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変な星でツッコミ生活!?  作者: 神離人
本編:???days特星解明クライマックスストーリー編(part01)
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十四話-006日目 錬金竜と信仰竜 ~勇者インフラ終了宣言

@悟視点@


裏ステージに侵入するために勇者社にやってきた俺とパンレーとクレー。勇者社の前で立ち話をしていた魅異と正志に話しかけると、魅異が正志に勇者社を譲るつもりだと判明した。……勇者社は特星で9割以上の商品を扱う、公共施設みたいなもんだ。正志のような怪しい輩に渡すのは危険だ!『赤き洗脳』を解くために封印解除のカードを追わなきゃならないが、この話を素通りってわけにはいかないな!


「考え直せよ魅異!どうしてその男に勇者社を譲るんだ?もっとましな人材なんていくらでもいるだろ!いやそもそも、お前が勇者社を続けるのが一番だろ!」


「まー落ち着けって悟。俺には何となく見当はつくぜ。魅異はたぶん、物語とやらが終わるとこの世界を離れるつもりなんだろう。物語世界の外の俺と同じ世界に帰るとか、そんなところだろ。だから早めに引き継ごうとしているんだ。違うか魅異」


「やるねクレー。大方その通りだよ。私がこの物語世界にいつまでも居座るのはちょっとね~」


「よく言うぜ。俺様の見立てじゃ魅異、てめえは分身を置いてでもこの世界を維持し続けることだってできるはずだ。だが実際は俺様に勇者社を譲渡している。てめえはすべてが終わった後、自身が介入しないことで成り立つ展開を見据えているんじゃねーのか」


「魅異が介入しないことで成り立つ?何の話だ?」


「こんなプライバシーの破片もない女がいると、窮屈な人間もいるっつー話さ。おっと、てめえは目立ちたがり屋だろう。人目の有無の差なんざ理解できねえか」


「酷い言いようだけど、予想内容は100点満点だね~」


俺の質問に、正志は1人で分かったような口ぶりで説明し、魅異はその予想を褒めている。魅異がいると、何でもわかるから窮屈だってことか?何を今さら。特星ならプライバシーどころか不法侵入できるやつばっかだぜ。いちいち気にするだけ無駄ってもんだ。


「物語世界のことはともかくです。正志に魅異の代わりが務まるんですか?地球では正者の追っかけを長年続けていただけで、バイト経験すらない男ですよ」


「え、マジで?ならテレビ局でのバイト経験のある俺の方がまだマシじゃないか?おい正志、俺が代わってやるから今回は諦めな!勇者社は主人公の俺が全部もらってやるよ!」


「おやおや、物は言いようって言葉を知らねーのか。俺様には研究家としての実績があるんだぜ。それに代わってやりてーが、てめえらじゃ無理だ。生産・流通・設備の整ってる地球でさえ、それらを統合して星中の流通を1人のトップがまとめ上げるのは至難の業さ。なのに魅異がいなくなると設備以外が9割以上消失するこの星、特星をまとめるだなんてよぉ。エイプリル大恐慌後の対策を知り尽くした俺様でなきゃ不可能だろうぜ!」


「うぐぐ」


エイプリル大恐慌に詳しいのかこいつ?確かに正者の研究家、いや追っかけであれば、その辺りの事情を押さえていても不思議じゃない。エイプリル大恐慌は日本国内の道路や建物も含めて7割も消失した事件だからな。特星中のほとんどの商品を扱う勇者社にも同じような攻略法を試そうってわけか!だ、だがこいつが会社のことを知らずに勇者社乗っ取りを企んでいるかもしれない。ふん、こいつの自信が化けの皮かどうか試してやるぜ!


「なら正志!お前には勇者社をどうにかする解決策があるってのかよ!具体的に言ってみな!」


「こういう場合はよ、初手は資金の価値があるうちに買取に専念して、生産体制のための資源資材設備を急いで増やすのさ。この星ならではの方法だが、早めに資源や商品を生み出せる特殊能力者を雇用するのも手だな。各勇者社にテレポート装置があるから、どこかの都市に人口を一極集中させて人と物を集まり易くすれば、必要な物を揃えやすいだろうぜ。需要・供給の調査管理も楽だしな。わかるか?サービス提供を円滑にするために、分散させずに都市化を基軸にするってことだが」


「わかりやすく言え!」


「俺様には策があるのさ!定石だがな!わかったか!」


「くっ」


こ、こいつ……。ノータイムでわかりやすい返答までしてきやがる。なんでサービス提供のことをそこまで考えるのか意味わからんが、冷静に考えれば、俺は勇者社の利用者側だからな。放っておけばこいつが勝手に勇者社を使い易くするっていうなら、別にこいつに任せてしまってもいいのかも?


「魅異、お前の予想ではこいつが適任なんだよな?」


「勇者社を物語に悪影響を与えないレベルで維持できるのは、正志だけだろうね~。物語世界の事情もクレーほどじゃないけど把握してるし。荒事にも強い。圧倒的に適任だと思うよー」


「わかったよ。今日のところは様子見だ。だが覚えとけ正志。勇者社で滅茶苦茶するようなら主人公の俺が黙ってないからな!」


「くくくく。実力行使で決着したけりゃいつでも来な。俺様を倒せたら勇者社社長の座くらい譲ってやるさ。てめえに物語が味方すりゃ勝てるかもな!」


「行こうぜ悟。奴が『赤き洗脳』のカードの影響を受けてないなら相手するのは体力の無駄だ。少なくとも今は敵じゃない。ここは魅異を信じよう」


「クレーの言う通りです。今は勇者社どころの状況ではありません。恐怖の大王一族から特星の住民を取り返すことを優先しましょう」


「わかってるよ。おい、また来るからな!」


「お好きにどうぞ。俺様は大歓迎さ」


「またね~」


勇者社前にいる魅異と正志に背を向けて、俺とクレーとパンレーは勇者社を後にする。魅異がいなくなった後の勇者社か。……正直、想像もできないぜ。今はあの正志とかいう男に任せるしかないが、必要とあらば俺がその役目を引き継ぐことになるかもな。だが今は、この星に蔓延しているカードの洗脳を解くことが先決だ!




