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変な星でツッコミ生活!?  作者: 神離人
本編:???days特星解明クライマックスストーリー編(part01)
74/85

二話-003日目 3つの事件

@???視点@


ふっ。ここが特星に設置されている恐怖の大王一族の隠れ家か……。今、この隠れ家には洗脳された幹部3人が集められている筈だ。恐怖の大王一族の幹部3人。俺はその3人の正体を既に知っている。きっとあいつは俺の登場に驚くことだろう。


「お邪魔するぜ」


「来ましたね。……あ、あなたが!?」


「おっとウィル。迂闊なことは喋らないことだ……。この場は既に"物語の力"の渦中にある。俺たちのやり取りはどこかで見られているって訳さ」


俺が忠告するとみんな口を閉ざしてしまう。この場にいる幹部は白・黒・赤……それぞれ違う色のローブを着た3人だ。ウィルが白、格好つけてる男が赤、そして俺の顔を見るなり後ろを向いてしまった黒。……奴が黒のカード術師。再び俺のわがままを押し付ける相手だ……!


「会うのは初めてだよな。お前が黒のカード術師か」


「…………」


「お前には今まで苦労を掛けた。感謝しているんだ本当に。ただ今一度、最後の俺のわがままに付き合ってほしい」


「……最後だと?」


「ああ最後だ。俺はこの事件で悟と戦い、結果に関係なくこの舞台から降りる。俺が居なくなればお前は自由に行動できる筈さ。そうだろ?」


「ああ。お前の言葉が本当ならな」


「だけど1つ問題がある。お前の持つ"黒のカード術師"の肩書きだ。俺、そういうカッコいいものに目がないんだよ。俺の最後を飾る勝負には欠かせないって訳だ。……だから悪いんだけど、"黒のカード術師"の肩書きと"幹部の座"を譲ってもらう」


「そ、そんな!いきなり現れて勝手ですよ!」


「悪いなウィル。もう既に決定事項なんだ。話を通すべき奴に話を通してある。……例えば、恐怖の大王一族の大ボス、シクレットアングル モーレ。奴は既にこの件を了承している」


「……でしょうね。あなたにとっては私達もあの方も同程度の存在。どれだけ戦闘能力が上回っていたところで、戦う気のないあなたに危害を加えることはできない」


「特別待遇は嫌いじゃないんでね」


シクレットは俺が面会に来てあたふたしていた。封印されているとはいえ俺相手にあたふただぜ。威張れる立場でもねーってのに、俺はあのときちょっと感動しちまった。悟よりは利口なつもりだが、俺の本質はきっと小物思考の悪ガキなのだろう。……だから、最後は小物らしくカッコいい肩書きを見せつけてやりたいのさ!貰い物だろうが、この俺こそが黒のカード術師だっ!


「称号も幹部の座も……好きにすればいいさ。だがお前が退場した後は俺が出る。どれだけ不自然な形になろうと遠慮はしない。俺はもう機会を逃すつもりはないんでね」


「ふっ。俺の意思を継げるのはお前だけだと考えていたが……。お前は俺を超える器かもな。俺が居なくなった後は名に恥じない活躍を期待しておくぜ」


「ああ。……俺はもう行く。もはや俺は幹部でもカード術師でもないからな。……あばよ新しい黒のカード術師。いずれお前の元に俺の名を届けてみせるさ」


俺の元に名を届ける……か。以前ならば悟を追いまわせば可能だったかもしれない。だが今ではパンレーってドラゴンが悟に付きっきりという話だ。……今や俺に名を届けることは容易いことじゃない。果たしてお前にその言葉を果たすだけの活躍ができるかな?


「彼は出ていったようですね。……ああそうだ。恐怖の大王一族幹部であることを示す笑い方を教えておきます。いきますよー?ふっ……ふっ……ふっ……!さあお二人もどうぞ」


「ふっ……ふっ……ふっ……!」


「…………」


「……どうしました?」


「ああいや。……すまないがパスさせてもらう。俺はお前達と違って洗脳されていないからな……。慣れない笑い方には抵抗があるのさ。ははは……」


「「…………」」


くっ。室内に気まずい雰囲気が流れている……!だが俺のセンスには似つかわしくない笑い方だ。どうせ悟に名乗る為だけに得た幹部の役職。幹部同士のチームワークを乱してでも、俺は俺の信じる最高にカッコいい選択をしていくとしよう!お前との勝負……楽しみに待っているぜ、悟っ!




