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変な星でツッコミ生活!?  作者: 神離人
本編:???days特星解明クライマックスストーリー編(part01)
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四話-005日目 瞑宰京のシティシナリオ ~シクレット復活の一派

@悟視点@


梅雨入りした割に雨が降らないアミュリー神社にて。体積の5倍ほどある高性能翻飴ジュースの摂取によって身動き不能になったパンレーだったが、朝には膨張した体型は元のドラゴンらしい姿に戻っていた。寝坊したから変化するところを見逃しちまったぜ。


「にしてもお前。昨日よりでかくなったな」


パンレーの体は昨日まで小指の爪程度の昆虫サイズだった。だが今のパンレーはピンポン玉サイズ。ジュースで膨張していたときの何倍ものサイズになっていた。


「何で破裂しそうだった昨日より大きくなってんだ?」


「忍耐力が鍛えられたことで夢の許容量が上がったのでしょう。まだ適正サイズにはほど遠いですけどね。喉のポンプも予定より溶けるのが早かったので消化能力とかも上がってそうです」


「へええ。ジュース飲むだけで忍耐力つくなら毎日飲むか?奢るぜ?」


「お断りですね。想定外の苦行だからこそ心身に変化が起きたのですよ。窒息の程度を知った今ではジュースでの心身強化は望めません」


「えっ、窒息してたのか!?」


「お前に想像できるような並の苦しさではありません。ま、たかが1日です。電子界での毎日を思えば大した苦痛ではありませんでしたね。ふっふっふっふ」


随分とジュースの摂取で自信が付いたようだな。得たものは高性能翻訳飴による自動翻訳だけじゃない。パンレーの心身もしっかりと強化されてやがる!


「でもよ。もしかするとジュースで強くなる余地がまだあるかもしれないぜ。だからもう一日根性でジュースを満腹飲むっていうのは」


「絶対嫌です。断固拒否です」


「そ、そうか」


即答で却下されちまった。どうやら本気で昨日の体験を繰り返したくないらしい。体は強くなっても心はまだまだ忍耐力不足かもしれないな。




毬の島にある勇者社のワープ装置で、寮近くにある勇者社にやってきた俺とパンレー。ウィルによって壊された壁は既に修復済みだ。


「2日前、恐怖の大王一族は勇者社のワープ装置を利用していないとボケ役が言っていた。恐らくウィルも装置を使っていない筈だ。きっとこの近辺に奴らの拠点があるだろうぜ」


「寮に一番近い勇者社でもありますよね。私が特星にやってきた初日にオットーという鏡使いが襲ってきましたし。彼も拠点が近いから私を待ち伏せできたのかも」


「寮は現代エリアにあるがやや街外れだ。潜むなら街の中心側だろうな。寮より外側だと買い出しで絶対目立つ。……現代エリアから離れて特星エリアに潜む可能性もあるけど。特星エリアはお宝狙いの学生がダンジョンを探し回ってるからな。地中に住んでも情報が出回ると思う」


「では街の中心部に向かいましょう!お前が先導するのですよ!」


「はいよー。任せなっ」




ここは瞑宰通常高校の近く。街の中心にはまだ遠いが、瞑宰京の中では最も活気があるエリアの1つだ。今でも路上や高校のグラウンドで学生同士の戦闘が行われている。……散歩してる学生の中にガラの悪い奴が混じってやがるな。あの服装はレッドカード団の奴らか?


「この星の学生って、場所とか関係なしに戦うんですか?邪魔ですけど」


「戦闘禁止の場所もあるにはあるけどな。路上とグラウンドはスタンダートな戦闘場所だよ。それよりパンレー。あそこの赤い服着てる奴追うぞ」


「居ません……。お前、物凄い遠くの人物を指差していませんか?私に見える距離の人物だけ指差してください」


「向こうだ!あっちで悪の組織が暗躍しようとしている!きっと奴らなら、街に隠れ潜む侵略者たちのヒントを持っているはずだ!」


「おー。スイッチが入ったようにやる気になりましたね。お前の敵を探し出すセンサーがどの程度のものか。私が見極めてあげましょう」


「しっかり見とけ。主人公の閃きってやつをお披露目してやる!」




レッドカード団の一員を追って、街の中心にまでやってきた俺とパンレー。しかし距離が離れすぎていたのか曲がり角付近で目標を見失ってしまった。


「い、居ねえ。ここを曲がったのは確かなんだが……」


「街の中心という割には学生ばかりですね。大人の姿が全く見当たりません。一軒家はそれなりにあるはずなのに」


「ああ。地球からの移住者のほとんどが学生だからな。大人は特星製作者たちと特星生まれが大多数だが、そもそもの数が多くない。……あと、この辺の一軒家は高額だから空き家が多いぜ」


「それに地球に比べて明らかに人口が少ない。お前も地球人ならわかるでしょう?特星の中心都市という割には、この瞑宰京の人口は1万人いるかも怪しい。星全体の人口は1000万人に満たない気がします」


「む、難しい話を……。別に俺ら不老不死なんだから人口を気にすることないだろ。なんならモンスターが擬人化すれば人は増えるしな」


「今はそうでしょうね。しかし歪であることは事実です。……地球の10倍サイズを持つ星、特星。この星の生活全ては勇者社によって支えられています。勇者社が無力化されるとこの星には不老不死と特殊能力しか残りません。豊かな生活が成立しなくなることを頭に留めておきなさい」


「あー、分かった分かった。でも今はレッドカード団の団員を追うことが先決だろ。早く手掛かりを見つけないと完全に見失っちまう」


「あーーーっ!お前だ!見つけたぞーーーッ!」


「「えっ!?」」


曲がり角を通り掛かったところで男の叫び声が聞こえる。声の聞こえた方を見ると、俺が追っていたはずのレッドカード団団員がすぐ近くに居やがった!しかも傍には、2人別のレッドカード団団員の男女まで居たようだ。合計3人のレッドカード団団員は俺達をすぐさま取り囲んだ!