勇者社に入り、俺とパンレーとクレーの3人はワープ装置の前に立つ。クレーがワープ装置を操作すると、普段は見かけない画面が映し出された。……特星本部の幹部職専用のモード!?えっ。魔王になれば、こんな特別仕様の機能を使用できるのか!?ちょっと羨ましい!く、なんで主人公の俺には特別モードが用意されていないんだろう。


「えーっと。これが幹部のみが使用できる機能……だよな。話には聞いてたが、俺も触るのは初めてだ。行先は、裏ステージを押せばいいはず」


クレーは見るからに不慣れな手つきでワープ装置の端末を操作していく。初めてワープ装置を操作したときの俺のようだ。……ああそうか。このクレーは昨日までの10年間近くを恐怖の大王一族の元で過ごしていた。だからワープ装置の端末操作が久々なのか。魔王城を行き来していたのは昨日までいたクレーで、こいつは話を聞いただけに過ぎない。そして情報源は恐らく、会ったと言ってたもう1人のクレー本人からだろう。


うーむ。寮でも気になったが、2人のクレーが会えたり会えなかったりするのは何なんだ。パラレルワールドやドッペルゲンガー的な感じで、2人が会えないとかではない。どっちのクレーも互いを知ってる感じの言い回しだったし、寮でクレーは物語外なら会えると言っていた。じゃあ2人が会える物語の範囲外と、2人が会えない物語の範囲内ってのは、一体何を指すんだろう。物語世界の外と内ってわけじゃない気がするが、なぜそう思うかは俺自身よくわからん。


「準備完了だ。さあ2人とも、もう転送するけどいいか?トイレ行くなら今のうちだぞ、悟」


「私は準備万端ですよ!」


「特星でトイレは使わねーよ。吐くときくらいだ」


「おっと、悪い悪い。宇宙船暮らしが長かったからさ。じゃあいくぜ!」


クレーがワープ装置の決定ボタンを押す。すると俺たちの周囲の景色が一瞬真っ白に輝き、次の瞬間には周囲は勇者社ではなくなっていた。


「うっ。ここは?」


ここは……。質素な石垣で作られた部屋に、赤く広々と床に備え付けてある絨毯。熱と光を発している壁に固定された松明の灯火。それらと対照的な電灯のライト。石垣の間に隠すように取り付けられているエアコン。炎とエアコンで温度と湿度が整えられた、梅雨を感じさせない一室だ。古さと新しさを詰め込んだような広間。ここは、ど、どこだ!?こんな転送先は来たことも聞いたこともないぞ!


「へー、裏ステージって割に快適そうですね」


「い、いや違う!俺は裏ステージにある勇者社を移動先に指定したんだ!船で帝国に向かうために!それにこの建物の特徴、間違いない。ここは裏ステージのみに存在する施設、魔王城だ!」


「魔王城!?俺が欲しかった城だ!で、でも案外過ごしにくそうな造りだ。絨毯の傍に松明を置くとか正気か?地球なら欠陥住宅だろ」


「あら、バカな侵入者が罠に掛かったかと思えば、驚いたわ。あんたたちがやってくるなんて。あんたらにしては知恵を使ったじゃないの」


「そ、その声は」


「皿々ちゃん!?」


広間の中央に突如姿を現したのは、擬人化ドラゴンの皿々だった。銃を構える俺に対し、奴は腕を組んで俺たちを見据えている。そして嫌そうな顔で溜息を吐く。なんだなんだ、さっきの誉め言葉とは裏腹に、呆れているというか面倒そうな態度だなこいつ!


「あんたらの狙いは封印解除のカードね。今、特星中に影響を及ぼしている恐怖の大王一族の呪術。カードを媒体にしたこの呪術を打ち破るためには、シクレットのエネルギーを封じた封印解除のカードを利用すればいい。大方、そんな魂胆でやってきたんでしょ?」


「惜しいな。洗脳された奴らが封印解除のカードを使えば洗脳が解けるって言ってたんだよ。だから敵の罠にあえて乗ってやろうって考えなのさ!」


「……あたいが思ってたよりも数倍は考えなしだわ。先に断っておくけど、封印解除のカードは使わせないわよ。宇宙に封印されているシクレットは恐ろしい化け物でねぇ。奴が解き放たれたら、特星は勿論、この周囲一帯を支配下に置こうとするはずよ。かつての地球侵略のようにね。そっちのドラゴンなら何か知っているんじゃないかしら?」


「私です皿々ちゃん!あなたと電子界で親友だった、姿のないドラゴンの!ジパンレイドラゴンのパンレーです!覚えてませんか!?」


「ふん。知らない名前ね。けどパンレー。電子界にいたならあんただって知っているはず。シクレットの力の強大さをね。なのに人間に肩入れして封印解除のカードを使おうなんて、あんた一体どういうつもりよ。あんたらの目的は無能どころか利敵行為よ!あいつならそんな真似はしないっ!」


「……そっか。変わらないね皿々ちゃんは。私は電子界に閉じ込められて、人間の生活を見てきて、外に憧れて、この男に助け出されて。体まで貰った。全部変わっちゃったんだ。だから例えシクレットが復活するかもしれなくても、私はこの男に、人間に味方するって決めたんです!」


「いいぞパンレー!弱気の皿々に言ってやれ!シクレット如きが主人公の敵じゃねーってな!」


「雷之 悟。あと1分くらいちょっと静かにしてて下さい」


「おう。あ、クレーはずっと黙ってるけどなんか言わなくていいのか?あいつ勝手に魔王城を利用してやがるけど」


「いや。なんか口挟む雰囲気じゃないし」


にしても皿々は恐怖の大王一族や今の状況を知ってたか。やっぱりドラゴンは恐怖の大王一族と因縁があるからか話が早くて助かるな。こうなってくると、ぱっ狐&ゲージ連合が敵に封印解除のカードを売る可能性もなさそうか。もっとも皿々の言う通り、俺らは封印解除のカードを使って「赤き洗脳」を解くつもりだから、奴らと協力できるかは別問題だが。


「ドラゴンには、自分よりも強いものを生涯の相棒としてパートナーにする習性がある。パンレー、あんたは手頃にその男に目を付けたってわけだ。……くくく。幻滅だねぇ。あたいは最上の相方にパートナーとして認められたってのに。ねえ誰だと思う?特別に教えてあげるよ。現在の帝国を牛耳っている特星のNo.2、そう、アルティメットさ!」