@悟視点@


俺とパンレーは再びアミュリー神社に到着した。昨日は雑魚ベーの奴がいなかったからな。几骨さん……もとい記述師タナレーからの依頼は今日こそ達成してみせるぜ!確か、テーナ関連のことで雑魚ベーと話し合えばいいはずだ。


「あれ。ねえ雷之 悟、昨日あんなお店ありましたっけ?」


「ん?……出店か?この時期に出店なんて珍しいな」


パンレーに呼び止められて神社の隅を見ると、ひっそりとした位置に出店が開かれており、雨紅茶屋と書かれた看板が立てかけられている。……あの小さい女児と雨紅茶のフレーズには覚えがある。


「お前いつぞやの雨紅茶神じゃないか。久しぶりだな」


「いらっしゃいませぇ。梅雨で作った魔法の雨紅茶はいかがー」


「台にやる気なくぶら下がってますね。この子供はお前の知り合いですか?」


「前に会ったことあるんだ。メニアリィ レインティ。雨紅茶の神様であり魔法使いでもあるよくわからん奴だ。それと特星ランキングで印納さんの次くらいに載ってたかな」


「神様ですか?その割に信仰を全く活用していなさそうですけど。信仰量も勇者社に居た一般人と大差ありませんし」


「あー、特星での神様は公務員の一種みたいなもんだからな。……ボケ役、アミュリー、姫卸の婆さん、メニアリィの4人が特星の神だ。種族はほとんど皆人間だけどな。俺のようなコート神とは根本が違うってのが今ではよくわかるぜ」


思えば特星の神たちと初めて出会ったのは、俺がまだ信仰のことすらよくわかっていない時期だ。だが今の俺は信仰の流れがそれとなくわかる。信仰で動く自分の体をよく知っている。……思ったよりも心身共に人間離れしているのかもしれないな。


「で、メニアリィはどうして屋台出してんだ?」


「やーちょっと特星内を荒らされちゃって。一刻も早く、恐怖の大王一族を退けてほしくてお願いに来たんだ。お礼はこの安物味の雨紅茶でどうかな?」


「品質改良してねーのか?」


「まあまあ。話だけでも聞いておくべきですよ。彼女は特星ランキングとやらで印納に次ぐ順位なのでしょう?ならば只者ではないということです」


「ウィルの一件もあるしな。話を聞くぜメニアリィ。……あとできればパンレーも奴らのことを何か話してほしいんだが」


「無理ですって。あいつら日本語使いませんもん。独自言語、呪術によるフィーリング、そして英語……!日本育ちのドラゴンには手に負えない相手です。……かつて私が心を読んだとき、奴らは難しい言葉ばかりを並べました。以降、私が奴らの心を読んだことは一度もありません」


「お、気が合うな!俺も日本語オンリーだ!高性能翻訳飴の恩恵を存分に楽しもうぜ!」


「おや話が分かりますね!いえーい新技術最高ー!」


「怠け者なペアだねー。じゃあ私の知ってることを話そうかな……。天利のコントロールするこの物語世界にイレギュラーな存在が入り込んでるの」


「ん?天利の物語世界だって?」


「…………ええっ?何をバカなことを……」


メニアリィの急な話題に意気投合していた俺とパンレーの動きが止まる。……さっきまで恐怖の大王一族の話だったよな?物語世界……天利が特星の物語を特殊能力で云々とかそういう感じか?地球からの侵入を防ぐために色々やってるって話を聞いたことあるような。


「特星全体に作用してるっていう物語の特殊能力の話か?」


「それじゃないね」


「ああー。では特星の初期段階の話ですね。星の物語を操作して、短期間で原住民や文化をいくつも作り出す計画を立てていました。地球で活動していたときのことだから私も知っています。そのことですよねメニアリィ?」


「ううん。物語世界は天利が操る物語の適応範囲全域のこと。私達が理論上行き来できる全て……異世界、電子界、非現実世界なども含めた全てだよ」


「全てだと?特殊能力にしては強すぎないか!?神かなんかかあいつは!」


「コート神なのですから、神はお前ですよ」


「物語の力は、物語を操る特殊能力とはまた別物なんだよ。端的に言えば、魅異が天利に貸しているのが物語を操る力。物語世界を好き勝手にすることができる。……天利はこの力を用いて、デフォルトで用意されていた特星世界を改変することで、物語世界の全容を決定したんだ」


「ゲームのエディット機能を世界規模でやってる感じか」


「メニアリィ。この際なのでツッコミどころは総スルーして聞きますが……。お前が物語世界について明かす理由がわかりません。私達に頼みごとをするにしても情報過多。お前の目的は一体何なんですか?」


「私の動機ねー。天利が私達を見ているから……かな。天利はよく"@悟視点@"で物語を読んでいるからね。その最中に予定外の私が登場!悟と天利の最終決戦の答えを早々に明かしてしまう!……とまあ、これが私の目的の1つかな。ネタバレしたいじゃん?」


