表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
変な星でツッコミ生活!?  作者: 神離人
本編:???days特星解明クライマックスストーリー編(part01)
79/85

七話-005日目 カード術師達との決闘<赤> ~奇人のレッドカード

@悟視点@


呪われたウィルの解放後。俺は、ウィルと激戦を繰り広げた部屋に座っている。前後には、黒と赤のカードの紋章の扉が閉じている。俺は濡れた床の上で、次に戦う城赤の情報を待っていた。口ぶりからして、ウィルは何かを知っている!


この大部屋には戦いの痕跡がそこら中に残っている。カードの影響で床一面が水浸しだ。……ズボンに防水機能が付いていてよかったぜ。


「聞かせてくれウィル。城赤は洗脳されて何をやっていたんだ?」


「洗脳された彼がここへやってきたのは、私が洗脳された翌日の事でした。ラルフさんから城赤さんを紹介されたんです。シクレット復活計画のリーダーに相応しい男だと。ラルフさんは彼を絶賛していました」


「ラルフたち恐怖の大王一族のシクレット派は、封印解除のカードを探してるからな。城赤はあれだ。衣服のセンスや性格こそ悪いが、カードに関しちゃ特星内で最も精通してる男だ。特星でカード探しをするなら、あいつより熱中して探せる奴はいないだろうぜ」


「カードに関して、城赤さんは相応の実力があるということですか。……今にして思えば、カードに詳しい城赤さんを洗脳したことで、ラルフさんはシクレット復活計画の進展を確信していたのかもしれません。しかしその日を境に、ラルフさんの顔から余裕が消えていきました」


「なんだって?宇宙人側から余裕が?奴ら人間を使い捨てる感じの口ぶりだったのに。城赤の奴、洗脳された日に何かあったのか?」


「後に聞いた話ですが……。私たちに城赤さんを紹介した後、ラルフさんは親しい仲間同士で封印解除のカードを探す方針を話し合っていたそうです。城赤さんも交えて。話し合いの最中、城赤さんが100を超えるカード技能を披露し、一族のカード探求への理解不足を指摘。話の主導権をあっという間に握ってしまったとか」


「あーそうか。城赤は一応、特星でかなり評判の悪の組織、レッドカード団のトップだしな。カード素人を言いくるめるなんて日常茶飯事って訳か」


「問題はその後です。城赤さんの交渉は一族の心を打ちました。カードの特別捜索隊であるカード術師に対する、カードの支給及び使用義務を約束させたんです。ですが支給するカードの製作素材が問題でした。ある必須素材が、ラルフさんのメンタルを極限まで追い詰めてしまったのです」


「ウィルの使ってたカードだよな?今は……ちっ。水で流されて向こうでぐしゃぐしゃになってやがる。ありゃもうダメだな」


「ですね。事情を知る身としては、残念です」


「事情?」


なにか曰く付きの代物ってことか?……そういえばあのカード、岩やら水やらを出現させる謎の技術が使われてるよな。何を使ったらあんなカード作れるんだろう?


「実は」


「カードの素材に、シクレット派の命を使うことを俺が勧めたのさ。封印解除のカード捜索に役立つと言ってね」


「「えっ!?」」


ウィルの説明を遮るように、背後から声が聞こえる。聞き覚えのある声に俺は立ち上がり、後ろを見る。そこにいたのは城赤だった!黒のカードの紋章が描かれた扉の前で、奴は堂々とした風体で腕を組み、俺らを待ち構えている!


「レッド野郎!いつの間に後ろに!?」


「悟さんが入ってきた扉は水流で閉まっていますよね!あなた一体、どうやって音もなく部屋に入ったんですか!」


「ふっ……ふっ……ふっ……!カードの力だよ。テレポート効果のあるカードを何枚か所持していてね。レアリティの高い希少品なんだ。でもまあ、君たちを驚かせるのに1枚使わせてもらったよ!」


「な、なんてことを。命を費やして作り出したカードを易々と!」


「命を費やして……。カードの素材がどうとかの話か。城赤も今さっき、シクレット派の命で作ったと言ってたな」


「恐怖の大王一族の中には、体を持たないタイプの宇宙人が居てね。ハイアングルを称する彼らは、カードとの相性が抜群だったのさ。彼らを素材にすれば、特別なカードが作れると俺は直感したよ……!だから俺は進言したんだ!シクレット復活を成就するには彼らの力が必要だと!ハイアングルを犠牲にカードを作れとね!無論、ただの勘で言ったけど、上手くいったよ。カードは完成したのさ」


「あなたのミスは、ラルフさんを追い詰める原因を生み出したことです!今ではチャンスは私たちの手にあります!犠牲になった一族にとっては悲劇でしょうけどね!」


「つーか、本当にお前のカードがシクレット復活に役立つのか?」


「一定の成果は得られたよ。ハイアングルの彼らが自ら犠牲になってくれたんだ。ラルフおじさんもよく決断してくれたものさ。これを見なよ!」


「あっ!ウィルのと同じカード!」


城赤が取り出したのは、ウィルが使っていたのと同じカードだった。しかし同じなのはカードの裏面だけであり、奴のカードの表面には、きらきらと光る豪華な赤い塗装がされている。ウィルのカードは白紙だったはずだ。


……いずれにせよ絵柄も文字もないが、あれで効果がわかるのか?


