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変な星でツッコミ生活!?  作者: 神離人
本編:???days特星解明クライマックスストーリー編(part01)
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九話-005日目 天利の恥ずべき、恥の迷惑乱入!! ~回避不能のファーストキス強奪

@悟視点@


必殺技を身に着けるために、知の印納さんの重力講義を一つ終えた俺とパンレー。しかし長々と語られた圧力差の話は、重力発生のための準備段階だった。印納さんによれば、重力の正体は強い力だという話だ。強い力か……。強そうなのはわかるが、一体どんな力なんだ……?


「よしパンレー。強い力についても教えてくれ。って、うわ」


「強い力……重力……。ううう。何度考えても結びつかない……」


「だ、大丈夫かパンレー?」


強い力のことを聞く俺の目に、頭を抱えるパンレーの姿が映る。パンレーはポケットから小さな半身を乗り出しており、下手すりゃそのまま落っこちそうだ。声が届いていないのか、俺の質問に答えてくれそうにない。圧力差の話ではここまで悩んでなかったのに、一体どうして?


「その圧力差の話に、思いの外ロジカルな思考が必要だったからよ。パンレー自身の持つ科学知識とは矛盾する内容だから、張り合おうとして疲れちゃったのかもね。ドラゴンは負けず嫌いが多いから」


「思考を勝手に……。ってあれ?パンレーは信仰専門の筈じゃ?なんで科学の知識があるんだ?」


「聞いた話では、しばらく電子界に閉じ込められていたらしいから。得意の地球観察で、科学知識を学ぶ時間はあったでしょうね」


ああそうか。パンレーは電子界にバグで長期間幽閉されていたんだったな。しかもこいつは電子界から魔法で地球を見ていた。科学に触れる機会は多かったのか。


よく考えれば、パンレーってやつは相当特殊な環境で長年過ごしてきているんだよな。電子会に閉じ込められて、仲間だった皿々との縁も切れて、ようやく出会った信仰生物たちも皆地球で過ごしている様子だった。専門外の科学に手が出てしまうほど、筋金入りの孤独生活を送っていたんだろう。


……ちょっとだけシンパシーを感じるぜ。かつて天利たちが居なくなって、バイトと悟ンジャーに没頭していた俺の中学時代。それに似ている気がする。


ただ、俺の経験は今でも役に立ってるが、パンレーの科学知識はどうだろうか。今の話の流れでは、もはや無用の長物になってしまいそうだ。……なんか悲しい話だな。電子界の暇潰しで得た知識とはいえ、このままパンレーの科学知識は活躍の場を失ってしまうのか?だとすれば俺は、どうにも見過ごす気になれない。理由はわからないが、少しでも流れを変えてしまいたい……!


「うう。私の心配は不要です。印納、続けてください」


「おい待てよ、パンレー」


「……なんですか。まさか私を気遣って、ここで引く気じゃないでしょうね?」


「むしろ逆さ。これ以上、重力の正体を聞かないでおこうってのが俺の考えだ。パンレー。後はお前が自力で見つけちまえばいいのさ!」


「わ、私がですか?えぇーっ」


俺の提案を聞いて、パンレーは面倒そうな声を上げる。……そりゃそうか。こいつの扱う専門分野はあくまで信仰。科学や重力については、電子界に閉じ込められた際の暇つぶしで得た知識しかない。今は俺より疲労が大きそうだし、何なら科学について考えることは好きじゃないのかもしれない。


だが俺が必殺技を身につけるって点においては、そんなパンレーの方が、印納さんより相性がいい気がしてならない。


ここまでの印納さんの説明は、ペースは早かったものの話自体は小難しい。ただでさえ俺はじっと座学をするのが性に合わないのに、その上理解までしろって言うんだ。今やってる講義は最短ルートかもしれないが、俺に合ったやり方じゃない。


ここで長々と答えを聞くよりも、パンレーと愚痴りながら答えを探す方が、手間と労力と時間とパンレーへの負担は掛かるが、俺にとっていい方法になる!俺の百発百中の勘が、手探りで答えを探し出すルートに照準を定めているぜ!


