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魔法学院の七誤解  作者: チョコレ
第三誤解 影蠢く学院
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第9話 神話の歪み

 学院の尖塔を遠くに望む、朽ちた礼拝堂跡。その地下、地図からも除かれた空間に“観測室”はあった。闇魔法によってあらゆる探索を拒むこの密室には、二つの気配が潜んでいる。


 結界の中心には、魔法学院の全景を投影した幻視図。塔の灯、廊下を行き交う生徒、紅茶の湯気さえも揺らめく光の粒となって、今この瞬間の学院を再現していた。


 仮面をつけた男――

 〈ルジェイド〉が、淡い映像の中央を静かに見つめる。


「……監視体制が敷かれたな。思ったより、早い展開だ」


 隣に立つのは、漆黒のフードをまとう女──

 〈ヴェスティア〉。


 彼女は視線を逸らさず、アレクシス・ナイトロードの姿を見つめていた。


「学院が、彼という“物語の核”に焦点を絞った。

 教師も、風紀委員も、生徒会も。

 今や彼の咳一つが、全校を動かすわ」


 幻視図の中、アレクシスがパンをかじる。

 ただそれだけで、周囲の生徒がざわめき始めていた。


「“安定儀式か?”」

「“封印への適応反応では?”」


 ルジェイドは、わずかに眉を動かす。


「……滑稽な解釈だ。だが、効果的でもあるな」


「人は、意味のない現象にも、意味を与えずにはいられない。

 そしてその“歪んだ意味付け”が、新たな誤解を生む」

「誤解は、やがて信仰へと転化する」

「そして信仰は、“魔王の存在を前提とする構造”を生み出す」


 ヴェスティアが一歩、幻視図に近づく。

 黒衣の裾が床をかすめ、光のない空気をさざめかせた。


「……結果として、“ナイトロードという存在”が語られ続ける限り、封印は揺らぐ。“恐れられる対象”として、世界に認識され続けることで、封印自体の意味も更新されていくわ」


 ルジェイドが低く応じる。


「ならば、“監視”という制度も……むしろ、我々の味方ということか」

「ええ。彼の行動すべてに“意味”が与えられれば、勝手に神話は進行する」

「我々は手を下す必要はない。ただ、誤解を少しずつ“傾ける”だけでいい」


 ヴェスティアは、くすりと笑みを漏らした。


「“影が瞬いた”だけで、封印が揺らぐ。

 “紅茶をこぼした”だけで、魔王が反応したと言われる。

 ……可愛いわよね。信仰って」


「……ならば、我々も“観測者”に徹するべきか」

 ルジェイドが問いかけるように言う。


 ヴェスティアは頷いた。


「誤解を“熱狂”に育てるまでは、ね。

 あの子が気づくまでに、どれだけ世界が変わるか――

 見届けましょう」


 その時、幻視図の中で、アレクシスが唐突にくしゃみをした。

 紅茶の雫がテーブルを濡らす。


「っ、今のは……!」

「“反応値が跳ね上がりました!”」


 何人もの生徒が叫ぶ。

 ルジェイドとヴェスティアは顔を見合わせ、ほんのわずかに笑った。


「……予定通り、ね」

「ええ。すべては、物語の脚本通りに」


 闇の中に、ふたつの影が沈んでいく。

 そして“語られた伝説”はまた一つ、学院に刻まれていった――。

この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。


https://ncode.syosetu.com/n8980jo/


「続きを読みたい!」と思っていただけた際は、ぜひ【★★★★★】の評価やコメントをいただけると嬉しいです。Twitter(X)でのご感想も励みになります!皆さまからの応援が、「もっと続きを書こう!」という力になりますので、どうぞよろしくお願いいたします!


@chocola_carlyle

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