「いいカードでしょ?彼らの尊い犠牲で完成したレアカードさ。俺なりの敬意を込めてレッドカードと名付けたんだ。更にレアリティに応じた塗装加工も施してある!俺の一部として使いこなすためにね!」


「い、一応カードを大事に扱おうとはしている、のか?」


「騙されちゃいけません!城赤さんが敬意を示すのはレアカードのみ!レアリティの低いカードへの敬意は一切ありません!彼はカードの完成後、ラルフさんの目の前で要らないカードを全て焼き捨てたんです!命自体への敬意ではないんですよ!」


「なにっ!?」


「ふっ。ラルフおじさんってばシャークトレードの件で突っかかってきてね。というのも、彼が最高レアのとあるカードを渡せと言うからさ。代わりの低レアカードを偽って渡したことがあるんだけど。その件がバレた成り行きで、彼のカードを焼き捨てちゃってね」


「詐欺じゃねえか!」


「彼はカードの価値を知らないのさ。完成したカードは消耗品でね。俺が頂いたカードも高レアリティだけど、使うと消えてなくなる。まさしく切り札だよ。ラルフおじさんなら、使いどころも考えずに使っただろうね。……だから、一族のために俺がカードを預かることにしたのさ。低レアリティのカードを目の前で廃棄し、仲間の命でおじさんの気を逸らし、シャークトレードの件を有耶無耶にする。こうすることで俺は切り札を保護しているんだよ」


「物は言いようだなレッド野郎!人のカードを奪っておいて!よく口の回る野郎だぜ!」


「城赤さんの恐ろしいところです。だって洗脳で一族を敵視できない状況下ですよ。その最中、一族をどこまでも利用し尽くす彼の精神性!私も洗脳されていましたけど……。人に抗えるものではありませんでした。心の底から一族に平伏してしまう呪いなんです」


「俺はいつだって、一族のために最善を尽くしているよ」


「ほら、これですよ!」


「敵は洗脳する相手を見誤ったようだな。身勝手なこの男のお陰で、敵は壊滅状態って訳だ。へっ、いっそ洗脳されたままにしておくか!?」


「ふっ……ふっ……ふっ……!君たちが引き下がるなら俺は追わないよ。俺が姿を現したのには理由がある。君たちを解放する旨を伝えに来たのさ。もう俺たち一族は、緑男や君たちのドラゴンを狙わないと約束するよ。……これ以上、君たちを巻き込む訳にはいかないからね」


「「ええっ!?」」


唐突な解放宣言……!?それも城赤の口から出たとは思えないレベルで真っ当な理由だ!バカなっ!城赤は今まで、俺やパンレーを狙う側だった筈!なぜ急にこんなことを言い出したんだ?この男が、本当に俺たちを心配している訳でもあるまいし。あ、怪しいぜ!奴の態度には、何か裏の理由がある筈だ!


「悟さんこれは」


「何かあるぜ。そうだろ城赤?帰り道に罠でもあるんだろ!」


「信用がないねー。今出ていけば、俺に惨めに負けることもないのに」


「へっ、誰が出ていくかよ!このまま洗脳を解けば万事解決だ!勝ち確定で退く理由はないぜ!」


「理由?……じゃあこうしよう。俺の持つテレポートのカードを君らにあげるよ。使用者を行きたい場所に移動させるレアカードさ。それを2枚。ペアで旅行でもしてきなよ」


「お、お前がレアカードをぉぉぉ……?」


「……私は1枚貰いましょう」


「ウィル!?」


「おっとウィル!呪いや洗脳を解除する技を君は扱える筈だ。手に持っている剣を置いてから取りに来てもらうよ。渡すときに、俺の洗脳を解除するかもしれないからね」


「あっ。受け渡し時の攻撃ですか。なら私も、カードを受け取るときに呪いで再洗脳されるかも?すみません悟さん。私の分を取ってきてもらえますか?」


「俺は呪いを受けないから適任って訳だな。どうだレッド野郎!水鉄砲はポケットだぜ!」


「ああ。君のことは洗脳前に事細かく調べてある。君ならいいよ」


「じゃあほら。さっさと寄こしな」


ウィルと城赤双方の希望で、俺はテレポートのカードを受け取りに城赤に近づいていく。そして何事もなく、俺はテレポートのカードを2枚受け取った!一応、早撃ちの心構えをしていたが。杞憂だったようだ。


俺は城赤に背を向ける。しかし背中側の警戒を緩めることはない。俺は早撃ちの心構えのままウィルの元に戻る。


……後ろばかり気にしても仕方ないか。この後どうしよう。城赤の洗脳を解除せずに、このまま旅行に行く展開だろうか?まあ、ウィルとの旅行なら……俺も悪い気はしないけどな。


ウィルとは転校初日から知り合い、何度か事件で渡り合ってきた仲だ。今思えば、事件で戦うことはあったが、羽を伸ばして会うことはなかったように思う。たまには事件のことを忘れて、一緒に過ごす機会があってもいい気がするんだよな。


「ほらよ、ウィル。お前の分だ」


「ありがとうございます。では、テレポートのカード!洗脳断ちっ!」


「な!」


[がきいいぃん!]