「No.2、ですか」


「特星ランキング1位の魅異は論外だからねぇ。アルテこそが実質No.1よ。あの大怪獣ロックハンドラの娘である印納と同格以上の最強戦力っ!あの子さえいれば、帝国にシクレットが直接攻め入ってきても余裕で撃退してくれる!」


「じゃあ封印解除のカードを渡せよ!」


「アルテは気難しくてねぇ。自分の活動範囲外に手を貸すような真似はしないわ。だからこそ、封印解除のカードは渡せない。カードの呪術はまだ対策できるかもだけど、シクレットは本当に手に負えないもの。シクレットの封印が解けたら、帝国の外にいるあんたたちや特星や地球はおしまいなのよ!」


「……なあ悟。もしかして皿々ってドラゴンは、長期的には洗脳された人たちの救出まで考えて、封印解除のカードを渡さないつもりなんじゃないか」


「さあな。ただシクレットが封印されている今でさえ、城赤は洗脳されて、特星中が危険な有様になっているんだ。どうせ皆を救出できるかは賭けだろ。なら封印を解いて、元凶のシクレットをぶっ倒す方がいいに決まってるさ!」


「シクレットを倒す、ねぇ。あたいだって印納かアルテがフルパワーで戦うならその手も考えたさ。けど印納はいつまで経ってもシクレット討伐に名乗り出てこない。魅異やアルテも強いけど、事件解決とかには手を貸してくれない。他のメンツはシクレットとやり合えるとは思えない。……封印を維持するしかないのさ」


「へっ、主人公の俺なら勝てるさ!皿々、お前がどう思おうが、こっちは力づくでも封印解除のカードを奪いに行くぜ!邪魔したいなら俺たちを止めてみな!」


「待ってください!雷之悟、クレー。ここは私一人に任せてくれませんか」


「パンレー!?」


俺とクレーの前にパンレーが羽ばたいて前進していく。パンレーは最初の頃に比べれば随分と大きくなったが、まだ片腕で抱きかかえられそうなぬいぐるみのようなサイズだ。サイズアップしたものの噛みつきの威力は学生一人を窓から引きずり落とす程度のもの。一方皿々は、見た目こそ小学生サイズだが、パワフルな攻撃から小技までこなせる印象がある。


うーむ。パンレーに任せて大丈夫だろうか。皿々はあれでも俺相手に善戦したり、錬金術の怪物相手に有効な手を打ったりと、一筋縄者いかない相手だと思うが。


「お前たちの言いたいことはわかります。きっと勝てるか不安なのでしょう。でも、弱いからこそ私が皿々ちゃんに示したいんです。力量差だけで勝負は決まらないって」


「……へっ。安心しろよパンレー。俺がお前の勝利を疑うわけないだろ。俺は最初からお前の勝ちを信じ切っているぜ!俺の予想は百発百中だ!外れても威嚇射撃だから気負わずに行ってきな!」


「それは信じ切れているのか?まあ、力量差だけで勝負が決まらないってのは同感だ。パンレー、俺もあんたの熱意が勝ちに繋がることを応援しているよ。あの皿々って子は、力を心のありどころにしている。その自信の源をあんたが打ち砕くんだ!」


「ええ、任せてください!」


「あたいとタイマンだとぉ?随分と舐めた真似してくれるじゃないの。3体同時でも本気のあたいには勝てやしないってのに!なら、あんたに思い出させてやるわ。あたいがどれほど凶悪なドラゴンかってことをねっ!燃えるチューズブレス!」


「「うおっ!?」」


皿々が大きく口を開けると、俺たち3人を飲み込むほどの火炎放射のブレスが放たれる。俺とクレーはとっさに左右に飛び退き炎を回避する。パンレーは回避が遅れたように見えたが無事か!?


「あ、あれは!見ろ悟、あのドラゴンの子の体を!」


「うん?うおっ!?」


俺がパンレーを探そうと辺りを見渡していると、クレーの声が俺に呼びかける。言われて皿々を見ると、奴の体は擬人化した姿からどんどんと巨大化していっている!奴の体と口が大きくなるにつれ、皿々から吐き出されている炎のブレスは広く強くなっていく!あ、あれはまさか擬人化状態から本来の姿に戻っているのか!?


変身後の皿々は俺たちの背丈の2倍のサイズはあるドラゴンになっていた。でかいといえばでかい。だが、俺が電子界で見たパンレーよりはずっと小さいサイズだ。あのときの俺とパンレーのサイズ差での戦いを思えば、今のパンレーでも勝てる見込みはありそうだ。


「上ね。だけどもう逃げ場はないわよ!獄炎チューズブレス!がああああぁっ!」


「くうぅっ!」


上を見ると、煙をまといながら炎ブレスの弱い場所へ移動するパンレーの姿があった。一発目のブレスを受けながら天井付近に移動していたようだ。だが、変身後の天井の広範囲を埋め尽くす炎に苦戦を強いられている。


「くっ。パンレー!攻撃は全部避けるか耐えるかして反撃するんだ!倒れなきゃ競り勝てる!」


「よせ悟。お前の戦い方は持久戦向けだ。彼女には彼女の戦い方があるさ」


「あっ、クレー」


「それよりも応援してやろうぜ。さっき言ってただろ。彼女、お前に助けられたって。お前が応援すれば力を発揮するんじゃないか。お前にわかりやすく言えばバフ効果ってやつだ。負けるなーパンレー!」


「応援がバフか。いいこと言うじゃんクレー。なら、こういうのはどうだ!おい皿々ーっ!お前俺の魔王城燃やしやがってーっ!人様の建物を燃やす放火魔がでしゃばるんじゃねーっ!とっとと故郷に帰りやがれ!顔も多分パンレーの方が上に違いねーなぁっ!Boooo!Booooooっ!」


「あぁっ!?あんた今あたいに言ったのか!?」


「うおっやる気か?別にいいぜ。タイマン勝負に水差す気はなかったが、そっちが手を出すっていうなら相手してやるよ!」


[ずばぁっ!]


