第5話 誤解の加速
これはもう、ダメかもしれない。
目の前では、生徒会長とリリスの戦闘が終結し、生徒たちが信じられないものを見るような目で俺を凝視していた。
やばい。このままでは、俺の人生がとんでもないことになる。
何か言わなければ。この誤解を解かなければ――!
「違う! 俺は何もしてない!!!」
俺の必死の訴えに、生徒たちは深刻そうに頷いた。
「…やはり、己の力にまだ気づいていないのだな…」
「ならば、我々が彼の伝説を語り継がねば…!」
「なぜそうなる!?」
俺は顔を覆い、絶望に打ちひしがれた。違う、そうじゃない。
なぜ話が「俺がすごい」という前提で進んでいるんだ!?
誰も「そもそも間違いでは?」とは考えないのか!?
そんな俺の混乱をよそに、リリスが静かに呟いた。
「…お坊ちゃま、これはもう止まりませんね。」
俺は涙目でメイドを見る。
「お前も何とかしろよ!?!」
「…それは難しいかと。皆さん、とても楽しそうですし。」
「楽しそうって何だよ!? この状況のどこが楽しいんだ!??」
ちょっと落ち着いて思い出してみよう。
俺は魔法学院の一年生。秋から入学したばかりの新参者だ。本来なら春に入るはずだったんだが、学院側の「結界調整」とやらで半年遅れた。俺のせいで半年間も学院の防御結界を張り直すことになったらしい。
「お前に施されている封印はかなり特殊だからな」
なんて冗談めかして家族に言われた記憶はあるが、
「学院の結界に干渉するレベルでヤバい」なんて一言も聞いてない!!
それにしても、入学を待っている間にとんでもない話を聞いた。魔法学院には「七不思議」とやらがあって、昔から伝わる不思議な現象や試練が存在するらしい。俺もそれを攻略してみたかったんだが――
なんと、それを夏休みの前に突破したのは俺と同じ一年生だった。しかもそいつ、十三歳の飛び級生で特待生枠。金髪碧眼の天才少女。
……くそっ、うらやましい。
七不思議とか、そういうのを攻略するのが学院モノの醍醐味だろ!?なのに、俺が入学する前に全部終わってるってどういうことだよ!?
そんなこんなで、俺はナイトロード家の戦闘メイド――じゃなかった、監視役としても超有能なリリスと共に魔法学院にやってきた。
普通、学生がメイドを連れて登校するか!?
いや、絶対に笑われると思った。バカにされると覚悟してたんだ。
だが、実際は違った。
寮の扉を開け、一歩足を踏み出した瞬間、周囲の視線が突き刺さる。
それも、まるで"生きた伝説"を見るかのような目で。
「黒き従者を伴いし者、まさに伝説……!」
「魔王の力を持つ者には、メイドは必須……!」
どこで情報が漏れたのか、俺の中に"何か"が封印されているという噂が流れていたらしい。そして、黒服のメイド・リリスは"封印を守る従者"という設定になっていた。
……確かに、大体合ってるんだが。
結果、俺がただ廊下を歩くだけで、こんな囁きが飛び交う。
「ナイトロードの威圧感……!」
「あれは"秘めたる力"を抑えているのでは……?」
「普通の人間なら、封印の重みに耐えられないはず……!」
……もうダメだ。
気づけば俺の一挙手一投足が、"意味を持つ"ことになっていた。
俺の存在自体が"何かの証"とされ、封印の正体についての憶測が憶測を呼ぶ。魔王とか、悪魔だとか、禁忌だとか。この噂の暴走は止まらず、どんどん膨れ上がっていった。
そして、秋に入学してから半月。
噂は完全に制御不能となり、俺が寝坊しただけで学院中が大騒ぎになっていた。
…いったい何がどうなってるんだ。
ぼんやりと考えていると、隣に控えていたリリスが静かに口を開く。
「…お坊ちゃま、どうされました?」
「いや、普通の学生生活を送るはずだったよな?」
「ええ、そのはずでしたね。」
「なのに、なんで入学して半月で"伝説"が始まってるんだ?」
リリスは微笑を浮かべ、静かに言った。
「お坊ちゃまが普通の学生ではない、ということではないでしょうか?」
「意味がわからん!!!」
こうして、俺の魔法学院生活は――
誤解と共に進むことになった。
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