「固っ!?こ、これは……!金属製のカードの束!」


ウィルは俺からカードを受け取り、即座に使用!俺の目の前から姿を消した!次の瞬間、俺の背後から、金属が激しくぶつかり合う音が響く。後ろを見ると、ウィルと城赤の攻防が目に映った!ウィルは剣を振り下ろしている!城赤は服に仕込んだデッキを盾に、かろうじて剣を防いでいる!


ウィルがテレポートのカードで、城赤を奇襲したようだ。だが奇襲は失敗したらしい。……以前同様、城赤の服には金属製のデッキが仕込まれている。今、ウィルに切られた服の切れ目から金属製のカードの束が見えている。あれらの金属デッキの総重量は確か5万キロ……!カードに守られた奴は鉄壁だっ!


「あ、危なー!み、見事な奇襲だったねウィル!だけど俺のデッキは」


「解呪剣!」


[がきいぃん!]


「おおっ」


「聞けよー!て、テレポートのカードっ!」


続けてウィルが攻撃すると、城赤は全く反応できずに攻撃を受けてしまう。しかし奴の体を覆い尽くしたデッキの鎧が、剣の刃をはじき返した!近接戦の実力はウィルが上回っているものの、敵の強固な装備を突破するのは難しいようだ。


城赤はウィルの追撃を防ぐと、テレポートのカードで姿を消してしまう。分が悪いと踏んだようだ。辺りを見回してみるが、奴の姿は見当たらない。


俺は警戒するのをやめて、肩の力を抜く。ふとウィルの方に目を向ける。ウィルは目を丸くして、呆気に取られているように見える。


「まさかあの人……。全身に金属のカードの束を仕込んでいるんじゃ……」


「ああ。奴のカード重量は合計5万キロだ。金属カード1枚だけでも10キログラムだから、投げられたら注意した方がいいぜ」


「人間離れしてますね。ああ見えて実力者ということですか。赤きカード術師、心して挑む必要がありそうです!」


「いやぁ、単なるバカを蹴散らすつもりでいいぜ」


「え、えっ?」


俺の言葉に戸惑うウィル。だが今の戦闘を見ていた俺は、心の底から2人の実力差を感じ取っていた。城赤はウィルに戦闘面で敵わない……!


「テレポート直後の奇襲は完璧だった。が、間一髪で感づかれたよな。けれど会話中のお前の攻撃では、城赤は防御できていない。奴は、目の前の攻撃なのに対応が間に合わなかったんだ。カードが関わらなけりゃ、城赤はお前の敵じゃないのさ、ウィル」


「悟さん……。わかりました。必ず城赤さんを取り戻してみせます!」


「ああ!一緒に奴をぶちのめそうぜ!」


「って。悟さんも来るんですか!?もう戦える余力はなさそうだし帰ったほうが」


「安心しなウィル。俺は後衛もこなせるのさ。背後は安心して俺に任せて構わないぜ」


「わ、わかりました。でも一応、背後も十分気を付けますね」


「心配性だなー」


心なしかウィルの緊張感が増したような気がする。うーん?もしかしてチーム戦に不慣れなのか?プレッシャーを与えちまったかな?ま、俺が居るから問題はないだろうが。


「それはそうと、城赤は次の部屋にいるのかな。遠くの地域とかに避難されてちゃ追いかけようがないぜ。心配だ」


次の扉に向かいながら、ウィルに城赤のテレポート先を聞いてみる。俺は城赤から受け取ったテレポートのカードを所持している。だけど行き先がわからなけりゃ使いようがない。てか、発動のポーズとかは見たからわかるけどさ。具体的な行き先の設定方法がよくわからねーんだよな。……使うときに考えればいいか。


「さっきの城赤さんの態度。明らかに私たちを追い出す目的でした。悟さんやパンレーさんを標的にする本来の計画ならば、絶対にあり得ない態度です。……彼は手掛かりがあるのでしょう」


「ってことは、どういうことだ?」


「城赤さんは、報告のために拠点に留まると思います。原則、報告は拠点で行いますから。特に不正トレード以降は、不信感からか、報告場所を厳守しています。ラルフさんが拠点に戻らなければ大丈夫です」


「ラルフか。裏路地で倒してからは姿を見ていないぜ」


確か、裏路地で城赤とラルフは顔を合わせていたな。だがあの時点の城赤は、まだ俺を封印解除のカードの在処を知っている風な口ぶりだった。ならば、城赤が俺を標的から外したきっかけは、奴がこの拠点に入ってからの報告で得たものって訳か。


