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変な星でツッコミ生活!?  作者: 神離人
本編:???days特星解明クライマックスストーリー編(part01)
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六話-005日目 カード術師達との決闘<白> ~祈りの必殺剣

@悟視点@


白いカードの紋章の扉を開け放つと、中はさっきまで居た部屋と同じくらいの広間だった。広間の中央では地べたにウィルが座っている。俺が勢いよく扉を開けたのに全く動じている様子はない。


ウィルはこちら側に背を向けて座っている。背後から簡単に不意打ちできそうだ。……しかし洗脳されているとはいえ、ウィルとは過去に何度か対峙して戦っている仲だ。不意打ちなんてのは無粋だろう。できれば正々堂々と決着をつけたい。


「待たせたなウィル!主人公の俺がやってきたぜ!この勝負でお前を洗脳呪術から解き放ってやる!撃たれる準備は済ませただろうな!?」


「ふっ……ふっ……ふっ……!」


背を向けたまま例の笑いを漏らすウィル。恐怖の大王一族幹部の証だという不気味な笑いだ……!仮にも常識人のウィルにこんな笑い方させやがって!


「お連れのドラゴンさんは無事でしょうね?」


「パンレーか?へっ、そりゃもう余裕で戦闘再開するくらいには……」


胸ポケットの中を覗き込むと、そこには泡を吹いて目を回すパンレーの姿があった。


あーそうか。クレー戦のトルネードでコートは風に煽られ続けていたんだった。こりゃ今日中の復帰は無理そうだ。ま、貧弱な体でここまで戦い抜いたのなら上等だろう。


だが一応、ウィルにはパンレーの気絶は黙っておこう。ウィルは勇者社での襲撃で俺よりもパンレーを連れ去ろうとしてたからな。何か考えがあるのかもしれない。


「残念だったなウィル。パンレーは俺の勝ちを確信してるらしい。お前の相手は俺ひとりで十分だとよ」


「そうですか。勇者社での戦いを私の本気と考えているようですね。しかし今の私は前回とは違う。祈りによって新たなる力を掴みかけています」


「祈りだと?そういえばお前、祈りのウィルって呼ばれてるそうだな!白のカード術師・祈りのウィルっ!」


「ふっ。そうですね」


俺が叫ぶと、ウィルは立ち上がりこちらを向いた。


なんとなく楽しそうだ……。ウィルは洗脳によって俺を切り倒すことを強制されているはず。だがこのウィルの表情はまるで違う!ウィルが自らの意思で俺を切りたがっているように見える!鈍感な俺でも確信できる……!今のウィルは戦うことを渇望している!


「ラルフさんが私に授けた肩書き、祈り。私はその肩書きに恥じないよう祈りの時間を設けました。多忙な特星本部では行う機会のなかった祈るという行為……。日々祈る中で、祈りにこそ必殺剣のヒントがあることを感じ始めていました。私は、この戦いで答えを見つけてみせます!」


「へっ!祈りが何だってんだ!そんなものに頼るくらいなら急所を狙ったほうがよっぽど威力は上がるってもんだぜ!祈りは心のエネルギーだ!体内にちょっと入ってるだけの小さな力に、夢みたいなパワーアップを期待するもんじゃないぜ、ウィル!」


「試せばわかりますよ。私の剣に誓います……!悟さんの犠牲は無駄にはしません!覚悟っ!」


「水圧圧縮砲!」


「勇者ガード!こんな技は通じませんよ!たああっ!」


「うおっ!?」


水の魔法弾を発射するが、ウィルはそれを軽々と剣の平べったい側面で受け止める。そして回転する突きをこちらに放った!高速回転する剣は水圧圧縮砲をレーザー状に超圧縮し、突きの勢いによって、その新たに生まれた水のレーザー弾を俺へと発射した!


俺がとっさに体を逸らしたことで、水のレーザーは俺の顔を掠めるだけで直撃はしなかった。だが、俺が回避しなけりゃ右目に水のレーザーが直撃してたところだ!た、多分狙ってやりやがったな!?ウィルめ、なんて危ない攻撃をしやがるんだ!


