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変な星でツッコミ生活!?  作者: 神離人
本編:???days特星解明クライマックスストーリー編(part01)
82/85

十話-005日目 緑の悪童 ~かつての天利の秘話

@悟視点@


印納さんとの話を一旦終えて、俺とパンレーは、負世界にいるバックアップの正者探しを始める。……正者か。奴は恐怖の大王一族との関係はないかもしれない。しかし奴自身に関連する地球や電子界での事件については、何か情報を知っている可能性が高い。正者関係の真相を明らかにすれば、未だに奴の残した爪痕を恐れる人間が、少しは安心できるってものだ。校長とかな。


つーか真面目な理由がなくても、こんなところ滅多と来る機会はないんだ。正者!お前のレア情報は根こそぎ頂くぜっ!


正者を探し始めてから数秒も経たずに、奴の居場所は見つかった。印納さんの居た場所から、真っ直ぐ戻った先にある建物の外側。そこで奴はこちらを向いて、壁にもたれ掛かっている。


上下緑一色の暗めの衣装。小さい背丈の子供とは思えない、悪意のある眼差し。やはりこいつはあの正者だっ!かつて日本からインフラ含む7割もの資産を奪い、国を大混乱に陥れた悪童……!正者を再現した片割れだっ!


「よう。てめえは必ず来ると思ってたぜ。俺様に向ける沸騰しそうなぶれた視線がそう語っていた。……くくく。何の用があってここに足を運んだ?答えてみせろよっ、コート野郎!」


「私もいますよ!」


「てめえは、コート野郎の部屋に最近現れたドラゴンか。名前はパンレー。電子界のドラゴンだってな。だが俺様の知る限りじゃ、てめえを電子界で見た覚えはねえ。……へっ。研究家揃いの電子界のドラゴンにしては、なんつーか、あまり利口そうに見えねーな。精々ポンコツ枠ってとこか」


「初対面で失敬ですね、この緑野郎は」


「全くだ。どうやら礼儀を知らないガキみたいだな。おい正者!お前がろくでもない糞野郎なのは周知の事実だぜ!印納さんの体内で何企んでやがる!出せる情報を全部吐いて白状しやがれ!」


「……なんだこいつ?おいコート野郎。俺様に口の悪さで張り合いたいのなら、残念ながら時期外れだぜ。俺様が持つタチの悪さのほとんど全ては、究極物質に釣られて移住しちまったのさ。くくく。安い挑発に乗れなくて残念だっ!俺様はよぉ、てめえなんぞと張り合う立場じゃねえんだよ!コート野郎!」


何を勘違いしたのか、俺の用事を全く関係のないことと結びつける正者。……あっそうか。日本を混乱させたとはいえ、事件当時の正者は確か7歳だ。俺とは10も離れている。もしかすると、高校生の俺と会話するには年下すぎたか?


「究極物質の話は、既に印納さんから聞いた。もっと新情報寄越しな!」


「ん、てめえ既に究極物質の件を聞いてるのか?……けっ!ならその煽りは素かよ!情報欲しいなら相手に歩み寄る態度ってもんがあるだろうが!」


「な、なんだと!」


「どうしたコート野郎!頼み事をしたいなら誠意を見せな!」


ふん、さっきの予想は思い違いだったようだ。正者は大人ぶった態度を取るために、俺を煽り屋扱いしたいだけらしい。……だが、回りくどいぜ正者!俺の目的が煽り以外にあることは、行動一つで示せるのさ!言い争いはここで終わりだっ!


「わかったよ。じゃあ戦いで勝った方が情報を総取りでいいな!?」


「は!?待て待て!今の俺様は戦えねーんだよ!わかった、仕方ねえから情報はタダでくれてやる。元より俺様は、てめえらに味方する方が勝ち馬だと思ってここにいるんだ。煽り合いはしても、痛い思いをするつもりはねえよ」


「えっマジで?……えーっ。なんかお前のノリが悪いと、俺が脅して情報吐かせたみたいじゃん」


「事実だろーが」


どうやら正者の癖に敵意がないらしい。いや油断はできない。あの正者だぞ。偽物でさえ、俺を罠に嵌めて、宇宙に追いやったんだ。……話は聞くが、不意打ちには備えておこう。心構えでな。


「ま、情報くれるって言うなら、聞くだけ聞くかな」


「誠意と礼の言葉は要らねえぜ。てめえには荷が重そうだ」


「頼まれても言うかっ!」


くっ。なんて嫌なガキなんだ。本当に7歳児のバックアップかよこいつ。正者に比べれば、俺の7歳頃の方が、まだ礼儀と可愛げがあった気がするぜ。


とにかく正者に話を聞くチャンスを得たんだ。しっかり情報収集しよう。内容次第では、校長の正者に関する悩みを、完全解消できるかもしれない。




「さて正者。お前は本物のバックアップだそうですが、いつ頃までの本体の記憶を持っているんですか。お前が卵……保管庫に置かれたのは、異世界から帰る直前と聞きましたが」


「俺様本体のことで知ってるのは、保管庫に置かれる直前の出来事までだ。……それ以降からの記憶は、印納誕生までは保管庫内の状況。印納誕生以降は、地球でのおよその出来事。印納の特星移住後は、特星でのおよその出来事を把握しているぜ。印納が見聞きしたものの範囲内でな」