皿々が炎を止めてこっちを向き隙ができる。その瞬間、炎を纏ったパンレーが皿々の片目に飛んでいき爪を振り下ろした!パンレーの攻撃は皿々の片目に直撃したがあまり効果はなさそうだ。皿々は数秒間だけ攻撃された方の目を瞑るだけで、攻撃に対するリアクションがほとんどない。


「皿々ちゃん!私を倒せもしないのに余所見するなんて、勝負を捨てるつもり?タイマンじゃ勝ち目がないから、皆を巻き込んだ混戦で私の隙を伺う気なんだね?」


「はっ、つまらない冗談ね!あんたは約束通りタイマンでぶっ倒してやるわよ!やい悟、お前は後で蹴散らしてやるから少し待ってなさい!」


「それと雷之 悟。お前はあまり余計なことを言わないように。皿々ちゃんは私の親友なんです。その、か、顔のこと以外の言いがかりは許しませんからっ。後で謝ってくださいね顔のこと以外はっ」


「あんたも照れてるんじゃない!あたいの方が100倍美少女だっての!極寒ウェンズブレス!かあああああぁっ!」


「きゃあっ!」


皿々の吹雪のようなブレスを急降下で何とか避けて、直撃せずに済むパンレー。しかし吹雪の勢いが急降下に加わったからか、墜落するように地面に叩きつけられ、パンレーの体が宙にバウンドする。ま、まずい!あの体勢じゃブレスをずらされたら回避できないぞ!


皿々もパンレーの回避に気付いたらしい。首を勢いよく振り下ろして、吹雪のブレスの軌道を下に向ける!が、真下に振り下ろしたために横にずれてバウンドしたパンレーの位置を捉えられなかった!……外しただって?あんな広範囲のブレス攻撃なのにどうして外すんだ?


「今のはヤバかったな。ドラゴンの形状が仇になったようだ」


「ドラゴンの形状?どういうことだクレー。どっちが仇になったんだ?」


「皿々ってドラゴンの方さ。ドラゴンは顎の付け根から鼻先にかけてが犬みたいに前方に長いだろう?だから真下方向への視認性が人間に比べると悪くなる。あの冷気の激しい広範囲ブレスも相まって、ブレス中は下側がまるで見えなくなるんだ」


「へえ。よくそんなこと思いつくもんだ。あっ」


クレーの解説を聞いている間に、パンレーが低空飛行で飛んでいき、皿々の尻尾側に回り込む。皿々はまだパンレーの移動に気づいていないのか、極寒のブレス攻撃を広間の中心に向けて続行している!よしチャンスだ!必殺の一撃で決めてやれーっ!


パンレーが鋭い爪を突き出しながら、皿々の腹部に突っ込んでいく!


[がきいぃん!]


パンレーの攻撃は見事に皿々の腹部を捉えていた。だが、その爪は鱗のなさそうな腹部にさえ突き刺さることはなく、硬質な音を発して、パンレーごとはじき返されてしまった!


「なっ!?」


「なにっ。そこかぁっ!」


皿々は体を反らすように下半身だけを高く宙に振りかざすと、上半身を軸に勢いよく振り下ろし、勢いよくその巨体でパンレーを蹴りつけた!とんでもない体格差で勢いまでつけた必殺の蹴りは、その風圧で吹き飛ばされていたパンレーに一瞬で追いつき、パンレーの体を直に蹴り飛ばす!


「どっがががああぁん!」


「「パンレー!」」


一直線に魔王城の壁に蹴り飛ばされたパンレーが壁を突き抜ける。パンレーが壁を突き抜けていったため、魔王城のいくつも連なる壁には、生身の生き物が衝突したとは思えないような大穴が空いている。この広間の壁に至っては、前方の壁のほぼ全てが粉々に砕け散っている。衝突の衝撃波が壁一面を粉砕したようだ。


パンレーを蹴り終えた皿々は、広間の空中で羽ばたきながら、崩壊した前方の壁から顔をそむける。


「今のあたいの蹴りには、破壊力増強の錬金術を上乗せしていた!蹴る対象をあたいの技に見立てて、すべてをぶち壊す弾丸とする!攻撃と協力の必殺奥義!ポロレイシュートよっ!パンレー、あんたとの決別に、あたいはこの技を捧げるよ!あたいの錬金術の知識と技術の集大成だ!もう、二度とあたいの前に姿を見せないでくれ。あたいは……アルテと共に進むんだ!」


ここからでは高所で顔を背けている皿々の顔は見えない。しかし、奴の顔の辺りからは何粒かの涙が落ちている。泣いているようだ。


あんなに会いたがってたパンレーを拒絶する皿々の考えは、俺にはよくわからない。奴がアルテの何を気に入っているのかもわからん。


俺にわかることはただ一つ。……この戦いの決着はまだついちゃいない。皿々が目を逸らしている魔王城の粉々に壊れた壁。そのずっと奥の彼方にいるあいつの目にはまだ覇気が宿っている。皿々もクレーも気づいた様子はない。それほどの遠い位置だが、俺にはしっかりに見えている。


来るぜ。強烈なダメージでふらつきながらも、どんどん加速して魔王城に突っ込んできている!無鉄砲で真っ直ぐなあの突撃は……!恐らく次の一撃に、パンレーは全てを賭けてくるっ!


「皿々ちゃぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーん!」


[どががががっ!]


「なっ!?んぐあぁ!?」


標的の名を叫び、高速で飛来するパンレー。床に散らばった壁の破片を勢いで蹴散らしながら迫りくるその登場に全員の視線がそちらに向かう。皿々も大きな口を開けて驚きながら、傍に急接近していたパンレーの方を振り向いてしまった。


その瞬間、パンレーの軌道がわずかに変化して、そのまま皿々の喉奥まで突っ込んでいった。皿々の後頭部のやや奥辺りにある首が内部から突き上げられるように変形する。首の一部は瞬間的に後頭部よりも高くまで突き出し、やがて押し返すように変形は元の形に近いものとなった。しかしそれでも皿々の首は完全に元に戻ることはなく、全方向にやや丸みを帯びた形で突き出している。


「なっ、なんだ?今の声、パンレーが突っ込んできたのか?」


「ああ!パンレーが皿々の喉元を突き上げやがった!今は奴の喉元の辺りで元気に動き回ってるぜ」


「ぐううぅ!ああがああぁぁっ!」


喉元がうねうねと変形する度に、皿々は苦しそうなうめき声をあげて、首を大きく振ったり不規則に飛び回ったりしている。今までの攻撃を受けた際の余裕のある反応とは違い、パンレーの動きを明確に意識した挙動をしている。間違いない、パンレーの攻撃が効いているんだ!