「うん?……あっ!?お前さては、天利が俺に解き明かさせようとした謎を全部話したな!この世界の秘密……。そして天利が俺を物語の能力で追い続けていたという事実!それらが天利との最終決戦で、俺が探し求めるはずだったものか!?」


「ごめんねー。私も2人の最終決戦に水を差すのは本意じゃないんだけど。……天利に慌てて欲しい。天利に驚いて欲しい。っていう悪戯心を満たす為には他に方法がなかったんだ。……悪意や攻撃じゃなくて好奇心に近いことなの。だから許してね?」


「ええ……。何なんだよお前……」


「私はメニアリィ レインティ。私の正体は……天利唯一の親友だよ。中身だけね。名前と姿形は登場キャラクターの毬 記紀弥に使われちゃって。今、私は本名を名乗れないんだよねー」


「えっ。じゃあお前は本来、毬 記紀弥なんですか?」


「私のイメージ元がそうだからねー。私は天利がイメージする本来の私……。記紀弥は、私の姿形にいい感じの親友像を取り入れた上位互換ってところだね。ふっふっふ、ささやかな悪戯でスキンシップする私の方が可愛げがあると思わない?」


こいつが本来の記紀弥だと?イメージ元ってことは、記紀弥のオリジナルが存在するってことか。こりゃまるで信仰生物とその元となった人間の関係が、まんま俺達にあてはめられたような気分だぜ。


少し整理してみよう。まず天利と"親友の記紀弥"が本来は存在しているわけだ。……だが物語世界において、"親友の記紀弥"の姿形は"俺たちの知る記紀弥"が使っている。だが中身は別物。天利の"理想の親友像"こそが俺たちの知る記紀弥の中身なわけだ。……そして"親友の記紀弥"の中身はメニアリィに宿っている。だがこれは本物じゃない。天利のイメージする"親友の記紀弥"を再現したそっくりさんだ。


やっぱり"親友の記紀弥"と"俺達の知る記紀弥"は信仰生物的な関係に近い。"信仰を集める人間"とそれによって生み出される"信仰生物"によく似通っている!これは偶然か?今の俺には、メニアリィの話が信じられないくらいよく理解できる……!常識的にはあり得ない世界観が身近に感じられる!これが主人公補正か!


「だが待てよ。この世界の真実を話した目的の1つがネタバレだとしてだ。他にもなんか目的がありそうな口ぶりだよな。他に何の目的があるんだメニアリィ!」


「うん。実は私、天利があなたの物語を読む前にやることがあってね。物語が確定する前に、その事実を書き換える役目を任されているの。そして私が書き換えた物語は現実に反映される……。未来を見て、未来の物語を書き換える感じなんだけどさ」


「ふーん。強くね?」


「問題は物語世界の外なんだよねー。……外は天利の故郷世界。物語世界に侵入する術がない人々で満ちているらしいよ。だけど故郷世界以外の世界から稀に、物語世界に侵入できる人がやってくる場合があってね。その人たちを私はイレギュラーと呼んでいるんだ」


「「イレギュラー?」」


「物語に縛られる必要のない人たち。言っちゃえば魅異の客人だね。無条件で事件に参加できる上に参加陣営や役職も選択自由。私も天利も手を焼いてるよ」


「叩き出せばいいんじゃないか?」


「物語的に叩き出す理由がないとできないね。敵に倒させるとしてもイレギュラーだけを狙う相応の理由が要るし。物語の中で排除するきっかけがないとどうしようもないんだ。……あと根本的に倒せない人もいるけどね」


「そのイレギュラーとやらが、お前の目的に関係しているという訳ですね。物語世界の真実を話してまで果たしたい目的……。それは一体何なのですか?」


「イレギュラーを物語世界から叩き出してほしいの。さっきも言ったけど、イレギュラーを追い出すには相応の理由が要るからさ。物語世界の真実を話さないと頼みようがないんだよね。……イレギュラーが減れば私や天利の負担が減るはずだよ」


「負担があるのか。物語の力ってのもそこまで万能じゃないってことか」


「イレギュラーは2人。片方はとんでもなくヤバいよ。……実は今回、イレギュラーの1人が敵幹部に立候補しちゃってね。物語上、無茶をする羽目になったんだ」


「ヤバい方ですか?」


「ヤバくない方だね。彼は敵幹部として悟と最後の戦いをするつもりだよ。でも物語世界から出ていくかどうかは答えてくれなかった。居座るつもりなら追い出さなきゃ」


「別に住む場所なんていくらでも余ってるだろ。共存できないのか?」


「そのイレギュラーの人は訳アリでね。その人が居るだけで、どうしても共存できない人が1人出ちゃうんだ。私が記紀弥の名を自称できないようにね。唯一、魅異が手を貸してくれれば共存できなくはないけど……。必要最低限のことしか手伝わないからなぁ」