「無理にとまでは言わない。印納さんの話を聞けば済む答えを、お前と探そうって言うんだ。俺のわがままで遠回りすることになる訳だしな。ダメっていうなら無理強いはしねーよ」


「でもどうして。必殺技のヒント役が目の前にいるんです。それなのに話を最後まで聞かないなんて、どういうつもりですか」


「ふと思ったんだよ。只の講義じゃ華がないってな!」


「華、ですか?」


「あら、随分な物言いじゃない悟。絶世の美少女が解説してるのに、華がないなんて」


「違うんだ印納さん。今覚えようとしてる魔法弾は、俺の特殊能力で初めての必殺技なんだよ。ただ覚えるだけじゃなくて特別にこだわりたいんだ。……俺はこの必殺技を、今を迷ってる奴と一緒に完成させたいと思ってる。そいつの道を切り開くためにな」


「迷った者の道を切り開く一撃、ですか。それって……」


「ふっ。只のわがままさ」


と、格好をつけて言ったものの、本当にその通りなんだよな。自分の初必殺技を前にして、俺は物語に華が欲しくなっちまっている。だから境遇の悪いパンレーと一緒なら、必殺技で命運を切り開く機会があるかもと期待しているんだ。


なんか、敵が欲しいって気持ちに似たものがある。困った奴を救うという展開がなければ、俺の必殺技はただ強いだけの技に成り下がってしまう気がするぜ。……もしかすると、主人公は負のバネがなければ、羽ばたけないのかもしれないな。今まで思いもしなかった新発見だ。


「主人公の性ねー。でも確かに、そういうことなら私はこれ以上教えられないわ。迷いなんて生じたことないからね」


「正直、印納の悩む姿はイメージできませんからね」


「どうだ手伝ってくれないかパンレー。講義で覚えるよりもお前と探してみたいんだ。……必殺技模索で、お前の電子界幽閉の辛さを塗り替えたいっていう、勝手なヒーロー気取りの側面もあるにはあるけど。それだけじゃない。……信仰を含めると、俺を一番よく知ってるのがお前だパンレー!初の必殺技習得っていう冠婚葬祭を超える一大イベントを、俺と一緒にやり遂げてくれ!」


「お、大袈裟ですよぉー。……えへへへ。わかりました。お前の初必殺技に必要とされるのは重力の仕組み。専門外の私でよければ、一緒に模索してあげますよ。だからね、雷之 悟。私がピンチのときには、ちゃんとその技で道を切り開いてください。約束ですよ」


「ああいいぜ。重力の魔法弾の第一発目は、必ずお前を救うために撃ってみせる!パンレー!お前の電子界での苦悩の日々は、いずれ意味のあるものになるぜ!俺の必殺技のきっかけになる日が必ずやってくる!百発百中の確率でな!」


「……信じています。雷之 悟」


「イチャイチャに水差すようで悪いんだけど。ちょっといいかしら悟ー?」


「えっ?んぐぐ-っ!?」


印納さんの呼びかけに俺は振り返る。すると突如、印納さんが目の前にいて、いつの間にか俺とキスをしていた!声掛け以外の前ぶりが一切ない不意打ちをされて、俺は身動きをする間もなく、力強いキスの一撃を受けきってしまう。


「……ら、らい」


「ん?」


「ぷはっ!な、何のつもりだ印納さん!ノータイムでキスしやがって!攻撃だかセクハラだか判別つかねーんだけど!」


「私も確証があるわけではないけど……。悟、私はあなたに恋をしているわ。多分ね。これまでの特星での私の行動には、あなたに好意的なものが数多く見受けられるもの」


「ああそう。だけどよ、何も不意打ちでキスすることはないだろ。ってか、あんたなら俺を洗脳して虜にするくらい訳ない筈だぜ。なんでこんな強引な手段でキスだけしたんだよ?」


「悟、あなたが思うよりは私にも節操ってものがあるのよ。……キスの理由はそうね。初めての強敵出現だからよ。悟がキスやいちゃいちゃにどの程度の感想を抱くか、彼女に知っていてほしかったの」


「強敵?」


「キスのショックで言葉を失っていたようだけど。聡明なあなたなら会話の異質さに気づいたはず。もう冷静さを取り戻しているんでしょう?どうかしらパンレー?」


印納さんが俺の胸ポケットに視線を向ける。俺が胸ポケットを見ると、自身の目の涙を拭ったパンレーがむっとした表情で印納を見ている。パンレーが強敵……?恋のってことだよな?印納さんってば、何かを勘違いしているんじゃないか?