「皿々ちゃん!私の声が聞こえていますか!」


「おっ。パンレーの声だ」


「ぐううぅっ!ぱっ、パンレへぇぇっ!」


「皿々ちゃん。もうこの勝負、あなたに勝ち目はないよ。今はまだ気道に隙間があるけど、それも私がふやけるとなくなってしまう。そして今私の体は、皿々ちゃんの唾液と体液によって体積がどんどん大きくなってるの。これ以上続けても、窒息の苦しさが増すだけだよ」


「……なあクレー。皿々の首の太さってパンレーの体の長さと同じくらいだろ。かなり差があるけど、本当に窒息効果があるのか?」


「首の太さに対して、気道は細いからな。人の首の太さと同程度の長さでそこそこ体積もある粘土をホースに詰め込むようなものさ。普通は完全に詰まる。だがドラゴンはブレスを多用するから気道が広いのかもな」


「ぐううううっ」


[ずずぅん!]


「おっ」


皿々は相当余裕がないのか、ふらふらと高度を落としてついには膝をついてしまう。床に首をこすりつけてもがく姿からは、先ほどまでの余裕は一切感じられない。


もはや皿々には喉元にいるのパンレーを取り出すことは難しいだろう。ドラゴン形態では喉に手を入れて物を引っ張り出すのは難しい。だが、人間形態になれば喉にいるパンレーの体積に耐えられず、皿々の喉は内部から破裂する。特星なら破裂はしないかもしれないが、どの道パンレーを取り出すことは不可能だ。こりゃ詰みかな。


「ねえ皿々ちゃん。私、本当はあなたには苦しい思いはしてほしくないの。私もね、特星に来てから1度だけ、窒息してすごく苦しかったことがあるんだ。私は特星に来てまだ日が浅いけど、その出来事と、今朝一番便利な魔法が使えなくなったことの2つは、本当にショックだった」


「短期間の間にそんな出来事が?そりゃ辛いな。彼女に一体何があったんだろう?」


「あー。色々な」


もしかして窒息の出来事って、勇者社で体積の4倍くらいの量の液体化した高性能翻訳飴を飲ませたことだろうか。寮ではあまり話題に出さなかったが、まさかショックを受けていたとは。勧めたのは俺だし、同じ部屋に住む立場上言いにくかったのかもしれない。気づかなかったぜパンレー、後でお詫びに飴でも買ってやるか。


「でもね。私は窒息の辛さを知っていたおかげで皿々ちゃんに勝てそうなんだ。皿々ちゃんは本当に強くて、私には他の勝ち筋はなかった。これは私が勝つための唯一の手段で。できれば、窒息なんかで皿々ちゃんに苦しんでほしくはないの。だからお願い皿々ちゃん!こんな勝負はもうやめて、昔みたいに仲よくしようよ!私はこれからも皿々ちゃんと対等に色々話したいの。だからお願い」


「ぐっ!かあぁっ!」


皿々は首を振りながらパンレーを吐きだそうとしている……のだろうか?もはや動きにキレがなく、目の焦点も定まっていないように見える。パンレー相手とは言えこんな状態だと、例え吐き出したとしてもまともに戦えるかは怪しい。今の皿々は、気力だけで持ち堪えているのかもしれないな。


「そうだよね。皿々ちゃんは強いし負けず嫌い。ドラゴンらしく強い相手の話にしか耳を貸さないタイプだもんね。……いいでしょう。なら皿々ちゃん、私なりのドラゴンらしさであなたを倒します。長々と苦しみながら意識を失う前に、私が決着をつけます!」


「いいぞパンレー!割と手遅れな気がするけど心意気はいいぞ!」


「ふふっ。よく聞くんですね皿々ちゃん!今、私の目の前には、お前の鼻の穴につながる穴があります!今からこの穴の周辺や内部を、私の爪でずたずたにします!お前は苦しむ暇もなく気絶するしかありません!降参は自由ですけどねっ!」


[がりがりがりがりりりっ]


「うぉぁぁ……っ!」


[どっどおぉん!]


皿々の口からややゆったりとした引っ掻き音が聞こえてくると同時に、皿々の体は痙攣しながら飛び跳ねるように宙に舞い、その巨体の落下で魔王城を揺らした。その後も飛び跳ねたり転がりまわったりと落ち着くことなく広間の中心で暴れ回る皿々。さっきよりもよほど苦しそうに見えるのは気のせいだろうか。


「なんつーか滅茶苦茶痛そうに見えるぜ」


「同感だ。なあ悟、少し離れないか。このままじゃ巻き込まれそうだ」


「ならあっちの壊れた壁から外に出るか。建物自体が崩れるかもしれないし」


「おう」


俺たちは広間の壁に沿って移動して、パンレーが蹴り飛ばされた際に壊れた壁から外に出る。魔王城の建っている場所は見覚えのない特星エリアの丘の上だった。遠くに現代エリアの住宅街や勇者社が見えるが、人が一切見当たらないことから裏ステージで間違いなさそうだ。


パンレーや皿々の声、引っ掻き音などは距離が離れたためもう聞こえない。だが皿々の暴れまわる際の揺れや音はまだここまで響いてくる。気絶までにはまだ時間が掛かりそうだ。


「少なくとも帝国のある大陸じゃないな。こりゃどこの特星エリアだ?わかるかクレー?」


「場所は問題じゃない。重要なのは、皿々を倒すことでワープの妨害が止まるかどうかさ。彼女を倒しても裏ステージ全てへのワープが妨害されていると厄介だぜ。ここから海までの徒歩移動が追加で要る。航路も最短じゃない。不幸中の幸いは、わざわざ妨害していることから、裏ステージからなら帝国にたどり着ける可能性が高いことだ」


「妨害といっても時間稼ぎってことか。妨害にしては中途半端だな。裏ステージへの侵入を止めるのが一番確実だろうに」


「裏ステージのワープ先は表と同数かそれ以上だ。少なくとも勇者社の数以上のワープ先がある。ワープに対する妨害難易度がまず高いだろうし、完璧に防ぎきるのは難しいんだろう。……そう考えると、帝国に一番近い勇者社に張ってたのかもな」


「まんまとハズレを引いたってわけか?そりゃ運がないな」


とはいえ、そのおかげでパンレーは念願であった皿々と再会を果たせたともいえる。それも一気にでかくなった当日にだ。大きい竜になった皿々の口に飛び込めば、空気を遮ることができる丁度いいサイズ感。そんなベストコンデションで決着の日を迎えている。あいつにとっては、今日は幸運な日なのかもしれないな。