「どうですか悟さん。顔を狙ったお返しの急所狙いは!」


「ふっ、心外だぜ。ヘッドショットを顔面攻撃と思われるなんてな。にしても岩をも砕く水圧圧縮砲を軽々と片手で受け止めやがって」


考えてみれば恐ろしいパワーだ。ウィルのガードからカウンター攻撃までの一連の流れは、全て片手で行われたものだ。ウィルは自身の身長くらいある幅広な剣を片手で扱っていやがる。あの剣がどれだけ軽くても、ウィルの腕力が俺より上なのは間違いないだろう。……強さを感じさせない言動と見た目には気を付けないとな。


「洗脳以前の私ならこのまま接近戦で詰めるところですが……。残念ながら、これも使わないと!火球を呼ぶカード!」


「きたな!空気の魔法弾で跳ね返す!空気圧圧縮・火炎砲!」


[どごおおおぁっ!]


ウィルがカードによって発射した火球を、俺は空気の魔法弾で撃ち抜いた!そのまま火を纏った魔法弾はウィルへと襲い掛かる!もう既にウィルが回避できる距離を通り越している筈だ!


「こ、これはっ!?霧散断ち!」


[ずばああぁん!]


「げっ!?炎が散り散りに消え去っただと!?」


炎を纏った空気圧圧縮砲は、ウィルの剣技によって容易く鎮火されてしまった。しかも妙な消え去り方だ。炎の塊は切られた直後、細かい火の粉のように分解して消え去った。今の一撃、魔法弾をただ斬るだけの技ではなさそうだ。


「ま、まさか今の技は!電圧圧縮砲!」


「霧散断ち!……どうやらこの技の性質に気付いたみたいですね。霧散断ちは気体や熱を空気中に分解還元する特殊攻撃!悟さんの扱う特定の魔法弾にも絶大な効果を発揮します!」


「くっ、バカな!電圧圧縮砲を切ったのに感電しないってのか!」


「以前感電したからこの技を編み出したんですよ。剣一本で戦うからには、剣技だけであらゆる敵と技を乗り越えなければなりません。力負けはしても相性負けは克服する。これが私の剣であり、私の強みです!」


「露骨な対策しやがって!近接アタッカーなら何も考えずに通常攻撃ばかりしやがれっての!水圧圧縮砲!」


「水流断ち!螺旋圧縮剣!」


[ずばぁん!]


再び俺は水圧圧縮砲を放った。しかしウィルの最初の一撃により水の魔法弾は真っ二つに切断されてしまう。そのまま上下に分かれた水の塊は膨れ上がっていき、ただの水となってしまう。


更にウィルの二撃目の突きは、空中の水を包み込むように回転して再び一つにまとめ上げていく!俺の水圧圧縮砲を破ったあのカウンターの突き技だ!今回は拳大のサイズに圧縮された水の塊が、ウィルの手元から俺の腹部に発射された!


[どかあぁっ!]


「ぐああっ!?ま、またかっ!?」


「それはただの足止めです!勇者数突……くっ、爆発を呼ぶカード!」


[どかああぁん!]


「ぐうぅ!げほっ!な、なんとか爆発の直撃は免れたか!だが、ウィルが攻撃を躊躇わなければ今の一撃でやられていた!奴の不自然な間は一体なんだったんだ?」


「く。……私を洗脳している呪いによるものです。私たちカード術師は、呪いの強制的な命令により、カードの使用が義務付けられています。カードへの知見を深めるという名目ですが。そのカードの強制使用が今さっき裏目に出てしまった。少しの間だけ、命拾いしましたね悟さん」


「そんなのが封印解除のカード探しに役立つのか?」


「私はカードに疎いのでなんとも言えません。ただ、ラルフさんにはこの方針を覆せるほどの精神的余裕は残されていないでしょう。……私はこれらのカードの強さや良さが理解できませんが。使わなければならないのなら従います。ハンデと思って仕方なく使うまでです」


「ふん、舐められたもんだな。ウィル、お前が最初に望んでいた祈りとやらの力。今みたいな洗脳された状態じゃあ極められなくて当然ってもんだぜ。お前の心はカードへの不満に捕らわれているのさ!今、この俺がぶっ倒して救い出してやるぜ、ウィル!」


「むっ。随分と勝手なことを……。いいんですか悟さん。あまり挑発的なことを言うと強硬手段に出ますよ!命の保証はありませんからね!」


「あん?この期に及んで寝ぼけたことを!まさか今までは俺に配慮してたって言うつもりか!強者ぶるのもそこまでにしておけよっ!」


「今、私は封印解除のカードを入手するために動いています。しかし私の見解では、封印解除のカードのことを知っているのはあなたではない。パンレーさんが本命です。……今この場で、恐怖の大王一族にとってノイズであるあなたを消す。命令無視にはなりますが、一族のためにその最善策を選択することを私は厭わない!」


「その雑な言い分で本気を出せるっていうならやってみろよ!どの道、ここは特星だ!洗脳を無視できたとしても命が脅かされる心配はないぜっ!」


「じゃあ殺します!信仰断ち!」


「げっ!」


[びゅん!]


