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変な星でツッコミ生活!?  作者: 神離人
本編:???days特星解明クライマックスストーリー編(part01)
83/84

十一話-005日目 異電波刀を追う魔剣 ~物語世界を探るアドバイス

@悟視点@


負世界で、正者のバックアップから話を聞いていた俺とパンレー。すると奴の口から語られたのは、東武の名を関する東武正剣が、正者本体の魂を持っているというとんでもない情報であった。


封印解除のカードを持つ男、神離 東武。奴は一体何者なんだ?


「一応確認しますよ、正者。お前の言う東武正剣が、私たちの追う東武本人だと言いたいんですよね。剣が、東武由来の剣だとかそういう話ではなく」


「その通りだ。魔剣でもある奴は、封印解除のカードの発するエネルギーを感じ取ることができる。印納生誕時のバグで発生したとんでもカードに奴がたどり着いたことは、当時の地球メンバーの層の薄さを考えれば、必然さ」


印納さん生誕時ということは、俺が生まれる役1年前か。


特殊能力すらも存在しない時代だろ。現代の俺らだってカードを見つけられずに苦労してるってのに。そんな昔に封印解除のカードを探し当てた男がいるとは。魔剣の本領発揮ってところか。


「印納が生まれたのは、特殊能力もない時代ですからね。私たちも電子界がエラーで崩壊して地球どころではありませんでしたし。……なるほど。もっとも地球が手薄なときに封印解除のカードを手にしているわけですか」


「あっそうか。電子界の崩壊って印納さんの誕生で発生したんだよな」


「印納内部の俺様もカードを狙ってはいたんだがよぉ。どうにも言葉が通じねえのはダメだ。俺様の誘導は、生まれた直後の印納に通じず断念しちまった」


「せめて、ロックハンドラが生きていればカードは安全なのですが。当時はもう死亡していて、地球へ向かう巨大隕石になっていましたから。……割とどうしようもない状況でした。東武がカードを探知できたのは幸運かもしれませんよ」


封印解除のカードに近い電子界メンバーは全員、カードに手を出せなかったのか。


その時期だと天利や流双は妊娠してるだろうから動く可能性が低いし。有力な奴がことごとく行動しにくい時期だ。そんな最中、カードを探知できる東武が地球にいたわけだ。


「で、東武はどうしてカードを手に入れたんだ。正者との関係は?」


「ウサギ野郎が言ってたぜ。奴が異電波刀を盗んだ後、対となる東武正剣が呟いたらしいんだ。決着を邪魔するなと。次の瞬間、剣が業火の魔法でウサギ野郎を焼き尽くそうとしたらしい」


「あのウサギ人間は、決闘中の貴族から剣を奪ったのですか?」


「だろうな。東武の狙いは異電波刀だ。奴が本体の俺様の魂を持ち歩いているのも、異電波刀を探し出すための情報源として役立てるためってわけだ。わざわざ魂を非現実世界から持ち出してな。くくく。恐ろしい魔剣だぜ……!」


「非現実世界にまで干渉しているなんて……。世界の根幹を揺るがす力でも持っているんですか、東武という魔剣は」


「人間形態に俺が会ったときは、そんな大層な奴じゃなかった気がするけどなぁ。……てか、非現実世界って何度か話に出てて、未だによくわからないんだけどさ。主人公にもわかるように説明しろよ」


非現実世界については話に出るがよく理解できてない。


俺が非現実世界の話を耳にしたのは、エビシディや影の怪物との会話、ボケ役にその件を報告する時、地球で偽正者とモニター会談した時、黒甘利から電子界の説明を聞いてる時、パンレーとの会話で何度か、だったはず。


これだけ高頻度に情報が落ちているんだ。なのに要領を得ていない。一体何なんだ、非現実世界ってのは。


太陽の周りを地球が回っているだとか、電子界の更に先にあるだとか、人や異世界が飛ばされるだとか。断片的な話ばかりで、この世界との関係がいまいちよくわからない。地球があるっぽいから特別感はあるんだが……。


「電子界の先にある特殊な異世界とでも言えばいいでしょうか。でも位置座標は、現実世界と重なるように存在しています。表裏一体なんです」


「存在のないもの、例えば大半の幽霊などの送り場さ。……あの世界はドラゴン共かその親玉が作ったに違いねえぜ。なんせカセットで呼び出せるDNA保管庫ってのが、非現実世界を経由する仕組みだとエビシディが言ってやがったからな!」