「あのーすみません。決着ついたんですけど」


「おおパンレー。って、うわ!汚っ!」


背後から声をかけたパンレーは、全身がべちゃべちゃに濡れた状態で皮膚もふやけていた。ついさっきまで皿々の喉辺りにいたからか、結構な刺激臭を漂わせている。今の状態のままだとコートに触れられるのも断りたいくらい汚い。地球にいた頃の校長がこんな空気感だったな。


「彼女の唾液か……。早く洗った方がいいんじゃないか?」


「えへへへ。後でいいですよ。いやてかお前たち、私の戦いっぷりを見ないで何してるんですか?勝負を見ずにサボってたんじゃ」


「今さっき移動したんだよ。それより皿々とは和解できそうか?戦いはお前の勝ちだが、あの皿々が1回の勝負で負けを認めるとも思えないぜ。いや、何なら逆恨みするんじゃないか?」


「心配要りません、雷之 悟。私は皿々ちゃん個人のこともですが、ドラゴンの性質もよく知っています。次会うときに強気に振舞うことがあっても、きっと内心は今日のことで頭がいっぱいになっていると思いますよ」


「あいつが?そんなタイプかぁ?」


「ぐ、ううぅ……!あ、アルテ……?」


「なんだって?」


室内から聞こえてきた皿々の呟きを聞き、そちらを見る。すると、今さっきまで居なかったはずのアルテが皿々の傍に立っていた。特星の一般的な小学生たちよりも一回り小柄なアルテ。だが竜状態の皿々を見下ろす堂々とした風貌は、見た目の印象を上書きするほどの存在感を放っている。……なんだこの威圧感は?見た目はどう見ても本物だ。だが、いつもと様子が違う。


「アルテ!なんでお前がここに!まさかお前……」


「やあ悟。私の雰囲気がいつもと違って困惑している、って顔だね。心配はいらないよ。私に『赤き洗脳』の効力は及んでいないし、私は恐怖の大王一族の味方でもない。ただ今日はねぇ、ちょっとだけ気分転換ができそうで舞い上がっちゃってるのかも」


「気分転換だと?」


「私は主人公の君と対立する気はないんだよねー。物語の進行妨害をする気もない。でも皿々ったら勝手に君たちの妨害をしちゃうんだもん。これって利敵行為だよねぇ」


「あ、あたいは秘密結社の仲間のために……!それにあんたは天利を嫌ってたから、てっきり悟も敵かと……!」


「うんうん。どっちも最もな理由だよ。皿々ちゃんが頑張ろうとするのも仕方ないね。でも私に対する敵対行為には違いないから。責任は取らなきゃだよね?」


「そんな……アルテ!ど、どうして……!」


「大丈夫。私は悪役じゃないからね。君と私が仲間っぽくない関係になる最低限の処分で済ませるつもりだよ。えーっと、まず皿々ちゃんは私がトップの間は帝国の大陸に立ち入らないこと。あと2度と私に口を利かないでね」


「…………なんで……さ」


皿々は震えた声で、顔だけ上から見ているアルテの方に向ける。多分泣いているんだろう。皿々には戦闘でのダメージはなさそうだが、顔を上げる気力もないようだ。


アルテはまるで興味なさそうに皿々の横を通り過ぎて、俺たちの前に立ちはだかる。


「さ、皿々ちゃん……!おいお前!一体どういうつもりですか!?お前は皿々ちゃんの仲間じゃないんですか!」


「ああごめんね。茶番なら後で好きなだけしていいよ」


[どさどさっ]


突然、パンレーとクレーが意識を失って床に倒れ伏す。奥で皿々も気を失っているようだ。今、この場に立っているのは俺とアルテの2人だけだ。このまま戦えばタイマン勝負か……!


「やる気か!?」


「その手は食わないよ、悟。君はすでに私の正体を聞いているよね。いや、俺様の口調を戻す方が反応せざるを得ないか?どうだい主人公様よぉ!」


「……そうだった。お前の仕業か、正者っ!」


昨日、印納さんの内部にいるバックアップの正者が言っていたな。究極物質がアルテに移動した際、バックアップ正者の一部がアルテの内部に移動したって。そうか、皿々に対する態度がいつもと違うと思ってたが、こいつが裏で手を引いてたのか!


「昨日の今日だぜ。いつもみたいに事件のペースが2か月空いているわけじゃねえ。ちょーっと無理のある返しじゃねえか?」


「え?あ、ああ。言われてみればそうかも……?いやまて、なんでお前がそのことを?」


俺が正者のことを聞いたのは、負世界での出来事。マイナス無限で隔離された印納さんの体内での会話内容を、どうしてこの正者が把握しているんだ!?


「俺様のこの体、アルティメットの体にはイレギュラー権限がある。物語開始時点から確定済みの物語までを閲覧できるのさ。さて、それよりも本題だ。今、俺様はリスクを冒してまで物語に介入している。なぜ、こんなことをしていると思う?」


「ああ?まさか!主人公の俺を倒して、そのアルテの体で世界を好き勝手するつもりか!?」


「けっ!何にもわかっちゃいねえな!いいかよく聞けよ。今、メニアリィが天利の意思に反して、物語の完結を長引かせていやがる。だが天利は、メニアリィに負い目を感じていて、奴の行いを咎めもしやがらねえ。おかげで俺様は大迷惑喰らってる最中だ!だからこうして、主人公を通じて奴らにクレームを入れに来たってわけさ!」


「えーっと。話の全容が全く分からないんだが?いやそれよりもひとつだけ言っておくぜ。ふざけるなよ正者!文句があるなら本人に直接言いやがれ!」


「てめえも悪いんだぜ、主人公様。大体不自然だと思わねえか?今までは数か月に一度ペースだった事件が、連日の密度で発生しているんだ。物語の大筋は奴の言いなりだとしても、個々の思考や行動はてめえらの都合。主人公のてめえが聡明だったら、奴は昨日にあそこまでイベントを詰め込まなかっただろうぜ」


「昨日?」


言われてみれば確かに、昨日はいつもよりも慌ただしかったかもしれない。街中でのレッドカード団員探しから始まり、ラルフ戦、クレー連戦、ウィル戦、城赤戦、負世界送り、印納さんと正者の話、オットー戦、戦闘数だけならいつもと変わらないが、仲間が洗脳されていたから、その解決策を模索しながらの戦いだった。