「うおーっ!?い、今のは!ウィルてめえっ!」


会話を切り上げたウィルが急接近し、俺の体に向けて剣を振った!技名と剣から命の危機を感じた俺は、とっさにその場スライディングでウィルの背後へと回り込む。しかしウィルは振り向き、今度は俺の足元を狙って剣を振るう!


「まだまだ!信仰断ち!」


[ぶぉん!]


「あ、危ねーっ!」


足元狙いの剣は、あと一歩のところで後ろに下がってぎりぎり回避する。更に俺は念のため、そのまま何歩か後退してウィルとの間に距離をとった。


ま、間違いない!あの信仰断ちという技は信仰への特攻効果を持っている!さっきから俺の体があの剣技にだけ嫌な気配を感じやがるんだ!多分だが、切られずとも剣の刃に触れるだけで、俺の信仰はズタボロにされて息絶えてゲームオーバーだ!信仰を完全封殺するための剣……そんな気がする!


「大丈夫ですか?命を脅かされる心配がないという割に、回避が大袈裟ですよ」


「とぼけるなよ!信仰断ちって名前で誤魔化そうたってそうはいかないぜ!その剣技は一見、信仰を断つ剣技に見えるが違う!剣の刃に触れた信仰を即死させる毒のような剣技だ!俺のコート神の体が、お前の技の性質を全て教えてくれてるぜ!白状しな!」


「あはは。初見でよくそこまで見抜けましたね。……私には元勇者としての剣技以外に、私自身が独学で身に着けた剣の技術があります」


ウィルは剣を掲げ、そして力強く構える。


「私の流派のモットーは特効と状態異常!あらゆる相手を傷つける前に無力化するための流派です!しかし特攻効果が効きすぎるために使用を封じた技がいくつもある!信仰断ちもその一つです!」


「傷つける前に無力化……?ついさっき殺すとか言ってたろ」


「本来、英雄と呼ばれる侵略者たちを無力化するための技なので。信仰特効だけで力尽きる悟さんには過ぎた技かも」


「んだとー?」


「ええ。思い返せば、あまりに一方的に命を奪うところでした。洗脳されているとはいえ、弱い種族を蹂躙するのは私らしくないやり方です。……ごめんなさい悟さん。むきになって分不相応な技を使ってしまいました」


「…………」


「でも私は、信仰だけのあなたが即死しない安全な技で戦うべきだった。やはり命令通り忠実にあなたを捕らえておくことにします」


改めて剣を構えるウィル。だがさっきまでの信仰断ちの構えとは打って変わって、普通の構えだ。……こ、こいつ。洗脳されているとはいえ、俺相手に無難な技で勝てる気でいやがる!随分と安く見られたもんだぜ!さっきの斬撃で、本当に俺を仕留められるとでも思ってるのかっ!


「おいウィル!随分上から煽りやがるが勘違いするなよ!この戦いの本質は、洗脳されたお前が救われる側!そしてお前の洗脳を解く俺が救う側だっ!言っちまえば、呪われない俺は強い種族で、呪われたお前は弱い種族ってことさ!呪われているお前に手加減される筋合いはないね!」


「屁理屈ですね。悟さんを即死させられる私は強くて、私相手に即死という不利を持つあなたは弱いってことでしょう?……この戦いで救うとか救われないとかの話は、私を倒さなければ成立しないのですから」


「じゃあ即死技の話は当たらなきゃ成立しねーな!お前の信仰断ちは今のところ命中率0%だ。当たらない技なのか、お前に当てる実力がないのかはわからないが。……もしも当たったところで、信仰に詳しくないお前の一撃だ!半端な理解で撃つ技で、俺を即死させられるわけねーけどな!」


「特星本部の資料に信仰については載っています。英雄と他の信仰生物の違いもすでに履修済みです。無論悟さん、あなたの種族特徴についても熟知しています。……それでも尚、私は信仰に詳しくないと?」


「ああそうだ!お前の理解不足によって、信仰断ちには隙が生じる!この宣言は命中率100%だ!必ず当たる!お前の0%の剣技とは違うのさ、ウィル!」


「言いましたね。せっかく無難な選択も用意しておいたというのに。ちょっと煽っただけで死を選ぶだなんて、残念です。後悔しても手遅れですよ!水の流れるカード!」


[ざざああぁん!]


