第4話 従者の条件
学食は、俺にとって唯一の安息地――
パンと沈黙。これが至高の学院生活だ。
ふわっと甘くて、ほわっと温かい。ただのパン。
だが、それこそが俺の平穏。
なぜなら、パン以外を食べると――
「ナイトロード様が!新たな供物を!」
「これは何かの儀式では……!」
「いや、世界の理が書き換えられた音がしたぞ!?」
こんな調子で大騒ぎになる。だから俺は誓った。
パンだけは安全。パンだけは裏切らない。
パンこそ、俺の信仰。
……だった。
「ナイトロード様の従者になるには、どうすればよろしいのでしょうか?」
この日。パンの神話は終焉を迎えた。
「……は?」
パンを半分くわえたまま、俺の思考も止まる。
なんだ今の質問。なんで“従者になる”前提で話してんの!?
「どうか教えてください!」
「従者には、どんな試練が……!」
「必要なのは魔法か!? 礼儀作法か!? それとも筋力!?」
パニックだ! パン咀嚼中の俺にパニックは無理だって!
「おいおい待て待て待て! 誰が従者募集した!?」
けど誰も俺の言葉なんて聞いちゃいない。
全員の目が――リリスに向いていた。
そして、あいつはニッコリと。
「ふふ……そうですねぇ」
あ、この笑顔、絶対ろくでもないやつ。
「まずは、紅茶が完璧に淹れられることが条件ですね」
「そっちかよ!!!!」
「最高の一杯を淹れられないようでは、お坊ちゃまの従者など、務まりません」
「誰がそんなハードル設定したんだよ!!!?」
「紅茶……!」
「やっぱり、“茶”だったか……!」
待て待て待て! なぜ納得モードなんだ!?
「それと、戦闘能力は魔法学院の上位十位以内でお願いします」
「ちょっと待て強すぎるだろ!!?」
「従者心得をまとめよう」
「いや、まず養成クラス設置からだな……」
「なんで制度設計が始まってんだよおおおお!!!」
俺はガンッと額をテーブルにぶつけた。
「なぁ、リリス……正直に言ってくれ。全部、テキトーだろ?」
「いえ。すべて事実です」
出たよ、この顔だよ!!
清純100%な顔で爆弾発言やめてくれ!!
「私は、従者として必要な条件を、正しく提示しただけです」
「いやいやいやいや、そんな条件、俺、聞いた覚え一ミリもないからな!!?」
リリスはというと、まるで今が午後のお茶会であるかのように、優雅に紅茶をくるくる回していた。
「従者志望者がこれほどまでに……お坊ちゃまの威光、やはり本物ですね」
「恐ろしくねぇよ!!俺はただ、パンを食べてただけなんだよ!!!」
ふと見ると、俺のパンが消えていた。
「……え?」
隣の席で、従者志望らしき少年がパンを手に、こう呟いた。
「ナイトロード様が選んだパン……きっと、意味があるはず……!」
「おい返せぇぇぇぇぇ!!!」
パンすら、俺を裏切るのかよ!!!
この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。
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