「この拠点内に、城赤に情報を与えた野郎がいるかもな」


「私、心当たりがあります」


「心当たり?」


「私が洗脳されているときに、城赤さんに似た服装の3人組がこの部屋を通ったんです。レッドカード団の一員でしょう。で、その3人組は赤き部屋に向かったのですが……。3人は終始、ある人物のことで盛り上がっていたんです。内容までは聞き損ねましたが、噂されていた人が探し人かも」


「あ!3人組って、クレーからも同じ話を聞いたんだよ!手掛かりの人物らしいぞ!ウィルお前、まさか名前聞いたのか!?」


「はい。噂されていた人物の名は、東武!特星製作者の1人と言われている男ですが、滅多に姿を現さない謎多き人物です!」


「東武?………………あぁ!ゲニウスのおまけかぁ!居たなそんな奴!」


扉に向かう足を止めることなく、俺はドラゴンと男のことを頭に思い浮かべる。


エクサバーストを撃つことのできるドラゴン、ゲニウス。電子界のドラゴンで魔学科法を専門としているそうだが、ゲニウス自体は既に死亡している。


そんなドラゴンを、自らが作り出す魔法の体へと蘇生させる男。それが東武だっ!そう確か、神門王国に特星に大メインショット郷国と結構色々なところで活動してるんだよ。だがまさか、奴が地球で封印解除のカードを拾っているかもしれないなんて!


しかし恐怖の大王一族は、"ドラゴンを連れた男"の特徴を手掛かりに封印解除のカードを探そうとしている。東武とゲニウスのコンビであれば、"ドラゴンを連れた男"という特徴に合致する!特星製作者ならば、地球に居た可能性も高い!こりゃ本命だぜ!


色々考えている内に、俺たちは赤いカードの紋章の装飾がされた扉に辿り着く。この先で城赤は、俺たちがやってこないかと冷や汗をかいているだろう。


「城赤……!」


もはや城赤を野放しにはできない!既に奴は封印解除のカードについての手掛かりを知っている!ここで城赤との決着をつけて、そのついでにシクレット復活とやらを阻止してやる!今、胸ポケットで眠るパンレーが目覚めたときに俺が掛ける第一声は、グッドニュースになるだろうぜ!


「この扉の先に城赤さんがいるでしょう。ラルフさんを待っている筈です!東武さんがドラゴンを連れた男だと報告するためにっ!」


「城赤の洗脳さえ解けば、恐怖の大王一族が"封印解除のカード"の居場所を知る術はない!ゲニウスや東武に危険が及ばなくなる!パンレーを含めて一族と敵対していたドラゴンは大喜びだ!宇宙人共には悪いが、ここでシクレット復活の野望は撃ち砕かせてもらうぜっ!」


俺たちは扉を開け放ち、赤きカード術師の部屋へと入っていく。首を洗って待ってな城赤!封印解除のカードに指一本触れられると思うなよ!すぐにまた地中に沈めてやるぜ!




白から赤の部屋に移ると、先ほどから見えていた部屋の内装がはっきり目に映る。内装自体は黒や白の部屋とあまり変わらない。しかし部屋の中の人数に初めて変化があった。


「居たなレッド野郎っ!それにお前たちはレッドカード団の!」


部屋では4人の男女が俺たちを待ち構えていた。城赤とレッドカード団の団員たちだ。赤い衣装を身に纏った4人組は、まるで一心同体であるかのように不気味な笑いを漏らす。


「「「「ふっ……ふっ……ふっ……!」」」」


「出ましたねレッドカード団!」


「あっ!よく見たらお前ら!瞑宰通常高校の通りに居た3人組か!ここを訪れた3人組ってお前らの事だったのか!ならお前ら、東武のこと知ってたのに隠してやがったのか!」


城赤以外の3人は、少し前に分かれたレッドカード団の団員たちだった。確か俺やパンレーとは別行動で城赤を探していた筈だが……。俺たちよりも早くここに辿り着いていたのか!くっ、東武のことも知っていたみたいだし、人探しの上手い奴らだなっ!


「やはり引き返さずにここまで来たね!一族の一員としては残念だけど、俺個人としては嬉しい限りだよ!まずは改めて自己紹介させてもらおう!カード術師の中で最もカードを極めた存在!カード使いの最終境地、レッドカードを体現する男!赤きカード術師、城赤だっ!」


他3人の前に出て、大げさな自己紹介を始める城赤。よくもまあ、自分を飾り立てる言葉をそこまで思いつくもんだ!そのノリのよさは褒めてやるぜ!


「へっ、大層な前口上だ!手下を引き連れてもう勝ったつもりだろ!」


「安心しなよ緑男!彼らに施された洗脳は戦闘ができる類のものじゃない……!彼らを命懸けのギミックに仕立て上げるための無心洗脳!ラルフおじさんはその類の呪術も得意としているのさ!彼らは裏路地で洗脳済みだっ!」


「無心洗脳!?ギミックだと!」


「いったい彼らをどうするつもりですか!」


「あっ!見ろウィル!」


「「「テレポートのカード!」」」


レッドカード団の団員3人がカードを取り出したかと思うと、そのまま姿を消してしまう。次の瞬間、3人組は俺たちの周囲に手を繋いだ状態で姿を現した!俺とウィルは、手を取り合った3人のレッドカード団の団員に完全包囲されている!


