第5話 査問会
査問室。
学院の規律違反者が連れてこられる、例の“絶対に関わりたくない場所”だ。で、今の俺はそのど真ん中に鎖付きの椅子で固定されている。
「そこに座れ」
風紀委員たちは無駄にキリッとした顔で俺を椅子に押し込み、机を挟んでずらりと並んで座った。何この圧迫感。
「査問って、こんなガチめなやつ……?」
「封印異常の可能性がある以上、我々には確認する義務がある」
「だから俺、普通の学生なんだってば!!」
必死の主張も、風紀委員たちのスルースキルの前では無力だった。
「まず、マナの測定を行う」
「いや、異常も何も、俺そもそも――」
「測定する」
話聞けぇぇぇ!!!
風紀委員のひとりが、ゴツめのマナ測定器を俺の手首に押し当てたその時だった。
「……いって、ちょ、今の地味に痛い……」
手錠の金具がこすれて、ほんのちょっと擦り傷ができただけだ。 血も、ほんのり滲んだくらい。見た目的には「ちょっと引っかいた?」くらいのレベル。
だが。
「……血が……?」
委員のひとりが青ざめた顔でつぶやいた、次の瞬間――
「ナイトロードの血が流れたぞぉぉぉぉ!!!!!」
廊下から、伝説級の勘違い絶叫が響き渡った。
はああああああ!?!?!?!?
「封印がついに……!!」
「血による鍵が発動したのだ!!」
「これは……“覚醒の兆し”……!!」
いやいやいやいやいや!!
擦り傷だっつってんだろ!!?!?!?
俺の必死の否定をよそに、学院生たちのテンションは謎の方向へ急上昇。
「“血の誓約”が成されたのだ……!」
「これはもう、神の導き……!!」
「運命が動き出す……!!」
「お前ら頭冷やせぇぇぇぇぇ!!!!」
叫んだ。叫んだけど、誰も聞いてない。 周囲の興奮は爆発寸前。風紀委員の中にも、若干信じ始めてるやつまで出てくる始末。
「おい、どうする!? このままじゃ学院が騒乱に……!」
「落ち着け、我々は査問を……」
「でも、血が……!」
「擦り傷って言ってるだろ!!?」
――この時、俺は理解した。
もはや理屈は通じない。
信仰とは、理性より強い。
どこからか紅茶の香りが漂ってくる。
俺が視線を向けると、やっぱりいた。
例の黒服のメイド。
リリス・アークライト。
事態の混乱を、ほのかに微笑みながら見守るおそらく唯一の“余裕の人”。
「お坊ちゃま、ついに伝説が“血”によって進みましたね」
「進んでねぇわ!!!! これ、バグルートだわ!!!!」
「いえ、正規ルートです。お坊ちゃまが静かに学院生活を送りたいと願えば願うほど、伝説は強固になっていくのです」
「どんな呪いだよそれぇぇぇぇ!!」
「さすが、ナイトロード様ですねぇ」
「やめろその呼び方ぁぁぁぁ!!!!」
結局、俺は「謎の擦り傷事件」で完全に伝説路線に突入し、学院の熱狂と風紀委員の疑念と、謎の“預言者気取り”たちに囲まれながら──ただ、椅子に座ってるだけで、運命をねじ曲げていた。
……なぁ、誰か。
俺の静かな学院生活、返してくれよ。
この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。
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