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魔法学院の七誤解  作者: チョコレ
第五誤解 禁断の茶宴
55/94

第7話 紅茶決戦

 俺は、限界だった。


「……もう飲めねぇ……」


 何杯目だかわからない。

 胃の中は完全に“液体”。

 口の中は常に茶葉の残像が渋みと共に張り付いてる。


 それでも、

「ナイトロード様の最も忠実な従者を決める試練」なる

 謎ルールのもと、紅茶の波は止まらない。


「ナイトロード様、こちらが“星詠みの雫”ですわ!」

「いえ! 私の“至高の一滴”をお先に!!」

「この香りこそ、真の従者にふさわしい……!」


 誰か、俺を助けてくれ……!!!!!


 目の前にズラリと並ぶ、圧巻のティーカップ軍団。

 紅茶の祭壇かよここは。


 ミルクティー、レモンティー、ハーブティー。

 そして──


「……待て、これ何色だ?」


 目の前の液体、もはや光ってるんだが?


「ふふ……西の大陸にそびえる世界樹。その神秘の葉を、特別に発酵させたものですわ!」


「世界樹!?!?」


 それ、紅茶にしていい代物じゃねえだろ!?!?

 国際問題にならない!?!?


 恐る恐る口をつけた瞬間――


「……ッ!?」


 脳の奥をガツンと殴られたような衝撃。

 苦くも渋くも甘くもない。なのに複雑すぎて言語化不能。

 これ、本当に飲み物か!?

 命の根源じゃない!?!


「ナイトロード様、いかがでした?」


「……何がどうなったのかわかんねぇ……」


 言語も感覚も一瞬置いていかれる。

 なのに周囲の貴族たちは「ふふっ」と微笑んでやがる。


 胃も、脳も、魂も、そろそろ限界だった──


「……代わりに、私が出すわ」


 そう言って前に出たのは──


 アルマ。


 金髪碧眼。天才特待生。俺の恋の終着点。


「雑味を除去できれば、紅茶そのものの評価ができるでしょ」


 そう言って、カップに金色の光をそっと流し込む。


「……何してんだ?」

「光で不純物を浄化してるだけよ。理論上はできるから」

「理論上って言うな!今、俺の胃、現実なんだよ!!」


 だが俺はもう、逃げられなかった。


 ここで「飲めません」とか言えば、

 ゼノとかが「これはナイトロード様の意思を拒絶する反乱だ!」とか言い出しかねない。


 ……もういい。飲むしかない。


 覚悟を決めて、アルマの紅茶を一口。


「……うまい」


 喉にすっと入る。軽いのに芯がある。

 派手さはない。ただ、うまい。

 それだけのはずなのに、胃も心も、すっと落ち着いていく。


 俺は静かに告げた。


「……アルマの勝ちだ」


 次の瞬間、会場が静まり返った。


「ナイトロード様が従者を選ばれた──!!」

「アルマ様こそ、闇を導く至光の巫女!!!」

「これはもう……叡智と忠誠の、究極の融合……!!」


「いやなんでそうなんだよおおおおおおお!!!!」


 お前ら、紅茶の感想を宗教改革みたいに語るな!!!


 そのタイミングで、アルマが淡々と口を開いた。


「……これで、あなたを観察できる位置に立てたわね」


「……は?」


「図書館で“誤解の伝播”を観察してたの。でも、外側からじゃ限界があったのよ。

 従者としてそばにいれば、あなたの言動・行動パターンを定点で記録できる」


「……俺、ずっと研究対象だったのかよ……」


 あの淡々とした指導も、

 さりげないフォローも、

 時折見せた笑顔すら──


 全部、実験記録用のリアクションだったんかい!!!


 うわあああああああああ!!

 俺、完全にひとりで浮かれてたやつじゃん!!

 マジで今すぐ自分を熱湯で抽出して捨てたい!!!


 頭を抱えたその隣で──


 リリスが、ゆるやかに微笑んだ。


「……もう、お坊ちゃまの紅茶は、私の役目ではないのですね」

「……え、なんか今の、声色が1度低くなかった!? 怖くない!?」

「気のせいですわ」


 いや、絶対気のせいじゃねぇぇぇぇぇ!!!


 こうして──


 俺の誤解は、制度になり、

 紅茶は、伝説になり、

 恋は、観察レポートになった。


「……頼むから、俺を“普通の学院生”に戻してくれ……!」


 俺の叫びは、冷めたティーカップの底で、静かに蒸発していった――。

この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。


https://ncode.syosetu.com/n8980jo/


「続きを読みたい!」と思っていただけた際は、ぜひ【★★★★★】の評価やコメントをいただけると嬉しいです。Twitter(X)でのご感想も励みになります!皆さまからの応援が、「もっと続きを書こう!」という力になりますので、どうぞよろしくお願いいたします!


@chocola_carlyle

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