「包囲するだけ?ど、どういう意図でしょう?」


「こいつら何がしたいんだ!?水圧圧縮砲!」


「せ、洗脳断ち!」


[どかああぁん!ずばぁ!]


俺は水の魔法弾で、ウィルは剣技でそれぞれ別の団員を攻撃する。しかし水の魔法弾が直撃したにもかかわらず敵はビクともしていない!


こ、これはどういうことだ?普通、水圧圧縮砲を受けた相手はダメージがなくても、皮膚の一部が多少は押されるはずだ。だが団員に放ったヘッドショットは、敵の鼻と頬に微塵も衝撃を伝えていなかった!岩をも砕く水圧圧縮砲を受けておいて、全くのノーダメージだっていうのか!?


「そんな!洗脳を解くことができない!?」


「なんだって!?」


ウィルに切られた相手はまるで包囲の手を緩めることはない。それに切られた腕はともかく、切られた衣服にすらまるで傷が付いていない。攻撃が届いていないのか!?


「ふっ……ふっ……ふっ……!無駄さ!3人にはフィールドを生成する呪術ギミックを発動してもらっているからね!既にフィールドの一部となっている彼らは、世界そのもの!君らのような一個人の攻撃では世界はビクともしないって訳だよ!」


「フィールドですって!?ま、まさか!」


ウィルが包囲の隙間から剣を突き出そうとするが、勢い良く突き出された剣は途中で停止してしまう。……くっ。どうやら城赤の言葉通り、俺たちはただ3人に囲まれている訳ではないらしい。フィールドとやらの力で世界規模の力に阻まれてしまってるようだ!


「君たちは特星から遮断されている!だが2人で隔離された世界に居るからってロマンチックな展開は期待しないことだね!君たちに待ち受けているのは恐怖のレアカード体験さ!さあ、まずこれが世界越境のカードっ!そらっ!」


「ちっ!水圧圧縮砲!」


[ばしゃあぁん!]


城赤は赤い塗装のカードを1枚使用し、更に左手で俺たち目掛けて2枚の金属製カードを投擲する!俺が水の魔法弾で迎撃しようとするが失敗!水の魔法弾はフィールドの見えない壁で停止して、床に落とされてしまった!


しかし城赤のカードは、フィールドに阻害されることなくに俺たちに迫ってきている!


「何だと!?」


「くっ!勇者ガード!」


[がきいぃん!きぃん!どがぁっ!]


「うおっ!いてて」


ウィルは自身に迫っていた金属製のカード1枚を剣で弾く。すると弾いたカードが跳弾し、俺に迫っていたカードに直撃!カードの軌道を逸らすことに成功する。


弾かれたカードは俺の手を掠めていき、俺の足元の床に深々と突き刺さった。砕けた床の破片が砂のように舞い上がっている。


「ん?げっ!?これは血だっ!特星で出血してるだとーっ!?」


俺の手には小さな切り傷のようなものがついていた。特星でケガだって!?しかもこの傷の位置は、今さっき城赤のカードが掠った位置だ!まさかこのフィールドとやらでは、特星の不老不死の効果が打ち消されちまうっていうのか!?


「今更気付いたようだね。そうさ。さっきも言ったが君たちは特星から遮断されている。そこが特星扱いではない以上、特星内特有の"不老不死効果"は適用されない!無論、君に付与されていた"水属性の能力補正"や"雷之家の能力補正"も適用されないよ!特星内ギミックはすべて無効なのさー!」


くっ!かなり厄介だな!不老不死オーラなしでの戦闘って訳か……!今の状況で、10キロの鋭い金属製カードを受ける訳にはいかない!きっと攻撃を受けた途端、出血や骨折やケガのような状態異常が発生するはずだ!それら状態異常の蓄積は、俺たちと奴との戦力差を覆してしまう!


[がきぃん!がきぃん!]


「くっ!ううっ!」


それ以前の問題か……!今攻略すべきは隔離されたフィールドの方だ!フィールドをどうにかしないと城赤への攻撃は届かない!安全圏の奴から攻撃を受け続けるしかないんだ!今はウィルが攻撃を防いでいるが、あまり長時間守り続ける余力はなさそうだ。早急にフィールドを攻略するしかない!


「勿体ないが仕方ない!いくぜレッド野郎っ!テレポートのカード!」


「なに!?」


[ひゅん!]


俺はポケットからテレポートのカードを取り出し使用する。前の部屋で帰還用にと城赤から渡されたものだ!俺の景色は一瞬で切り替わり、城赤の背後に……移動していない!?位置は少し移動したようだが、結局俺の体はフィールドに阻まれていやがる!