「まあそうですね。非現実世界というのは至極単純な物理法則しか存在しません。保管庫を移動させる際に非現実世界のフォーマットに変換し、非現実世界を経由することで省エネルギーで低コストな移動を行っているのです。……非現実世界を作ったのはロックハンドラで、私たちドラゴンが唯一有効活用できた成功例が印納の卵、あのDNA保管庫なのですよ」


「へー。ドラゴンにも縁の深い代物ってわけか」


「特星にあるワープ装置も恐らく同様の方法で運用していますよ。ロックハンドラの扱う特殊能力には、非現実世界を利用した力も幾つかあるので。……特星では、その特殊能力を活用してワープ装置の力として運用しているのでしょう。非現実世界を経由していると気づかないままにね」


ワープ装置ってか、特殊能力にも非現実世界が関わっていたのか!?


そういえば以前、ボケ役に非現実世界のことを話したときに言ってたな。非現実世界らしき地球の夢を見たとか。夢の特殊能力が非現実世界を経由してるなら、その世界が垣間見えることもあるのかも。俺も一度くらいは見てみたいものだ。


「非現実世界には、電子界よりも厳しい制約があります。物理現象が全てを支配する無慈悲の世界なんです。私たちドラゴンですら碌に干渉ができません。一体、東武はどのような手段で正者の魂を連れ出したのか……。裏技でもあるのでしょうか」


「うっかり完全消滅でもしたんじゃねーのか。俺様の本体がたどり着いたようにな」


「それじゃ現実世界に戻れないでしょうが」


「ま、とにかく俺様から言えることはよぉ。東武は異電波刀にこだわってるってことだ!今、異電波刀は信仰生物の俺様が持ち出していやがるからな!奴を追うなら、そっちとも当たるかもしれねえ!俺様の偽物野郎に存分に気を付けることだ!特に雷之 悟、てめえは偽正者にはまず勝てねえぜ」


俺が偽正者に勝てないだって?


東武が異電波刀を追っているなら、持ち主の偽正者が立ちはだかる可能性はあるかもしれないが。だが、どう考えてもあの偽正者に俺以上の戦闘能力があるとは思えない。以前奴は、地球で俺と真っ向勝負はしなかった。


正者め、一体どういうつもりだ。何の企みがあって俺が勝てないだなんて言ってやがるんだ……?




「おい聞いてるかコート野郎?もう一度はっきり言っておいてやるよ。てめえは偽正者に勝てねえぜ」


再び正者は、嘘っぽい忠告を俺に告げる。


ちっ、落ち着け。偽正者が強いわけがない。奴は俺と対峙したことがある。だが一度だって戦う意思を見せなかった。


しかもだ。偽正者は地球で校長にも負けているんだぜ。奴の戦闘能力は一般人よりは多少強いレベル。どれだけ強く見積もっても俺と同じレベルが精々だ。俺が絶対に勝てないという程ではない。


はっ!そうか。あの男偽正者は、目の前のこいつと同じで正者の複製みたいなもんだ。こいつは単に、偽正者が同類だから強がりを言っているのか。自意識の高さか仲間意識かはわからない。でも目の前の正者は子供だ。それも自分に自信たっぷりの負けず嫌いとみた。


決まりだ!こいつは単に、同じ境遇の偽正者に肩入れしているだけ!強がっているだけに違いない!


「ふっ。偽物相手とは言え自分贔屓のつもりかよ!へっ、教えておくぜ正者!お前がどれだけ誇張しようが、偽正者は校長にすら負けたんだ!主人公の俺が負けるわけないのさ!」


「果たしてそうかな?確かに正安は、本番に弱いし頼りにならねえし欠点が際立つ男だ。しかし俺様への恐れと警戒心は人並外れているんだよ。わかるかコート野郎?正安が抱く正者への恐れの強さだ!それは身近な人間に伝播しちまうほどに強大なのさ!」


「身近な人間に伝播するだと?そ、それがどうしたってんだ!」


「心当たりあるんじゃねえか?てめえは地球時代から、寮暮らしで正安と一番親交があるはずだぜ。正安の影響は、てめえに染み渡っていやがるのさ!身も心も知らず知らずのうちにな!」


「な、なんだと!?」


お、俺が恐れているだって!?この俺が正者や偽正者を!?


く、バカを言いやがって!俺が校長の影響で、正者共にビビってるとでも言いたいのか!数年前まで、正者の名前をすっかり忘れていたこの俺が!


いやない。それはないね。ハッタリだ!確かに俺は、校長が正者を恐れていることを知ってはいるさ。だが正者なんて、日本の資産を俺に取られただけのカモ野郎に過ぎないぜ!


