第5話 地下の異変
ここ数日、誤解に誤解を重ねて、俺の学院生活は完全に壊れかけていた。
けど今朝は――やっと静かだった。
鳥のさえずり、風の音、パンの香り、誰も騒いでない。
これぞ、求めていた平穏!
ようやく、普通の朝を迎えられた。
そう思ったその瞬間、
「きゃああああああ!!!!!」
学院のあちこちから、悲鳴。大音量で。
「……は?なに?」
寮の窓の向こう、廊下の奥に――
黒いもやが、ゆらゆらと漂っていた。
天井を這い、空気をざわつかせる不穏な気配。
ってか、あれ絶対ロクなもんじゃねぇ。
「闇のマナ……ですね」
隣のリリスが、いつもの紅茶を手にスッと前に出る。
「お坊ちゃま、下がってください」
「いやいや、待て、なんで俺が“関係者”みたいな立ち位置なんだよ!!」
「ナイトロード様がついに……!」
「封印が……覚醒を……!」
はい、来た。
毎度おなじみ「すべてナイトロード様のせい」タイム。
「違うって言ってんだろがぁぁぁ!!! 」
誰も聞いてない。安定の無視。
しかも地下から溢れた闇のマナが、まるで吸い寄せられるように俺のまわりに集まりだす。
ちょ、おまっ、来るな。寄るな。包むな!
気づけば、腕に黒い紋様が浮かび上がっていた。
なんだこれ!?と思っていたら、眩い光が、俺の前に降り注ぐ。
「っ……!」
光の魔法陣。広がる聖なる輝き。
そして、聞き慣れた、冷静で凛とした声。
「まずはこの場を安定させるわ」
現れたのは――アルマ。
金髪碧眼の天才特待生。
冷静で、鋭くて、たまに怖くて。
でも、誰より綺麗で、目が離せない存在。
彼女の光が、俺の周囲にまとわりついた闇をゆっくりと洗い流していく。
なにこれ。神聖すぎん?
「……助かった、のか?」
ポツリと呟いて気づく。
いやいやいやいや!!!
なんで俺、“ヒロイン枠”みたいに救われてんだよ!!!
本来なら逆だろ!?
「……俺の立場、どこ行った……」
そんな情けない俺の前に、優雅に紅茶をすするリリスの声が降ってくる。
「お坊ちゃま、大丈夫ですよ」
ああ、はいはい。
どうせまたなんか煽るんでしょ知ってる。
「これから、強くなればいいのです」
「それってつまり、今は弱いってことだよな!?」
「ふふ。お坊ちゃまは、まだ何も知らないだけです」
「知りたくもねぇわ!!」
でも、その言葉の奥にあるものは、妙に重かった。
「“ナイトロードの伝説”は、まだ始まったばかりですから」
俺の中に、何があるのか。
学院で、何が起きてるのか。
正直、まだ全然わかんねぇ。
でも。
アルマの魔法は、誰より綺麗だった。
あの光が、俺を包んでくれた。
だから――
「……次は、俺が護る側になってやるよ」
誰に言うでもなく、そんなことを呟いた。
平穏はまたしても崩壊したけど。
それでもこの先、ただの巻き込まれ役で終わる気は――
ねぇからな。
この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。
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