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魔法学院の七誤解  作者: チョコレ
第三誤解 影蠢く学院
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第6話 滲む影

 学院の塔が、夕焼けに染まっていた。授業終わりの廊下には生徒たちのざわめきが残り、窓から差し込むオレンジ色の光が、石畳に長く影を落としていた。


 今日という日を、俺は静かに終えるつもりだった。


 魔法史の講義。ただでさえ眠くなる内容を全力で耐え抜き、パンも食べた。授業も出た。ふつうに、真面目に、生きた。だからこそ、もう今日くらいは、平穏に帰宅してもいいはずだった。


 が。


「うわあああああ!!! 影がっ!!」


 ドンピシャのタイミングで、悲鳴が廊下を裂いた。


「……は?」


 振り返ると――

 俺の足元から、何かが滲み出ていた。


 影だ。けど、普通のじゃない。

 黒く、重たく、揺れてる。まるで意思を持ったみたいに。


「ちょ、待て。これは……違うぞ!? 俺じゃないぞ!?」


 けど、周りの生徒たちの反応はお決まりだ。


「ナイトロード様の魔力が……!」

「ついに暴走が……!?」

「影が……覚醒して……!!」


 毎回テンプレで反応すんなぁぁぁぁ!!!


 全力で否定しかけたその時――

 影の中から、誰かが“ふっ”と現れた。


 黒衣の男だった。長身、無駄に整った顔、光を吸うようなローブ。薄く笑ってるけど、完全に信用ならないタイプだ。


 こっちを見て、勝手に納得顔すんな!!!


「……ここまで顕現するとは」

「いやだから誰!? お前誰なの!?」

「“濁り”の本質……もう少し眠っていると思ったがな」

「あのさ、勝手にストーリー進めないでもらっていい!?」


 その時――

 俺と男の間に、影がふわりと舞い降りた。


「お坊ちゃまの影に手を出すとは……随分とお行儀が悪いですね」


 ――リリスだった。


 スカートの裾をなびかせ、日傘を背に立つ姿は、まるで“優雅”の精霊。けどその足元から伸びる影は、まるで獣の尾のようにざわめいていた。


 空気が変わった。


 夕日すら、彼女を中心に引いていくような錯覚。

 石畳が軋む。マナがうねる。


 黒衣の男が、初めて、目を細めた。


「……ナイトロードの“従者”か。なるほど、興味深い」

「“なるほど”と“興味深い”は、敵性反応の典型ですね」


 リリスは笑っていた。

 けれど、声の温度は冷え切っていた。


 その手に、銀の装飾を施された細身の暗器が一つ。

 夕日に煌めくそれが、音もなく構えられる。


 そして彼女は一歩、前へ出た。


「貴方が誰であれ、坊ちゃまの“影”に干渉するということは――」


 その一歩で、空気がピキリと張りつめた。


「相応の“代償”を支払っていただきます」


 黒衣の男の背後で、靄が膨らむ。

 リリスの影もまた、静かに形を変えていく。


「……ほう。では、試してみようか。“従者”」

「お気の毒ですが、これは試験ではなく――処置です」


 二人の間に、言葉が消える。

 夕日の音すら聴こえなくなった気がした。


 まるで――世界が、戦いのために呼吸を止めたように。


 ……あのさ。


 俺、いる意味ある?????


 完全にバトルの導火線になってるだけじゃん!?

 ただの一般生徒が、なんで影と黒幕の代理戦争の中心なんだよ!!?


「な、なあ……! もう帰っていい!? 俺、このまま逃げていい!?」


 もちろん、誰も答えてくれなかった。


 そして、その背中でリリスは――

 俺の“影”を背負って、静かに立っていた。

 廊下が、ひとつの戦場に変わろうとしていた。

この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。


https://ncode.syosetu.com/n8980jo/


「続きを読みたい!」と思っていただけた際は、ぜひ【★★★★★】の評価やコメントをいただけると嬉しいです。Twitter(X)でのご感想も励みになります!皆さまからの応援が、「もっと続きを書こう!」という力になりますので、どうぞよろしくお願いいたします!


@chocola_carlyle

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