「てめえは初対面の俺様に対してやたら喧嘩腰だっただろう。なぜだか疑問に思わねえか。くくく。理由は簡単さ。力で打ち負かしておかねえと安心できねえからだ。呪いに掛からねえコート神だが、人の呪縛に抗うことはできねえようだな」


「ちっ、好き放題いいやがって!学者でも信仰生物でもないお前が、よく俺や偽正者のことを知った風に言えたもんだぜ!信仰は複雑なんだ。素人は黙ってな!」


「確かに俺様は信仰素人さ。だがてめえの連れてる学者様は、素人意見に納得しているようだぜ!」


「えっ。マジかよパンレー!」


「……あ。いえその」


俺はパンレーに視線を向ける。すると胸ポケットには、感心した様子で正者に興味有り気な視線を向けるパンレーの姿が映った。パンレーは俺の呼びかけに気付くと、困った顔で言葉を詰まらせている。


俺は黙って答えを待つ。やがてパンレーは諦めたように答えを返した。


「ええ。お前が偽正者に恐れを抱いているのは事実です。お前から偽正者に流れる信仰が全てを物語っています。そして恐らく。お前が偽正者と戦えば、まず勝てません」


「バカな!」


「信仰のシステム的に無理なんですよ。雷之 悟。信仰エネルギーのほぼ全てをお前が担っていることが問題なんです。わかりやすく言うと、お前自身や偽正者のレベル調整をお前が行っているんです。今の偽正者は、お前の解釈している正者そのもの。お前が正者に抱く印象が9割以上詰まっています」


俺の解釈している正者だって?


俺が正者に持つ印象か。厄介者、悪人、緑色の面汚し、と正者らしいろくでもないものばかりだ。


……あと偽正者って、目の前の正者よりも本物っぽい気がするな。


「正直、偽正者が中年姿だったことに俺様は驚いたぜ。俺様が行方不明になったのは7歳。大恐慌エイプリル時の映像も見たことあるが今と同じ姿だったろ。偽正者のあの姿形は、一体どういう経緯でイメージ固まったんだよてめえ」


「俺が知るかよ」


「あっ。私は心当たりがあります。奴が異次元ホールに逃げ込む直前に魔法で見ました。確か、正安の関係者の影響が色濃く出てましたね。ベリーの影響がかなり強くて、次いで正者、アルテ、ゲージ、他には皿々ちゃん、正安も信仰成分表記がされていました」


「ベリーが一番なのか?言われてみれば口調の荒さは似てるけど」


「ははん。ベリーねぇ。だから偽正者はロケットなんかに興味を持ってたのか。くくく。俺様にしちゃ利口な趣味だと不思議に思ってたんだ」


そういえば偽正者は、地下都市にある隠れ家の隣にスペースシャトルを作らせていたんだったか。


シャトルはテレビ局長の指示で建造していたはずだ。でも業者への指示などは正者が行っていた。あんな建造物だ。普通、興味がなけりゃ隠れ家の隣には作ることはない。そう考えると、ベリーっぽい気もしてくるな。


にしてもだ。パンレーの信仰成分表記の分量が気になる。含有量の多い順だよな。どうして本物の正者よりもベリーの方が上なんだろう。


「なあパンレー。成分表の順番が気になるんだが」


「なぜ正者の信仰生物なのにベリーの割合が多いのか、気になりますか。一応、信仰比率の変動はよくあることですよ。でもここまで極端なのは、やはり信仰の供給元がほとんどお前であることが強く影響しています。お前の経験に基づいて、彼らが形作られていったのですよ」


「マジかよ!具体的に俺がなにしたってんだ?」


「具体的なことまでは私も把握してないですけど。あっ、でもお前はよく正安から正者の話を聞いていましたね。じゃあ、正安の関係者であるだけでアドバンテージになりそうです。他には、信仰生物の正者と遭遇するまでに、彼らと正者を結びつける何かがあったとか」


んー。言われてみれば、俺が正者を特星で思い出したのは校長の依頼のときだ。依頼のきっかけはアルテの究極正者発言で、しかも俺が聞いたものだ。正者の件でゲットした異空間の保管庫。これはゲージっぽい。皿々に至っては共闘して、奴自身は正者に記憶改ざんされていた。ベリーは依頼の前後に会い、保管庫にある望遠鏡の件で色々あった。