「……バカな!テレポートに失敗したのか!?」


「あ、あれは俺が渡したテレポートカード……!ヒヤッとしたよ。だが残念だったね緑男!テレポートのカードには、フィールドを突破するほどのレアリティは備わっていない!同じレアカードでも、世界越境のカードに比べると入手の容易いちょいレア!フィールドに干渉するにはレアリティ不足のカードだったんだよ!」


「ちくしょう!レアアイテムを一つ無駄遣いしちまった!こうなっったら残る手段はひとつだけだ!エクサバーストのパワーでそのフィールドをぶち抜いてやる!」


「はあ、はあっ。ま、待ってください悟さん。この狭い範囲でエクサバーストを撃てば、例えフィールドを突破できても、確実に洗脳された誰かが消し飛びます。今は敵とはいえ、洗脳の犠牲者でもある彼らを消し去りたくはありません」


「だがウィル!フィールドの破壊にはエクサバースト級の威力が必須だ!他に方法はない!」


「……ふう。悟さんに1つお願いがあります。私がこのフィールドを突破するので、少しの間だけ前に立ってくれませんか」


「お前がフィールドの突破を?」


「前の部屋で、私が意識を失っている問に放った必殺技。祈りの必殺剣、レッガーブレード!その技の第3の効果、強制消滅によってフィールドを消し去ります!」


「強制消滅!エクサスターショットを消し去ったあれか!」


確かに、ウィルのあの必殺剣にはフルパワーのエクサバーストですら打ち破れそうな気配があった!だがしかし、実際は威力の不十分なエクサスターショットを消し去ったに過ぎない。本当に世界規模のフィールドを破壊する性能があの必殺剣にあるのか?


「ふん、無駄なことだよ。一個人で1つの強大な世界を消し去るには桁外れの力がいる!ウィル!君にそれほどの卓越した能力があるとは思えないけどね!」


「だそうだぜ。いけるかウィル?」


「信じてください悟さん。私のレッガーブレードは力の強弱に左右されません。世界規模のパワーでもフィールド自体は一個体。必ず打ち破ってみせます!」


「な、なにっ。君の剣技は、力を超越した必殺剣だというのか……?で、でも本当にやるつもりか!?団員たちはフィールドと一体化している!フィールドと彼らは一個体も同然!フィールドを消せば、彼らまで消滅させてしまうよ!?本末転倒じゃないか!」


「そのときは第1の効果で敵を討つ!行きます!ふぅ…………!」


[ごおおおおぉ……!]


息を吐き、ウィルは静かにレッガーブレードの構えを取る!どこからともなくエネルギーがウィルに集まっていき、そのエネルギーの中にはわずかに信仰の力も含まれている。ウィルが構えを取ってから数秒も経っていないが、既にエクサスターバーストを撃ち消せそうな気配を感じる。


「さ、させるかっ!これで終わりだよ、ウィル!」


「おっと!コート魔術・コートキャッチャー!」


[ずどどどどぉっ!]


城赤は腕を大きく振り上げると金属製カードを投擲する。カードは回転する刃のようにウィルに襲い掛かっていく!しかし直撃前、俺が予備コートを振り回したことにより、俺の予備コートの内ポケットへと金属カードは全て捕らわれていった!


「な、なにっ!?」


「へっへっへ!以前、お前との戦いで見せたコートキャッチャーだけどよ!コート魔術の新技としてリニューアルしてやったぜ!信仰で段違いにパワーアップしたこの回収精度!どうだレッド野郎!お前のカード捌きに匹敵するんじゃねーか!?」


内ポケットが見えるように俺は予備コートを掲げる。そこには別々の内ポケットに金属製カードが1枚ずつ回収されている。コート神専用ならではの信仰を使った神業回収だ!特星のサポートが無力化されていようが信仰の力でここまでやれるのさっ!


「くっ、これが信仰の力だと……!?」


「前回の城赤との戦いから2か月とちょっとか……。思いつきの技を実用化するには十分すぎる期間だったぜ!コート魔術・コート撃ち内包砲!」


俺はカード入りの予備コートを後ろに構え、城赤に向けてカードの重みごと勢いよくぶん投げる!直後、俺は発射されたコートとカードの合体弾から、素早くコートだけを引き抜いた!


「俺のカードだけ飛ばした!?くっ」


[がきききぃーん!]


コートから放たれた金属カード弾は、デッキの装甲がない城赤の顔へと一直線に飛んでいく!そう、ヘッドショット攻撃だっ!しかし、かろうじて奴は腕に仕込んだデッキでの防御を成功させる。城赤のデッキ入り衣服によって金属カード弾は弾かれてしまった。


「あ、危なかった!まさか数十キログラムのカードを君如きが飛ばしてくるとは思わなかったよ!ちょっとはカードの扱い方を心得ているようだね!」


「へ、コートの扱い方だっての!コート撃ち内包砲……!摩擦とかのエネルギーを出さずにコートを引き抜き、汚れを置き去りにするコート魔術専用の洗濯技法っ!それを俺は編み出していたのさ!それを技に転用させた訳だ!レッド野郎!お前の金属製カードなんざ、くっついた接着剤並みに敵じゃないぜ!」