「本物の正者が知っていることと、印納が知っていることを話せるのですね。他に話せるのは保管庫のことくらいであると」


「正者としての記憶は、保管庫に置かれるまでのものだけどな。それ以降の出来事なると、話すのは構わねえが保証はしないぜ」


うーん。確かこの残された正者には、印納さんを誘導するだけの力はないんだよな。もし干渉もできないのなら印納さんが見聞きしたものを享受してる感じか?ボケ役と俺の情報共有に似てるのかもな。


「なら正者。お前は、本体が皿々ちゃんを切った件を知らないんですか。正者が異世界から地球に帰る道中、電子界での出来事なんですが」


「ご存じねえなっ。だが思い当たる節がないってわけでもねえ。電子界の連中に恨まれる心当たりなら、いくつか持ち合わせているぜ」


「いくつかって。正者お前、電子界には長い時間居たのか?」


「電子界は移動用の通路みたいなもんだ。行きの滞在時間は1分ってところだな。俺様でも大した悪戯はできねえ時間だが。連れが囮になれば、物一つをすり替えるくらいは余裕なのさ」


「お前が、印納の卵を持ち出したんですね」


「ほほう?印納から聞いたのか。ご名答だぜ!カセットとしか思えねえあの卵を持ち出したのは、この俺様なのさ!」


「なんてことを。でもあれだけのドラゴンがいる中、一体どうやって?」


「野ざらしだったから拾ってやったのさ。あまりに容易かったぜ。代わりに俺様の色違いのカセットを置いておいたが、誰も気づきやしねえ。……来客に興味がありそうな少数派のドラゴン共は、こぞってウサギ野郎のマジックアイテムに群がってたからなぁ!」


「う……」


地球から異世界に向かう道中、印納さんの卵を似たものとすり替えて、持ち出したってことか。印納さんの卵は、いかにもレトロゲーム風なカセットの形状をしている。大恐慌エイプリル前の地球であれば、似たようなカセットが正者の自宅にあってもおかしくはないだろう。てか野ざらしって、大切な卵なのに管理が杜撰すぎないか。


このカセットすり替え。さっき印納さんからは、ウサギ人間の手引きであると伝え聞いている。……ウサギ人間か。以前パンレーと偽正者について話したときにも、ウサギ人間の話は出てきたな。正者の連れってのがウサギ人間であることは間違いない。つーか黒幕の可能性もあるのか?


「連れってのはウサギ人間だろ。そいつが黒幕なのか?」


「くくく、そりゃ何に対しての黒幕を聞きたいんだ?……まー、ウサギ野郎のやったことで大きな功績といえば、地球と異世界をつなげて俺様を連れ出したことだろうぜ。あの野郎は、異世界のマジックアイテムを搔き集める盗人コレクターでよ。あるレアアイテムを集める協力者欲しさに、俺様のスカウトに来たのさ。卵の件は、実力試しでやったにすぎねえよ」


「私たちの恩人の宝物を……!正者、本当どうしようもない緑野郎ですねっ、お前は!」


「やめろってパンレー。俺と同じ緑であいつを括るな」


「だが結果的に、卵は返されて印納は生まれてるじゃねえか。それどころか俺様のおかげで、てめえの仲間1匹の命が助かってるんだ。ちっせえ些事に目くじら立てるよりもよー、同族の助かった命をありがたがるのが、てめえら少数個体の正しい思考法ってもんだろーが」


「仲間が助かった?な、何のことです?まさか皿々ちゃんを切った理由は、彼女を助けるために……」


「エビシディ、あの女科学者のことだ。今、特星にいるぜ」


「エビシディ?だっ誰ですか、それ!?」


「ああん?」


エビシディ?それって大メインショット郷国で封印されてた悪の科学者女じゃなかったか?……そういえばあいつ、正者と因縁があるようなこと言ってたな。パンレーの同族って。あの性格悪そうな女がドラゴンだってのか!?


「待てよ正者!俺はエビシディと会ったことあるが、奴はどう見ても人間だった!エビシディがドラゴンだったなら、視力がよくて他のドラゴンを知ってる俺が気付かない筈がないだろ!」


「コート野郎の言い分はともかく。奴は電子界にいただろ。電子界でイエフジと呼ぶ声を、俺様は聞いた覚えがあるんだ。知らないとは言わせねえぜ!」


「電子界だと?」


エビシディがドラゴンなら、元々電子界にいることは自然なことだが。問題は、俺が奴と遭遇した場所だ。俺がエビシディと出会った大メインショット郷国は、異世界にあった。もしも正者の異世界から別の異世界に人を移動させる場合、かなりの手間がかかるはずだ。エビシディの命を助ける過程で、大メインショット郷国にエビシディが送られる何かがあったってことか?