「おいおい、何のつもりだ?根拠もなく俺達がお前らを追ってたなんて言うつもりじゃねーだろうな」


「自白していますよ、雷之 悟」


「俺らを追う……?何の話だ……?いやそれよりコート男!最近、団長の様子がおかしくなったのはお前の仕業だろう!?」


「団長?レッド野郎の城赤のことか?」


「そうよ。団長はあなたとの再戦のために瞑宰京へ向かったきり帰ってこなくなった。そして数日前、私達が捜索に来たときには様子がおかしくなっていた。そのまま行方知れずとなってしまったわ。団長の乱心はあなたの仕業ね?」


「そうなんですか?雷之 悟?」


「し、知るかよ!いや2か月ほど前に倒したけどよー!奴はカードの自重によって勝手に地中に沈んでいったんだ!」


「カードの自重で地中に沈む……?はっ、噂通り相当いかれた男みたいっすね!団長がお前みたいな狂人じみた行動をする筈ねーでしょうがよ!」


「何にせよ団長の足取りは掴めそうだな!さあ来な!強引にでもお話してもらうぜコート野郎!」


「ちっ。悪の組織が何かやってるかと思えば人探しだったとは……。まあ折角だし話だけは聞いていくよ。この場でなっ!」


[どかああぁん!]


先導しようと背を向けたレッドカード団団員を水圧圧縮砲で吹っ飛ばす。最初の標的は、さっき俺たちが追ってたやつだ。そのまま振り返り、残り2人の足元に向けて油の魔法弾を発射する。


「や、やる気っすか!?」


「待って!これは油っ!」


「ああそうだ!水圧圧縮砲からの油圧圧縮砲!動けば花火のおまけが付くぜ!」


「も、燃やされるのは勘弁っす」


「なんてことなの。ふざけた見た目とは裏腹に戦い慣れている……!きっと城赤団長を倒したというのも本当の話ね」


「あいつにはカードでも戦闘でも勝ち越してるよ。ファッションセンスのなさはお前たちレッドカード団の方が上だけどな。で、お前達はなにを知っているんだ?」


「もしかすると城赤という人物がおかしくなったのは、恐怖の大王一族という侵略集団から何らかの影響を受けたのかもしれません。お前達が会ったときにそれらしき発言をしていませんでしたか?」


「それらしき発言も何も、俺たちが団長の様子がおかしいって判断した原因っすよ。その恐怖の大王一族ってやつは」


「「えっ!?」」


「数日前、私達が団長を探しにこの瞑宰京にやってきたときの話よ。瞑宰京で一番大きなカードショップに寄り道していたら不気味な笑い声が聞こえてきたの。笑い声の主は……団長だったわ。彼は、恐怖の大王一族の封印を解くためのカードを探していると言っていたわ」


「封印を解くためのカード?」


「恐怖の大王一族の封印……。ま、まさかシクレットアングル モーレの封印を!?」


「あ、なんか聞き覚えあるなその名前。恐怖の大王一族のボスだっけか」


「そうです。私達ドラゴンと大怪獣ロックハンドラが手を組み撃破した怪物……。今は完全に力を失っている筈ですが……。まさかカード一枚で封印を解く方法を確立している?そんなバカげたカードが実在しているとは思えませんが」


「でも洗脳技術を持ってる連中だろ?わざわざ流通品を探さなくても製造元を押さえて新しく作ればいい話だよな。大体、未所持のカードで封印を解けることをどうやって調べ上げたんだ?」


「カード自体に封印を解くギミックがあるとかではなく、単純にエネルギー量や呪力がとんでもないカードがどこかで生まれているのかもしれません。信仰力なら私でも探知できるのですが」


「……どうやら私達が付いていける話ではなさそうね。悪いけどあなた達に団長のことを託していい?」


「怪獣やら怪物やら信仰やら。俺らはそんなオカルトに関わってられねーっす。こっちは独自に団長を探したいんでね」


「おう。予想以上に話が進展したから助かったよ。まっ、お前らはカード屋でジュースでも腹いっぱい飲んでな。城赤は見つけたら帰るように言っておいてやるぜ」


レッドカード団の2人は、気絶した団員を引きずってこの場を去る。……いやしかし、まさか城赤が恐怖の大王一族と繋がってたとはな。おかしな笑い方してるって話だし、もしかすると奴もウィルのようにカード術士の一員になっちまってるかもしれない。奴なら赤のカード術師を選ぶだろう。


「今の話、どう思うパンレー。やっぱり城赤も恐怖の大王一族の事件に巻き込まれちまってるのかな」


「残念ながらその可能性は高いです。城赤という男のことはわかりませんが、恐怖の大王一族に自ら協力する人間はまずいないでしょう。お前たち人間とは価値観が違います。……まあ流双のように感性がバグっている例外がいるかもしれませんが」


「お前はカードの封印って奴については何も知らないのか?」


「封印はシクレットアングル モーレの封印だと思います。あの封印を解除できるカードには心当たりありませんね。……それとウィルやメニアリィから聞いた白・黒・赤のカード術師の話が引っかかります。何故カード術師なのか心の中で引っかかっていましたが。まさか彼らは、封印を解くカードを探すためだけに用意された幹部なのではないでしょうか」


「でもウィルはお前のことを探していたぜ。そのカードとやらはお前や電子界と何か繋がりがあるものなんじゃないか?」


「うーん……?うーんん。……さっぱりわかりません。あの封印は大怪獣ロックハンドラの命とエネルギーを注ぎ込んだ永久封印。ただでさえ封印解除することが不可能な代物です。封印解除の方法ですら見当がつかないのにそのギミックをカードに収められるとは思いません……」