イレギュラーを取るか共存できない奴を取るかで、共存できない奴を取るってわけだな。イレギュラーってのは別世界から来たって話だ。物語世界を追い出されても帰る場所があるかもしれない。何で共存できないかが気になるところだな。


「もう1人がイレギュラーと共存できない理由はなんだ?」


「物語上不都合が生じて、最悪この物語世界が成り立たなくなるかもしれないの。魅異さえ手を貸せばどうにかできるけど。望み薄だよねぇ」


「イレギュラーは誰か教えてもらえますか」


「ごめんね。ここに来る前に"@???視点@"って感じで正体隠しちゃったから教えられないよ。ネタバレしたら私の苦労が報われないもん。……あ、でも悟の知り合いの誰かだよ。幹部たちの実力はあまり大差ないからよく考えてね。あと幹部には白・黒・赤がいるけど黒のカード術師師がイレギュラーだよ」


「ヒント早いな!?」


「幹部で判明しているのが白のカード術師ウィルですね。メニアリィ。そこまでヒントを開示するということは推理できるということですね?」


「え?ううん。無理だと思うけど」


ウィルが白のカード術師か。だがウィルが白のイメージカラーを掲げる印象はない。しいていうなら剣の刃が白と言えなくもないくらいだ。……実力差がないってとこからウィルの強さに近い奴を考える手もあるが。ウィルの強さは平均よりやや上。常識離れしていない。大差ない実力って特星居住者の過半数が当てはまる気がする。……そういえば鏡野郎はまともな奴を攫うと言ってた気がするな。ウィルはまともだ。ならば赤や黒もまともな奴が幹部と言えるか。いやでもイレギュラーはまともじゃなくても介入できるらしいし……。


「おいメニアリィ。全然絞り込める気がしないんだけど。これはまさか推理できない不具合が隠されているんじゃねーか?」


「悟ーっ。私が無理だっていうのを聞いてから推理したでしょ。私にはあなたの物語が見えている。自分は誤魔化せても私の目は誤魔化せないよ!」


「うっ。わ、わかったよ。イレギュラーって奴は俺に任せろ。元の世界に逃げ帰りたくなるくらいボコボコにぶっ倒してやるぜ!」


「あんまり無茶はしないでねー。じゃあ私は用件を伝えたから帰るよ。あ、最後に……。天利見て見てー!ほら上側に書いてあるけど"003日目"だよっ!"0"が数字の前に2つもある!これじゃあ3桁日いかずに最終決戦なんて見栄え悪いよね!私がつまんない勝負をリセットしておいたから、もう一度最終決戦のイベントを再準備しておくんだよー!ばいばーい!」


メニアリィは手を振りながら姿を消してしまう。……メニアリィの奴は天利のついでに俺達に用件を伝えに来たのか?話の半分くらいは俺たちに話してなかったように思えるぜ。


「前に会ったときとはまるで別人だな……。メニアリィめ。魔法の雨紅茶を作るだけのただの子供のフリして、実は特星の何かしらを裏から操っていたわけか」


「物語の力ですか。魅異から雷之 天利に与えられたという力……。地球にいた頃、神離 魅異は何人かの子供を集めて力を鍛えていました。対して天利には無条件で力を貸している。これらの違いに何か意味はあるのでしょうか」


「魅異か。あいつに関する話も別人のようだったな。アルテの力を置いておくために闇の世界を作ったとか。どうにも魅異が必要に迫られてる姿は想像できないんだよ。……パンレー。お前の気にしてることも大した意味はない気がするぜ。魅異が天利のストーリーに関わるとは思えない。魅異のことは気にせずに今は恐怖の大王一族の幹部を倒そう!」


「随分と勘頼りですね、お前」


「まあな。それより見ろよパンレー。目的の人物がお出ましだぜ……!」


奥に見える神社の縁側に雑魚ベーがやってくる。昨日は外出していたようで会えなかったがようやく見つけたぜ。几骨さんのメッセージを伝えるときだ!




「テーナさんが帝国に!?」


テーナが帝国に居る事を伝えると雑魚ベーは血相を変える。地球から帰還して以降、神社に来る度に特星本部にいるテーナに会えないことを話していたからな。心配なんだろう。まあなんにせよ几骨さんからの伝言は伝えた!これで依頼達成だっ!