今でも、城赤の洗脳、封印解除のカード、赤き洗脳のカードと問題は山積みだ。特に封印解除のカードについては東武やシクレットが関わっていて複雑な感じになっている。いつもよりも複雑化しているって話も言われてみればそうかもしれない。


「物語云々の話は、俺も天利やメニアリィから何度か聞いたよ。よくはわかんないけどな。メニアリィと天利が揉めてる光景も負世界で見た。だから正者、メニアリィが物語を引き延ばしてるかもって話は信じてもいいさ。……だけどお前、地球にいた頃天利に襲われたって聞いたぜ。なのに俺を通してメニアリィの物語停滞を解決するってことは、遠回しに天利も手助けしてるじゃん。なーんか裏があるような気がするんだよな」


「……てめえが俺様を疑うのも無理ねえさ。今の物語はメニアリィが全てを担っている。天利が大筋を決めていたのはファイナルラストボスチック……最初のラスボス戦までだ。俺様の登場させたのはメニアリィだもんな。奴が俺様にどういう役を求めて、どういう印象をもたせるつもりか。俺様にはわかりきっているんだ」


「えっ。それって、メニアリィが正者を悪役にしたがってるっていいたいのか?」


「本来はそうだろうぜ。だが今は、俺様はアルテの体を手に入れ、イレギュラーになった。奴は俺様を物語で縛ることはできねえ。あいつ……メニアリィは、俺様がイレギュラーだと気付くまで、そりゃ雑に俺様の印象を悪くしていたもんさ。正者は悪だ、みたいにな」


「う。校長の話や地球での悪評もあったとはいえ、俺も確かにそんなノリだった。否定はできないな」


「仕方ねえさ。てめえも正安も物語の大筋にハマっちまったんだ。メニアリィはアルテの異変に気付いてからは、俺様を排除しようとイレギュラー排除をてめえに頼んだ。だが意図を読めずに外のクレーが介入し、物語世界を出て行った。目論見は失敗したのさ。だから俺様が物語を邪魔することを恐れて、メニアリィは今になって味方の正者を登場させた。これが昨日までの出来事と、その舞台裏さ」


「じゃあお前は俺と戦う気はないのか?」


「ああそうだ。俺様は戦いを望んじゃいない。誰が好き好んで負け戦を挑むかっての。俺様はてめえとは距離を取って物語が終わるまで逃げ続けるつもりさ。だがイレギュラーになっても未だに、本来の結末ってのが頭をよぎるんだ。きっと俺様は下らねえ理由でてめえに挑んで、負けていだろうよ。絶対、事故死か何かで再登場不可になっていたぜ。いかにも死にそうな感じの扱いされてたものな。だからって俺様の命で主人公様の手を汚させるとも思えねえし」


なんだろう。正者の語りがあまりにも真剣そのもので、返す言葉がない。話が進むほど、口を挟める状況じゃなくなってきている。この話を聞かせて、正者はどういう状況に持ち込みたいんだ?それとも本当に辛い経験に感じていてそれを聞かせたいだけか?あの正者が?いやそれとも正者だから疑うことがメニアリィの誘導……?


そもそも正者はこの話を誰に聞かせようとしているんだ。最初言ってた通り、俺を通してメニアリィに伝えたいのか?それとも似た状況で聞いていそうな天利か?そんなことは忘れて、今は俺と話しているつもりなのか?


頭が混乱しそうだ……。悪役が悪役をしないってなんだよ。もうここ魔王城だし、正者が魔王ってことで戦闘を仕掛ける方が楽な気がしてきた。あ、でも体はアルテだから多分勝てないか。


「なあ主人公様よ。俺様がどうしてアルテの体に居続けて、物語の終了を待ち望んでいると思う?」


「……え?」


「俺様には、かつて天利に植え付けられた恐怖、トラウマみたいなのがあってよ。女子小学生を前にすると全身が痛むんだ。傷はねえのによ。オリジナルの野郎がわざわざ残していった呪いみたいなもんだ。アルテの体でも不老不死オーラでもこればかりは治らねえ。だが、アルテの振る舞いを模倣して、他の女子共の精神世界を旅する内に、痛みは消えていったのさ。……もう間もなく完治だ。そしたら俺様は、物語世界を出ていくつもりさ」


「物語世界を出ていくつもりなのか。でも症状が感知してから出ていくんだろ。なら結局、物語の終了は関係ないんじゃ?」


「物語終了までは、魅異が登場人物を外に出させねえ取り決めらしい。イレギュラーは別だが、その場合はアルテだけ出られる。まあどうせ、アルテの体ごと外に出れば奴に主導権が戻っちまうがな。だから物語終了後、物語世界の境界線まではアルテの体で出向いて、外に俺様のボディを作り出して脱出するのさ」


「ふーん。でもそんな方法じゃ後でアルテに詰められるぜ。普通にアルテに協力してもらって外に出してもらえばいいじゃん。お前の肉体だってあいつの力で作れるんだろ?」


「無理な理由があるんだ。俺様が女子小学生を帝国に集めているのは知ってんだろ。あれは天利のトラウマを克服するためにやってんだ。そして俺様のトラウマは天利に襲われたことが要因だった。だからよ、子供同士だし、キスやら何やらも試したんだ。当然、相手の了承を得てやったぜ?でも肝心のアルテの猛反対だけはどうしようもなかった」


「ま、まさか。正者お前、アルテの体で勝手にやったのか?」


「そうなんだ。でもアルテは物語世界の外の雑魚ベーが好きみたいでさ。死刑宣告されたよ。最初の一回目で死刑だとさ。今では一周回ってただでは殺さないになったが、この様子じゃ加減なんてできやしないだろう。本能でわかるんだ。奴は俺を絶対許しはしないってな」


「お前やべーな。アルテは温厚な性格ではあるけど。あいつが死刑宣告する姿は想像できねーぞ」


「でもよ。俺様はこれでもアルテには感謝しているんだ。この体のおかげでメニアリィの呪縛から逃れることができた。天利のトラウマも克服できた。俺様の次に誰に報われてほしいかと言われれば、アルテだと断言できる。だけど一番じゃねえ。一番である俺様のトラウマを癒すために、俺様と奴との間にはどうしようもない溝ができちまった。もう奴とは、顔を合わさずに別れるしかねえのさ。一番様の命が最優先だからな……」


