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魔法学院の七誤解  作者: チョコレ
序章 誤解の目覚め
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第6話 見守る影

 鏡の中の自分を見つめ、ふと、微笑んだ。


 ――滑稽だ。


 黒のメイド服、優雅に揺れるエプロンの裾、

 精緻な刺繍が施されたカフス、白磁の肌を引き立てる黒の装い。

 忠実な従者を演じるには、完璧な装いだろう。


 けれど、私は本来、こうした役割を担うべき存在ではなかった。

 忠誠を誓うことも、誰かの影に甘んじることもなく、

 ただ音もなく標的を仕留める暗殺者――

 それこそが、私のあるべき姿だったはずだ。


 それなのに、今こうして、私は"従者"としてこの学院にいる。

 お坊ちゃまの傍に。

 封印の監視者として。


 黒衣に身を包む私が、従順なメイドの微笑を浮かべるなど、

 戯言のようだ。


 だが、この役割を演じ続けるうちに、私はあまりにも馴染みすぎた。

 それがひどく可笑しくて――私は微笑んだのだ。


 それにしても、思う。


 この学院は、なんと愚かなのでしょう。


 彼らは、目の前の現実ではなく、伝説を信じる。

 確かな知識ではなく、曖昧な言い伝えを受け入れる。

 理ではなく、物語を語り継ぐ。


 マナの些細な揺らぎを「封印の兆し」と捉え、

 偶然の出来事すら「魔王の覚醒」と称える。

 まるで、この世界はお坊ちゃまを中心に回っているかのように。


 そして、学院の者たちは自らその"幻想"を強固なものへと仕立て上げる。

 事実を覆い隠し、

 "伝説"として飾り立て、

 やがて、それを"真実"として語るのだ。


 普通ならば、そんなもの、馬鹿げていると笑い捨てるべきだろう。

 だが、ひとつの疑問が私の中に芽生える。


 ――もし、人が事実だけを見つめ、理のみに従い、

 何も信じず、すべてを冷静に受け止めるだけの存在だったなら、

 この世界に奇跡は生まれたのだろうか?


 伝説が力を持つということ。

 それは、ただの愚かさではなく、

 "世界を動かす力"なのかもしれない。


 そう、例えば――お坊ちゃまのように。


 彼は、何も求めていない。

 何も望んではいない。


 それなのに、世界の方が勝手に動き、彼に新たな伝説を押し付けていく。

 意図せず、運命を左右し、歴史に刻まれる存在。


 普通であるはずなのに、普通ではいられない。

 何もしていないのに、世界が彼を中心に回っていく。


 もし、彼が望めば、世界は彼の手のひらに落ちるでしょう。

 それでも彼は、決してそれを求めない。


 これまで私が仕えてきた"主"たちは、皆、力を誇り、権威を求めた。

 彼らは望み、手に入れ、それを保とうとする者たちだった。


 だが、お坊ちゃまは違う。


 彼は、何も望んでいない。

 それなのに、すべての理が彼に向かって動き出す。


 ――それは、"運命"なのか。それとも"呪い"なのか。


 私は、監視者。

 封印の均衡を崩すようなことがあれば、その瞬間に処断する。

 それが、私の使命。


 だが、もし"伝説"が世界を動かすのなら、

 もし"誤解"が現実を超えるのなら――

 お坊ちゃまは"魔王"となるのか。


 彼は、自ら力を誇示しない。

 それでも、彼の周りには勝手に伝説が積み上げられていく。

 世界が、彼を"そういう存在"として認識するのなら、

 私は、その時どうすべきなのだろう?


 お坊ちゃまが"魔王"となる兆しを見せるのなら――

 私は、この手で、終わらせる。

 それが、私に課せられた使命。


 鏡の中の私が、静かに微笑む。


 黒衣の裾を整え、背筋を伸ばす。

 "従者"としての完璧な装い、"監視者"としての揺るがぬ意思。


 この役割を演じきる限り、私は何も迷わない。


「そろそろ、次の準備をいたしませんと。」


 いずれ"封印"が揺らぐ時が訪れるでしょう。

 その時、私はどうするのか。


 ――彼を守るのか、処断するのか。

 その問いに答えを出せるのは、まだ少し先のことのようです。

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@chocola_carlyle

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