「く、部屋に水が!」


ウィルがカードを突き出すと、奴のいる側から俺に向かって勢いよく水が流れ始める!水の高さは膝くらいだが部屋全面を埋め尽くすほどの水の量だ!今までの火球や落石に比べると、威力は落ちるが明らかに攻撃範囲が桁違いのカードだ!


「こんな効果のカードもあったんですね。おかげで確実に攻撃を当てられます。……言っておきますが、コートの防刃耐性に期待しても無駄ですよ。コート神は媒体のコートも体の一部。コートが信仰断ちに触れれば信仰は途絶えてしまうのですから」


「御託はいいから来いよ!水に電気流して共倒れにしてもいいんだぞ!」


「やれば私だけ耐えますけどね。では、参ります!」


ウィルが水の流れに合わせてこちらへ駆け寄ってくる。いつもほど軽やかな動きではないが、それでも逆流で身動きの取れない俺に迫るまでさほど時間は掛からない。


俺はウィルが到達するまでのわずかな時間に、背中の武器に手を掛ける。コートの背中側ポケットに収納してある壊れないハエ叩き!俺の持っている武器の中で唯一、ウィルの攻撃をまともに受けることのできる武器だっ!信仰の力が宿っていないこいつで何とかするしかない!


「たああああぁっ!信仰断ち!」


「ハエ叩き無敵ガード!」


[がきいいぃん!]


ウィルの攻撃に対して、俺はハエ叩きの後ろに手を隠しながら剣を受け止めた!しかしやはり接近戦では分が悪い!俺自身は剣に触れてはいないものの、既に体勢が崩れかけている!く、水流と連戦での疲労が辛い!より一層競り合う力を奪っていきやがる!


「一撃防いだ動体視力は流石です!でも接近戦で何度も私の連撃を耐えられますか!?信仰断ち!」


「うおおっ!」


[がきぃん!ずばあぁっ!]


「うぐあああああぁっ!」


ハエ叩きで体を守っていた俺だったが、ウィルの素早い剣技によって胴体を切られてしまった!ハエ叩きのリーチだと上半身をカバーするのが精いっぱいで、ついには下腹部に斬撃を喰らってしまったのだ!俺の意識は薄れていく。その最中、体が床に倒れていくのを感じる。


「……直撃です。さようなら悟さん」


「……はっ!?水圧圧縮砲!」


「へっ?」


[どかあああぁん!]


「きゃああああぁっ!」


意識が完全に閉ざされる前に俺は立ち直り、決死の一撃をウィルに放った!後頭部を狙ったつもりだったが、振り向いたウィルはその顔面に水の魔法弾を喰らってしまった。……い、いけねっ。ウィルの顔を狙うつもりはなかったが。とっさの癖でヘッドショットしちまった!


「ウィルーっ!?ぐっ。ま、まだやるかっ!?」


「ぐううぅ~っ!い、岩をも砕くと言っていましたが。今のは、効きました!でもそれよりも!わ、私の信仰断ちを喰らったのに無事なんて!一体どうして……!」


「切った箇所をよく見てみな」


「た、確かにシャツは切れて……。ああっ!?ず、ズボンが!」


そう。ウィルが切ったのは俺の腹部。ハエ叩きのガードが甘くしていた腹部をシャツごと切ったのだ!ウィルはこの戦いで足に信仰断ちを仕掛けようとしていた。だから俺は、ハエ叩きで上半身をカバーしながら下半身のガードはあえて緩くしていたのさ!腹部を守るシャツの先にある、ズボンを狙わせるためになっ!


ウィルの攻撃は俺の腹部に直撃はした!だが、切られたのはシャツとズボンだけだっ!信仰でできている俺やコートは切られちゃいなかったのさ!


