第4話 氷と影の舞踏
広場の空気が変わった。まるで時間が一瞬だけ引き伸ばされたかのように、学園生たちのざわめきすら遠く感じる。
目の前で対峙するのは、氷の魔法使い、生徒会長セリーヌ。
そして、俺の護衛兼監視役にして最強の戦闘メイド、リリス。
なんで俺の周りでこんな壮絶な戦いが始まってるんだよ!?
次の瞬間、空気が凍りついた。彼女が軽く手を掲げると、周囲の温度が一気に零度を下回り、白い霧が立ち込める。氷の粒が宙を舞い、彼女の足元には魔法陣が展開される。
「ナイトロードの封印を揺るがせるわけにはいかない。あなたの行動は、学園の均衡を崩す危険がある。」
静かに、しかし冷徹に言い放つ。足元に広がる氷の魔法陣が、ゆっくりと地面を覆っていく。学園生たちの息が白く染まり、寒気が肌を刺す。
――が、当のリリスはまるで意に介していなかった。
「なるほど、氷の魔法…お坊ちゃまに手を出すなら、容赦はしませんよ?」
そう微笑むと、彼女はメイド服のスカートの裾に手を滑らせる。
細身のナイフを抜いた――その瞬間、彼女の姿が掻き消えた。
キィィン!!
甲高い金属音が響く。彼女のナイフが喉元を狙う刹那、瞬時に氷の盾が展開される。鋭い刃が冷たい壁に阻まれたが、彼女はそのまま跳び上がり、空中で一回転しながらさらに一閃を繰り出す。
彼女はわずかに眉をひそめ、右手を軽く振る。
「蒼き氷の刃よ、貫く槍となりて敵を貫徹せよ。極寒の裁きを示せ――氷貫槍!」
冷気が収束し、鋭利な氷の槍が放たれた。
リリスの軌道を正確に狙い、猛スピードで撃ち出される。
だが――
「ふふっ、いい反応ですねぇ…さすが生徒会長様。」
彼女はそれを見切っていたかのように、身をひねりながら槍の間をすり抜ける。まるで風のように軽やかに。氷の刃がスカートをかすめるも、ダメージはゼロ。
「言っておくが、私は手加減しない。」
そう言い放つと、足元を踏みしめた瞬間、床全体が一瞬で凍結した。まるで鏡のように滑らかに氷が広がり、戦場を支配する。
「凍てつく奔流よ、我が足を導け。氷の軌跡は風を裂き、時を超えん――氷迅疾!」
次の瞬間、彼女の身体が"滑る"ように加速した。重力を無視するかのような高速移動。いや、これはもうほぼ"飛んでる"レベルじゃねぇか!?
その目は完全にリリスを捉えていた。
まるで狩人が獲物を追い詰めるように、冷徹な視線が彼女を追う。
「――!」
リリスは微かに笑い、地面を一歩踏む。
「影歩き。」
次の瞬間、彼女の姿が"消えた"。いや、違う。ただの透明化とかじゃない。光の加減で影を薄れさせるように、彼女は敵の視界から"完全に消失"することができる。一斉に放たれる氷刃。だが、その標的はもうどこにもいない。
「っ……どこに?」
その問いに答えるかのように――
「ふふっ、少しだけ焦りましたか?」
冷たい刃の感触が、喉元をかすめる。
バキィィィン!!
瞬間、周囲の空気が激しく震え、氷の結界が展開された。
リリスの刃が触れた瞬間、そのナイフは凍りつき、砕け散る。
「見事……だが、私に刃を届かせることはできない。」
リリスは肩をすくめ、折れたナイフを軽く放り投げた。
「それはどうでしょう?」
再び、彼女が動こうとした、その時。
「待て!!!」
静寂を引き裂くように、俺の声が響き渡った。
「お前ら、俺を中心に戦うな!!!!」
一瞬、時間が止まったかのようだった。戦場の熱気を帯びた空気が、まるで糸が切れたように弛緩する。観衆のざわめきも、魔法の唸りも、一拍の間、静寂に沈んだ。
……なんだ、この変な間は。
そんなことを考えた時、目の前でセリーヌが僅かに眉をひそめた。まるで何かを感じ取るように、ゆっくりと目を閉じる。そして、辺りのマナの流れを確かめるように、空気を探る。
「…封印が、安定している…?」
ぽつりと呟いた言葉に、周囲がざわめく。
いや、待て待て待て待て!?
ただ俺が叫んだタイミングで収まっただけだろ!?
「なんということだ…!」
「ナイトロードが封印を安定させた…!」
「彼の存在だけで、均衡が保たれるというのか…!?」
観衆の声が高まっていく。
いや、だから違うって!!!!
俺の絶叫が、学園中に響き渡った。
この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。
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