「運がいいな雑魚ベー。今の帝国のトップはアルテだ。奴はかつてこの神社に住んでいた仲間……。お前がテーナと会いたいと言えば拒みはしないだろうぜ」


「へえー。帝国のトップがこんな孤島の神社に住んでいたんですね。毬の島でしたっけ。雑魚ベー、お前は地球で心を読んだ感じだと生粋の女児好きだそうですが……」


「アルテも似たような年齢だな。昨日会った雨双よりも小さい奴だがヤバいくらい強い。もしもアルテが敵に回れば再会は絶望的だろうな」


「不安になることを言わないでくださいよぉっ!……でも引っかかる点もあるんです。テーナさんは地球で私に会おうとしていましたよねぇ?アルテさんに保護された今、テーナさんは私に会うことは難しくない筈なんです。ですが一向にその気配がありませんよぉっ!」


言われてみればそうだな。アルテならば雑魚ベーやテーナをワープさせるのは容易い。テーナに頼まれたら多分断りはしないだろう。……まあ、テーナが帝国に向かったのは最近のことだ。まだ雑魚ベーに会いたいことを伝えてないのかもな。


「それに最近、帝国行きの船が出港停止になっているらしいですよぉっ!悟さんから伝言を聞いて思ったんです!何者かが私とテーナさんの再会を阻害しているのではありませんかねぇ?」


「あ、帝国に船が辿り着けないって話なら俺も聞いたぜ。几骨さんからな。航行の邪魔をしてるのはまさかアルテなのか?」


「あ、アルテさんが……!?いえ、私達とアルテさんは仲間です!邪魔される理由はありませんよぉっ!これはもしや、テーナさんが私と会うことを拒んでいるのかも……」


「テーナはお前を連れ去って結婚までしようとしたんだぜ?希求と同じタイプさ。憧れのお前に会いたくて仕方ないはずだ。帝国にさえ行けばどうにでもなるさ」


「そうですかねぇ……。パンレーさんは何か知りませんか?電子界という場所でテーナさんと共に過ごしていたんでしょう?」


「ふむ。テーナがお前を好いているのは事実です。ですが信仰生物はコピー元が存在するという特有の悩みがあります。そして信仰の性質上、姿形や細胞ですら他人の手に委ねられている。人間以上に常に激しく変化し続けている生き物であると言えるでしょうね」


「変化ですか。……雨双さんから聞いた話では、テーナさんは不変の愛にこだわっていると聞きました。何か関係があるのですかねぇ?」


「うーん。私からお前に話せることはありませんね。……ただテーナの心は他の信仰生物よりもジレンマが多いように思います。彼女はきっと、何かを得るために何かを捨てることになる。不変の心が揺らいだときにテーナと言葉を交わしてあげるといいかもしれません」


「わ、わかりましたよぉっ!帝国への出港停止が解除されたらテーナさんに会いに行こうと思います!ただ出航解除時期が未定らしいのが気になりますねぇ」


帝国への出港停止か。船が帝国に辿り着けないのは十中八九アルテの仕業だと思う。他の奴が帝国への出航をいくら妨害しようがアルテがいれば無力化されてしまうからな。……だが帝国に女子小学生を呼び集めているはずのアルテがなぜ帝国への移動の妨げになるようなことをするんだ?御衣かテーナか恐怖の大王一族……あるいはそれ以外。一気に色々起こりすぎて何が原因か見当もつかないな。




うううっ。なんか寝苦しいな……。特星でこんなに寝苦しいなんて何か起こってるのか……?くっ、眠気がどんどん醒めてきやがった。


「……って、なんだここは?」


まるで暗黒に包まれているかのようなぼやけた空。目の前には悪の親玉がいそうな不気味な城。特星でもここまで怪しい空間はそうそうないだろう。……ってか、俺はアミュリー神社で寝ていた筈なのにどうしてこんな所に?


「幹部を攻撃した愚か者はお前だな。くくく。夢の居心地はどうかな」


「騎士の鎧が喋った!?み、見たところ中身は詰まってなさそうだが。幽霊か?」


「呪術によって体を捨てたのだよ。俺は恐怖の大王一族の一人……!夢呪術師ダウン!ダウン ハイアングル モーレだ!夢を通しての呪術により現実では実現不可能な責め苦を与えることが我が使命」


「夢呪術師!?お前も恐怖の大王一族なのか。役柄の割にやり方がえげつないっていうか夢も希望もなさそうだけど。ウィルを撃退した敵討ちってところか」


「そうだ。洗脳して早々に幹部がやられたとあれば我が人事の名折れよ。貴様らの星で最も影響力のある勇者の肩書き。かつてその肩書きを手にしていた彼女を手堅く手駒にしたことで、貴様らは我が一族の恐ろしさを垣間見たはずだ」