「このズボンはコートと同じ素材でできている。火力特化の一撃でもなければ防刃耐性によって貫通を防げるって寸法さ。そしてズボンはコートじゃない!俺の信仰はズボンやシャツには通っちゃいないのさ!」


「ゆ、誘導したという訳ですか……!よく実行できましたね。あんな拙いハエ叩きの守りで。あれでは上半身を狙われる可能性もあったのに」


「お前はこの戦いで、しかも信仰断ちで、一度俺の足元を狙ってたからな。信仰に精通していればそんな真似はしない。俺かコートを狙わなきゃ意味ないからな。お前が、靴だかズボン狙いで殺せる気でいることは丸わかりだったよ。更にウィル。お前なら下半身にできた隙を見逃さないって信じてたぜ」


ただ、連戦のダメージが蓄積しすぎて気絶したのは予想外だったな。もしも目覚めるのがあと数十秒遅ければヤバかった。俺が消滅しないことにウィルが疑問を持ち、もう一度信仰断ちで切られていたかもしれない。今の俺は、もはや1,2発の直撃で気絶してしまうほど体力を消耗しているようだ。


「信仰断ちで生じる隙とは、信仰断ちを当てた後のことを言っていたわけですか。ふふっ。一本取られちゃいましたね」


「ん。普通に笑ったな。洗脳は解けたのか?」


「ふっ……ふっ……ふっ……!そこまでして私の洗脳を解きたいですか。いいですよ。私自身の洗脳を解きましょう。邪魔なカードも水に流されてしまい、他に手段もないですからね」


「え、できるのか!?」


「私は、悟さんへの認識を改めました。洗脳されたままではあなたを倒すことはできません。悟さん!一族のノイズであるあなたを消すためにも!私は祈りの必殺剣を完成させてみせる!洗脳断ち!」


「なっ!?」


[ずばあぁっ!]


ウィルは剣を逆手に持つと、その刃を自身に向かって振りかざした!剣の刃でウィルの衣服の胴体部分は切られてしまい、ウィルの体は奴自身の剣による一撃を受けていた。


直後、ウィルは目を閉じて倒れそうになる。しかし、奴の足は倒れることなく踏みとどまった。洗脳中のウィルが発していた俺を切りたそうな気配は消え失せており、ウィルは目を閉じたまま静かに剣を構えている。


「……ウィルー?」


「3つ明かしましょう。……まず今の私には意識がありません。……次に、洗脳解除前の祈りにより私の体は自動的に動きます。……最後に、エクサバーストでなければ勝機は皆無です!」


「意識がないだと?こ、これは!洗脳されたウィルからの置き伝言か!?」


「…………」


[ごおおおおおおおぉ……!]


「なんだ!?」


ウィルの剣から、とんでもない力が伝わってくる!い、今までに感じたことのないエネルギーだが、少しだけ信仰の力も入り混じっている。まさかこれが、洗脳中のウィルが言っていた祈りの必殺剣ってやつなのか!?


「く、これはヤバイ。ウィルの剣に信仰が含まれているからこそわかる。こ、この必殺剣にはエクサバーストですら容易く凌ぐパワーがある!喰らえば間違いなく終わる!信仰断ちの比じゃないとんでもない効果が備わっていやがるっ!」


「意識の外から送る、祈りの剣!秘剣、レッガーブレードっ!」


[ごおおおおぉっ!]


「うおおおおぉっ!?エクサバーストぉーーーっ!げっ!?」


空間内全てを溶かし尽くしそうな眩いオーラを発しながら、ウィルがあっという間に俺の眼前に迫る!俺はとっさに取り出したエクサスターガンの出力を全開にして、ウィルの剣を目掛けて発射した!


しかし、エクサスターガンから発射されたのはエクサスターショットだった!目の前のオーラに気圧されてしまい、焦って、今日使いまくってた方のエクサスターガンを発射してしまったのだ!8割のエクサバーストやエクサスターショットの連発で充電残量がわずか状態での一撃!どう見ても、ウィルの必殺剣を止めるには威力不足の光弾がウィルの剣に迫る!


[ごごおおおおおぉん!]


「えっ、なにっ!?」


少しだけの充電全てを注ぎ込んだエクサスターショットと、フルパワーの充電全てを注ぎ込んでも揺らがなさそうなレッガーブレード。あまりにも力量差があり過ぎたからか、二つの技がぶつかり合う直前、エクサスターショットは自ら敵に迫るのをやめた!そのままエクサスターショットはレッガーブレードのオーラに飲み込まれていく!


「ぐっ、これは……!」


オーラの圧に思わず顔を腕で庇いそうになる。しかしオーラの接近が止まっているので顔を上げると、そこではレッガーブレードの力で引き起こされた異様な光景が広がっていた!