「そうか。……ちなみにボケ役の特殊能力とかでそういうカードを作るとかは」


「無理ですねー。前にも話しましたが特殊能力とは大怪獣ロックハンドラが有していた力の一部。一方で彼の命とエネルギーをフル投入して作った永久封印がシクレットには施されています。特殊能力では永久封印を突破するだけのエネルギーを扱うことすらできないのです」


「となると俺にも見当はないな……」


ボケ役の"裏ドリカード"の自動生成が原因で封印解除のカードが生成されたのかと思ったが。今の話を聞いた感じ違うようだな。……そもそも裏ドリカードを作り始めたのがここ数年の出来事だ。恐怖の大王一族がそこまで特星の事情を知ってるとも思えない。


いやでも、パンレーを連れ帰った当日に俺達はオットーに待ち伏せされていたよな。奴は俺がコート神であることも知っていた。そこまで詳しい奴がなぜ、俺が封印を解くカードを持ってると勘違いを?いや奴の口ぶりはドラゴンだけを探しているような感じが……。その前に電子界で遭遇した流双もドラゴン狙いっぽかったし。奴は食用目的のようではあったが。


「恐怖の大王一族の狙いがドラゴンであることは一貫してるよな。やっぱりお前達の誰かが封印を解くカギなんじゃねーのか。そして奴らのドラゴン捜索メンバーには真の目的が伏せられているとか」


「まあ私達は各研究分野のエキスパートではありますけど。誰か封印解除できるかなぁ……。私の見立てでは難しい気がしますが。やっぱりカードなのかな」


「カード要素がフェイクって方がしっくりくる気が。まあでもひとまずカード屋だ!城赤が出入りしてるところを捕まえるのが一番話が早い!瞑宰京で一番大きなカード屋で待ち伏せするぜ!」


「ええ。ですね!」




勇者社運営のカード専門店前にやってきた俺とパンレー。瞑宰京で一番大きな規模のこの店舗であれば、他の町からやってきた城赤でも立ち寄っている可能性は高い!


「見ろよパンレー。このポスターに載ってる男が城赤。悪のカード組織レッドカード団の団長であり、特星中のカードゲーム大会で賞金を稼ぐプロだ」


「悪の組織の一員なのにポスターには普通に載っているんですね。特星ではこういった悪党を取り締まらないんですか?警察組織とかは?」


「悪質な奴らは特星本部が取り締まってるな。他にも俺のようにアイテムドロップ狙いで敵を討伐する奴もいれば、賞金稼ぎの連中が組織ごとぶっ潰すこともある。……まあ今は小学生が帝国に集結してるから悪事を働きやすいだろうな。女子小学生は特殊能力が基本強いから」


「おや……噂をすれば。来ましたよ、雷之悟」


「えっ?」


「ふっ……ふっ……ふっ……!店の出入り口前で立ち話だなんてマナーがなっていないね。ひょっとして俺をお探しなのかな、緑男?」


「レッド野郎!ついに姿を現しやがったな!」


パンレーの言葉で後ろを振り向くと、そこには歩み寄る城赤の姿があった。9割は赤で染まったハデな衣服!洗脳されても偏った配色センスまでは修正できなかったらしいな!衣服の所々にふくらみがあることから、今回も戦闘用のデッキを体中に装着していそうだ。


「俺を探しているならもう察しは付いてるよね。今の俺は恐怖の大王一族に洗脳されることで赤のカード術師としての役目を得た!狙うは勿論、一族のボスを封印から解き放つためのカードさ!」


「ほ、本当にそんなカードが存在するのですか!?」


「いい質問だねドラゴン君。一族からの情報によると、地球でドラゴン連れの男が件のカードを持ち去ったみたいなんだ。……そして一族に仇なす女性からの"コート神がドラゴンと一緒にいた"というタレコミ情報。それらを一族の1人が事実確認したことで君らが最有力候補となったのさ」


「「……地球で?」」


こいつは一体誰の話をしているんだ?少なくとも俺はパンレーと一緒に地球に居た覚えはないぞ。


……タレコミ情報っていうのは流双だよな。俺とパンレーの関係をいち早く知っていたはずだし。電子界の別々の部屋居たが、それでも流双は俺とドラゴンの会話を瞬時に見抜きやがったんだ。


……事実確認したのは鏡野郎のオットーだな。実体化したパンレーの姿を見られているから間違いない。電子界から俺がパンレーを連れ帰ったときに待ち伏せていたし。流双のタレコミを聞いて事実確認に来ていたって訳か。


流双とオットー。奴らが手を組むことによって、"ドラゴンとそのパートナー"という条件に当てはまる俺たちに目を付けたんだ!そして封印解除のカード!恐怖の大王一族が狙っているカードは"ドラゴン連れの男"が持っているのか!……ってか地球でドラゴン連れ歩くバカがいるのか。非常識にもほどがあるだろ。


「ま、俺はそんな話信じちゃいないけどね。俺とカードゲームで張り合える男が落ちてるカードを持ち逃げする訳がない。そうだろう緑男?」


「…………ふっ。聞かれるまでもねーな」


「何ですか今の間は」


「俺は君らを捕まえる指令を遂行しないといけない。そして君たちは洗脳された友人を取り返したい。互いに戦う理由はある訳だ」


「よし!覚悟しなレッド野郎!」


「待ったぁっ!ここで戦えばカードショップに迷惑が掛かるだろ!来なよ、恐怖の大王一族の隠れ家にさ!他の幹部連中も君を倒したくてうずうずしているよ、悟っ!」


「せ、洗脳されてるのに律義な奴……」


「お前のような奴を洗脳してもすぐ騒ぎを起こして足が付くでしょうからね。任務遂行に忠実そうな人間を見繕っているのでしょう」


夢で戦った夢呪術師も似たようなことを言ってたな。従順でまともな方がいいって。へっ、そんな無難なメンバーで俺を出し抜けるもんか!