「……いくら雷之 悟の価値観が特殊とは言っても、地球に住んでいた頃の価値観をある程度は持ち合わせている筈です。ましてやキスの価値観では、天利の教えや信仰が干渉している可能性は低い。しかし雷之 悟は、印納のキスや告白を受けても数秒で平然としていましたね。……ということは印納、お前のマイナス無限のバストサイズが琴線に触れなかった可能性が」


「特星の不老不死オーラの影響よ。不老不死オーラの精神安定効果には、恋愛感情や性的興奮を抑圧する効果も含まれているの。つまりパンレー。悟の冠婚葬祭の言い回しには、あなたの望んだような意味は含まれていないのよ」


「う……。確かに、印納のキスであの反応。誰がキスしても同じような結果になりそうというのは、何となくわかりましたよ。この星の事情もわかります。でも説明のためにキスするのは」


「今の台詞、本当なのかっ!!?」


「「「えっ?」」」


パンレーの言葉に割り込むように、聞き覚えのある声がどこからともなく響いてくる。次の瞬間、俺たちの目辺りで前の空間が歪んだかと思うと、天利が姿を現した!


「「天利っ!?」」


「ん?えっ天利?お前一体どうやって、この負世界にやってきたんだ?」


「あっヤバっ」


俺の当然の疑問に、バツの悪そうな顔をする天利。科学や恋愛の話とは全く縁のなさそうな、唐突なラスボスの乱入騒動。今のところ天利が現れる理由に心当たりはない。一体こいつは何の目的で、どうやってこの負世界にやってきたんだ!?




「おい天利!この負世界は印納さんの体内でもあるんだぜ!一体何しに、いやそれ以前にどうやって侵入したんだお前!」


「そ、それはだな悟。………………私よりも、この負世界を知り尽くしている印納の方が、より事態を把握していると思わないか?」


「あら。この負世界は幾多ものマイナス無限エネルギーで隔離された僻地よ。悟たちでさえ、私が見つけなければ、ここに到達することはできていないわ。例え、私の胸に飛び込んでいたとしても、この地への到達は不可能。むしろ私の方こそ、あなたが現れた方法を知りたいくらいね」


「く、薄情者めぇ……」


印納さんに話を振ろうとするも、無難な侵入方法を否定された上で話を戻される天利。てか、なんで侵入した本人が侵入方法を答えられないんだ?この空間に侵入したのは他でもない、あの天利だ。多少のリスクがあっても、自信満々で語りそうなもんだが。


「で、結局天利はどうやって侵入したんだよ。あと理由」


「確認したいことがあったんだ。気になる文章が、いや台詞が聞こえてな。侵入方法はこう、今がギャグ展開扱いとかそんな感じだ」


「天利、お前の特殊能力は過去に把握しています。物語を操る力でしたか。その力を用いて、ここまでやってきたということですか?」


「ふっ。そういうことになる。……実は、不老不死オーラの精神安定効果には、性的興奮を抑えるという記述を見つけてな。抑えるって部分が逆かと思って、まあうっかり聞きに来てしまったんだ」


「抑えるの部分が逆ってことは、発情を引き起こすってことか?」


「いやそれ逆じゃない……と思いますけどね。印納が説明を間違えるとは思えません」


「な、なんだと?だがそれにしては……。どういうことだ?」


天利の目的と侵入方法が判明したはいいんだが。なんつーか、若干話に入りにくい雰囲気が出ているな。……正直なところ、ラスボスの雰囲気がぶち壊れるかもしれないし。俺の居るときにそういう話を持ち込まないでほしい。


不老不死オーラにエロい感じの興奮作用か。天利だけがなぜか通常と逆の認識ってことだよな。俺の体感だと、特星にやってきてからはその手の興奮は出ていない。天利だけ効果が出ていないどころか、興奮しやすくなるなんてあり得るのか?