まず、オーラに包まれたエクサスターショットは消滅していった。そしてその周囲では、消滅の瞬間を見守るように3つの白い炎がエクサスターショットを取り囲んでいた!明るいのに不気味な炎だ……!まるで獲物を逃さないように見張る門番のように炎は輝いている!


エクサスターショットが完全消滅すると、オーラや白い炎は空気中に霧散してどこかへ流れて行ってしまった。後に残されたのは俺と、床に倒れ伏すウィルのふたりだけだ。


「う、うううぅ……」


「ウィル!大丈夫か!?」


俺は起き上がるウィルを見て水鉄砲を構える。もう俺には、技を避けたり受けたりする余力はない。クレーのように素で戦闘続行するつもりであれば、先手を取るしか勝ち目はないだろう。


「悟さん……。私は何てことを。呪われていたとはいえ、禁断の必殺剣を罪もないクラスメイトに使ってしまうなんて。反省して再発防止しないと」


「よくわからんが、立ち直りは早いな」


「はい。悔んでも使った事実は変わりませんから。それに一発だけなら人体には無害ですし」


「うーむ。さすがは元勇者。メンタル強いなぁ」


結局、レッガーブレードがどんな必殺剣なのか、いまいちわからなかったな。エクサバーストでも勝てなさそうなのにエクサスターショットで止まったし。完全消滅効果があるっぽいのに一発だけなら人体には無害だそうだ。


ただ、確信したこともある。ウィルは信仰について結構理解しているし意図して干渉もできるってことだ。……あの必殺剣には信仰の力が含まれていた。魔法や特殊能力に比べるとマイナーな力だが、いずれはその辺で語り合えるくらいに波及するかもしれないな。


「てか、信仰断ちとかピンポイントで殺す技じゃん」


「う。それは本当にすみませんでした。趣味の新技開発でつい身に着けちゃって。信仰断ちも未完成のレッガーブレードも普段使いする技ではなかったんです。……ですが呪いのせいにばかりする訳にも、って!こんなことをしている場合じゃありません!」


「どうした急に?」


「城赤さんの解呪を急がないと!彼の暗躍によって、シクレットの復活計画はとりかえしのつかない事態に陥ろうとしています!今、この組織は暴走しかねないんです!」


「恐怖の大王一族が暴走だって?元々ヤバい奴らじゃねーのか?」


「……わかりました。数分休息をとる間、悟さんには私の知る内情を全て話しておきましょう。今の疲労状態では、城赤さん相手に不覚を取ってしまうかもしれません」


「城赤相手に不覚ねぇ。俺は大丈夫だと思うが」


「彼の扱うカードには謎が多いんです。どんな攻撃手段があるのかもわかりませんし。その辺も含めて説明しますね。ふーっ」


大きく息を吐いて、ウィルは立ったまま肩の力を抜いている。俺は地面に寝転がるとウィルが恐怖の大王一族の内情とやらを話し始めるのを待った。




「まずは城赤さんの話の前に。恐怖の大王一族のことについて話しておきます。悟さんは、彼らのそもそもの目的はご存じですね?」


「カードで封印を解除する、だっけ」


「シクレットアングル モーレの復活計画。ラルフさんたちは復活計画のキーアイテムを求めて地球に向かっていたそうです。彼らの望みは封印解除のカード。彼らの親玉を封印から解放するためにはそのカードの力が必要不可欠なんだそうです」


「その辺りは何となく俺も把握してるぜ。かつてパンレーや他のドラゴンたちが大怪獣と共に対立していた相手こそ、恐怖の大王一族なんだとさ。……で、シクレットには特殊能力すらも通じない永久封印が施されているらしい」


「永久封印。その難攻不落ともいえる封印を打ち破れる類のエネルギーを、彼らは100年以上昔に観測していました。しかし場所は地球。彼らの親玉が封印された地域であり、その原因となった争いの相手……ドラゴンたちの本拠地でもあるため、すぐには手出しができなかったそうです。敗戦直後で内部もごたついていたと、ラルフさんは言っていました」


「内部のごたごたか。ラルフのおっさんは自分がシクレット派だとか言ってたな。一族の他の派閥かなんかの壊滅を喜んでたぜ」


「シクレット復活の反対派には、彼の敵対者が数多く居たようです。一族のほとんどから敵対視される中、なんとか地球遠征ができる数の仲間をかき集めて、彼は故郷を発ったのです」