「ふん、言ってくれるね。だけど緑男。君の新技は俺に通じちゃいないぜ。反撃したつもりでも俺に攻撃は届きはしないよ!」


「くくく、お前の目にはそう見えるのかもな。お前は戦闘慣れしてない。倒れかけの俺に力負けしてる自覚がないって訳だ!」


「なにっ?」


「レッド野郎!ウィルのカードを使った不意打ちに対して、お前は鋭い反射神経を発揮してみせた!だが俺のコートによる金属カードの発射には、直撃寸前に弾くだけで精いっぱいだ!戦いの場においては、お前のカードの扱いの上手さなんていくらでも抑え込めるのさ!」


「バカなことを。君は俺が対処できないような攻撃方法を狙ったとでも言う気かい?俺ですら知らない、俺の攻略法を見つけていたとでも!」


「狙っちゃいねーよ。今、気づいただけの事さ。コート内にある金属カードは俺が完全にコントロールしている。コート神の信仰によってな!コートへの信仰が、お前に伝わる筈だったカードの挙動とかの情報を徹底遮断していたっ!そんな気がするのさ!」


「ぐっ。たかがガードが遅れたくらいで、下らない憶測を!」


「へへへ。安心しやがれ。……時間稼ぎはここまでだレッド野郎っ!準備完了だぜ!やっちまえウィル!」


「なにっ!?」


「いきます!秘剣、レッガーブレードぉっ!」


[ごごおおおおおぉん!]


オーラを纏ったウィルの必殺剣が、俺らと城赤を分け隔てている見えないフィールドに直撃する!剣がフィールドの辺りに到達すると、オーラが俺らを囲うフィールド全面へと一瞬で伝達していく!オーラがフィールドを包み込んでいるようだ!


「あ、また白い炎が!」


オーラの輝きが収まる中、ウィルの切った辺りに白い炎のようなものが出現する。これはエクサスターショットを切ったときにも出現した炎だ!しかし以前とは数が違う。俺との戦いでは3つの白い炎が出現していたはず。だが、今回は白い炎が1つしか出現していない。


「印は1つですね!ならば第一の効果、"強制気絶"が適用されます!」


「強制気絶?消滅じゃないのか!?」


「はい。レッガーブレードは状態異常を司る剣技の完成形。相手を無力化した上で、切った相手に応じて、4種類の段階的な状態異常を適用します。第一段階は強制気絶。第二は強制死亡。第三は強制消滅。そして人々の犠牲と引き換えに、誕生と存在を許さない、禁じ手の第四段階」


な、なんか元勇者が使うにしては不穏な必殺技だな。特に第四段階が。まあ状態異常技の時点で、正統派な雰囲気から外れてはいるか。


ウィルの説明を聞いている間に、レッガーブレードのオーラは空気中に霧散していく。霧散したオーラはどこかへ流れていく。……よく見ると、霧散するオーラの内ごくわずかな量が、俺やウィルに流れている。空気より薄いオーラは、シャツを貫通して俺の体内に入り込む。


うーむ?少し体が楽になったような気がするけど……。き、気のせいか?オーラのお陰なのかわからないレベルで回復しているような、していないような。


「ちっ。やってくれたね。俺のカード、ラルフおじさんの呪術、団員3人の心身。俺たちの力を結集した難攻不落のフィールドだったのに。まさか君に単身突破されるとは思わなかったよ!ウィル スクロール!白のカード術師に選ばれるだけのことはあるね!」


「私一人の力じゃないです。悟さんが城赤さんの攻撃を防がなければ、私は金属カードの餌食になっていたでしょう。その場合レッガーブレードを使う隙を失っていました。2人のコンビネーションが、あなたの独りよがりな術を打ち砕いたんです!解呪剣!」


[ちく、ちく、ちくっ]


ウィルは剣を構えると、倒れているレッドカード団の団員3人を剣先で刺していく。3人は意識を失ってはいるものの、刺された直後に顔から怪しい雰囲気が消え失せていく。これで洗脳された特星の住人は、城赤を残すのみとなった!


「今更、3人を助けたところで無駄さ。君たちの襲撃と洗脳解除は想定内でね。既にカードの力で、3人の記憶から重要情報は抹消してあるのさ!どうだいウィル!カードによる記憶抹消効果には、洗脳断ちも解呪剣も通じはしないだろう?」


「むっ」


「団員3人の重要情報ねぇ。へっ、東武のことならもう耳に入ってるぜ!レッド野郎!お前がラルフへの報告待ちってこともお見通しだっ!」


「なっ!?バカな!」


「さ、悟さん……」


[ばきん]


東武の名を出した途端、城赤の足元の床にヒビが入る。俺の発言に大きなショックを受けて、カード重量を消失させる体重移動を一瞬解除したのだろう。城赤は慌てたように頭を左右に振ると、軽く姿勢を正してからこちらを睨みつけている。


ウィルもこっちを見ている。……呆れた目で。どうせ城赤は知っている情報だから言っちゃってもいいと思うけどな。ま、プレイスタイルの違いって奴か。


「大丈夫だぜウィル。俺は城赤の知っていることを言っただけだ。それに具体的な内容までは言ってない。例えラルフが盗み聞きしていても、何の話か見当もつかないさ」


「私が気にしているのはカードです。城赤さんはレアカードを悪質トレードで回収していました。一族のために温存するという名目で。しかし戦闘中に使用したカードは2種類のみ。明らかに彼はカードを温存しています!」


