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魔法学院の七誤解  作者: チョコレ
第一誤解 血の覚醒
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第10話 歪む伝説

 闇の底で、静かに世界を見下ろす視線があった。

 そのまなざしの先には、狂騒へと傾いていく学院の姿。


 魔導灯の青白い光が、手のひらに小さく踊る。

 光に反応し、宙に展開された魔導式が脈打つように情報を送り出す。


 表示されたキーワード――《ナイトロードの血》。

 その語が、想定以上の速さで学院全体を呑み込んでいた。


 生徒たちは熱に浮かされたように騒ぎ立て、

 噂は誰に仕掛けられることもなく自己増殖し、

 やがて“信仰”と呼べるほどの形をとり始めていた。


「……計画通りか?」


 闇の中、低く抑えられた声が響く。

 だが、答えはすぐに返される。


「いや。これは想定以上だ。拡散速度が異常だ。」


 背後に控えた影の一人が、腕を組み、魔導式に目を細める。

 顔を見せぬその者は、明確な不信を抱えていた。


「“ナイトロードの血が封印を解く”――そんな話、俺たちは一言も流していない。」


 それは、事実だった。

“仕込み”よりも早く、学院の生徒たち自身が“物語”を語り始めていた。

 ほんの些細な出来事に、意味を求め、象徴を付与し、系譜を重ねる。


 ――そして、それが真実として受け入れられていく。


「……人間の集団心理とは、実に都合がいいな。」


 別の影が、淡く笑みを浮かべながらグラスの縁をなぞる。

 乾いた音が、冷たい空間に微かな波紋を刻んだ。


「誰が広めたかは関係ない。“信じたい者”がいれば、物語は勝手に育つ。」


「だが、計画のコントロールは難しくなった。誤解が先走れば――」


「誤解ではない。これは“既成事実”だ。」


 さえぎるように告げた影は、指を一つ鳴らした。

 魔導式が展開され、学院の各所から収集された“信仰の断片”が連なる。


「面白いのは、皆が同じ“結論”に至っていることだ。

『ナイトロードの血が流れるたびに、封印は揺らぐ』――

 それを誰かが教えたわけでもないのに、同時多発的に広まっている。」


 それは、人々の“願望”であり“恐れ”であり、“逃避”でもあった。

 複雑な学院の力学を、ただ一人の存在に預けてしまえる都合の良さ。

 それが、“伝説”という形で口々に語られているにすぎない。


「……ならば、利用するだけだ。」


 静かに呟いた声には、確信が滲んでいた。


「その信仰をさらに煽れ。“血”が流れることで封印が揺らぐ――

 その噂を、学院の公式記録にすら刻み込ませる。」


「もはや実験はいらない。“信じられた物語”が、現実を動かす。」


 別の影が、乾いた笑い声を漏らす。


「人の恐れと崇拝ほど、使い勝手のいいエネルギーはないからな。」


「計画は整った。“ナイトロード”という名を、封印の象徴に変える。」


 魔法の灯がふっと揺れ、影の輪郭がわずかに崩れる。

 だがその中心にいる者の声だけは、冷たく、揺るぎないまま響いた。


「学院生たちは、自らその役割を担い始めた。“歪んだ伝説”を、自ら語り、伝え、信じている。」


「真実とは、かくも脆い。」


「だが幻想は、強い。だからこそ――世界は物語を欲する。」


 その物語が誰かの都合によって編まれたものでも。

 その結末が、破滅へ続いていたとしても――


 影は、沈黙したまま嘲笑を浮かべていた。

この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。


https://ncode.syosetu.com/n8980jo/


「続きを読みたい!」と思っていただけた際は、ぜひ【★★★★★】の評価やコメントをいただけると嬉しいです。Twitter(X)でのご感想も励みになります!皆さまからの応援が、「もっと続きを書こう!」という力になりますので、どうぞよろしくお願いいたします!


@chocola_carlyle

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