いやまあ。影響力があるのは勇者社社長の魅異個人だと思うけどな。だが手堅く人間を洗脳できるのは確かに恐怖だ。特星中の人間が乱雑に洗脳されていけば、特星は間違いなく恐怖の大王一族の手中に落ちてしまうだろうな。今のところ狙った相手だけを洗脳してそうだが……。


「って、現勇者の魅異は狙わなかったのか」


「あれはとても洗脳の通じる相手ではない。それ以上に、常識のない人間など幹部に相応しくない。まともで従順な人間ほどよいのだ。……さて。貴様には罰を受けてもらおうか。二度と眠れなくなるような悪夢をその精神に刻み付けてやろう!闇夢のダークコントロール!」


「うおっ!?」


俺の体にまとわりつくように闇が這い出てくる!これは回避できるような技じゃないな。だが俺の体に変化はない。一体どういう技なんだ!?


「くくく。指一本動かせまい。この呪術は夢の主を一切行動不能にするのだ。夢限定といえば弱そうに聞こえるかもしれないが利点もある。干渉する脳内信号が限定される分、少ない負担で色々できるのだ!さあ、まずは両手で自分の首でも絞めてもらおうかっ!」


「へっ、誰がするもんか!」


「……なんだと?なぜ喋れる!?いや、というか貴様。どうして動いているんだっ!?」


「残念だったな!呪い頼みのお前の技なんか俺には通じないぜ!俺の信仰でできた体は呪いを受け付けない!体内の電気信号ひとつ動かせないのさ!」


「バカな!?信仰でできた体だなんて……!貴様は信仰生物だとでもいうのか!?」


「コート神様だよっ!水圧圧縮砲!」


[どかああぁん!]


「ぐおぉっ!?」


水の魔法弾はまっすぐ鎧野郎に向かって飛んでいき、敵の胴部分を大きくへこませた。ダウンは膝をつくと顔のない鎧姿で多分怒りをあらわにする。


「貴様、夢の中でよくもこの俺を傷つけたなぁっ!も、もう許さん!呪いが通じないくらいでいい気になるなよ!俺が貴様の夢に介入していることを忘れたか!夢を通じての攻撃ならば無効化できまい!崩壊のダウンホール!」


「こ、これは!?」


俺の足元が崩れ始めて体を徐々に飲み込んでいく。城や周囲の景色も沈んでいくが、ダウンの足元だけは崩れることなく地上に残り続けている。


「夢の底に沈んでしまえば意識を取り戻すことは難しい!そして貴様が目覚めなければこちらのもの!貴様が弱った後に夢を操って痛め続けるまでだ!」


「……だってよ。あと少し遅ければ痛い目に遭ってたぜ。遅かったなボケ役!」


「な、なにっ?」


「くくく。いやー悪いな。夢に干渉するやつが俺のように清い心を持つかどうかを探ってたんだ。だがこりゃダメだ。心も才能も足りてないね!」


ダウンの背後に浮いているボケ役が、呆れたように1度手を叩く。すると周囲の景色は一瞬で青空の下の草原へと切り替わった!沈んでいたはずの地面はいつの間にか均一な高さに整えられている。景色の切り替えと同時に、ボケ役は俺の隣に並んだ。


「コートの男が2人!?一体何が起こっている!?そ、それに貴様も夢に干渉できるのか!?」


「俺は戦隊 黒悟。俺も夢に干渉できるってのはちょっと違うな……。最初からこの夢に干渉しているのは俺だけだ!お前はツッコミ役の夢を操っていたんじゃない。夢を操っているという夢を、俺に見せられていたに過ぎねーのさっ!」


「そんな筈はない!見ていろこんな夢など!染夢のビジョンコントロール!」


「……おおー。本当に何も起こらないな。全てはボケ役が引き起こした夢だったのか」


「考えて見りゃ当然の話だ。ツッコミ役には呪いが効かないのに呪術で夢に介入できる訳がない。夢は本来脳で発生するものだからな。本当は無理なことを夢を操る特殊能力で再現してやったのさ。俺にとって敵を倒すのにこれ以上の場はないんでね。……ダウン。夢を悪用して特星の住人を傷つけるつもりらしいがそうはいくか!このツッコミ役の夢でお前の力を断ってやる!」


「ぐっ。この勝負、俺に勝ち目はないのだろうな。しかし所詮、夢は夢。夢の中で俺を殺したところで現実で死ぬわけではない。体を持つお前たちは心身に支障を生じるだろうが俺は違う!夢で脳が壊れることも心臓が止まることもない!脳も心臓も持ち合わせていないのだからな!俺は夢術師だっ!夢で人を裁くことはあっても夢で俺を裁けやしないっ!」


