第2話 逃げる戦術
昨夜、脳内から“魔王の声”がしたせいで寝不足です。
いやマジで。なんか俺の中で封印がどうとか言ってたし。
で、今日の授業?
魔法戦の実習って、バカなのか!?
完全に死亡フラグだろそれ!!
頼むから日常系で生きさせてくれ!!!
――はい、始まりました。
「ナイトロォォォード!! 俺の火球、受けてみろォ!!」
「受けねぇっつってんだろがァァァ!!!!」
なぜか全員、俺だけ狙ってくる。
いや、多すぎんだろ!?!?
バシューン!ボゴォォン!!
火球!雷撃!土柱!全部俺!!
お前ら、もしかして俺の人生に私怨でもあるのか!?
慌てて影へ滑り込み、マナで身体を闇に沈める。
黒の波紋が地を這い、俺の姿がスッと消える――
「ナイトロードが……消えた!?」
「空間ごと飲み込んだ……!?」
違う違う違う違う!!
影を渡ってるだけだよ!!
逃げるためだけに鍛えたやつだから!!
気づけば、生徒たちは半ば信者のような目つきに変わっていた。
「闇に溶け、姿すら捉えられぬ……」
「これが……“闇の血統”……!」
あーもう!!
戦場に現れた俺は、すぐに四方へ分身を展開。
「どれが本物だ!?」
「ナイトロードが四人!?」
知らねぇよ俺も!
でも、狙われた分身が爆散していくのを見るたび、
「あっぶねぇ……」と心の底から思う。
俺の生存、本当にギリギリ。
「……戦わずに、生き残る」
「これぞ、魔王の闘い……」
いや“戦わない”じゃなくて、“戦いたくない”んだよ!!
闇のマナを周囲に展開し、
撃ち込まれる魔法弾をヌルリとすり抜ける。
「魔法が……効いてない……?」
「これはもう、神話の存在……!」
ちげぇぇぇ!!
そうこうしてると授業は終了。
終了の鐘が鳴った瞬間、俺は膝をついてその場に崩れ落ちた。
ゼエッ……ゼエッ……
誰よりも戦ってないはずなのに、
誰よりも消耗してるの、俺だけだと思う。
すると、周囲から拍手が。
拍手!?!?!?なんで!?
「ナイトロード様、やはり規格外……」
「闇魔法を極めし者の、圧倒的な風格……!」
「生存だけで戦場を制圧……これが王者……!」
俺、何もしてないんだけど!!!
いや、正確には“何もしないよう努力した”んだけど!!!
頭を抱えていた俺の耳元に、凛とした声が降ってきた。
「お坊ちゃま、本日も鮮やかな回避劇でしたね」
……見上げれば、いつものごとくリリス。
日傘を差し、涼しい顔で紅茶をすする余裕っぷり。
「……助けてくれても、よかったんじゃねぇの……?」
「ご心配には及びませんでした。お坊ちゃまなら、すべて回避されると信じておりましたので」
「それ、結果が出たあとに言うやつだからな!?!?」
「ふふ。影を纏い、魔を躱すそのお姿……まさしく“ナイトロード”の本懐」
「いや今日、ただの実習だから!?予定にそんな展開なかったからな!?」
「ですが、マナは素直ですね。お坊ちゃまの願いに、しっかりと応じていました」
「それを真顔で言うのやめろ!!俺が“魔王の器”みたいになんだろうがァァァ!!」
「ふふ……もはや、“誤解”というには無理がございますね」
「やめてぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
――こうして今日も、
俺の“真面目な逃亡”が“伝説”としてアプデされていくのであった。
誤解の続く学院生活、ハードモードすぎんだろ……!!
この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。
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