なるほど。正者の保管庫を探し当てた件が特に色濃く反映されているっぽい。とはいえ錬金術の怪物や保管庫の番人辺りは……。正者関係者でもランク外だ。エビシディとかも。


まあ、奴らいかにも正者っぽくないし、きっと俺の聞いてる正者像とかけ離れすぎているんだろう。ゲージや皿々のように盗みをする連中の方が正者らしさがある。ベリーで思い当たるのは、望遠鏡の件が解決するまでは、校長への敵意がやたら高かったことかな。


「うーむ。よーく考えれば結構妥当かも」


「本物の俺様とかけ離れちまってるのに妥当ってか?けけけけ。信仰生物連中も厄介な奴に目を付けられちまったもんだぜ!災難だな!」


「正者とテーナは本当にそうですね。実物を知らない相手の信仰で実体化するとは思わないでしょう。もう雷之 悟と遭遇しちゃったから、イメージが固定化して変更は難しいですし」


「偽正者は本来、子供姿の信仰生物だったはずだぜ。なのに中年姿で固定して世に放つだなんて!ぎゃはは、鬼かよ!教えてやれば、仕返しにてめえを刺すに決まってる!俺様ならやるねっ!」


「ふんっ。もう偽正者のことはいいだろ。あいつは異次元ホールに消えたんだ。東武を追ったところで遭遇するのは難しいさ」


「それはそう。偽正者と遭遇する可能性はまずありません。だからこそ私も正者に言われなければ話す気はありませんでした。雷之 悟。相性差など気にすることはありませんよ。遭遇しなければ何の脅威もないんです」


「俺様がモチーフの信仰生物だぜ。果たして異次元ホール如きで隔離できるかねぇ」


東武の追っている異電波刀、それに異電波刀を持つ偽正者。


普通に考えれば、パンレーの言うとおりだ。偽正者は異次元ホールに逃げ込んだ。特星のあるこの世界に戻れるとは思えない。だけど奴と俺の間には、因縁があるのもまた確かだ。偽正者は、俺を騙した挙句にロケットで宇宙に打ち上げ、再戦もせずに逃げ去った。このまま奴との決着がない展開がありえていいわけがない。


主人公としての決着と、負世界の正者の言葉。これらがフラグとなることで、俺と偽正者の再戦を引き起こすかもしれないぜ。


再戦の可能性があるなら、偽正者の信仰生物としての特性はいい攻略情報だ。奴とは真っ向勝負をするべきじゃない。信仰の性質上、絶対に勝てない。性質を踏まえた上での戦いを、未来で俺は繰り広げることになるだろう。


今回の偽正者の情報を、俺は頭に留めておく。……うん、これできっと都合よく思い出すはず。いざってときも安泰だ!




ここまでの話で分かった重要情報は、

1. 東武が封印解除のカードを所持していること。

2. 東武は魔刀。また異電波刀を追っていること。

3. 東武には、非現実世界に干渉する力があること。

4. 東武はその力で正者本体の魂を入手し、異電波刀を探し回っていること。

5. 万が一、偽正者に遭遇すれば厄介なこと。

うん。まあ大体こんなものか。


質問相手の都合もあるけど、重要情報とは言えない正者の情報がどうしても多くなってしまう。主人公向け情報のドロップ率が悪いぜ。


手がかりないから片っ端から聞いてるけど、効率悪い気がしてきた。


「おい正者。他に東武の情報はないのか?居場所とか」


「ねーよ。俺様は他人に興味がねえのさ!自分で考えやがれ!」


「どうしますか。東武の話は聞き終えたようです。そろそろ印納に、恐怖の大王一族のことを聞いて帰りますか」


「おおっと待ちな。てめえらが帰る前に、俺様がもっと先のことをアドバイスしてやるぜ。ま、てめえらだけへのアドバイスって訳でもねえが。物語世界のことだ」


「物語世界か。最近よく耳にする単語だな」


「だがその単語を口にする奴はそう多くねえんだ。話題にしようにも、こっそり発言済みのセリフや物語に介入する連中がいやがる。俺様はちょっとした事情で干渉されにくいから、ライン越えしなけりゃヒントくらいは出せるのさ」


「俺たちはエージェントにでも狙われてるのかよ」


「さてどうかな。誰かは言えねえが、エージェントにしてはやり方の温い連中だ。もしも俺様が本来の目的を果たせていれば、奴らを手にかけるのは簡単だろうぜ」


「本来の目的だと?」


「ああそうだ。バックアップになってからの俺様は、物語世界から出るために行動していたのさ。その目的意識も究極物質を追った側のバックアップが持ち去っちまったが。まあ、この情報が未来へのヒントってところだ。主人公とラスボスへの手土産さ」


「一応、私もいますけど」


「物語世界からの脱出だと?」


バックアップの正者が物語世界から出るために行動を?