「イエフジ……。もしかして家富士 エイチアのことですか?科学を研究しているドラゴン達の中で、特に協調性がなくて有名な女なんですが」


「多分それだ、間違いねえ!あのストーカー野郎、偽名だったのか!」


「ストーカー?確かに正者を恨んでそうだったからな、あいつ」


エビシディと影のモンスター1匹は、大メインショット郷国で正者をボロクソ言っていた。同じ緑だからって理由で俺に喧嘩売るような奴らだ。ストーカーくらいはやりそうではある。


「俺様じゃなくてウサギ野郎のストーカーだよ!くだらねえ言い掛かりで、影のモンスター共を放流して俺様を邪魔しやがったんだ!ウサギや錬金術の連中を除けば、ほとんど奴の雑兵狩りで労力を費やしてよぉ。1日で、モンスターを数千は駆除する羽目になったのさ。俺様は駆除業者じゃねえっつーのによっ!」


「そういえば正者。お前が電子界から去った後、エイチアが居ないという話を耳にしました。元からよく居なくなる奴なので、誰も大して気にしていませんでしたが」


「正者がエビシディを助けていたとはなぁ。あいつらお前を嫌ってたのに」


「俺様だってあの女を助けたくはなかったさ。だが奴は、ウサギ野郎を守る無敵の物質、単独物質の生贄にされちまいやがったのさ。奴を助けるしか、無敵の物質を無力化する手段がなかっただけのことだ」


単独物質か!あの液体怪人もエビシディと一緒に封印されてたな。大メインショット郷国のツインショット領地だっけか。


「無敵の物質?まさか正者、あの厄介な球体を電子界に送ったのはお前ですか!?電子界から追い払うのに皆が手を焼いたんですよ!」


「え。電子界にも単独物質がいたのか?」


「そうなんですよ。当時、電子界への敵襲かとちょっとした騒ぎになったんです。7歳の正者を疑う者はほとんどいませんでしたけど」


「くくく。無力化した後に、親切にも俺様が送り届けてやったんだがな。追い払うだけの技量はあったと。ドラゴン共も案外やるじゃねえか」


パンレーの言葉を聞いて、正者は楽しそうにニタニタと笑っている。全てに納得がいった、とでも言いたそうな顔だ。


「単独物質の中に、生贄となったエビシディの体と魂が詰まっていたのさ。単独物質を動かす動力源としてな」


「な、なんですって!?」


「俺様は、単独物質が生まれる瞬間を見た。あれはウサギ野郎が願いを横取りして作り出したものだ。単独物質をあいつの思い通りに動かすためには、奴に好意的な生贄が必要だったんだ。ただ本来の生贄予定だった俺様は、ウサギ野郎を下僕としか思ってねーとかで、生贄には不適合だったらしい。だから代わりに、奴に好意のあるエビシディを生贄にするしかなかったんだとさ」


「とんでもねーコンビだな。一方は、アイテム収集のために地球の子供を連れ去る誘拐ウサギ。もう一方は、そんなウサギを下僕としか思っていない悪童。……碌な組み合わせじゃないのは確かだ」


「何とでも言いな。で、俺様は単独物質を無力化した後、マジックアイテムのテレポート魔鏡で電子界に送りつけたわけだ。無敵の物体にも、空間制御は通じるって話だったからな」


「ですが、なぜ電子界に送ったんですか?お陰で大騒ぎだったんですけど」


「そりゃお前、エビシディの分離が失敗して単独物質が復活しやがると、また俺様の邪魔をする危険があるからな。それに電子界が滅んでくれりゃあ、カセットは晴れて俺様のものだろう?つまりは両得!一石二鳥だったのさ!」


「本当にクズ野郎だな、こいつ!」


「まあその件はいいです。それよりエイチア……、いえエビシディが、ドラゴンではないと言ってましたよね。一体どういう意味なんですか、雷之 悟」


「え?いや。俺が会ったときは、どう見ても人間だったけど」


俺の目には、あいつに角や尻尾や鱗があった形跡は映らなかった。例え変装の達人だろうが、化けてる違和感さえあれば、俺の目なら捉えられるはずだ。


とはいえ、几骨さんのスーツ&眼鏡の取り外し変装のように、普段から注目を逸らすという抜け道もあるのか?……いやぁないな。エビシディの白衣では、角や鱗の痕跡を隠しきるのは難しい。いくらなんでも俺が見落とすわけがない。


「その辺の事情は、ウサギ野郎への告白で言及してやがったぜ。ストーカー決行前、地球にいるウサギ系の知人とやらを頼って、エビシディはドラゴンの体を捨て去ったらしい。代償に過去を失ったとかほざいてやがったけどよ。改名してたってことは、失った過去の一部が名前なのかもしれねーな」


「名前と引き換えに人間になったのか?」


「当時の地球なら、あり得ない話ではないですね。特星ができるまでは結構な数の人外が居たはずなので。妖怪に信仰生物、怪物や闇の種族、どんな異質な能力者がいてもおかしくありません。……ただ残念ながら、私の観察対象ではないので正体まではわかりませんが。人外ってほとんど街に居ないですし」


「あ、観察する基準みたいなのがあるのか」


「そりゃまあ。地球観察にせよ、思考から過去を読むにせよ、全部は無理ですよ。頭がパンクしちゃうと大変ですからね。心を読む魔法も、観察と会話のために適度に使うことが多かったですよ」


ってことは、地球のことは何でもお見通しみたいなこれまでの口ぶりは、強がりみたいなものなのか。何でもかんでも知ってるわけじゃなさそうだ。


そういや正者の話だけでも、電子界で会っている正者やウサギ人間の事情を知らなかった。印納さんの卵をすり替える目論見も、今初めて知った風な反応だった。エビシディに対しては、同じドラゴンなのに、人間化に気づいてすらいなかった。心を読むどころか、普段周りに意識を向けてるかもちょっと怪しいもんだ。


パンレーの傾向かドラゴン全般の傾向かはわからないが、物事への対応が極端だよな。正者やウサギ人間やエビシディには関心なしで、皿々や単独物質には大騒ぎだし。……興味で動く学者気質ってやつか?