「2種類……!テレポートのカードと世界越境のカード!」


い、言われてみれば種類が少なすぎる。


金属製カードは特星のオーダーメイド商品を持参したものだろう。トレードの品ではない筈だ。値段は張るが上等な武器でしかない。


テレポートのカードはレアっぽい性能だが、扱いが雑だった。無駄遣いしたり、部下に配ったり、俺たちに渡したりしているからな。城赤自身もちょいレアと説明していた。きっとレアカードの中でも数の多いカードなんだろう。汎用性は高いが切り札らしさは全くない。


レアリティが高そうなのは世界越境のカードだけか。呪術フィールドと組み合わせることで、一方的に俺たちを攻撃したコンボ向けカード……!このレベルのカードがまだ他にあるのか?城赤の奴め、何を隠し持っていやがる!


「ふっ……ふっ……ふっ……!一体どこで東武の情報を聞いたのさ。俺だって今日初めて聞いた話なのに」


「……城赤さんが拠点に戻る前です。洗脳された私がラルフさんに報告するより先に、城赤さんや悟さんがやってきたんです。無論、洗脳中ですからね。城赤さんに報告する手もありましたが。敵より信用ならないので黙ってました」


「ってことは3人から?先を越されていたのか。…………盲点だったよ。そこの3人は熱心に俺を慕ってくれている団員たちでね。真っ先に俺に話を通しているものだと、思い込んじゃって。フィールドの突破といい、どうにも俺はカード以外での想定が甘くなっちゃうね」


「へっ!レッド野郎!お前はカード術師なんて柄じゃないのさ!俺たちが洗脳を解いてやるから、一般カードゲーマーとしてやり直したらどうだ!無抵抗で切られるのなら、あんまり痛い思いをせずに済むけどなぁー!」


「仕方ないなぁ。最上位のレアカードを使うよ……」


「電圧圧縮砲!」


[ばちちちぃっ!]


城赤が懐に手を向けた瞬間に、俺は奴に対して電気の魔法弾を発射する。速度重視の魔法弾はあっという間にやや離れた位置にいる城赤に到達する。そして、奴が懐のカードを取り出すよりも前に、電圧圧縮砲の電気が城赤の体を駆け抜ける!


しかし攻撃は徒労に終わる。なぜか城赤に電気の魔法弾が通じていないのだ!電圧圧縮砲を受けているのに城赤は、余裕のある笑みを浮かべている!


「攻撃が効いてない!?」


「フィールドが消滅している間にレアカードを使っていたんだ。その名もダメージ無蓄積のカード!一定期間だけ俺が受けるダメージを自動消費してくれる!ダメージが俺の体に渡ることはないよ!」


「む、無敵効果だとっ?」


「俺が今から使うカードに比べれば、大したカードじゃないさ。最高レアのカードは普通の手段では防げないからねぇ。ま、レッガーブレードならワンチャンあるかもだけど。今のウィルにもう一発撃たせるのは酷でしょ」


「なに?ウィル!?」


「す、すみません。レッガーブレードの疲労が……」


横を見ると、ウィルは剣を持ってない方の手を膝に乗せている。呼吸は乱れていないが、その姿勢から動くことすら辛そうに見える。前の部屋でも宣言時間よりも長く休憩していたし、レッガーブレード使用後は消耗するっぽい。思えば、解呪剣での解呪がチクチク突くだけだったのは、ウィルが無理をしていたのかもしれない。


そして俺も、ウィルの容態に気付けないレベルで疲労している。現に俺は、城赤に指摘されるまで異変に気づけなかった。体力もヤバい。一発でも殴られたら倒れそうだ。


一方、城赤はろくにダメージを受けていない。カードの切り札は今になってようやく使おうとしている。これからが奴の本領発揮といっていいだろう。


…………まさか今、俺たち絶体絶命じゃないか!?


「最高レアリティのカードは2枚!どちらもシクレット関連の効果を持つ!シクレットを追う執念が詰まった代物さ!……光栄に思いなよ!ラルフおじさんが欲した至高のレアカードだっ!二度とカードを追えない領域で、5人仲良く朽ち果てるんだね!」


「水圧圧縮砲!」


「シクレット様の憂い地のカード!概念の世界へ消えてしまえっ!」


[きいいいいぃん!]


「うおおおっ!?」


城赤がカードを掲げた途端、俺とウィルと団員3人組の体は物体ではない何かになり、一気にカードへと取り込まれてしまう!抵抗する間もなく意識が消えていく俺の耳に、どこからともなく城赤の勝ち誇った声が聞こえてくる。


「間もなく使用済みのカードは消失する!俺の完全勝利だね!でも緑男!君の託した信仰とやらの知識だけは、俺が有効活用してあげるよ!安心して消えるがいいさ!ふっ……ふっ……ふっ……!ふっ……ふっ……ふっ……!」


「く。城赤ぃ……!」


奴の不気味な笑いが耳に残ったまま、俺は意識を手放した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