正者のバックアップは確か、DNA保管庫で生み出されてから印納さんへ移り、アルテに究極物質が渡される際に分離したんだったか。今は、アルテの中にいるバックアップ正者が、物語世界脱出の目標に近いのかな。


あと、物語世界に言及するとセリフに介入されるって本当か?


物語世界のことはメニアリィやクレーも話していた。正者の言うエージェントは、天利やメニアリィのことを指しているんだろう。居なくなった方のクレーも物語世界に言及していて、そのクレーやアルテはイレギュラーと呼ばれていた。


物語世界に言及できそうなのは天利、メニアリィ、クレー、アルテの4人だ。4人ともエージェントやイレギュラーに該当するが、役職名ってのはいちいちあてにならないからな。役職名に沿って行動みたいなことは多分しないだろう。クレーの話だと、特殊な権限が使えるみたいな言い方だった。多分だけど、権限ごとに役職名があるんだろう。特星でも、魔王や聖王が似たようなシステムだし。


物語世界の外で天利やアルテと関わってそうなのは魅異もか。あいつも物語世界に言及はできそうだ。俺やパンレーはどうだろう。主人公パーティだからまた別枠ってことなのかな。


「ついでにもう一つてめえにヒントだ。物語のエンディングを迎えた後にプレイヤーがする行動を答えてみな」


「ん?電源をオフにするんじゃないか?」


「そりゃ偏見だぜ。媒体がゲームとは限らねえ。……答えは、環境次第で行動はどうとでも変わるのさ。くくく。人によっては物語から行動原理を得ているかもしれねえぜ。あまりに非日常な状況に陥ったときは特にな」


環境次第ねぇ。ヒントにしては随分とはっきりしない答えだ。物語世界の外の環境に何かあるのか?


毬の島でメニアリィに聞いた話だと、物語世界の外にある世界って分岐してるっぽいんだよな。クレー、アルテ、魅異が住んでいた特星のある世界。天利、別人の記紀弥が住んでいた特星のない世界。より環境が異質なのは、こことは異なる特星がない世界だろう。


もしも正者の言うプレイヤーに当たる人物が天利ならば、天利はなぜか、物語世界でラスボスとして特星生活を送っていることになる。息子である俺と敵対してまでなぜその選択を?ラスボスを選ぶ理由がなにかあるということか?……いやぁ、普通に考えると世界征服くらいしか思いつかねえな。


「アドバイスは以上だ。くくく。主人公のてめえに活かせるかな?」




正者の話を聞き終え、俺とパンレーは知の印納さんの元に戻ってきていた。


他の印納さんたちがただ歩き回る中、知の印納さんは水着姿で長椅子に腰掛けながら、シロップみたいな色のついたジュースを飲んでいた。目にはサングラス。いかにも海旅行のような風体だが、周囲や空の景観が不気味な異空間そのものなので変だ。あと、話ではバストサイズがマイナス無限だったはずだが、一見そうは見えない。