「俺様から話せる単独物質とエビシディの件はそんなところだ。電子界以降の単独物質のことは、パンレー。てめえの方が詳しいんじゃねえか?」


「ええまあ。電子界に送られた単独物質は、最終的に異次元ホールに破棄しました。大切な大型研究機材に前進するもんだから、皆で大騒ぎしてたんですよ。で、私がとっさの機転で異次元ホールの位置をずらして、事なきを得たのです」


「お前が活躍したのか?へーやるなあ」


「ふっふっふ。でしょう?姿形がなくても、あの日はいっぱい褒められたなぁ」


「てめえのお陰で、エビシディはしばらく異空間に廃棄処分されていたわけだ。俺様も褒めてやるぜパンレー!奴を屠れなかったことが、ずっと心残りだったんだよなぁ!くっくっくっ!」


「ふーんだ」


正者の悪態に、パンレーは胸ポケットの内側で顔をぷいと背ける。エビシディが電子界から異世界に放流されてしまったのは事故みたいなもんだ。落ち込まれるよりはずっといいか。


にしても正者め。こいつは本当に悪意が奪われたのか疑いたくなるくらい性格が悪い。今だって、今日会ってから一番嬉しそうに笑ってるのに、内容があまりに酷いし。……こんなやつを印納さんの体内に残しておいて、本当に大丈夫だろうか。


「とはいえエビシディは、今も特星で生き延びてやがるがな。悪意を失った俺様じゃ手出しできねえが、まあいいさ。奴のことで話せることはもうないぜ」


「私もエイチア自身の話には興味ありません。人間になる手段とやらは気になりますが、私には不要なものですし。次の話に移りましょう」


「何を聞くつもりだ?俺は大恐慌エイプリルや保管庫のことしか思いつかないんだけど」


「1つ、前から気になるワードがあるんですよ。……正者。お前の片割れは、究極物質に釣られて、アルテに移り住んだそうですね」


「くくく。それがどうした?」


「お前の知っている究極物質の情報を話しなさい。信仰生物の正者が言っていましたよ。究極物質のことをね。奴はお前と同じく、本体の記憶を引き継いでいる個体です。奴が得ている情報であれば、お前も知っている可能性が高い。……どうですか?」


信仰生物の正者ってのは、俺が戦った偽正者のことだな。偽正者が究極物質の話をしていたことは、電子界へ通ってるときに俺も聞いている情報だ。……とはいえ、究極物質のことを深堀りする発想はなかったな。俺はてっきり、正者が印納さんの情報を共有して得たものかと思ってたぜ。


でもよく考えれば、偽正者は印納さんの情報を共有できないのか。究極物質の話は、本体が情報の出どころである可能性が高そうだ。


究極物質は錬金術由来の物質だ。でも正者が日本で錬金術をやっていたなんて話は、校長から聞いたことがない。錬金術関連の情報は、きっと本体が冒険中に得た情報だろう。正者には、錬金術の化け物っていうプロの顔見知りもいることだし。異世界帰りに皿々に残していった偽記憶の内容も、錬金術に言及している見事な怪文章だったからな。


「究極物質か。今となっちゃ俺様には不要なものだが。知りたきゃ話してやるぜ。ならまずは、俺様があの"ウサギの異世界"でやってきた活動を、大まかにでも話しておかねえとな」


目を閉じて、どこか懐かしむような声で笑う正者。童心を思い返しているのか、今までに比べて、態度に落ち着きというか哀愁を感じされる。こんな奴ではあるが、思いに耽るような知人がいたってことなんだろうか。とりあえず話を聞くしかないな。




「ウサギの異世界での活動かぁ。……害獣駆除だろ?」


「そういう話じゃねえ。何が目的かって話だ。……事の始まりはさっきも言ったが、ウサギ野郎が俺様にあるアイテム集めを依頼したことだ。何かを集めれば願いが叶う系の話は、地球の創作物でよくあるだろ。俺様が集めてやったのもその類のものさ」


「それって錬金術の破片か?皿々の偽記憶のときに願いが叶うって聞いた覚えがあるぜ」


「えっ!皿々ちゃんにそんな偽記憶が!?」


「ああそうか。コート野郎、てめえは特星で断片的な情報を得ていやがったな。ご名答だぜぇ。俺様は錬金術の破片を集め、錬金術の怪物を復活させることに成功したのさ。バックアップである俺様を作成したのはしばらく後、地球帰還前のタイミングだな」


「正者の帰還時とほとんど同時刻ですか。単独物資が電子界に送られてから1,2時間後くらいですね」


正者が地球で行方不明になってたのは、校長の話だと、1日かそこらじゃなかったっけ。その間に、見知らぬ異世界で、現地人の代わりにアイテム収集と数千匹の害獣駆除をしてたのか。……控えめに言って、7歳児どころか地球人の括りでも普通ではない気がする。特殊能力もない時代だぜ。


