取り戻せないレベルに変形していた。

この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。


https://ncode.syosetu.com/n8980jo/


「続きを読みたい!」と思っていただけた際は、ぜひ【★★★★★】の評価やコメントをいただけると嬉しいです。Twitter(X)でのご感想も励みになります!皆さまからの応援が、「もっと続きを書こう!」という力になりますので、どうぞよろしくお願いいたします!


@chocola_carlyle

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