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魔法学院の七誤解  作者: チョコレ
第二誤解 偽りの演劇
19/94

第2話 魔王の湯

 学院の伝説だの、封印だの、血の覚醒だの――

 マジで無理。脳の処理限界はとっくに超えた。もうちょいで頭から煙出る。


 図書館じゃアルマに“知識の滝”で溺れかけ、信奉派は俺を“祀り倒し”、秩序派は“監視対象”として睨んでくる。誰か俺に“普通”ってやつ返してくれ。緊急で。いますぐ。


 せめて、風呂くらいは静かに入りたい。


「ふぅ……この時間なら、さすがに誰もいねぇだろ」


 深夜の学院大浴場。狙いは完璧。リリスには「お坊ちゃま、私が背中を流しましょうか?」って聞かれたけど、そんなフラグは即折った。“風呂で事件”なんてラノベだけで十分。現実にはノーサンキューだ。


 はずだったのに。

 扉、開けた瞬間。


「…………え?」


 湯気の向こうに、もっさり詰まった男たちの群れ。洗い場、湯船、脱衣所、ぜんぶギュウギュウ。俺が入った瞬間、全員が振り向いた。


「ナイトロード様ァァァァ!!!」

「風呂場にも降臨されたぞ!!!」


「やめろォォォォォォ!!!!!」


 なにこの宗教フェス!? 湯を信仰の媒体にすんな!!!


「な、なんでこんな時間に人いんだよ!?」


 俺が動揺してると、洗い場の男が目を輝かせて語り始めた。


「ナイトロードと同じ湯に入れば、マナが活性化すると聞きまして!」

「肌からナイト波動が吸収されるらしいっす!」

「通称、“ナイト湯”です!!!」


「誰がそんな不吉なネーミングしたァァ!?」


 やべぇ、進化してる。俺の知らないとこで信仰が次ステージ行ってる!!


「これを瓶に詰めて家に持ち帰れば、一族のマナが安定するって!」

「うちのばあちゃんの膝にも効くかも……!」


「治らねぇよ!?俺、温泉の神霊じゃねぇからな!!?」


 湯の底には小石を沈めて“封印の結晶”とか言ってる奴までいる。


「ナイトロードが入浴中に発現させた、世界との接続点らしいです!!」


 なんだその設定!?入浴中に次元開くな!!


「中央の湯船が“神域”でございまーす!!」

「本日は“背中流し希望席”もご用意しております!!」


「遠慮しとけェェェェェ!!!!!」


 俺の“静かなバスタイム”は、完全に粉砕されていた。脱衣所ではナイトロードグッズの即売会、湯船では“ありがたい一滴”争奪戦。


「……ただ風呂に入りたかっただけなんだが……」


 マジでどうなってやがる。


 ぐったりしながら寮へ戻ると、玄関のドアを開けた先、いつも通りの微笑と完璧な立ち姿。黒服メイドが待っていた。


「お帰りなさいませ、お坊ちゃま。お湯加減はいかがでしたか?」


 その笑顔が、妙に神々しく見えたのは――

 きっと湯気じゃなく、俺の精神が限界だったからだと思う。


「加減どころか信仰濃度マックスだったわ!!!」

 バスタオルを頭にぶん投げながら崩れ落ちる俺。


「“ナイト湯”とか誰が名付けた!?もう学院の風呂じゃねぇよ!?」

「湯治の文化は、古来より神格と結びついております」

「お前、軽すぎんだよォォォ!!」

「お坊ちゃまが学院を動かすのは、いまに始まったことではありませんので」

「ナチュラルに俺を現象扱いすんな!!」

「……ところで、ご機嫌はいかがですか?」

「最ッッ悪だよォォォ!!」


 ベッドに突っ伏しながら、ふと思い出す。


「てか……お前、女子寮の風呂、行ってねぇよな?」

「ええ、当然」

「……じゃあ、どうやって体洗ってんだよ……?」

「体、ですか?」

「いや、風呂だよ風呂!!清めとかさぁ!!」

「……ふふっ」


 その笑い、マジでやめろ。


「お坊ちゃま、ご存じなかったのですか?」


 リリスはスカートの裾をつまみ、優雅に一礼。


「メイドにとって、汚れとは“存在しない”ものです」

「はあああああ!?!?!?」

「私たちは清掃を行う存在にして、穢れを帯びぬ者」

「その理屈で体洗えんのかぁぁぁぁ!!!」

「ご安心を。所作としての入浴は、既に“完了”しております」

「いや、入ってんのか入ってねぇのかはっきりしろォォォ!!!」

「“入浴とは入ることにあらず、整えることなり”。従者訓の第一条でございます」

「宗教かよ!!!お前、ナイト湯の源泉じゃねぇだろうな!?!?」


 そして、リリスは静かにティーカップを持ち上げる――

 中身は、無い。


「……ふふ、良い香りがいたします」

「してねぇよォォォォォ!!!!」


 俺の絶叫は、学院寮の夜に吸収され、誰にも届かなかった。誰か頼む、俺に風呂と自由と常識をくれ。できればタオルつきで。あと耳栓も。マジで。

この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。


https://ncode.syosetu.com/n8980jo/


「続きを読みたい!」と思っていただけた際は、ぜひ【★★★★★】の評価やコメントをいただけると嬉しいです。Twitter(X)でのご感想も励みになります!皆さまからの応援が、「もっと続きを書こう!」という力になりますので、どうぞよろしくお願いいたします!


@chocola_carlyle

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