城赤に連れられてやってきたのは、カードショップから少し離れた位置にある裏路地だった。何となくだが、ただの裏路地とは違う神聖な気配のようなものを感じる気がする……。


「雷之 悟。この十字路に流れ込んでいる信仰……。流双姫の纏っていた信仰と同じ種類ものが混じっています」


「な、なんだと?」


「ふっ……ふっ……ふっ……!ここは裏路地の呪術師が管理する十字路さ。すでにこの裏路地は恐怖の大王一族の支配下にある。さあ十字路の中心に来なよ」


裏路地の十字路の中心で俺たちを待つ城赤。すぐにでも不意打ちすれば勝つのがぐっと楽にはなるが、今戦うと救出予定のウィルやもう一人の幹部を見失うかもしれない。裏路地の呪術師とやらが転送役の可能性が高そうだし、まだ手は出せそうにないか……!


「パンレー。洗脳されないように俺のコートの胸ポケットに入っておきな。俺のコートもコート神の一部。呪いを受け付けないと思うぜ」


「いいでしょう。ですがここを管理するという呪術師にはくれぐれも気を付けてください」


「ああ!おい城赤、この辺か?」


「そこまで寄れば十分さ。さて、いつもならすぐに転送されるはずだけど……。随分と仕事が遅いようだね、ラルフ管理官?」


「口を慎むがいい赤きカード術師。そこのコート男から信仰の力を感じるのだ。流双と似た力をな……。貴様はいち早く隠れ家に向かい、先ほど人間共に授けた呪術を完成させるがいい」


城赤の呼びかけへの返事が空中から返ってくる。声のする方を見ると、路地の建物3階の壁をすり抜けるようにして1人のおっさんが姿を現す。奴が裏路地の呪術師か!


「例の呪術を彼らに使わせる気?死ぬかもよ」


「貴様たち人間の命などいくらでも手に入る。貴様はカード術師としての役目を果たすのだ」


「ふん。なら俺の転送前に一つだけアドバイスしてやるよ。この男はあんたの手には負える人間じゃない。大人しく俺たち幹部に任せておきなよ。痛い目見たくなければね……」


ラルフと呼ばれた呪術師へのアドバイスを残し、城赤は一瞬で姿を消してしまう。空中でラルフ……裏路地野郎が手を突き出しているから奴の技で飛ばされたんだろう。


「さて。不甲斐ない人間の呪術師に代わり私が尋ねよう。シクレット様を解放するためのカードはどこにある?」


「知るかっ!だが本当にそういうカードがあるっていうなら、そいつは俺のものに違いねーな!主人公が拾い集めるために用意されたドロップアイテムだ!お前らにそのカードは拾わせねーぜ!」


「私の納得できる答えを話す気はないようだな。では仕方あるまい。ここは永久裏十字路!貴様たちが口を割るまでいたぶり続けて……ぐぅっ!?」


空中で戦闘の構えを取ったと思えば、いきなり額を押さえつける裏路地の呪術師。数秒経ってから俺にはその理由が分かった。……パンレーの思考を読む魔法の副作用が発生しているんだ!


「パンレー、お前の魔法か!よしいいぞ!そのま裏路地野郎の弱点やあらゆる恥部や個人情報を全て大声で朗読しろ!きっと奴の動きを止めることができるっ!」


「……だ、ダメです。どういうことですか!?あいつの思考に到達する前に魔法が遮られてしまう!流双姫の信仰が……奴の電子信号を覆い隠しています!」


「流双の信仰だと!?」


「バカめ。喰うがいいっ!」


「な、なんだ!?ぐああぁっ!?」


空中からの降り注ぐ敵のキックを避けようとするが、足が地面から離れなかったことで身動きが取れず回避に失敗してしまう。裏路地野郎は俺の脇腹を蹴りで押し退けて俺の背後側に着地する。更に、尻もちをついた俺のズボンも地面から離れなくなってしまう!


「こ、これは!?俺の靴やズボンが地面にくっついているのか!?」


「くくく、今更気づいたか。裏路地はいわば私のホームグラウンド。私の呪術はなぁ。裏路地でしか使えぬが他に類がないほど高度な技を扱えるのだ。今、貴様が地面から離れられぬのも空間制御によって貴様を地面に固定させてもらった。もう貴様は身動き一つとれんぞ!」


「な、なるほどな。確かに靴もズボンも動かせそうにねえ。……なら要らないなっ!」


「なにっ!?」


俺は地面に両手をつくと、そのまま下半身を固定された衣服から引き抜いた!更に予備コート2着を急ごしらえのパンツとスカートとして着用する。5秒も掛からない早着替えだったおかげで、無防備な状態で攻撃を受けることは避けられたようだ!


「どうだ裏路地野郎!完全コート装備のコート神降臨だ!コート神の俺には呪いが通じないし、コートも俺の一部だから呪いは通じない!パンレーは胸ポケットで守られている!てめえの空間制御のお遊びなんか通じるかよっ!水圧圧縮砲!」


「小癪な。そんなおもちゃが通じると思うかぁっ!」


コートの裏ポケットにあるエクサスターガンで水の魔法弾を撃つ。しかし敵が手を振りかざすと水圧圧縮砲は途中で弾け飛んでしまった。……くっ、こりゃ魔法弾での攻撃は簡単に無力化されちまうな。しかも不用意に武器を出しておくと壊されるかもしれねえし。なるべくエクサスターガンをコートの外に晒さないようにしないと。


ズボンが使用不能な今、俺の手元には裏ポケット内のエクサスターガン一丁しか銃がない。一応、近接武器のハエ叩きもコートの背中側に入れてあるが……。いずれの武器も非売品のレアアイテムだ。こんな裏路地野郎を相手に失うリスクを負う訳にはいかない。


「もう銃をしまうのか。愚かな……。よほど私の呪術が怖いようだな」


「駆け引きって奴だよ。お前が見下したレッド野郎との対戦で培ったのさ。ところでパンレー。心を読む魔法連打で奴に頭痛を与え続けることはできないのか?」


「む、無理……。再使用の負荷が……。あと急加速で吐きそう……」


「思ったほど便利技でもなさそうだな……。よし胸ポケットで休んでな!もっと激しく動き回るから吐くなよっ!」


俺は裏路地野郎に駆け寄り、裸足でのキック攻撃で襲い掛かる。しかし敵も攻撃に対して身構えていたらしく即座に呪術を発動させる。


「喰らいな!主人公キックだ!」


「私に触れることは許さぬぞっ!」


[がきぃん!]


