第1話 学食の神話
寝坊騒動の翌日、昼休み。
腹が減った俺は、普通に学食で飯を食おうとした。
普通に。
だが、この魔法学院では「普通」が最も許されない行為らしい。
学食の扉をくぐった瞬間、それまでざわめいていた空間がピタリと静まり返った。
……あれ? なんか、みんな俺を見てないか?
視線が重い。いや、尋常じゃなく重い。
席を探して歩き出すと、周囲の生徒たちがさりげなく道を開ける。
……いや、開きすぎだろ。
まるで王の入場みたいになってるんだが。
戸惑う俺に、後ろから静かな声が囁かれる。
「生徒たちは、お坊ちゃまを畏れているようですね。」
振り返ると、リリスがどこか楽しげに微笑んでいた。
「お坊ちゃまの一挙手一投足が、学院の神話となるのです。」
「いや、俺、今ただ飯食おうとしてるだけなんだけど?」
「ですが、皆様はそうは思っていないようですよ。」
確かに、周囲の生徒たちの視線は異様だった。
全員が俺のトレーに乗った食事を凝視している。
「……ナイトロードが、最初に選ばれた食事は…?」
「何を食べるかで、我々の未来が決まるかもしれない…」
「この世界の法則が変わる可能性すらある…!!」
何を大げさな。
そう思いながら、俺は適当にトレーの上のパンを手に取る。
その瞬間――
食堂の空気が凍りついた。
「ナイトロードが最初に食したのは……!」
「……この世界で最も神聖な食べ物……!!」
「いや、ただのパンだ!!!」
直後、誰かが走り去るのが見えた。
「早く報告しろ!!パンを選ばれたぞ!!!」
「パン派だったのか……!!」
「まさか…世界の真理がそこに…!?」
俺はパンを持ったまま、食べるタイミングを完全に失った。
横では、リリスが静かに言う。
「お坊ちゃま、食べるのを躊躇してはいけません。今の生徒たちの関心を考えると、食事の仕方一つでさらなる伝説が生まれますよ。」
「いらねぇよ、そんな伝説……」
仕方なく、俺はパンをかじった。
その瞬間――
「ナイトロードが、食された…!!」
「食べる動作すら荘厳…!!」
「噛むリズムに意味があるのでは…?」
「何の話だよ!!!!」
……こうして、ただの学食が「ナイトロードの神聖な儀式」として学院に語り継がれることになった。
もう嫌だ。
俺は普通に飯が食いたいだけなのに。
リリスは相変わらず涼しい顔で紅茶を啜っている。
「…お坊ちゃま、食事が終わりましたら、次の予定を確認いたしましょう。」
「予定ってなんだよ!? 俺はただの学生生活を送りたいんだが!?」
「ですが、この学院ではそれは最も困難な道かもしれませんね。」
「意味がわからん……」
そうこうしていると、遠くから「門が開かないぞ!」という謎の声が聞こえてきた。
……これ、絶対俺のせいにされるやつだろ。
この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。
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