「色々あったが結果的に、俺様は錬金術の化け物を制し、願いを叶えた。その最初の願いで俺様は、奴の持つ錬金術の力を奪い去ってやったのさ!これが俺様が錬金術師となった経緯だ!」


「錬金術の力を、願いで奪ったのか!?」


「ああそうさ!くくく。奴の錬金術はとんでもなく癖が強い代物でよぉ。エネルギー残量に見合わない願いをすると、処理が途中中断された上に、体が完全消滅しちまうってデメリットを持ち合わせていやがるんだ。……具体的な例を挙げてやろうか。10割奪うつもりが7割だけで、犯人が突如消滅しちまったり、だな!」


「7割だけ奪って消滅、ですか。まさか大恐慌エイプリルの真相は……」


「本物の正者は、錬金術の使い過ぎで消滅したのか!?」


「記憶にねえが間違いねえ。ま、俺様が知っているんだから当然、本体だってこのリスクは承知してた筈だ。しかも俺様はちゃーんと事前に、問題の解決法も願いで調べていたんだ。…………本題に答えさせもらうぜ。願いで解決法を調べた際に、俺様は究極物質のことを知ったのさっ!」


「ま、待て正者。願いで調べたって。お前の錬金術でなんでも願いが叶うのか!?」


「エネルギーさえあれば、大抵はな。とはいえエネルギーを増やすことは叶わなかったが。エネルギー内なら回数制限なんかもねーぜ。……他にも、錬金術の化け物のように、消滅を避ける代わりに条件を増やす手法もある。奴は復活できる代わりに、破片を集めた人物の願いを叶えていやがった」


「ちなみにだけど正者さぁ。今のお前は、願いを叶えたりできないのか?」


「それができれば、とっくにてめえの息の根を止めてるぜっ!」


ふーん、所詮はバックアップの偽物野郎か。まあエネルギーだけで願いを叶えるようなインチキ技が、そう簡単に量産できるわけもないか。


しかしまあ、錬金術関連の全貌が明らかになってきたな。大恐慌エイプリルの真相が判明したおかげか俺は今、ちょっぴり気分がスッキリしている。ま、どうせ後で校長に伝えるときに気が重くなるんだ。今は長年の謎に決着がついた爽快感を、胸いっぱいに味わっておこう。


「正者、1つ疑問なのですが。異次元ホールを作って、地球へ渡航できるような異世界なんですよね。地球1つを奪うだけでエネルギーが枯渇するものなんですか」


「前日譚があるのさ。くくく……。ウサギ野郎は1度、自力で錬金術の破片を集めていやがったんだ。その願いで奴は、環境の近い異世界全てを異次元ホールで繋ぐことを願った。だが当然エネルギー不足で願いは中断。錬金術の怪物は再びバラバラになり、未完成の異次元ホールだけが残ったわけだ」


「そ、そんなことが。ではお前がそんな事情を知っているのも、錬金術の力のおかげってわけですか。過去の願いを勝手に見たってことですよね」


「あったり前だろぉーが!こういう状況で他人の履歴を覗き見るのはよぉ!俺様にとっては礼儀なのよ、礼儀っ!他人の願いを見ずに悦に浸れるかよ!」


「確かに。癪ですが少し共感できます。私も思考を読むついでに、つい恥ずかしい過去を探しちゃうんですよね。本人に伝える機会を心待ちにして、目に焼き付けるのがいいんです」


「お前ら性格悪いぞ」


「正直な話、俺様の錬金術は自由度が高すぎた。俺様が想定していた以上にな。当初俺様は、叶う願いは3つだと、ウサギ野郎から聞かされていたんだ。ウサギの異世界には、そういう言い伝えがあってな。奴自身もかつては、そう信じていただろうよ」


エビシディ達も似たようなことを話していたな。正者は3つの願いを叶えている筈だ、みたいな話。奴らは、正者のぼやきを盗み聞きして、願いを予想していたんだっけ。


正者がぼやいてた3つは、地球で好き勝手する力、一部人間を非現実世界送り、願いの数を増やす……だったか。正者も力を奪うまでは、願いの数は3つだと信じていた。願いの数の増加はともかく、他ふたつは正者にとって優先度の高い願いだったんだろう。……俗な願いしかねーな。


「だが、いざ力を奪えば、3つという条件は無いも同然だった。化け物が消滅を免れるために設定していた条件が、破片を集めた者の願い3つを叶えることだったんだ。ウサギは、1発目の願いで奴をぶっ壊したに過ぎなかった。その事実を知った俺様は、歓喜したね!あの時ばかりは俺様も、年相応に浮かれていたさ!」


「その後、お前は保管庫にバックアップを用意したんですね」


「まあな。カセットを調べたら、DNA保管庫のカギだと知ってよ。ついイラっと怒りが込み上げて来ちまったんだが、堪えたさ。もう一つの情報、究極物質により覚醒するとんでもない力が隠されている事実を同時に入手したからだ。ただ、その後に究極物質の詳細を調べたから、その力のことは後回しにしちまった」


「究極物質で覚醒する力。……魔学科法か!」


「冴えてるじゃねえか、コート野郎。てめえに大正解をくれてやるぜっ!」


アルテの扱う魔学科法の力は、カセットをアルテに渡したことで真の力となった。更にアルテは、闇の世界で作られた究極物質でフルパワーの力をも手にしたんだ。そしてカセットを俺に託したのは印納さんだが、その印納さんは、正者に内部から誘導され得る状況下でもあった。


あのカセット譲渡が、俺がアルテに会うことを見越してのものだったってのか?……印納さんは、カセット譲渡時点では、正者の存在に気づいていない。カセットの譲渡は正者の誘導だ。そうとしか考えられない。結果的にもアルテの力は完全復活し、正者のバックアップの片割れは、アルテの内部に移住してしまっているしな。


何にせよ、完全に正者のペースで物事が進んでしまっていたのか。いや過去形じゃない。今も尚、正者の思い通りに物事が進んでいやがるんだ!


