第4話 勝敗の因果
気づけば、覇魔戦が始まっていた。
広場を揺るがす歓声が、魔法学院最大の競技場の壁に反響して――なんかもう、地震かってレベルで響いてる。
「勝てば名声、負ければ屈辱ーっ!!」
誰だ今の。声デカすぎて、実況かと思ったわ。
観客席はすでに熱狂のるつぼ。
貴族は双眼鏡、ガチ勢はマナ感知、拳ブンブン。
この騒ぎの中、パン片手に静かに過ごすスペースなど――あるわけもなく。
「歴代最高レベルの覇魔戦だ……!」
「ナイトロードが出るからな……!」
その単語で、俺は思わず肩をすくめた。
――やめろ。
俺は出たくねぇんだよ。
マジで。陰キャの魂が粉々になるからやめろ。
ゴォォォン――。
“開幕の鐘”が響いた。
これ鳴ったらもう逃げられません、ってやつ。
うん、知ってた。
マナが爆ぜ、空気がビリビリ震える。
はい、競技場が完全に“戦場モード”に目覚めましたー。
「覇魔戦――開戦!!!」
……うわ。マジで始まっちまったよ。公式に。
魔法が飛び交い、風がうなり、大地が唸る。
観客は叫び、出場者たちはテンションで物理的に発火しそうな勢い。
本来、俺にはまっっったく関係ないイベントだったのに。
ほんとは観客席で、あったかいパンでもかじってる予定だったのに……。
「アレクシス」
冷静な声が、背後から落ちてきた。
振り向けば、金髪碧眼。
天才でクールで、どこまでも“らしい”少女――アルマがいた。
「なんだよ……」
「そろそろ、自覚すべきじゃない?」
「は?」
「あなたの周囲で起きてる、異常な現象の数々よ」
「いやいや!俺、何もしてねぇからな!?」
「そこが問題。“何もしてない”あなたが、毎回事件の中心にいること。」
――やば。なんだその論破型の切り口。怖。
「偶然だって!俺がたまたまそこにいて――」
「“たまたま”が何度も続くなら、それはもう“傾向”よ」
「う、うぅ……つまり、俺が運悪すぎってこと?」
「それも一理あるけど、本質は別。“巻き込まれてるように見えて、実は引き起こしてる”可能性があるのよ」
「それ、俺が災害の震源地ですって言ってるようなもんじゃねぇか!!」
「そこまでは言ってないわ。ただ、“起点”になってる確率はかなり高いと思う」
「で、その“検証”が……この覇魔戦だと……?」
「ええ。この戦いで、何も起きなければ――
“あなたは普通の生徒だった”と証明できる」
「逆に、何か起きたら……?」
「“あなたは普通ではない”という、新たな仮説が立つわ」
「やめてくれぇぇぇ!!また訳わからん称号つけられるぅぅぅ!!」
アルマは、ふっと微笑んだ。ほんの少し、でも確かに。
「私はね、“噂”や“伝説”じゃなくて――
“あなた自身”が何者なのか、知りたいだけよ」
――やばい。
その目で言われたら、心臓がまともに動かねぇ。
ただの凡人のはずの俺が、なんでこんな真っ直ぐな視線に撃ち抜かれてんだ。
「……俺を疑ってんのか?」
「確かめたいだけ。あなた自身を、ね」
そう言って、アルマは踵を返した。
背筋はまっすぐで、言葉みたいにブレがなくて――
ああ、やっぱ好きだわ。
「……はぁ。しゃーねぇな……」
呟いた声は、盛り上がる歓声にかき消された。
覇魔戦のトーナメントは、すでに始まっている。
パンどころか、逃げる隙間すら、もうどこにもなかった。
この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。
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