第9話 歴史に残る降臨
魔法劇は、終わった――
……はずだったんだが。
俺の手元に残されたのは、喝采でも名誉でもなく。
《ナイトロード覚醒の儀》
という、訳のわからん称号だった。
「いや、違ぇぇぇぇぇぇ!!!」
必死に叫んでも、学院の連中は耳を貸さなかった。
「まさか学院内で……真の封印が揺らぐとは……!」
「我が目で“覚醒”を見届けられるとは、なんという栄誉……!」
栄誉いらねぇ!!!
あと封印、揺らいでないからな!?
俺はただ、脚本通りに演じてただけ。
魔王っぽい衣装を着て、舞台で大袈裟に名乗り上げて、
ちょっとカッコつけただけなんだ。
……ちょっと、カッコつけたかっただけなんだよ。
なのに気づけば俺は、
封印を揺るがす闇の王として“歴史に刻まれる存在”になっていた。
どこで道を踏み外したんだ、俺……!
舞台ではアルマに全力で討たれそうになり、
リリスには本気のナイフを構えられ、
教師には記録魔法でガン見され、
謎の影は現れ去っていき、
観客には信仰された。
どうしてこうなった!?
俺の目指してた学院生活、こんなんじゃなかったはずだ!!
授業を受けて、図書塔に通って、
たまに屋上で昼を食って、ヒロインとちょっといい雰囲気になって――
そういう、普通の青春、してぇんだよ!!!
なのに現実は、
舞台で封印を暴走させ、
討たれかけ、守られ、
神話と伝承に勝手に名前を刻まれていく。
こんな“青春”、求めてねぇ!!!
――しかも、次は秋の学院祭。一般公開日。
学外からも貴族やら騎士やら見物に来るってのに、 このまま「覚醒したナイトロード様」みたいな設定のままじゃ、 全世界に誤解を拡散することになるじゃねぇか!!!
伝説、輸出すんな!!!
このままじゃ、俺の実家に天剣の騎士団とか、聖天の魔道師団が勧誘に来かねない!!!
そんなことを思いながら、俺は学院の中庭にあるカフェテラスの椅子に突っ伏していた。
「……俺の青春、どこで間違えた?」
静かに呟いてテーブルに額を押しつけると、
メニューの端っこに『季節のいちごタルト』の文字が目に入った。
「……甘酸っぱいスイーツでも食って補填しろってか?」
もはや自嘲すら糖分に頼っている。
青春の代用品がタルトでいいのか、俺。
そんな時だった。
影が差し、耳に心地よく冷たい声が届いた。
「お坊ちゃま、タルトをご所望でしたか?」
顔を上げると――いた。
黒服メイド、リリス。
銀の盆に紅茶とタルトを載せて立っていた。
「……なんでわかった」
「心の読んだとでも思われたのですか?」
「違う。けど怖ぇよお前の勘が……」
「それでは、青春をお求めで?」
「その言い方やめろォォ!! 刺さるんだよ……!」
リリスはくすりと笑いながら、タルトを差し出してきた。
「お坊ちゃまは、普通の青春をご所望でしたが――
実際は、学院史に名を刻む青春を手に入れてしまったのです」
「それ青春って言わねぇだろ!!!」
叫んだところで、何も変わらない。
ショートケーキならぬタルトで現実逃避しながら、
俺は思った。
青春ってどうやったら手に入るんだ?
頼むから誰か教えてくれ。
俺の人生、伝説じゃなくて、恋愛ルートに分岐してくれぇぇぇ……!!!
この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。
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