「くっ正者め。……ん?ところで正者。盗んだカセットが保管庫だと知った後、お前は何で怒っていたんだよ?盗んだ盗品を置いていく位には、あの保管庫を気に入ってた筈じゃ?」


「て、てめえ俺様のトラウマに軽々と……!ふっ。くくくっ!理由を教えてやっても俺様は構わねえが。いいのかコート野郎!この話は俺様より、てめえの方がタダじゃ済まねえかもしれねえぜ!」


俺がタダじゃ済まない話?俺がカセットの持ち主だからってことか?それにあの正者がトラウマを抱えるような話って一体なんだ?この話、本当に聞いても大丈夫なのか?




DNA保管庫に怒りを見せた、バックアップの正者が持つトラウマ。その内容は、オリジナルと共有するものなのか、バックアップの正者特有のものなのか、それすらもまだわからない。……だが正者によると、聞いた俺の方がタダじゃ済まない内容だという。この言葉を鵜呑みにする気はないが、嘘だと言い切っていいものか。


「俺が、タダじゃすまない話だと?保管庫の話だよな?」


「どっちかといえばDNAの方だな。泥沼のような話さ。内容もドロドロのぐちゃぐちゃだ!てめえの脳と性癖を破壊すること間違いなしだぜ!」


「あ。私には察しがつきました。天利の話でしょう?あれはまあ、よくない話ですね。……雷之 悟。私からもその件に触れることは絶対お勧めしません。お前がおかしな性癖に目覚めて、その……、わ、私を見なくなるのは嫌ですし」


「いやお前ら……。正者と天利の名前を出して、その言い草って、もう聞けって前振りだろ」


「ち、違いますー!私は暴露したくて仕方ないだけで!だって、お前の性癖が歪んで困るのは、一番正統派の私だけじゃないですか!」


「……話してみな正者!お前と天利との間で生じたトラウマとやらが、果たして俺に通じるかどうか!試してみりゃいいさ!性癖でもなんでも、壊せるもんならやってみやがれ!」


「ああもう」


正者に対して啖呵を切った俺を見て、パンレーは諦めたように胸ポケットにうなだれる。


安心しなパンレー。例え天利にどんな過去があったとしても、俺は主人公だ。少なくともお前を見捨てるような真似はしないし、性癖もきっと歪まない。ってかここまでヒントを出されたら、いくら俺でも見当はついちまってるぜ。


「くくく。なあに複雑な話じゃねえさ。俺様は過去に1度、欲求不満の天利に襲われて、死に掛けたことがある。言っちまえばそれだけのことさ」


「大方見当はついてたぜ。って、死に掛けた?」


「限界寸前の欲に突き動かされたあの女は、大人すらも粉砕しかねない猛攻で、俺様相手に大暴れしやがった。奴に街のコンクリートが次々に破壊されていく中、俺様は自身の強靭なフィジカルで全身軽傷に抑えたのさ。観衆に無様を晒しちまったが、俺様は何とか生還したぜ。くくく。端から見ればありゃあ、人が獣に食い殺されている殺害現場に見えたかもしれねえな!」


うーむ。三角関係みたいなドロドロした話を覚悟してたんだけど。流血沙汰ってか血みどろホラー的なドロドロ話になってないか?……やってることは同じでも、イメージがなんか全然違う。


「大体わかったよ。詳しい話までは話さなくていいぜ。お前たちの痴情の話だってことは見当ついてたからな。思いの外、やばい話じゃなくてよかったぜ」


「ああっ?」


「正者、お前と血縁関係じゃなくてよかったってことさ。バックアップであるお前の記憶に残っているのなら、大恐慌エイプリルの発生した平成31年以前の出来事である可能性が高い。俺は平成45年生まれ。俺が正者の血を引いてるっていう最悪の事態だけはありえないのさ!」


「当たり前だろーが。俺様の子孫が、てめえみたいな品も頭も足りてねえ狂人になると思ってんのか?へっ!こっちから願い下げだぜ!」


「よく今の正者の言い回しで、内容を察せましたね。やはり天利の息子は違いますね」


「俺の情報把握の命中率は100%だからな。でも、もっと褒めていいぜ!」


「今のは皮肉ですよ」


正者が天利と過去によろしくない関係だった場合、最悪なのは、俺が正者の血縁者だったという展開だ。校長には悪いが、俺と正者の間に血のつながりがあるなんてのは絶対にごめんだ。特に、以前会った偽正者の野郎は、正者そのものって感じの嫌な奴だったからな。