「ぐあぁっ!痛ぇーっ!突き指したぁ……!」


「くくくくっ。建物の建材を拝借したのだ。このように盾にもなるし、武器にもなるという訳だっ!」


[どがしゃあぁん!]


俺のキックを突如出現した鉄筋コンクリートが防ぎ、更に鉄筋コンクリートは突き指の痛みで転げる俺を狙い、杭のように地面に突き刺さった!鼻先を掠めて地面を貫く分厚い建材の塊……。い、今のは俺でもちょっとだけ冷や汗が出たぜ……!


「いい加減にカードの居場所を吐くがいい。次は本当にその顔が潰れることになるぞ……」


「けっ。てめえの腕前じゃあ顔を潰すなんて無理な話だ!俺なら今の一撃でヘッドショット出来てただろうけどな!電圧圧縮砲!」


「ちぃっ。すぐに銃を隠しおって!」


[どかぁっ!]


「うぐっ!水圧分裂砲!」


「ぐおぉっ!?」


俺は懐からエクサスターガンを一瞬だけ取り出し、雷の魔法弾を撃つとともに懐に戻す。しかし裏路地野郎は姿を消し、次の瞬間には背後から俺を蹴り倒しやがった!……俺は倒れる勢いに任せて前転。上下反転している視界の中、広範囲に散らばる水圧分裂砲を撃つことでようやく敵に魔法弾が数発ヒットする。前転が終わり立ち上がる頃には銃はとっくに懐の中だっ!


「ふぅ。色々守りながらの戦いも楽じゃないな」


「ぜぇ、ぜぇ……。くっ。オットーから聞いていたより遥かに厄介な男だ……!あれだけ動き回って息をほとんど乱していないとは。動きながら技名を叫ぶのも正気とは思えぬ……!」


「カード術師との戦いが控えてるんだ。今の内に発音練習って訳さ」


「な、舐めおって……!おいコート神!私はなぁ、オットーから貴様の戦闘スタイルを前情報として得ているのだ!あまり使いたくはなかったが……これから貴様を完封する大技を見せてやろう!」


「大技?させるかよっ!水圧分裂砲!」


再び一瞬だけエクサスターガンを取り出し、広範囲に水の魔法弾を放つ。しかし裏路地野郎は魔法弾が当たる直前に姿を消してしまう。……辺りを見渡すと、背後の通路の遠い位置に奴の姿を発見した!両手を天に掲げて何かをするつもりのようだ!


「視力頼りの貴様になす術はない!永久裏十字路は完全な闇に閉ざされるのだっ!はああぁっ!」


裏路地野郎が叫ぶと、辺りの景色があっという間に暗くなり周囲から光が失われてしまう。こ、これはヤバい!俺の視力をもってしても全く何も見えなくなっちまった!敵も今いる場所も何もかもが全く見えやしない!真っ暗だ!


「これが完全な闇だってのか!?こんな切札を隠し持っていやがったとは!」


「ふっふっふ。裏路地を完全な闇で覆い尽くすこと。それは私にとっても苦肉の策なのだ。裏路地の視覚情報が失われると我が呪術のほとんどが力を失ってしまう。……だがそれでも裏路地というホームグラウンドでは、光のない中で貴様をいたぶることは容易いがな」


「ちっ。そうはいくかよ!大花火圧縮砲!」


「見えたかね?」


[どかっ!]


「ぐっ!ダメだ見えねえ!」


火花の飛び散る大花火圧縮砲を撃ってみたが、一瞬だけ放たれた明かりはすぐに闇で消し去られてしまう。そして側面から奴の蹴りが俺の顔を襲った!キック自体に大した威力はないが、暗闇で喰らうと平衡感覚が狂いそうだ……!


「音もなく顔にキック攻撃……!空中浮遊は今も使えるのか」


「バレてしまったか。だが貴様が防御のために気を張ってる間、私は安全な空中でスタミナを回復できる。今度は貴様が息切れしながら攻撃を防ぐ番という訳だ。ふふふふ……!あるいはカードの居場所を吐くかだが」


「ちっ。水圧圧縮砲!」


俺は正面方向に水の魔法弾を放ち、その後を追うように前方へと駆け出す。……この暗闇は状態異常ではなく裏路地フィールドによる環境!なら裏路地から脱出すれば視界良好になるはずだ!ついでに奴の裏路地でしか使えない呪術も完封できる!


「おかえりコート神よ」


[どかぁっ!]


「ぐぅっ!?し、正面に居るだと!?」


正面からの裏路地野郎のキックが俺の腹部を的確にとらえる。


バカなっ!奴の声は反対方向から聞こえていた。回り込むには十分な距離があったと思ったが。……それに壁探知のために撃った水の魔法弾が当たっていない。十字路の長さ的に、そろそろ壁か外の建物に当たるはずなのに。


「逃げられると思っているのかね?戦いの開始時から逃げ場などない。永久裏十字路には脱出を防ぐための無限ループが敷かれているのだ!当然上下への脱出対策も完璧に」


「隙あり!主人公パンチ!」


[どかぁっ!]


「ぐううぁっ!ぐう……!ゆ、許さん……!」


「ちっ。もう逃げやがったか」


キック後、手を伸ばせば届く位置で語り始める裏路地野郎。隙をついて殴り掛かってみれば案外簡単に攻撃は通った。更に、倒れたところを魔法弾で追撃しようとするが、奴の声の位置が空中辺りに移動する。ちっ、追撃は無理そうだな。


「……フィールドの特性を理解しておらんな?バカ者めっ!」


[どかああぁん!]