「あらお二人さん。正者のバックアップとの話は済んだのね」


「印納お前、何をやってるんですか!?」


「ふふふっ。どうやら気づいちゃったみたいね。いえ偶然、負世界の日差しを浴びながら南国の海に思いを馳せていたの。悟もご一緒にどう?」


「日差し?」


無限のマイナスエネルギーのせいか空は暗い。不気味な足元の方が明るいくらいだ。


「ずるいですよ!私やロックハンドラですら南国旅行したことないのに!小娘のお前の方が先に水着デビューするなんて!」


「ドラゴン用のを貸すわよ?はい」


「えっ。いやあの。…………き、着替えますね」


「それより印納さん。正者の話も聞いたし帰りたいんだ。あんたの話で最後だぜ」


「あら残念。もう帰っちゃうのね。私からは、あなたたちが争っている恐怖の大王一族の近況ニュースを教えてあげる。東武の行方もね」


「ああ。準備はいいなパンレー。ってうわ!」


「か、絡まりました。んぐぐぐ」


いつの間にかパンレーが足元で着衣ってか脱衣に手間取っている。そんなことを気にした様子もなく、印納さんの世間話が始まった。まずは恐怖の大王一族に関する情報だ。


「あなたたちが正者の元へ向かう前に少し話したと思うけど。流双がさっきまで恐怖の大王一族の本家側で暴れていたの」


「そういえば言ってたな。流双か。あいつは結局何なんだっけ」


「彼女は強力な呪術を求めている狂人よ。今はシクレット派閥と組んで協力体制を築いているわ」


「流双姫は厄介な奴ですよ。地球に仕掛けてあった一族の罠に掛かり、呪術の力を得たんです。それからは呪術の力を通じて、毎日のように一族から取引を持ち掛けられていましてね。ついには自らの感性と引き換えに、洗脳呪術を1つ極めたのです。しかし呪術によるコスト取り立て時に、信仰の力でコスト取り立ての処理を無力化。流双との通話中に、取引相手が呪術コストの犠牲になったみたいです」


「ひ、ひでぇ」


「とはいえ流双姫は英雄です。完全な信仰生物ではない。コスト無効も完璧ではありませんでした。彼女の感性や時間感覚は少し狂ってしまった」


「流双は、自身の目的意識とは関係なく、常に恐怖の大王一族を壊滅状態に追い込んでいるのよね。先ほどまで続いていた本家襲撃もほぼ成功させているわ」


「感性を狂わされたから無意識下で恨んでるのかもしれませんね。ま、無双に並ぶ超人的な身体能力もありますし。本気の流双相手では、シクレットなしの恐怖の大王一族に勝ち目はありませんか」


「いいえ、彼女は無敵ではなかったわ。パンレーがさっき言ってたけど流双は英雄。呪術に対しての耐性は完璧には程遠い。一族の本家襲撃もほぼ成功したものの生存者がいたわ。そしてその生存者に流双は捕らえられてしまったの」


「「ええっ!?」」


あの流双を捕らえられる実力者が恐怖の大王一族にいるってのか!?


流双は、特殊能力と呪術の二段構えでどんな敵の意識も一瞬で消し飛ばしてしまう恐ろしい女だ。特に、奴の代表技であるティーン・カ・シャットは範囲内の意識をまとめて消し飛ばせる。身体能力も無双に並ぶくらい強い。


勝ち負け以前に、意識を奪われずに攻撃を仕掛けることが可能なのかも怪しい。……でも俺も何度か勝ってるから攻略不能は言い過ぎか?


「一体誰があの女を捕らえたんですか。私の知る限り、シクレット以外の一族が流双姫を制することなどまず無理なのに」


「見ればわかるわ。実はもう侵入されちゃったの。今、盗み聞きしているわよ」


「えっ」


「この負世界に侵入だと?」


「ふっ。……ははははっ!さすがはロックハンドラの娘の一部だ!侵入を許したとはいえ、私の存在に気付いていたとはな。誉めてやろう」


[ざざざざざっ]


どこからか聞き覚えのある声が聞こえる。俺が辺りを見渡してみると、負世界の壁の一部が粉のように剥がれ落ちて、一つの塊を形作っていく。粉が集まってできたのは1つの球体だった。球体の粉は何もしていないのに結合していき、光を反射する鏡のような表面を形作った。


「鏡!?まさか今の声、オットーか!」


「ご名答だ!取り込め、ミラーフュージョン!」


「パンレー!」


[きいいいぃん!]


球体の鏡が光を発する!俺はとっさにパンレーをかばって背中から光を受け止める。何か引き寄せられる感覚があるものの背後が眩しい以上の被害はない。しばらくすると、球体の鏡からの光が止んで元の薄暗い負世界の景色が戻ってくる。


「ふ。やはり神も印納も引き込めないか。呪術の出力では限界があるようだ。しかし私がここにいる時点で力量差は歴然ではあるか。ふふふ」


「どういうことですか!この負世界はマイナス無限エネルギーに囲まれていて到達不可能なはず!オットー、お前は一体どうやってここにたどり着けたんですか!」


「私がここにいる理由だと。単純な話だ。私の鏡の呪術は特定の条件下において、マイナス無限エネルギーすらも容易くコントロールできるのだよ」


「お前がマイナスエネルギーをコントロール!?本当かよ!」


「彼を侮ってはいけないわ。呪う鏡術師オットー。奴は恐怖の大王一族で最も呪術の才覚が優れている天才。シクレット派に隠密潜入して、敢えてあなたたちに矛先を向けさせていた張本人。一族本家の送り込んだスパイよ!」


