第9話 閉ざされた鼓動
夜は、とっくに更けていた。
それなのに――
俺は、ベッドの上で、ひとり天井を見つめていた。
眠れねぇ。
ファイヤーダンスの盛り上がりも、賑やかな懇親会も、
今ごろみんな夢の続きに入ってる時間なのに。
なのに俺だけ、目が冴えたまま、
どうにもならない夜を抱えている。
こんな夜、これまでにも何度かあった。
けど――今夜は、ちょっと違う。
胸の奥に、引っかかるものがある。
かたちも、名前も、わからないけれど。
ただ、そこに“何か”がいる。
それだけは、妙に、はっきりとわかった。
……俺は、いったい何なんだろうな。
周囲が勝手に盛り上げる“伝説”だの“魔王”だの。
あんなの、冗談だと笑い飛ばしたかった。
だけど。
俺には、現実に――
封印が施されている。
これだけは、嘘じゃない。
幼い頃の記憶。
親父と母さんが、ひどく動揺していたあの夜。
「この子には、“何か”がある」
押し殺した声。
震えた空気。
それを、幼い俺は――
きっちり覚えている。
封印は、“それ”を抑えるために施された。
あるいは、俺自身を、守るために。
だから俺は、小さい頃から、
闇魔法を叩き込まれて育った。
使いこなすためだけじゃない。
“制御”するために。
ナイトロードの名を継ぐ者として。
自分自身に呑み込まれないために。
――だけど。
俺は、そんな力なんか、本当は欲しくなかった。
魔法も、伝説も、全部いらない。
欲しかったのは、たったひとつ。
“普通の、静かな日々”だけだった。
屋敷で繰り返される退屈な訓練。
貼りついた“後継者”の肩書き。
そんな世界に、息が詰まりそうだったから。
だから、願ったんだ。
「魔法学院に行きたい。普通の生徒として。」
外の世界を知りたかった。
自由に、笑ってみたかった。
それだけだったのに。
……なのに。
惚れた相手には全力で決闘を挑まれ、
専属メイドには毎日ガチ監視され、
封印を狙う謎のやつらは、学院の結界すら素通りしてくる。
いや、どうなってんだよこの世界!?!?
俺、ただ――
放課後にパンかじって帰りたかっただけなのに。
……俺の安寧、どこいった。
はぁぁぁぁ。
深くため息をつき、
枕に顔を埋める。
柔らかい枕だけが、今も、裏切らない。
でも――わかってる。
もう、引き返せない。
俺の中の“何か”も、きっと。
じっと、動かず、息を潜めながら。
どこかで、目を覚ます時を待っている。
だからせめて、今だけは。
この騒がしすぎる心を、
少しでも、眠らせてくれ。
――そう、願いながら。
俺は、目を閉じた。
この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。
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