「ぐあああぁっ!?」


空中からの声に耳を傾けた瞬間、俺の背中に痛烈な衝撃が走る。あまりにも唐突な攻撃に踏ん張ることすらできずに俺の体は前方へと吹っ飛ばされていく。……背後から水が飛び散ってる。そうか。これは俺がさっき前方に発射した水圧圧縮砲だ!この技っ、使い手になんて重い一撃を喰らわせやがるんだ!


「ぐううぅっ」


「これこそが我が十字路の罠……!闇雲に技を飛ばせば十字路のループでその技が背後から襲い掛かる!くくく。今の吹っ飛びようでは余力はあまりないだろう?」


「ぐっ。俺のタフさを甘く見るなよ。あとは暗闇でまともに動けるようになればお前に負ける要素はねえさ」


「永久裏十字路は多くの技を封じてまで作り出したフィールドだ。そう簡単に攻略されてなるものか。……む?ぬおっ!?」


[どかあぁっ!]


「な、何だ?」


裏路地野郎の声が聞こえていた辺りで破壊音っぽいような音が響き渡る。……土煙が漂っている気がする。誰かが十字路の建物に穴でも開けたのか?


「私の魔法ですよ。雷之 悟」


「あっ、パンレー!お前、動きでの酔いは大丈夫なのか?それに今の魔法は何だ?まともな攻撃技を覚えたのか?」


「胸ポケットに水滴が入り込んで目が覚めたんです。……今の衝撃は魔法で作り出したエネルギー体によるものです」


「エネルギー体だって?」


「先ほど流双姫の信仰に魔法を妨害されたと言いましたよね?だから逆に利用してやりました。場に飽和している信仰エネルギーを防衛に使う魔法があるんです。今、流双姫の信仰はただの防衛システムでしかありません」


「そういえば場に漂っていた気配が消えてるな。エネルギー体ってのは強いのか?」


「エネルギーの塊でしかないので時間稼ぎにしかなりません。流双姫の能力とかは反映されないですからね。エネルギー量が多ければ話は別ですが、この場にある流双の信仰は一部のようですし。……今の内にあの男を倒す方法を試すしかありません」


[どかぁっ!]


「ええい、しつこい敵だ!私の蹴りで消し去るしかあるまい!」


「……あまり時間がなさそうだな。だがこの暗すぎる十字路が厄介なんだ。敵は空中浮遊してやがるし十字路の外には出れないし面倒すぎる」


「敵は全力で対策をしていますからね。……ですがこの闇。お前の中のもう一つの信仰を引き出すのにはもってこいかもしれませんよ」


「もう一つの信仰だって?」


「お前の中にはあまり活用していない信仰があるようです。それはある種の切札。その力を完全に使うには今のフィールドは好都合です。……雷之 悟。今すぐ自身の信仰を捨ててください!」


「おいおい!俺に死ねってのか!?」


「大丈夫ですよ。黒天利が魔法少女になったときのように自身の信仰をシャットアウトするだけです。彼女も勝負の後には元に戻ったでしょう。一時的な仮死状態のようなものです」


「あぁ、あれか。なら状態異常みたいな感じだな。わかったよ」


「雷之 悟としての信仰。コート神としての信仰。それら以外にもう一つ。コートに紐づけされている根深い信仰があるはずです」


そうだ。俺の中にはもう一つの信仰が眠っている。……悟ンジャーブラック。かつては奴を俺自身と同一視しているに過ぎなかった。だが俺がコート神の体を手に入れたときから、ある意味で本当に同一人物となっていたんだ。俺が特星で悟ンジャーブラックになることができるのも体が本物だからだろう。


だが奴の信仰を全面に出すには至らなかった。まだ"雷之 悟の演じる悟ンジャーブラック"の域を抜け出せなかったからだ。俺自身の信仰を捨て去れば、悟ンジャーブラックとしてのポテンシャルを100%引き出すことができるかもしれない……!パンレーはその可能性を見抜いていたんだ……!


「……そしてお前は憧れていたキャラクターの体と信仰をどちらも手にしている。お前ならば、自分を捨ててでもなることができるでしょう!あの悟ンジャーブラックに!」


「俺の体が遠ざかっている。墨での変身の比じゃない。……この体、一旦預けるぜ」


[どかぁっ!]


「ふぅ。まさかあの女の信仰を逆手に取るとは。つまらん小細工をしおって。……だが私に見立てによるとドラゴンの魔法は再使用までに時間が掛かるだろう。土壇場の切札も、わずか数十秒程度の時間稼ぎにしかならなかった訳だ」


「エネルギー体が倒されましたか。しかしラルフ。目の前の男が今までと同一人物だと思っているなら見当違いです。さて隠れなきゃ」


「戯言を。この永久裏十字路を越えて他人と入れ替わるなど不可能っ。カードの在処を吐くまで脱出などできぬわ!」


[ひゅん!]


「なにっ!?背後からの蹴りを」


[ばきぃっ!]


「ぐおおぉっ!?」


裏路地野郎の背後からの蹴りは、俺が体を一歩横に移動させたことで真横を突き抜けていく。そして迫る奴の顔をグーで払い退けると奴は叫びながら俺の後方に吹っ飛んでいく。……おいおい。我が物顔で十字路に寝そべりやがって。あの野郎、ここを自分の家と勘違いしてねーか?