「スパイだと!そ、そういえば奴はシクレット派を名乗ってたはず。ラルフに俺たちを追わせたのはわざとだったのか!」


「くくくく。その通り。私の元来の役目は、ロックハンドラとシクレットの両者を直接葬ること。しかしロックハンドラが死に、シクレットが永久封印されている今、シクレット解放のカギとなる封印解除のカードさえ封じてしまえばいい。危険分子の流双も鏡に捕らえている。今や私たち、いや私の敵はいないも同然だ」


「おいおい。俺たちだってシクレットの封印を維持したいんだぜ。シクレット派がカードを奪わないように先回りして、保護しようとしてるんだ!同じ目的のくせにいちいち邪魔するなよ!」


「笑止!貴様たちは黙って囮として、シクレット派を叩きのめせば良かったのだ。……お前は城赤がなぜ貴様らをここへ送ったと思う?奴はカードの効果でシクレットの知恵を借り、封印解除のカードの詳細な場所を調べさせるつもりだ。コート神よ、貴様は何もせずにここにいろ!私がラルフと城赤を始末するまでの間は一切の行動を許さん!」


「へっ!主人公が事件を解決せずに誰が解決するっていうんだ!それにラルフはいいけど、城赤を始末させるわけにはいかねーな!勝手に洗脳して始末するなんて、お前ら一族に虫がよすぎるぜ。どうせほとんど滅んでるんだろ。この際だ、恐怖の大王一族はまとめて絶滅しやがれ!」


「うぬぬぬ。私の譲歩を無碍にしおって!もういい!いずれ印納も葬るつもりだったが、貴様諸共今すぐに葬ってやる!カードの情報、そしてこの負世界とともに滅びるがいい!ミラーグリッジ、クラッシュコマンド発動!」


[ごごごごごごごっ]


「うおおっ!?」


球体の鏡に宇宙っぽい波模様が浮かび上がると、負世界全体が低い轟音とともに揺れ始める!とんでもないエネルギーが集約されていく感じだ。


「ははははっ!周囲のマイナス無限エネルギーを貴様たちの生存範囲内に開放し、マイナスエネルギ内を流れる塵にしてくれるわ!愚か者は消えてしまうがいい!」


ど、どうやらこの負世界ごと俺たちを消し飛ばすつもりらしい!ならば、爆発前に元を断てば、負世界の崩壊攻撃を防ぐことができるってわけだ!


「させるかっ!水圧圧縮砲!」


[がきいぃん!]


「げっ!弾いた!?」


「無駄だ。この鏡玉砲丸は、本家とシクレット派の着服予算を結集した超兵器。莫大なエネルギーを一気に扱える強固なマジックアイテムだ。魔境程度しか持たぬ人間に傷つけられる代物ではない」


「くっ。エクサバーストぉっ!」


[ずがああああぁん!]


一瞬で銃をフル充電のエクサスターガンに持ち替えると、俺は早撃ちのエクサスターショットで鏡玉砲丸を撃ち抜いた。しかしエクサバーストの光線が通り過ぎた後も、鏡玉砲丸は何事もなかったかのように不気味に世界を揺らしている。


エクサバーストは大抵のものを消し去る必殺の威力!なのにびくともしないのか!?


「ば、バカな!?」


「今の攻撃は悪くなかった。くくく。だが兵器の規模が明暗を分けたようだ!拳銃で大砲を攻撃するようなもの!無駄な足掻きに過ぎぬ!残念ながらタイムアップだ!」


「くっ」


「ええ、あなたの方がね!秘剣、レッガーブレードっ!」


「「なにっ!?」」


[ごごおおおおぉん!]


俺の遥か上空から圧のあるエネルギーが襲来する。ウィルだ!必殺剣のオーラを剣にまとわせながら、ウィルが空中から鏡玉砲丸へと突っ込んでいく!そのままレッガーブレードの一撃が球体の鏡に直撃すると、剣から生じたオーラが周囲にはじけ飛ぶ!


「ぐぅ!やけに地響きが長く続くと思ってはいたが。ウィル スクロール……!ラルフに洗脳されていた特星の元勇者!この圧倒的なエネルギーの圧力は、奴の仕業だったのか!」


「ウィル!正直助かった!修業はもういいのか?」


「いやまあ。状況が状況ですし。私はパンレーさんから恐怖の大王一族が襲来したと聞いてきたんです。彼らの呪術は危険ですからね」


「私が彼女を呼んだんです。さあオットー!不意打ちの腹いせに人数差でボコボコにしてやりますからね!お前は終わりです!覚悟しておきなさい!」


ウィルの服の背中辺りからパンレーが顔を出す。い、いつの間にか居なくなってたのか。多分、俺が庇った後にこっそりと抜け出してウィルを呼びに向かったんだな。私怨っぽいし、オットーの実力を見抜いたとかではなさそうだが。なんにせよ今はありがたいぜ!


