第7話 派閥の誕生
血の騒動で火がついたせいで、ただの「うるさい学院の噂話」が、いよいよヤバい方向に進化しはじめた。
そう――
信奉派 vs 秩序派、開戦の火蓋が切って落とされた。
あの査問会で、俺の手首からちょろっと血が出ただけで、すべてが決定的になったらしい。もう俺の意思とか関係ない。学院全体が勝手に盛り上がり、分裂し、ややこしいことになっている。
まずは、俺を「伝説の再来」として神格化してる連中――
信奉派。
たとえば、俺が寝坊したら?
「次なる覚醒の前兆……!」
パンを食べたら?
「神聖なる食事……!」
擦り傷を作ったら?
「封印の鎖が断ち切られる兆し!!」
……うるせぇよ!!!
ただのパンと寝坊とケガだよ!!!
で、その狂信の中心にいるのが――
ゼノ・ヴァルディス。
赤髪わしゃわしゃの情熱系男子。顔つきはイケメン、でも目が完全に"信じてる"側の輝き。琥珀色の瞳で空気を読まずに叫ぶ。
「ナイトロード様の血が流れたのだ! 封印は崩壊し始めているッ!!」
なにを断言しとんねん。
対するは、俺の存在そのものを「危険因子」と断定してくる秩序派。
「ナイトロードの力は未知数だ。現状の学院において最も注意すべき存在」
はい、名指し来たー。
彼らは俺がちょっとでも手を挙げようもんなら、
「反応あり! 封印の動揺か!?」
と騒ぎ、ただくしゃみしただけでも、
「封印の兆候かもしれん。監視を強化するべきだ」
と、すぐ目を光らせてくる。
で、そんな秩序派の大将が――
ユージン・クロフォード。
背筋ピン。制服の着こなしは完璧。
銀髪を結った知性派で、蒼氷の瞳がゼノを射抜く。
「妄言をやめろ」
声、冷たっ!?
氷魔法でも展開したのかと思ったわ!
「この学院に混乱をもたらすなら、秩序の名のもとに処断する」
いやいやいや、処断て単語、軽く使わんで?そんな信奉派と秩序派の間で、俺はただただ頭を抱えている。リリスの方を見ると、相変わらず涼しい顔で紅茶飲んでる。
「なあ……なんで俺の学院生活、こんなことになってんの?」
すると彼女は、ティーカップを置いて落ち着いた声でこう言った。
「お坊ちゃま、それは簡単な話です」
「……どこが簡単なんだよ」
「皆様、“事実”ではなく、“信じたい物語”を見ているのです」
「いやいやいや、物語とか言うな!? 俺は現実に生きてんの!!」
「ですが、現実とは多数の信じる意志によって形作られるもの。信奉派は“覚醒”を、秩序派は“脅威”を信じている……どちらも、現実です」
「信じるなぁぁぁぁぁ!!!!」
しかし、俺の叫びなんかより、信奉派と秩序派の応酬のほうが盛り上がっていた。
ゼノ「ナイトロード様の覚醒は、学院の未来を照らす光!」
ユージン「くだらん。お前たちは、妄想で動いているにすぎない」
ゼノ「信仰なき秩序など、ただの独裁だ!」
ユージン「熱狂に支配された集団ほど、危険なものはない」
ゼノの激情 vs ユージンの冷徹。
まるで火と氷がぶつかり合い。
でも、俺にはわかる。
この口論、絶対に口論では終わらない。
次に起きるのは――
恐らく開戦。
俺の意志?
そんなもん、誰も聞いちゃいない。
……もうやめてくれマジで!!!
この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。
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