第11話 見届ける理由
ナイトロードの“血”が、封印の鍵。
そのような話を、私は一度として聞いたことがない。
けれど、学院の生徒たちは、疑うこともなくそれを信じる。
まるでそれが、最初から運命に組み込まれていたかのように。
お坊ちゃまが、わずかな擦り傷を負っただけで――
「血が目覚めた」と騒ぎ立てる者すら現れる。
荒唐無稽な言葉が、いつの間にか“真実”として扱われる。誰かが仕掛けたわけではない。ただ皆がそれを“信じたかった”のだ。かねてから語られていた“ナイトロード伝説”が、ようやく現実になることを。
伝説とは、そうして作られる。
人は、論理ではなく物語に縋る生き物だ。
真実を知ることよりも、“語り継ぐに足る物語”を望む。
なぜ、そこまでして虚構を信じたがるのか。
それは、現実が不確かで、頼りないからだ。
幻想に意味を与えることで、自分たちの不安を正当化したいのだろう。
……その仕組みが、私にはよく分かる。
お坊ちゃまは、何も語らず、ただそこに在るだけ。それなのに、周囲が勝手に意味を与え、“神話”へと変えていく。彼が望もうと望むまいと、物語は一人歩きを始めてしまう。
抗えない運命に巻き込まれながら、それでも彼は進もうとする。
逃げることなく、怒鳴るでもなく、ただ静かに立っている。
……そんな存在がもし実在するなら、
それは、どれほど美しく、そして哀しいのだろう。
お坊ちゃまは、他の貴族とは異なる。誇りにしがみつくこともなければ、力を見せびらかすこともない。地位を守ろうと画策することすら、しない。
それでも、数多の“誤解”に巻き込まれ、伝説を生み出してしまう。
……本当に、ただの“巻き込まれ体質”なのかもしれない。
思わず、小さく笑みが漏れる。
私は監視者。
ナイトロードの封印が揺らげば、即座に制御に入らなければならない。それが、私の存在意義。誰よりも冷静に、誰よりも正確に判断を下すために、私はここにいる。
けれど、それでも。
お坊ちゃまが、どのように“選び”、どのように進むのかを、私は見届けたいと思っている。
それは、監視者として。
そして、従者として。
たとえそれが、誤解に満ちた運命の果て――
虚構の中の真実、だったとしても。
この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。
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