「バカめ。何人集まろうがつまらん犠牲が増えるだけだ。たかが剣技一発でこの超兵器を敗れると思ったら大間違いだぞ。ぬっ?」


「気づいたようですね。あなた自慢の超兵器が消滅しつつあることに。すでにレッガーブレード第三の効果が発動しています。鏡を取り囲む白い炎がその証!」


敵の鏡玉砲丸をレッガーブレードの白い炎3つが取り囲んでいる。そして鏡玉砲丸は徐々に表面をすり減らしながら消滅していく。よし効いている!このまま強制消滅効果であのマジックアイテムを消し去ってしまえば、奴は鉄壁の防御を失うぜ!


「ならばこうしてくれる!ミラーグリッジ、デコイコマンドシステム稼働!消え去る部位など我が鏡には不要である!」


「分離した!?うおっ!」


消滅している鏡の外周部位が、鏡の球体から皮のように剥がれて取り除かれる。そのまま外周部位は鏡の刃となって、徐々に消滅しながら俺たちの方へ回転しながら飛んでくる!


「下がっててください。解呪剣!」


[きいいぃん!]


ウィルが剣で鏡の刃を受け止める!すると鏡の刃がウィルの剣に触れた途端、鏡は消滅とは別に粉のように散り散りになって、空気中へと消えてしまった。俺が目を凝らすと、粉になった後も鏡は少しずつ消滅していき、存在そのものが消えてしまっている。


「お、おのれ!本家とシクレット派の魂の結晶をよくも!」


「横領した予算だろ!よく言うぜ!」


「強力な兵器に頼らず、己の力を使ったらどうですか。私の装備はセール品で品質も並ですが、技はしっかりあなたの兵器に通じていますよ」


「ぐぐ。こちら側まで消滅が来ている!くっ」


ついに鏡玉砲丸の本体が消滅し始めると、中から輝く結晶のようなものが出てくる。結晶は空中で動きを止めると、俺たちを見下ろすように空中で静かに光を発している。ただのアイテムにしては威圧感があり、こちらを見ているような気配を感じる。


「貴様たちは大きな勘違いをしているようだ。鏡玉砲弾は私にとっては初使用のマジックアイテム。動作確認を兼ねて持ち出したにすぎぬ。あの兵器の挙動を把握してなかったこともあり、レッガーブレードの圧に気づけず、兵器自体を失ってしまった。……だが同時に、貴様たちは失ったのだよ。私の興味を引き付けていた我が足枷を消してしまったのだ!」


「お前がオットーか!今の石ころ状態が真の姿ってわけか!」


「ははははっ!この姿が気になるか!だが要らぬ心配だな!今、同じ土台に立ってやろう!自画像転写!」


結晶の姿が変化していき、体積が大きくなっていく。しばらくすると結晶は、人の姿の形状となって輝きを失ってしまう。


数秒後、以前見た姿のオットーに変化して、奴は地面に降り立った!


「私の本領。それは大怪獣相手のジャイアントキラーだ。しかし小物相手が苦手なわけではない。少なくとも貴様たちに後れを取るような真似はしない。今から、貴様たちに我が力の神髄を見せてやる。鏡の呪術、アングル魔術、アングル体術のいずれか好きな死に方を選ぶがいい!望み通りの死に方を叶えてやる!」


「なら呪術だ!呪術だけで掛かってきやがれ!」


「では私も呪術を。解呪できますし」


「二言はありませんねオットー。鏡の呪術で」


「私も参加できないけど、鏡の呪術がいいわね」


「黙れ。選択権を持っているのは私だけだ。くくく。では全てをフル活用して貴様たちを葬るとしようか!私を敵に回した愚かな連中よ!己の選択を悔やむがいい!」


周囲に鏡を出現させて、攻撃の構えを取るオットー。周囲の鏡はそれぞれマイナスエネルギーらしきものを発している。


対するは俺とパンレーとウィル。敵対行為に制約のある知の印納さんは見物か。よって3人でオットーを討つしかない!もしここで奴を逃せば、封印解除のカードを守る前に奴が俺たちの先を越そうとするか、俺たちの邪魔をするだろう。


目的は同じだがカードは早い者勝ちだ!俺たちに協力できないならここでリタイアしてもらう!覚悟しやがれ、オットー!

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