「そうねぇ。少なくとも今の天利は、不老不死オーラが正常に適用されているわ。また特星にいる間、天利に不老不死オーラが正常に適用されなかった期間はない。間違いなくね。あと私本体の力で、この負世界にも不老不死オーラは適用されているわよ。性欲は間違いなく抑えられているわ」


「じゃあ元々の天利が、もっと酷い状態だったわけか」


「ま、待て……!誤解だ悟!私は元々落ち着いていたのに、特星に来てから明らかに練度と頻度が異常に上がったんだ!この体で、百戦錬磨の達人のような所作。素人ではありえない必殺技の数々。……正直な話、不老不死オーラで性欲上昇でもしていなければ、私は自信喪失してしまいそうだったさ。そんなパワフルさを、特星に来てからは実感し続けていたんだ」


「性の話だよな?天利お前、もう少し言葉選びっていうか、風情のある言い回しはできないのか?いや聞きたくはないんだけどさ」


「元々落ち着いていた……?あっ。あー。一つだけいいですか天利。お前が落ち着いていたのは、特星に来る前。つまりは地球にいた頃でしょう?」


「そ、そうだ。その頃の私は淑女は言い過ぎにしても、品のない話は避けていて」


「あのですね天利。えーっと。私はかつて地球を電子界から観察していたのですが。天利、お前は落ち着きとは無縁のやばい女でしたよ。性欲は今の比じゃない筈です。過去を、自身の過去をよく振り返ってください」


「いや、お前の見ていた地球は…………。ははん?おっと悪いが、私は急用を思い出してしまった。悟、ここでの話は全てギャグ展開だから、記憶から抹消しておいてくれ」


「無茶言うな。忘れたくてもインパクト強すぎるんだよ」


「えっ?で、できないってことはないだろう?ただの世間話や雑談の類だ、物語に何の影響もない話だった。こんな話のどこがインパクト強いっていうんだ」


話じゃなくて、登場の仕方とかタイミングの方なんだけどな。


ってか、話自体も結局どういう結論になったんだかよくわからない。天利の性欲の話ってのはわかるが。結局パンレーの観測が正しくて、天利の記憶違いってことなのか?


パンレーは、天利に過去を振り返れと言っていたが。天利の過去ねぇ。俺自身大したことは記憶にないが、やたらと恐れられてる印象はあるんだよな。


「結局、何の話だったんだよ?天利の勘違いか?」


「う、うるさいっ。……まあいいさ。メニアリィなら私の気持ちを汲んで、このギャグパートの話をなかったことにするだろう。追加の修正作業はちょっとだけ大変かもしれないが、あいつなら自主的にやってくれると私は信じている。お前だからこそ、私は丸投げして後を委ねるんだ、メニアリィ!全て任せたぞ!」


「あっおい!」


天利は軽くジャンプすると、時空の歪みに吸い込まれるように姿を消してしまった。


あ、あの野郎ー。せめて主人公に対しては答えを明かせっての!あいつのことは最高のラスボスだと思っていたが、主人公に対して情報渡さないとか、何考えていやがるんだ?


「なあ、結局どういう結末なんだ?天利がエロ野郎なのが真実で、不老不死オーラに対するいちゃもんは冤罪だったのか?」


「概ねそうですね。今回は勘違いというか事故みたいなものですよ。自身の過去を把握していなかったというか……。天利の言う通り、ギャグ展開って認識でいいです」


ギャグ展開つってもな。……この唐突さと最後の俺たちを無視した呼びかけは、数日前に現れたメニアリィの流れと似ている気がするけどな。呼びかけ相手も、天利とメニアリィが互いにって部分が共通している。主人公を差し置いて、何かが裏で動いている気がするぜ。




天利が去るのを見送ってから数分後。俺たちは、天利の乱入を気にしないでおくことで意見が一致した。万能能力者による唐突な介入は、この星では不思議なことじゃない。大した要件じゃなさそうだったし、気にするだけ無駄だって話になった。


「にしても災難だわー。告白直後に乱入されるなんてね。おかげで私のキスのもう一つの意図を説明し損ねたわ」


「もう一つの意図?単なる強制不意打ちキスじゃないってのか?」


「単なるキスではないわ。ふふふ。あのキスにはファーストキスを奪う特別な力があるのよ。例えば悟。あなたが手当たり次第にキスしまくっている唇マスターだとしても、私のマイナスエネルギーを用いれば、ファーストキスの座に割り込むことができるのよ。無論、私がその座を譲渡することだってできるわ。その気になればキスもなしにね」