「ん?待ってください。平成45年生まれ?確か天利は……」


「なんだよパンレー。俺が正者の子孫かも、なんて言わないだろうな?」


「あ、いえ。お前が正者の血縁者でないのは、その通りなのですが。……お前の生まれは平成41年の筈ですよ。その1年前に天利が、妊娠を理由に家出しています。間違いないです」


「は?マジで?家出はともかく平成41年だと?そんな筈は……」


「平成41年っつーと俺様の冒険から約10年後か。くくくくっ。手を出すのがお早いことだぜ!」


「嘘だろぉ!?お、皇神めぇ……!」


「手を出したのは天利ですよ、雷之 悟」


先手を仕掛けたのが天利だとしても、応える方もどうなんだって話だぜ。今の天利が、子供のような体になっている時点で、既に信用できないっていうか。俺の件は偶発的な事故だとしても、希求のときに今の体に手を出してる可能性があるんだよな。


「天利もその事実を知られたくなかったのでしょうね。お前の生まれに関しては、強引にかん口令を敷いています。皇神や正安、あと京宰に対して、正者と同時期の過ちをネタにして脅していたんですよ。息子が誕生日の話題に触れないように何とかしろ、と無茶振りしていました」


「結構手ぇ出してやがるな!?俺様だけじゃなく、正安の野郎もやられていやがったか!」


「ベリー以外のいつものメンバーは、何回か一緒にまとめてやられていますよ。あの科学男は外に出ないから被害を免れていますが。……むしろ正者。お前が襲われたことが特殊事例なんです。回復の早い皇神が熱で1日休んでしまったから、お前が槍玉に挙がったのですよ。天利の相手を務めきれずに命を落としかけた、正安と京宰の告げ口によってね」


「何っ!?お、俺様が襲われたのが、正安の差し金だってのかっ!?しかも俺様が奴らの後だとぉ……!や、野郎やってくれるじゃねえかっ!それに京宰っつーと、3バカの文系の方か!」


「京宰は今、地球で県長やってますよ。信仰生物の正者とは、地下都市利権で争うまでは公共事業などで協力関係でしたし。正者、お前なら仲良くやれるんじゃないですか?」


「誰があんな奴と組むかよぉ!俺様は正安の連れで、あいつが一番気に食わねーんだ!ああいう表ヅラがいい奴ほど、悪事が遠回しでいやらしいんだよ!美学がねーぜ!」


「あー。お前は表立って悪事をアピールしますからねぇ」


……知らない名前が出たから気になってたけど、京宰ってあの県長のじじいの名前か。地球旅行で会ったけど名前は聞きそびれてたんだ。何度か名前を変えてるらしいから、今は別の名前だろうけど。


にしても天利は、正者だけでなく校長や県長にも手を出してたのか。昔の出来事だし、今更どうこう言う気はねーけどさ。……でももう少しこう、ラスボスの威厳を崩さないような過去話を聞きたかったなぁ。正者のときは壮大な悪事の冒険エピソードなのに、何で天利だと青春の誤ちみたいなエピソードが出てくるんだよーっ。


「はあぁ。平成41年生まれねぇ」


「そんな顔しないでください、雷之 悟。気に病むことはありませんよ。……当時はまだ、大恐慌エイプリルの影響が色濃く残る時代でした。天利や皇神のように復興の空気に感化されて、早くに子を授かる学生も多かった。時代が時代です。彼らだけが特別ということはないのですよ」


「んなこたぁねーよ。天利は大恐慌エイプリル前からやばい女だったぜ」


「年下の天利にボロ負けした雑魚は黙っててください」


「ぐっ。言うじゃねえか!」


「そもそも天利は、雷之家本家との間に問題を抱えていました。学生時代の天利は、彼女の体質に釣り合わない、フィジカルの貧弱な相手との婚約を迫られていたのです。……天利は妊娠したものの、婚約の件は解消されず、雷之家を出ていくに至ったんです」


「天利に婚約話?初耳だな。しかも何ていうか、昔の朝ドラみたいな展開だな」


「てめえ朝ドラなんか見てんのか?ダセえな!」


「うるせー。悟ンジャーの前後に放映してるから、嫌でも目に入るってだけだ。てか別にダサくはないだろ」


「大恐慌エイプリルの影響は、7割の資産が失われたことばかりが注目されがちです。ですが3割側の資産が残った方は、日本国内においてしばらくの間、大衆をひれ伏せさせる程の影響力を持っていました。大勢が物資0で路頭に迷う一方、家も物資も全く失わなかった豪運の資産家もいたのです」


「俺様は錬金術の力で、全ての資産を巻き上げるつもりだったからな。全く被害を負ってない輩がいるのなら、その連中は相当な運の持ち主だぜ。或いは、オリジナルの俺様相手に交渉できた特異な連中でもいたのか。くくく」


「豪運な人物に敢えて資産を残したかのように振舞い、接触した男なら居ましたけどね。信仰生物の正者のことですが。……まあとにかくです。豪運な連中に取り入るために、一族から嫁や婿を差し出すという風潮が、大恐慌エイプリル直後に生まれたんです。その中には当然、需要さえあれば学生も含まれているわけでして。雷之家分家は長年に渡る交渉の末、発情体質の天利を婚約者として送り出すことを約束したというわけです」


