第1話 封印の声
部屋の灯を消して、ベッドに潜り込む。
今日こそ何も起こらず終わる。
静かに、地味に、穏やかに、終わるはずだった――のに。
「……ああもう、何も考えたくねぇ……」
布団にくるまって目を閉じる。
俺はただ、普通の学院生活がしたいだけだ。
戦いたくないし、封印も解きたくないし、
何より、“覚醒”とか“魔王”とか、そういう単語には一切縁のない人生を送りたい。
なのに。
「……ようやく、夜が静まったか」
――誰だお前ぇぇぇぇ!?
ぞわり、と。
空気が凍った。
いや、凍ってんのかこれ? 本当に?
「……え、えぇっと……これは夢、だよな……?」
天井の隅がぬるぅっと黒くゆがんだ瞬間、俺の脳が全力で現実逃避を始める。
けど、声は、はっきりと聞こえた。
「気づいていよう。貴様の中で、封印が軋んでいることに」
「気づいてねぇし!! お前誰だよ!!」
でも声は止まらない。むしろノンストップで朗々と喋り続ける。
「長き眠りの果てに……ようやく兆した、目覚めの気配。
ナイトロードの名のもと、我が力が今、再び……」
「いやいやいや、俺ただの生徒! 朝起きて、パンくわえて走って、授業で半分寝て、放課後に図書室でまた寝てるだけの人間なんですけど!?」
「滑稽だな。だが、それでいい。
愚かなる者よ。己が定めに抗い、もがく姿こそ、余興にふさわしい」
「やめろやめろやめろ!! 本気っぽい声で“余興”って言われるとマジで逃げ場なくなるから!!」
「もはや抗いなど無意味。
世界が貴様を“魔王の器”と認識した瞬間、それは真実となる。
信仰が形を与え、物語が現実となるのだ」
「いやいやいやいやいや!?
俺、信仰されるタイプじゃないだろ!? テストで赤点取ったのに!?」
「だが、貴様の中に在る。“扉”は、すでに開きかけている……
せいぜい抗い続けるがいい。その結末――愉しみにしているぞ」
すうっ……と。
黒いゆがみが静かに収束していく。
空気の凍りついた感じも、波が引くみたいに消えていった。
残されたのは、
――俺と、俺の情緒だけ。
「……………なんでやねん」
毛布を被って、全力でベッドに沈む。
「パン食って寝ただけなのに!? それのどこが魔王ポイントだよ!? 学院生ポイント高いだろ普通に!!」
……マジで、俺、いつから“覚醒前提の存在”になったんだ?
そろそろ誰か教えてくれ。
俺がどこで道を踏み外したのかを。
でもって、布団の中から呟く。
「……せめて夢であってくれよ。今の声、夢オチで頼む……」
けれど、心の奥で――
「次にまた来る」と確信している自分がいるのが一番こえぇ。
この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。
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