「おい裏路地野郎。さっきから悉く十字路で暴れ回ってるみたいじゃねーか。よくも人様の十字路で好き勝手やってくれたな。罰として身ぐるみ全部剥いでやるぜ!」


「ば、バカな!コート神貴様……!どうしてこの闇の中で私の位置が分かった!?」


「コート神ねぇ。確かに雷之 悟の記憶にも出ていたな。だが俺はちょっと違うぜ。……俺は悟ンジャーブラック。お前のような悪党を潰して回るヒーローさ」


「悟ンジャーだと?わ、訳の分からないことを言いおって!」


「くくくく。俺はこの十字路を知り尽くしているのさ。この十字路は俺のものだからな」


「なにっ!?」


「ふっ。俺の所持品を荒らす輩は寝ていても察知できる。お前に視界を奪われたとしても、俺はヒーローの特性でお前の気配を感じることができるって訳さ」


「理屈はともかく、この十字路で私の居場所がわかるというのか。ちぃっ!」


「おっと!空中浮遊で低みの見物か?」


「なっ」


空中へ逃げようとする裏路地野郎。しかし路地の建物の壁を跳んでいくことで俺は奴の頭上に回り込む。そのまま俺は建物のレンガを一つ外して、裏路地野郎の脳天へと振り下ろした!


[どかあぁっ!]


「ぐっああああぁっ!」


力を込めたレンガでの一撃だったが、敵の頭と体が割れることはなかった。裏路地野郎はそのまま地面に後頭部から激突する。……そうか、この特星という場所では敵はケガをしないんだったな。敵が死なずに動き続ける星。心を痛めずに敵をぶっ潰せるなんて楽園のような世界だ!


「っておい。俺の建物のレンガが外れた!ざけんな!」


[どかぁっ!]


「ぐぁ……!」


地面に叩きつけられた敵の顔面にレンガをぶん投げる。当然、全く視界が見えない中で俺の投げたレンガは奴の顔にめり込んだ。


この一撃で裏路地野郎の意識が途切れたらしく、周囲の空気が一変する。全てを覆い隠していた闇に光が差し始めた。……記憶にある景色とは随分見え方が違う。視界がぼやけているように感じる。雷之 悟の人間離れした視力がなくなっているからだろう。残念でもないが、奴の視力は俺のものではないらしい。別に要らねーけど。


「よっと。終わったぜ。ポケットから出なドラゴン野郎」


「美少女ですよ私。野郎扱いしないでほしいですね。で、何の用ですか?」


「俺の体に刻まれている雷之 悟の記憶。その1つにドラゴンを連れた男の姿があった。奴らから封印解除のカードを奪いたいそうだが……。俺の感じた印象では、お前らのような連携に不慣れなコンビだと足元にも及ばねえだろうぜ。そこでだっ!」


「きゃあああぁっ!?な、何するんですか!?放してください!」


「くくくっ。俺がこのエクサスターガンを使えば記憶や性格を作り替えるくらい訳ないのさ。今からお前を俺たちに従順なドラゴンに仕上げてやるぜ!」


「やーだー!」


[ずばばばぁっ!]


「ぐうっ!?敵かっ!?このっ!」


エクサスターガンの銃口をドラゴン野郎の頭に当てて位置を探っていると、突如背中を何者かに数度切られる。振り向いて銃を撃とうとしたら俺を切った犯人と目が合った!……何だこの男は。どことなく馴染みのあるような気がするこの気配は。俺の記憶じゃねえ。コート神の体に刻まれた記憶が、この男の存在に警告を発してやがる。撃っていいのか……?


「銃を向けて撃たねえとは。随分と警戒心が高いのな。それとも俺様にビビっちまったか?」


「何者だてめー!俺を誰だと思ってやがる!」


「……正志!?どうしてお前が特星に来ているのですか!」


「正志?名前と口ぶりからして地球人か!」


「ほぅ。この俺様の素性を知っていやがるとは。電子界最弱のドラゴンってのはさてはお前のことだな?親族がかつて世話になったそうで。そらよっ!」


「危ねっ!」


[ずががっ!]


正志と呼ばれた男は、俺の手元にあるドラゴンを狙ってダガーを投げつける。とっさに俺はドラゴンを胸ポケットに放り込み、投げダガーを全て腕部分で受けきった。そして出力最小でエクサスターショットを発射する。


……だが数発放たれたエネルギー弾を、奴はリンゴの皮向きのように素早くスライスしてしまう。薄切りにされてしまったエネルギー弾は、奴を引き立てるように美しく周囲を漂っている。


「ちっ。結構速いじゃねーか」


「ふん。どうやら俺の探している男とは別人みてーだな。よく考えればニュースで見た男はスカートじゃなくて長ズボンだったか。水鉄砲でもねえし。けっ、時間の無駄だぜ!」


「待ちやがれっ!」


敵は一歩で背後にある表通りまで飛び退き、どこかへ姿を消してしまう。俺は建物の上まで壁を蹴って登ってみたが、建物の上から見える範囲に奴の姿はなかった。


「逃がしたか……!」


「あの男、すぎ まさは正安や正者の血縁者。現代日本の高校生です。杉野家の血が色濃く出ているのか身体能力に恵まれていましてね。地球では、正者を超えるためにエイプリル事件の文献などを漁っていたんです」


「知るかっ。今すぐ奴を追ってぶっ潰してやりてーが。ちくしょう時間だっ」


「ふーんだ。一信仰でしかないお前がドラゴンの私を洗脳しようとしたんです。悔みに悔やんでこの体とおさらばするんですねっ。がぶっ」


「ちくっとする……。弱っ」


[どさぁっ]


…………瞼を閉じていても光が差すのがわかる。後なんか首元がちくちくする。悟ンジャーブラックの間の記憶は忘れたわけじゃない。多分、パンレーが首元に噛みついているな。


「うんん。目を開けるのも久々な気がする」


「あ、まだ粘りますか!このこのっ」


[げしっげしっ]


「俺だよパンレー。おい顔を蹴るなって……」


「あ、雷之 悟ですか!?お前ー、私を待たせすぎですよ、このーっ」


いてててて。思ったよりも体がダメージを受けてやがる。……いやダメージだけじゃない。パンレーの攻撃が感知できる程度に強くなっているのもあるのか。爪を引っかけてぶら下がるだけでも、爪の感触が微弱ながら痛みとして伝わってくるのがわかる。


