第10話 影に生きる者
もし、封印が本当に崩れたなら――
私は、お坊ちゃまを……?
「魔王の封印は真実だった」
「彼こそが、新たな時代を導く存在となる」
学院では、そんな言葉が当たり前のように飛び交っている。
まるで、それが“決まっていた未来”であるかのように。
その熱は、理屈を超えていた。
信仰に近い。いいえ――狂気と紙一重だった。
でも、それは“真実”じゃない。
ただの“物語”だ。
お坊ちゃまは、何も望んでいない。
ナイトロードの名も、封印の宿命も、すべてが彼にとっては迷惑でしかない。
それでも世界は、彼を特別だと決めつけ、本人の意思とは無関係に“運命”を背負わせようとする。
――私は、ずっと“監視者”だった。
封印が解かれ、彼が脅威へと変わったその瞬間。
私は、迷わず刃を振るわなければならない。
それがナイトロード家から与えられた役割であり、
私が彼のそばに在る、唯一の理由だった。
短剣を持ち、“その時”を待つ。
それが、私という存在の意味だった。
……はずだった。
「……私は、お坊ちゃまを、守りたいと思っているのですね。」
ふと漏れた言葉に、私自身が驚いた。
そんな気持ち、一度も考えたことはなかったのに。
“監視”でもなく、“処分”でもなく。
私はただ、あの方を“守りたい”と、そう願っていた。
それが、どれほど愚かな想いか。
理解しているつもりだった。
私は命令に背こうとしている。
ナイトロード家の意向に逆らえば、“裏切り者”として処される。
それまで積み上げてきた存在の意味は、跡形もなく失われる。
じゃあ、私は何のために生きてきたのか。
“処分役”としての使命こそが、私のすべてだった。
お坊ちゃまが封印を破るのなら、私は迷わず刃を振るう。
それが与えられた役目であり、疑うことなどなかった。
――なのに、どうして。
私は、彼のそばにい続け、
封印が揺らぐたびに、その“崩壊”を食い止めようとしている。
もし、封印が解けることが私の務めを果たす瞬間だというのなら――
なぜ私は、その時を必死に遠ざけているのか。
なぜ、彼を斬ることが“正解”だと知りながら、
どこかで、それが“間違い”であってほしいと思ってしまうのか。
これは、与えられた役割への背信か。
それとも、ただの“私の願い”なのか。
お坊ちゃまは、戦わない。
それがあの方の本質であり、生き方だ。
ならば私は?
私の刃は、あの方を斬るためにあるのか。
それとも――生かすためにあるのか。
この気持ちは、甘えか、それとも覚悟か。
答えはまだ、出ない。
けれど、一つだけはっきりしている。
その選択の時は、確実に近づいている。
私は、その瞬間に何を選ぶのか。
あの方の運命を、どちらへ導くのか。
私の刃は、誰のために、何のために存在しているのか。
世界に従うのか。
それとも、ただひとりの願いに従うのか。
――私は、試されている。
それが“運命”だというのなら。
私は、何を望むのだろうか。
この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。
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