「安心しな。殺しみたいな夢のない倒し方はしねーよ。不朽の無敵マイホーム!」


ダウンの周囲の空間や足元の草原がやつを飲み込んでいく!鎧の周りは隙間なく埋め尽くされていき、姿形を変えて一軒の家となった!だがこの家、扉や窓に隙間らしきものが見当たらないぜ。完全封鎖されていやがる。


「奴は夢で完全に覆った。ツッコミ役の信仰の体によって作られた夢だ。もはや呪術の類で突破することは不可能。奴に脱出の機会が与えられるのは特星への敵意を失ったときだけさ」


「なるほど。倒すんじゃなくて俺の夢に捕らえておこうってんだな。だけど俺が目覚めたときに解除されるんじゃないか?」


「夢は目が覚めれば全て消える訳じゃない。現実の情報の方が大きくて見失うだけなのさ。それに夢は細胞一個にも満たない程の概念サイズの情報だ。ツッコミ役の中にいくらでもストックすることができる。まあ、どうしても嫌っていうなら信仰生物を見つけたときに押し付けるけど」


ああそうか。今の奴が呪術を使うからには信仰生物の夢に閉じ込めなきゃ無力化できないのか。別に減るものでもなさそうだし俺の夢に閉じ込めておいてもいいかな。それに黒天利やテーナは悪用するかもしれないし。


「俺の夢でいいよ。ここが一番安全だ」


「いや助かるよ。今は黒天利もテーナも居ないからな……。断られても密かにツッコミ役の夢に入れておくつもりだったんだ。ふっふっふ悪かったな」


「うん?テーナはともかく黒天利も居ないのか?」


「あ、やべ。…………まっいいか。ここだけの話なんだけどよ。特星本部長の不在中に黒天利と瞑宰県テレビ局長を連れ去られちまったんだ」


「えええっ!?御衣が居ないったってお前や校長が居るだろ!それに黒天利も局長もついこの間まで地球に住んでたような奴らだぜ。どこの誰が連れ去るってんだよ?」


「現在、特星一の悪の巣窟と言われている秘密組織……ぱっ狐&ゲージ連合。奴らが黒天利と瞑宰県テレビ局長を連れ去っちまった」


「げ、ゲージだぁ!?あんな最弱クラスのネコに一本喰わされたのか!?ボケ役の夢を操る能力を使えばいとも容易く取り返せるはずだろ!」


「それがよー。特星本部としては看過できないから奪還作戦を行ったんだよ。俺と校長と姫卸の3人で。まさか戦闘で手も足も出ないとは思わなかったぜ」


「う、嘘だあ」


ボケ役の夢を操る能力。校長や姫卸婆さんの波動を操る能力。どちらも俺では太刀打ちできなさそうな程に強力で万能な特殊能力だ。つーか姫卸に至っては合計4つの特殊能力を操る校長の上位種みたいな婆さんの筈だろ。一体何をどうやったら負けるんだ……?


「まさか特星本部の手に負えないほどの人員が要るとか?」


「ぱっ狐&ゲージ連合は少数精鋭だ。組織規模で言えばレッドカード団の方が大きい。……だが奴らの戦闘能力はどの組織よりも危険すぎる。奪還作戦では、開幕直後に地球にある火山の噴火口に落とされかけたぜ」


「えっ。殺し合いでもやってたのかお前ら」


「黒天利の助言だ。元々奴らはやりすぎる面はあったものの特星のやり方から乖離する程じゃなかった。だが奪還作戦では黒天利が奴ら側について入れ知恵したんだ。地球流の戦い方って奴をな。加えて、舞台による特殊能力で俺達の特殊能力は大きく制限された」


「黒天利の舞台か。あれは準備期間さえあれば、特殊能力の効力や発動さえも完全封殺することができるからな。急ごしらえの舞台でも万能能力を一部封じることができるって訳か」


「ああ。しかも向こうはテレポーターに空間移動の能力者。特星外に移動させるだけで死人を出せるような奴らだ。元が動物連中だからか殺しへの罪悪感も薄い。いつもの事件のノリで手を出すには危険すぎる。だから、この話は特星本部からの発表がまだ行われていないんだ」


ゲージの空間を操る能力と、ぱっ狐とかいう奴のテレポート能力だな。地球の危険地帯は勿論のことだが宇宙に飛ばされても容易く死にそうだ。……気がかりなのは黒天利だな。あいつは地球でも命を奪うような技を平気で使用していた。コピー元が天利とは言え、奴には人間の精神性がそこまでないのかもしれない。