「待てよ?まさか地球に舞い戻るのに100年掛かったのか!?」


「話の流れからして、恐らくは」


「その経緯もあるのでしょう。私が洗脳された直後の彼は、とても仲間想いな一面を見せていたんですよ。今でこそカード術師への当たりが強くなりましたが。城赤さん加入前の先週くらいまでは、現地に詳しいカード術師こそが最も重要なポジションだと豪語していました」


「現地ねぇ。疑問なんだけど奴らは地球遠征してたはずだろ?どうして特星でお前達を洗脳して、カード術師に任命してやがるんだ?」


「私も同じことを聞いてみたんです。すると100年後の地球からはエネルギーの反応が消え去っていたそうです。観測機のシミュレーターによる分析……というのでは、"ドラゴン"及び"地球人とは何かが異なる男性"の反応があったそうです。その者たちが、エネルギーの発生源であるカードを持ち去ってしまったのです」


「そういうことか!奴らが何を根拠にドラゴンを探してるのかずっと不思議だったんだが。ドラゴンを探していたのは、観測機のシミュレーターがドラゴンを映し出したからか!」


ドラゴンに加え、地球人とは何かが違う男……。言われてみれば確かに俺とパンレーの関係性にぴったりだ。パンレーは見ての通りのドラゴンだし、俺は地球人だがコート神だからな!だが、残念ながら時期と場所的に俺とパンレーでないことは間違いない。


「カード泥棒のそいつらはまだ地球に居るのか?」


「いいえ。地球のロケットに乗ったまま消息を絶ったそうです。莫大なエネルギーと共に忽然と」


「……今更だが、地球の電波妨害の影響を全く受けてなさそうなのが怖いな。地球外からでもはっきりと地球内の様子を把握してやがる」


「電波妨害?」


「ああいや。地球に対しては本来、観測機の類は通らない筈なんだよ。電子機器や情報を狂わせる何かが地球を覆っているみたいでな」


「へー。私はあんまり機械のことはわかりませんけど。でもまあ、特星と地球をロケットで行き来できる筈なので、対処法とかありそうですけどね」


ん?言われてみれば確かにそうだな。……俺が地球にいた頃、電波妨害は対処不能とか言われていたが。その時点ですら、特星行きロケットはまともに機能していたじゃないか。特星移住者の中に、電波妨害を突破できるほどの技術者でもいたのか?


「で、ロケットの行き先が特星だとラルフは目星をつけたと」


「きっかけがあったらしいです」


「きっかけ?」


「行き詰ったラルフさんたちですが、遠征に出てしまった手前、故郷に戻る訳にも行きませんでした。なので手がかりなしで地球へと向かっていたとか。……そして、地球までもう間もなくというところで、彼らに接触を試みた者が現れました。流双さんという方です」


「ちっ。ついに奴のお出ましか」


流双か。あいつがドラゴンを探していたのは4ヶ月と1週間ほど前。当然ではあるが、奴はそれ以前には恐怖の大王一族と接触していたって訳か。


宇宙で一族と遭遇しているってことは、今の流双は宇宙空間でも生きていけるだけの生存能力がありそうだな。無双も宇宙で軍団を率いてたことあったし。


「流双さんはなぜかラルフさんたちの目的を把握していて、取引を持ち掛けたそうです。まず彼女は信用を得るためにロケットの行き先をタダで一族に提供しました。そう、特星の存在を恐怖の大王一族に明かしたのは彼女だったのです」


「そ、そんなことまでしてたのか」


流双。奴は恐怖の大王一族に、俺やパンレーが狙われるような情報を流した張本人だ。あの女であれば特殊能力で意識を読み取れるから、一族から目的を聞き出すことも容易いだろう。


だが、まさか特星のことまで素直に話しやがるとはな。特星は地球から目視できないように巧妙に隠されている。ロケットに乗った俺の視力でさえ見失う程、高度な隠ぺいが施されている筈だ。黙っておけば並の技術力では発見はできないだろうに、わざわざバラしやがって!