「にしたって、他にやりようはあった気もするが。お前、俺を相手に負け戦するのが嫌だって言ったけどな。アルテを敵に回すのは数倍分が悪いと思うぞ」


「取り返しがつかないのは承知の上さ。アルテの体に乗り移ってメニアリィの役に歯向かった時点で、全てわかっていたことだ。……それによ、例え俺様が逃げきれなくてもだ。それはそれで俺様が死ぬ前に、アルテと顔を合わす機会があるかもしれねえぜ。同じ負け戦でも、こっちの散り際は悪くねえよ」


「とっくに強い覚悟があるってことか」


昨日、負世界の正者がこいつを攻撃的だと言った話を、俺はさっきまで疑っていた。だが最後の話で合点がいったぜ。……こいつは目的のためなら、親しい相手を傷つけてでもやり通す。アルテが傷付くとわかっていてその体をトラウマ治療に利用したように。


確実に好きな相手が傷つく行動で、確実じゃない成果を狙う。よく耳にする言葉でいうと、ハイリスクローリターンってとこか。分の悪い賭けが好きな感じ?何を考えてるかはわからないが、この正者はそれができるタイプだ。普通はしないだろう。これに他人を巻き込むっていうのなら、そりゃ攻撃的って言われるのもわかる気がするぜ。


「時間を取らせちまったな。話はここまでだ。俺様が言いたかったのはメニアリィに気を付けてほしいってことだ。あと、俺様の心境とか行動の背景も話せてよかったかもしれねえ。じゃあな主人公様よ。物語世界内での接触は避けるが、もし会ってもアルテとして接するぜ。物語が終わった後は……。俺様が生きてたら会えることもあるかもしれねえな」


「そう悲観するなよ正者。お前がアルテにした仕打ちは最悪かもしれない。ただ、お前がメニアリィに求められた役柄が、お前向けじゃなかった部分もあると思うんだ。アルテの精神ダメージは不老不死オーラで回復するが、お前が外で死んだらそれで終わりだ。だからせめて、お前が無事に物語世界を脱出できることを応援……パンレー?」


俺が正者に別れの言葉を告げようとすると、パンレーがふらふらと地面を歩いて俺の前に出た。頭は地面にくっつくほど垂れて小刻みに動いている。見るからに眠そうだ。だがやがてパンレーは頭を振ると、張りのない声で俺に言った。


「だ、ダメですよ。雷之 悟。思い出してください。あいつが皿々ちゃんに掛けた言葉。それに仕打ちも。理由はわかっています。正者、お前は劣等感を皿々ちゃんに」


「やめてくれ」


「正者?何の話だ?」


「ああ嫌だね。嫉妬心ってやつはよ。パンレーの言う通りさ。俺様が皿々に冷たい物言いをしたのは劣等感からで間違いねえよ」


「じゃあ電子界で皿々ちゃんが切られたのも」


「ああそうだ。オリジナルの頃からなんだ。俺様の錬金術はとんでもない力だが、異世界で手に入れた借り物。一方、皿々のは自力で獲得した本物。そんな意識がずっとあった。だからオリジナルは皿々を電子界で切ったし、俺様も同じ気持ちをずっと抱えてる。抑えられねえんだ。わざとさ。皿々のアルテへの思いを知っていながら、俺様はわざとあんな言葉を吐いたのさ」


「噂以上に最低ですね、お前」


「何と言おうが、皿々はもう傍には置くわけにはいかねえ。言葉の次にどんな仕打ちをするのか、俺様自身保証できないんでね。今後関わらないのが互いのためだ。皿々には、てめえらからうまく伝えておいてくれ。今度こそ邪魔者は消えるぜ、あばよ」


そう言い残して、正者は言葉通り姿を消してしまう。すると、止まっていた時間が動き出したかのように、魔王城の部屋の存在感が色濃くなってくる。壊れた壁からは湿った風が流れ込んできており、今の話の後味に近い生ぬるさを伝えている。


正者は俺たちと戦う気がない。奴が本気で逃げれば、主人公補正があってもきっと逃げ切ってしまうだろう。奴に物語の強制力は働かないからだ。あの正者を悪党として倒す機会はきっとない。そもそも主人公が倒すべき悪党なのかもわからない。物語の被害者なのか。人の体で好き勝手やった悪党なのか。どっちの正者として奴を見ればいいのやら。


正者の術のようなものが解けたのか、パンレーはすっかり目を覚まして皿々を見つめている。近くでクレーも目をこすりながらあくびをしている。


「雷之 悟。私は正者の話の終盤部分しか聞いていません。でも私はお前のパートナーとしてこれだけは伝えておきます。もしもお前があの正者にわずかにでも同情や憐れみを感じているなら。全部裏切られる覚悟がなければ、その感情は捨てたほうがいいです」


「ってことは、あいつの話はやっぱり嘘なのか?」


「私は嘘を言っていたようには感じませんでした。でもあの態度の正者は、全部本当のことを話しても信用しない方がいいです。一番な肝心な悪巧みを隠している可能性がありますからね」


自信ありげにパンレーは一人頷いている。ああそうか、パンレーは電子界で地球観察をしているし、信仰生物の偽正者とも交流があった。正者の生態には詳しいのか。ただ正者からメニアリィの話を聞いたこともあり、この会話の流れもメニアリィが作為的に用意したもののような気がしなくもない。信じていいものかどうか。


「あ、そうだ。お前にもできる簡単な判別法を授けましょう。態度でわかる判別法です。もしも正者が会話中に弱そうな振る舞いをしていたら。これは要警戒です。弱気な態度、悩んでいる態度、強者相手に自分の弱さを強調した態度、いかにも苦労してる風な態度などです。これらを人前で見せるときは裏があると考えた方がいいですね。それだけです」


「うんうん。……んん?じゃあ今日の話のほとんど全部じゃねーか!」


魔王城で語られた話はどこまであてにしていいのか。嘘を言っていないなら、真実を話しながら何を企んでいたのか。問いただす相手はもういない。だがパンレーの判別法を信じるならば、やはり何か裏があったってことだ。奴が物語世界を出ていくまでの間に、その内容がわかる日は来るんだろうか?

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