「お、俺のキス経歴を弄ぶつもりか!?……あんまり覚えがねーけど」


「あんまり?じゃあ特星移住後に覚えがあるんですかっ!?」


「いやそうじゃねえって。特星での生活が長すぎて、キスの有無なんかいちいち覚えてないんだよ。なんせ地球時代の何倍もの年月住んでるからな。多分キスしたところで、生活が一変でもしなけりゃ記憶に残りはしないぜ」


「ええーっ。なんか信じられません」


地球時代のことはよく覚えてたりするから、単純に時間経過で忘れるわけではないだろうが。とはいえ数十年単位で生活を振り返ると、細かいことの大半は忘れているな。一年間何してたか全く覚えてない年もいくつかあるぜ。


「私は悟に想い人ができれば、このファーストキスを譲渡するつもりよ。相手が誰であろうともね。……勿論、私自身がその相手になることを私は望むだろうだけど。知的な私は、客観性をも持ち合わせているわ。ま、現状旗色はいいとは言えないわね」


「え?私が電子界にいる間、いくらでもチャンスはあったはずじゃ?」


「私の本体がデートに誘う度に、悟との溝は深まる傾向が続いているのよ。悟は心当たりあるんじゃないかしら?」


「そりゃまあ。印納さんとつるむことは何度もあったけど。その度に槍魔術で発光したり宇宙をおかしくしたりするからなぁ。ちょっと近寄りがたいし親近感はそりゃ湧かないさ。帝国の襲撃とか一緒に行ったけど、あれもデートのつもりだったのか?」


「ほら、この調子だもの。相手が子供でもなきゃ勝ち目がないわ」


単純な好感度だけで言えば、印納さんに対する印象は、赤の他人よりも下なんだよな。関わると厄介って印象がずっとあるし。でも熱烈な好意で絡みにきてたと考えれば……、うんまあ。美人なんだけど、生態が異質だからなぁ。


「うーん……。雷之 悟が嫌がる気持ちもわからないでもないですが。印納、お前はお前でよくめげずに告白できましたね。旗色悪いどころか、この言われようなのに」


「それはちょっと事情がね。今の私は、めげる感情を持ち合わせてないのよ。数年前に、究極物質のついでに奪われちゃったの。悪いものと一緒にね」


「「究極物質!?」」


数年前の究極物質といえば、闇の世界で暴れ回っていたあの究極物質のことか!?確か、皿々とゲージがパンツを集めて錬金術で作り出した、無限のエネルギー物質!ある意味、マイナス無限エネルギーを持つ印納さんとは対の力と言えなくもないか。


今の究極物質は、アルテの魔学科法のエネルギー源に使われているんだったな。


「雷之 悟、お前から聞いた話でしたね。究極物質は皿々ちゃんが生み出した物質であると!生成場所は闇の世界、成分はパンツ、あと信仰生物の正者もその物質の名を出していましたね」


「正者か。そういやお前、そんなこと言ってたな」


「究極物質は私がアルテに譲渡したものよ。でもその際、私の感情の一部を巻き添えにして、一緒にアルテに移住した男がいるの。そいつは私が生まれたときから体内の負世界に潜み続け、闇の世界でついに本性を露わにした。……それが正者のバックアップよ」


「正者のバックアップ?」


「印納の体内に潜み続けていた?は、初耳ですよそんな話!」


「私や本体がその事実に気づいたのは、究極物質を譲渡してからしばらく後のことよ。私の過去の行動の内、帝国侵略や究極物質譲渡には、正者に誘導された痕跡があったわ。私の感情の一部を譲渡に巻き込んだのも、報復をさせないための一手でしょうね」


「……そこまでわかっているなら報復すればいいんじゃ?」


「気が向かないから無理。私は気ままに動くタイプだから。知の私がこの事実を知っていても、体が報復に動くことはないのよ。意図して事件の解決に出向くこともできないわ」


「事件解決も無理なのか」


「なら印納。今、特星で暗躍している恐怖の大王一族討伐もできないんですか。お前にとっては親の仇だというのに」


「情報提供くらいなら知の私ができるけど。直接出向いたり手出しするのは難しいわね。動けはするけど動く気がないのよ。この感情を直す手段はあるけど行使はしないわ。無論、他人に意思決定を委ねる気もないから、それも対策済みよ」