「ゲージたちの連合はどうして黒天利を連れ去ったんだ?それともまさかテレビ局長狙いとか?」


「わからねー。最悪の場合だとアルテが絡んでくる可能性もあるかもな。御衣が帝国で消息を絶ってる間に起きたことだし。ゲージは帝国にいるドラゴンの弟子だし」


特星本部長の御衣の消息不明と繋がってる可能性もあるのか。帝国にいるドラゴンってのは皿々のことだな。……2人は帝国にも地球にも居たことある点が共通している。そういう意味では遭遇確率は他よりも高そうではあるが。直接面識がある素振りはなかったような。……あっ。


「……まさかパンレーか?」


「え。それってツッコミ役の最近連れてるドラゴンだろ。奴が黒幕なのか?」


「いやまさか。パンレーが特星にやってきてまだ3日目だぜ?特星の内情もよく知らないのに特星本部から黒天利たちを連れ去るなんてできる訳がない。俺が見ている感じ、怪しい行動をしているようには見えないしな」


「でもよツッコミ役。黒天利と帝国と連合の全てと関係を持てそうなのは確かじゃねーの。……黒天利はかつて帝国に居たとはいえ、その姿はとてもじゃないが子供とは言い難い。奴自身は帝国では完全なアウェー。追い出されることはなくてもアルテの協力は得られない」


「だがそれはパンレーも同じだろ」


「いやパンレーは皿々というドラゴンと仲がいいんだろ。皿々がいれば、アルテに頼みごとの一つくらいはできるだろう。皿々経由でゲージを頼れば連合とも協力できる。唯一、黒天利との結びつきの薄さが不足しているけどよ。……パンレーが犯人ならば、黒天利と協力する理由も何かあるんじゃないか」


「少なくとも皿々はパンレーの存在を忘れていたんだ。あの二人が協力するなんて俺にはとても信じられないな」


「ま、関係性では一番可能性があるって話さ。あくまで俺の推理だ。夢の中での戯言だと思って忘れてくれていいぜ」


確かに黒天利との協力関係を築ける奴は多くはないだろう。威圧感の塊みたいな奴だからな。総帥王としてはカッコいいけど帝国の子供たちと手を組めるとは思えない。その点、パンレーならば電子界で黒天利のことを知り尽くしているから弱みで揺さぶることはできそうだ。


だがやぱりパンレーがそんな真似するとは思えない。俺と行動する裏でそんな真似する暇はなかったはずだ。もしも奴が黒幕だったらただじゃ済まさないぜ。


「さてと。もう朝だぜツッコミ役。夢の時間はここまでのようだ」


「今日の行き先はどうするかなぁ。……帝国への出港停止でパンレーを皿々に会わせることができない。イレギュラー駆除を頼まれたが居場所を知らない。黒天利たちがゲージの連合軍に連れ去られたが対処法がない」


「今の特星内では"3つの事件"が同時併発しているぜ。1つ目、御衣とテーナが帝国で消息を絶つ事件。2つ目、黒天利とテレビ局長が"ぱっ狐&ゲージ連合"に連れ去られた事件。3つ目、恐怖の大王一族がウィルを洗脳して仲間に引き込んだ事件」


1つ目は帝国への侵入手段がないからどうしようもない。ワープ装置は元々帝国に置いてない。船は辿り着けずに出港停止。特殊能力でも侵入不可能。無理。


2つ目は死人が出る可能性があるから発表すらもされていないんだよな。多分、行き先を聞いても応えてはくれないだろう。少なくともボケ役は止めると思う。難しい。


3つ目は幹部の居場所を見つければかひとまずの解決はできるな。パンレーがいるから敵の情報もある程度揃ってる。居場所もワープ装置が使われてないからおよそ特定できる。手堅く行くのであれば、ここから調査するのがよさそうだ。


「とりあえずは恐怖の大王一族の幹部探しかな」


「恐怖の大王一族も特殊能力封じの技術を持っているのか夢で探知できない。だがワープ装置の使用履歴に奴らの痕跡はないことはわかっている。……ツッコミ役が昨日襲撃された勇者社近辺。手掛かりを探すならばその辺りだろうな」


「特星本部では探さないのか?」


「ウィルが洗脳されたことはわかっちゃいるんだけどな。だが正直、今はさほど脅威でもない宇宙人に構ってる暇はないんだ。……特星本部長である御衣を帝国から連れ戻す。特星本部としてはこっちのほうを解決しないと特星の機能が維持できなくなるのさ」


「ふうん。じゃあボケ役とは別々の道を行くってわけだな。手が空いたら御衣の奪還も手伝ってやるよ」


「へっ。それはこっちのセリフさ。騒ぎが収まったらウィルたちを探し出して、洗脳なんかすぐに解いてみせるさ」


段々と夢が醒めていく。そろそろ俺は目覚めるようだ。見ていろよ。今、特星で次々と発生している事件はすべて俺が解決してやるぜ!

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