「危機を乗り越えたのはいいが、悟ンジャーブラックに完全に身を任せるのは代償がキツイそうだ。危うく仲間を洗脳なんていう邪道に走るところだったぜ。悪かったなパンレー」


「おや。謝るなんてお前らしくもない。憧れの存在を記憶の中だけでも実体験できたからって喜ぶと思っていたんですが」


「俺は根がダークヒーローとは程遠いんだよっ。善意とはいえ、目的のためにお前の人格を書き換えようとしたことは心が痛むのさ。数時間くらい引きずりそうだ」


「そうでしょうね。今日の悟ンジャーブラックを思い返すとそんな気はします。襲われたのは怖かったですが、さっきまでの彼からは原作のゲスさが全然感じられませんでした。……お前はダークヒーローの概念を理解できていないんですよ」


「ま、いつまでも悩む訳にもいかないか。最後に出てきた正志って野郎も気になるところだが……。今は裏路地野郎に話を聞こうぜ。……その前に着替えないと」


「ズボンは十字路の中央の辺りです。私達が今いる建物の下辺りです。暗いけど表通りから見えるかもしれないですね」


ああそうか。今、結構な高さの建物の上に居るんだったな。……悟ンジャーブラックや正志という男。奴らは生身で苦もなくこんな所まで行き来してやがる。ふんっ、恐ろしい連中だぜ。




俺たちは裏路地野郎に水鉄砲を突きつけながら話を聞くことにする。目を覚ました裏路地野郎は状況を察したらしい。抵抗することなく地面に座って俯いている。


「完璧に対策して破れたのだ。もはや私にお前達を倒す術はない」


「そうだぜ。諦めて俺たちの質問に答えな。その後は転送も忘れずにな」


「私から聞かせてください。なぜ流双姫の信仰がこの十字路に集まっていたんですか。まさかお前達、流双姫と手を組むつもりでは」


「ご明察だ。私たちは恐怖の大王一族の中でも"シクレット派"と呼ばれておってな。シクレット様を復活させることが我らの念願なのだ。シクレット様を解き放ちたいという点で、私達はあの女とは利害が一致している。だから手を組んだのだよ」


「バカな真似を!お前達の同胞がどれだけ滅ぼされたか知らないんですか!?」


「知っているさ。しかしシクレット派にとって一族の壊滅は好機でもあったのだ。……貴様らドラゴンとの戦いに敗れた後、一族の権力者たちはシクレット様の復活を拒んだのさ。シクレット様が封印されている限り、奴らは一族を統率し続けることができるからな」


「へえー。宇宙人も権力争いってするんだな。漫画とかだとよく見るけど。じゃあ復活を断念したお前は負け犬野郎ってことか」


「昔はな!だが今は違う!一族が滅ぼされたことでシクレット様復活を支持する仲間を得たのだっ!……流双など一時的に計画を手伝わせているに過ぎぬ。シクレット様が復活すれば奴を真っ先に葬り去る!あの女がいかなる策を持ち合わせていようとも所詮人間!シクレット様に敵うはずがないのだ!」


「流双は確か、より強力な呪術を求めているんだっけか。大ボス野郎から呪術を奪えば倒せるとでも思っているのかもしれねーな」


「この十字路の信仰も、流双姫との協力で得たものですか?」


「ああそうだ。貴様らが信仰に関わりがあると聞いて流双に用意させた。私はこれでも人間共の技術や制度に知見があるから役立てられると思ったのだが……。活用するには時間がなさ過ぎた」


「有利な仕掛けのある状態で、俺たちを呼び寄せるつもりだったってことか?へっ、悠長な奴らだぜ。居場所がわかってるなら攻めりゃいいのに」


「貴様の部屋が裏路地であれば強硬策も取れたのだ。だがそう都合よくはいかぬ。一応切札であった夢呪術師も破れ、もはやカード術師に任せた方がマシという惨状に陥っている」


「夢呪術師?戦いましたっけ?」


「あ、パンレーは知らないのか。アミュリー神社に着いた日、夢の中で奴らの仲間が襲ってきたんだ。ボケ役から色々聞いたのもそのときだ。……切札野郎、信仰のこと知らなかったけどな」


「奴はオットーと共に配備したからな。オットーの報告を聞いてから配備するべきだったか。結果を急ぎ過ぎた。……しかし酷な話だ。ピンポイントで呪術が効かぬ男がターゲットになっておるのだ。これで本当に封印を解くカードの行方を知らなぬとなった日には……!ああ、なんと暗い先行きだ」


「雷之 悟。他に聞くことはありますか?」


「おい。カード術師達の洗脳を解き方を教えろ!」


「あれは電気信号を誤認させるだけの単純な呪いだ。意識を失うくらいの衝撃を頭部にぶつければ簡単に消し去れるだろう。……ああ、裏路地にまで連れて来れるなら私の呪術で直してやってもいい。有益な情報があればの話だがな。いたたっ!?」


「ここまでの話で嘘は言ってなさそうです」


「全員ぶっ飛ばせばいいんだな!ならもう聞くことはない!送ってくれ!」


「人間のカード術師共に命運を託すことになるとは……。く、仕方あるまい。人間同士であれば心当たりに行きつく可能性もあるというもの!行け、幹部たちの待つアジトへ!はああぁっ!」


俺に水鉄砲を突き立てられながら、路地裏野郎は目を閉じて叫び始める。すると周囲の空気が徐々に変化していく。一見、十字路に変化はなさそうだが場所が移動したようだ。……正面にある会館のような建物からは悪の組織らしい怪しい雰囲気が漂っている。ボロいというよりは年季が入ってるって感じで苔むしていやがる。


いよいよカード術師達との戦いだ!全員ヘッドショットで呪いから解放してやるぜ!

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