「長年かぁ。大恐慌エイプリルが起きた年は、天利世代が5歳頃の年だよな。交渉は下手すりゃ10年近く掛かってるってことになるのか。その頃って復興は終わってないのか?」


「過渡期ですね。電波妨害によって世界情勢が慌ただしかったので、お前らが思うほど復興というものは簡単ではないと思いますよ。衛星機能などはほぼ全て機能していませんから」


「えっ。衛星って伝説やオカルトの類じゃなかったのか!?本当に実在するのかよ!」


「狂った価値観と言いてえところだが。印納が生まれた頃には、衛星通信を伝説扱いする子供は少なくなかったな。ちっ、ジェネレーションギャップを感じちまうぜ!」


「……電波妨害は、正者の仕業ではないんですか?」


「さあな。だが少なくとも俺様が保管庫に置かれるまでは、電波妨害なんて微塵も考えちゃいねーよ。くくく。俺様なら、電波を出す素材を全部根こそぎ没収してやるぜ。独占して見せつけるのさ!」


正者がこう言うってことは、電波妨害は別の理由で引き起こされたってことか?あるいは正者が犯人だが、何らかの理由で、地球帰還後に電波妨害を仕掛けるの至ったのか。……ウサギ人間の件もあるし、地球に異変を引き起こすきっかけってのは、俺が考えるよりも数多く存在するのかもしれないな。正者以外にそんな真似するやつが居るなんて思いたくはねーけど。




「にしても、てめえら俺様に話を聞きに来たんじゃなかったのかよ。特にパンレーてめえ、長々と自分だけ好き勝手語ってんじゃねーよ」


「どうせトラウマだったんでしょう?お前のようなお子様にはアダルティーな内容ですし。私のように配慮のできる見識者が語るしかありませんよね」


「ああ!?」


話に一区切りついて早々、正者とパンレーが互いに火花を飛ばし合っている。さっきの話題で、正者もそこそこ動揺していたはずだが、立ち直りが早いな。


俺はまだ、天利の過去話が色々と残念だったことが気にかかっている。……それとは別にもう一つ。天利が負世界にやってきた件が、なーんか腑に落ちないんだよな。今聞いた天利の過去話と、負世界にやってきた天利の態度に、どことなく違和感を感じている。天利の不老不死オーラへの勘違いから、天利に関する何かに気づけそうな気がするんだが。……具体的なことはさっぱりわからん。


「さて。ここまで話を聞いて、過去の正者の行動がよくわかりましたよ。正者が複数いる理由をまとめますか。……まず異世界の道中までは、本物の正者1人だけが存在していた。異世界からの帰還直前にバックアップを用意して、2人目となるバックアップの正者が誕生。エイプリル大恐慌で本体が消えたことで、3人目となる信仰生物の正者が誕生。究極物質の譲渡時にバックアップが分離して、4人目となるタチの悪いバックアップ正者が出現。本物を併せて、合計4名ですか」


「でも本物は死亡しているだろ。前に偽正者から聞いた話が正しければ、幽霊にもなれない非現実の世界で死んだそうだ。本物1人が減り、現存する正者の数は3人!偽正者は異次元ホールに落ちたから、残り2人!そこのバックアップは味方だから、残る要注意人物はアルテの中のバックアップ正者1人だけだな!」


「くくく。てめえら俺様を過小評価してねえか。俺様の撃破を、他の連中と同じ甘い基準で考えてると、大変なことになるぜ。ま、事態は当の昔に動いているけどな!」


「ど、どういうことですかっ?」


「てめえらが今探しているものに関係ある話だ。……俺様がウサギ野郎の家から持ち出した愛刀、異電波刀。あれは"ラジオの中にある異世界"から、奴が奪ってきた盗品なんだが。異電波刀は、ただの曲刀じゃねえ。対となる剣が存在していたのさ」


「待てよ正者。俺たちは別に異電波刀は探してねーぞ」


異電波刀は、本物の正者が電子界に置いていき、偽正者が持ち出していったはずだ。今は多分、偽正者とともに異次元ホールから、どこかの異世界に流れ着いているだろう。当然今の俺たちは、異電波刀なんか探していない。


あとラジオの中の異世界ってのは聞き覚えがあるな。地球時代に校長から、延々と同じ話を聞かされたからよく覚えてる。ラジオの中には、優雅な貴族が住む世界がある、というオカルト話のはずだが。……じ、実話だったのか?いや、結構メルヘンな内容だった気がするけどなあ。


「……まあ聞けよ。異電波刀と対となる剣っつーのが、魂を刈り取る直剣とやらなのさ。東武正剣って呼ばれるその剣にだけは、ウサギ野郎も恐怖のあまり手を出せなかったそうだ」


「東武正剣ですって?東武ってまさかあの?」


「俺たちが探してる、封印解除のカードを持つ東武なのか!?」


「ご名答だっ!しかも奴は以前から、本体の俺様の魂まで持ち歩いてやがるのさ!」


「「ええっ!?」」


どういうことだ!?東武の奴が人間ではなく剣で、しかも本物の正者の魂まで持ち歩いているだと!?奴と正者に接点があるとすれば、校長か異電波刀のどちらかが真っ先に思いつくが。


なんにしても東武のことは最重要情報だ!少しでも居場所を正確に特定するために、次の話はよく聞いておく必要がありそうだな!

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