「が、ガードが堅いですね」


正者はこそこそと人を誘導していた輩だ。似た方法での解決策には、対抗策を用意しててもおかしくはないのか。恐ろしいのは、印納さんからアルテと強者を渡り歩いてるところだ。順当に行けば、最終目的は魅異とかになるんだろうか。……詰みだな正者。


「そういえば、電子界崩壊も大本はあの男が原因でしたか。印納は知っていますか?卵に正者の盗品があったことを」


「ええ。私の誕生時にエラーが生じたのは、正者が卵に色々保管したから。父ロックハンドラのDNA情報を保管しきれず、私のバストサイズがエラーでマイナス無限となったわ。そのエラー情報処理が莫大だった為に電子界は崩壊した。こういう経緯の筈よ」


「てか、マイナス無限エネルギーってバストサイズで生じてるのか」


そういえば以前、帝国で印納さんが胸を見せようとしていたことがあったっけ。確か、宇宙は消えてなくなるとか言ってたけど。あれはバストサイズのエラーを指してたのか!胸で宇宙を消し去るつもりだったのかよ!


やっぱり印納さんと関わり合うと、手に負えない感があるな。怖すぎるって。


「あらら。また今一歩、悟の心が遠のいたわ。どうしてかしら」


「心読むのも一因なんすよ」


「印納。正者がバックアップを保管庫に置いたのはいつですか?」


「本人曰く、異世界から帰る直前だそうよ。卵を一度異世界に持ち出していていたらしいの。偽物のゲームカセットとすり替えてね」


「えっ、いつの間に!?いえ、それよりも異世界から帰る前!?異世界に持ち出したって、正者がどうしてその時点で卵の存在を知っているんですか!」


「ウサギ人間の手引きらしいけど……。詳しい話が気になるなら、本人に聞くことね。この負世界に取り残されたバックアップの片割れならば、大方のことは知っている筈よ」


「バックアップの片割れ、ですか?」


「……道中見かけたあの子供か!」


ここに来る途中、全身緑の衣服の不気味な子供がいたはずだ。偽正者のような上下一体のウェットスーツではなかったが、色合いはよく似ていた。あいつが正者か!


「そう、彼こそがかつての本物を宿したバックアップ。私を誘導していた正者の片割れであり、今では悪意と野望を奪われた無害な子供。いいえ、むしろ味方ね」


「でもあの正者だろ?印納さんを操ってた一部だし、まだ何か企んでるんじゃねーのか?」


「私もあの男は、素直に味方と思いたくはないですね。皿々ちゃんを切って記憶を奪い、私たちの仲を破綻させたのは奴ですから。あの緑色は足蹴にしたいです」


「正者に会いたければ好きにすればいいわ。彼だけが持つ情報は唯一無二でしょうし。でも恐怖の大王一族の情報提供がまだだけどどうする?現在進行形で色々起こってるから、帰り際の方がタイムリーなことも話せるけれど」


「色々って、例えばどんな話ですか?」


「宇宙で、流双が一族を駆逐しているわ。呪術の技法を聞きまわってるみたいね」


「あの女は昔から変わりませんね……。雷之 悟。あいつに関わるのは止しましょう。宇宙で私たちにできることはありません」


「あ、ああ。にしても流双ってマジで強いんだな」


「神と人間の合算ですからね、英雄は」


流双の行動には干渉できそうにないし、恐怖の大王一族は敵側の陣営だ。悪役同士の潰し合いなんて勝手にやってろって感じではあるけど。……流双が親で、しかも奴との因縁まである雨双が心配だな。流双の悪事で落ち込まなきゃいいんだが。


とにかく正者の話を聞いてくるか。恐怖の大王一族とは関係ないかもしれないが、パンレーや校長辺りは少なからず奴に因縁がある。今回の印納さんの件もそうだ。……本物の正者のバックアップに話を聞いて、奴の関わった件を全て明らかにしてやろうじゃないか!

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