第6話 決戦の幕開け
覇魔戦の決闘場――
なあ、なんで俺はこんな場所に立ってんだ?
ど真ん中。逃げ道なし。
見上げた観客席は、もはやお祭り騒ぎだった。
息を呑んだ生徒たちの目が、まるで映画の最終決戦を見る目になってる。
いや、なんでそんな“歴史の目撃者”みたいな顔してんだよ。
「ついにナイトロードの実力が……!」
「封印されし力が解放される瞬間……!!」
「相手が消し飛ぶかもしれないな……」
――そんな力、本当にあるんなら、俺が一番見たいわ!!
見せられる側じゃなくて、観る側でいたかったんだよ!!
とか叫びたい気持ちを必死に飲み込んでいると、
審判が静かに中央に立ち、右手を掲げた。
「一年生の部・決勝戦――アレクシス・ナイトロード。
対するは、アルルマーニュ・デュフォンマル。
――始め!」
その一声で、場の空気が一変する。
張り詰める静寂。凍りつくような緊張。
俺とアルマが向き合った瞬間、時間すら止まったかのように感じられた。
……いやいやいやいやいや!!!
俺はただ流されてここに来ただけだ!!
実力ゼロ!自信もゼロ!あるのは誤解と謎のバフだけだぞ!?
しかも相手は――
俺が一目惚れした人なんだが!?
「だから違うって!!! 俺は戦いたくねぇんだってば!!!」
「お坊ちゃま、前途多難な初恋をされていらっしゃいますねぇ」
――いた。
観客席の上段で、優雅に紅茶を啜るリリス。
俺の修羅場を紅茶と共に味わうメンタルの化け物。
でも俺の動揺をよそに、アルマはまっすぐに俺を見ていた。
「……図書館で魔法理論すら怪しかったあなたが、ここまで勝ち進むなんて、本当に不可解です」
輝く金髪。鋭い碧眼。静かな語調。
でもこっちはもう、心臓バクバクなんですけど!?
「ち、違うんだってばあああぁぁ!!」
けど、彼女はすでに構えていた。
光のマナが集い、空気が震える。
白銀の粒子が舞い、神聖な光が形を成して――
ドォン!!
爆風。閃光。衝撃波。
……普通の人なら、これで即終了だった。
でも――
「……え?」
俺は無傷だった。
なんで???
自分の手足を慌てて確認する。
焦げてない。吹き飛んでもない。
ほこりちょっと被っただけ。
観客がざわついた。
アルマが、信じられないという顔でこっちを見ている。
「な、何か……防御魔法を?」
「いや、俺は何も――」
その時だった。
上段から、茶を啜る優雅な音が響いた。
そして、なぜか俺の耳元だけに届く謎の魔導通信。
……おい。いつの間に、こんなもん仕込まれてんだよ。
『お坊ちゃまの制服には、ナイトロード家伝統の“闇の魔石”が織り込まれておりますので』
「はぁぁ!?!?!?もっと早く言えやああああ!!!!」
『ふふ。“無自覚の加護”……それもまた、伝説のはじまりでございます』
「いや、そんな伏線いらねぇし!!!ってか俺ずっと思ってたよ!?制服なんか重いなって!!」
『衣類に重さを与えて鍛えるのは、古より伝わる有名な修行法。伝説に残るお坊ちゃまには、相応しいかと』
「勝手に伝説に仕立てるなああああ!!」
俺がリリスと漫才してる間に、アルマが眉をわずかに動かした。
「……どうやって、今のを防いだの?」
え、どうする俺。
正直に言うべきか?
いや、でも今言ったら――
――その時。来た。
「うわぁぁぁぁ!!!」
「影が……影が動いてる!!!」
……ああ。もうお約束だよな、コレ。
俺の足元の影が、ぶよんと膨れた。
勝手にうねうね動いて、黒い霧を撒き散らし始めている。
「ナイトロードの封印が……解けかけてる!?」
「ついに……覚醒の兆しか……!!」
ちがうちがうちがうちがう!
俺は影操作なんてしてないし!!
封印なんて解いた覚えもねぇ!!!
「ふぉっふぉっふぉ……仕掛けたヤツが、この中におるようじゃのぉ」
“いかにも長生きしてます”ボイスが響く。
次の瞬間、空気が変わった。
アリーナの最上段。
杖を掲げ、ゆっくりと姿を現したのは――
長い白髪と立派な髭をたくわえた、学院の頂点。
学院長。
「闇魔法を悪用するとは――言語道断じゃな」
その一言で、場の喧騒が嘘みたいに止まった。
杖がひと振りされる。
空気が、ピリッと音を立てるみたいに引き締まる。
――あかん。これ、もう笑えない空気だ。
叫びたい。泣きたい。走って帰りたい。
でも、そんな余裕すらなくて――
何かが、確実に、始まってしまった。
この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。
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