「確か、流双の目的は奴らの呪術だったよな」


「具体的に言えば、シクレットの呪術だそうですよ。シクレット復活を狙っているという点では、流双さんとシクレット派の目的は一致している訳です。……それと彼女、ラルフさんたち曰く、一族と深い因縁があるそうです。詳しくは聞けませんでしたが」


「ああ。なんか恐怖の大王一族の最終末裔を自称した挙句、認めない一族を滅ぼしていったらしいぜ。個体数が確か、……数億から数百にまで減ったとか聞いたな」


「ええっ!?そ、その話が本当なら……。もしかするとラルフさんが彼女に頼んだ依頼も、まさか本気だったんじゃ」


「流双に依頼?」


「ラルフさんは流双さんと手を組み、シクレット復活のためのミッションを彼女に課しました。1.ドラゴンを連れた男の手掛かり。2.流双さんの持つ力の一部を譲渡。3.故郷に出向いて協力者を募る」


「んー」


1は確か、オットーに俺とパンレーのことを伝えていたよな。これは誤情報というか、流双があえて伝えた偽情報の可能性が高かったはずだ。


流双は、パンレーが電子界に閉ざされていて体を持たない竜であることを理解していた。その上で、俺がパンレーを特星に連れ帰った当日、オットーに俺らのことを報告しやがったんだ!流双が一族の内情を知る立場ならこんな報告はしないはずだ。パンレーに地球で実体化する力がなく、目的のドラゴンじゃないことが明白だからな!


てか流双はどうして偽の報告を行ったんだ?シクレット復活が目的なら、俺を狙わせたところで何の情報も出やしないことは奴もわかってるだろうに。


2は恐らく、裏路地に充満していた流双の信仰のことだな。ラルフも言及していた筈だ。力の譲渡と言えるほど役に立ってない気もするけど。


3は仲間を呼びたがっているだけのようにも聞こえるが。ラルフは故郷の一族とはかなり敵対的な状況だったはずだ。何かあるとすればこれだな。


「恐怖の大王一族を絶滅寸前にまで追いやった流双を、あえて故郷の一族の元へ派遣したってことだよな。敵対するシクレット派に勧誘するために。なんかこう、揉めそうじゃね?」


「はい。拒否する者は許すなと言っていました。今のラルフさんは流双さんを利用しています。敵対しているかつての同胞に、滅びかシクレット派に下るかを強要するつもりでしょう」


「ラルフはそうだろうけど……」


ここまでをの話を聞いて、どうしても流双の行動が腑に落ちないんだよな。あいつにも何らかの狙いがあるんだろうが。流双の行動からは、それっぽい熱意というか気配のようなものが感じられない。


奴の目的がシクレット関連ならば、俺やパンレーが怪しいという偽情報を伝えたりはしない筈だ。本物の封印解除のカードの発見に支障が出るだろう。シクレット復活は失敗に終わるはずだ。


奴の目的が呪術ならば、意識を操る能力で全てを聞き出せばいいだけのことだ。多様な呪術を求めているとしても、一族を絶滅寸前にまで減らしたりはしない。それとは別に、兵や信者のような戦力を求めていても、一族の数を減らすこととは相性が悪いような気がする。


敵に被害を与えてるし、まさかの特星保護とか?いやいや、宇宙空間でラルフたちを壊滅させればいいだけの話だ。流双は、シクレット派が故郷の連中から嫌われてることも思考を読んで知っているだろう。シクレット派を壊滅させたところで報復の心配も要らないよな。


恐怖の大王一族に恨みを持っていて、壊滅させるつもりとか?流双は恐怖の大王一族の最終末裔を名乗っている。これは十分あり得そうな動機だが……。ラルフを手伝う理由がないよなぁ。流双は、ただでさえ一族を全滅寸前にまで追い込める実力があるんだ。しかも思考を読む能力で敵の持つ情報を全て看破できちまう。そんな奴が、ラルフの手伝いをわざわざ引き受けているのはおかしい。


流双か。あの狂人を歪めたような女に目的が存在するのか?


「うーん」


「その後、特星入りしたシクレット派は我々を洗脳し、封印解除のカードを探させているというわけです。特星には様々なエネルギーが入り乱れていて、観測機での場所特定が難しいそうです」


「うーん」


「あの悟さん。恐怖の大王一族がやってきた経緯は話し終えました。本題の城赤さんのことを話したいんですけど。大丈夫ですか?」


「あ、ああ。よろしく頼むよ」


既に、ウィルが宣言した休憩時間の数分を過ぎていた。だが俺は疲労しきっている。今、城赤との戦いになっても奴のカードで翻弄されるだけだろう。城赤への対策も兼ねて、俺はもうしばらくの間だけ、ウィルの話を聞くことにするのだった。

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