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変な星でツッコミ生活!?  作者: 神離人
本編:???days特星解明クライマックスストーリー編(part01)
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一話-002日目 大怪獣の卵

@悟視点@


梅雨が早々に活動を辞めて日が差す今日この頃。って、晴れてるじゃん!へっ、どうやら今年の梅雨は大したことなさそうだ!これならドラゴン……、いやパンレ―を連れ歩くことができそうだ。でも肝心の本人はどこに居るんだ?


「すぅー、すぅー」


ああ、ゲームカセットの裏に入り込んで寝てる。まだサイズが小指の爪ほどだからこそできる芸当だな。ってかあのカセット、正者の盗品を隠してあった異空間を呼び寄せるカセットじゃん。地味にレアアイテムを見定めて寝処にしてやがるな、あいつ。


「おい起きろ。おいパンレ―。……ここだっ!」


「うへぁっ!?なっ、な、何ですか急にっ!?」


「朝だから起きな」


部屋の隅から埃を1本取って突いてやると飛び起きた。こいつは埃1本でやられるドラゴンだが、鱗を突かれてもダメージは通りにくいらしく、鱗のない位置を突くことでようやく目覚めた。……昨日よりも強くなったんじゃないか?


「雷之 悟……まだ朝の5時ですよ。私は成長のために健康な精神も必要なのです。こんなに早く起こして、もし精神が乱れて成長できなくなったら……お前はどう責任取るつもりですかぁっ」


「う、恨めしそうだな……。悪かったよ、威嚇すんなって」


「ふふふふ、威嚇だなんてそんな。……ま、今日はいいでしょう。眠気も覚めましたからね。それはそうと私が寝処にしていたこの卵、お前は一体どこでこれを?」


「卵だって?ゲームカセットだろ、それ」


「まあ見た目はゲームカセットですが。まさかお前、それが何なのかを知らずに手に入れていたんですか!?」


パンレーの寝処にしているゲームカセットが、卵だって?バカな、あれはただのゲームカセットのはずだろう!?いやまあ、正者の盗品置き場を呼び寄せるオマケ効果はあるけど。


「いいですか雷之 悟。そのカセットは大怪獣ロックハンドラの娘が宿っていた卵!我々電子界のドラゴンにとっては国宝のようなものです!」


「だ、大怪獣の卵!?しかもロックハンドラってのは最近聞いたことがあるぞ」


「ロックハンドラは……電子界のドラゴン達にとってはボスであり、大恩人です。かつて恐怖の大王一族が地球侵略にやってきたときに、共に戦い、地球を救ってくれました。……お前はまさか、ロックハンドラの娘に会っているのではないですか」


「ええっ!待て、思い出してみる。いてっ!……頭痛?」


「あ、頭痛は気にしないでください。今、私の魔法でお前の思考を覗き見ています。電子界でも使える魔法なのでこの姿でも使えるのですよ」


そういえば、電子界に居たのに地球人や信仰生物たちの心情を知ってる風な口ぶりだったな。地球を見る魔法、心を読む魔法、クッキーを出す魔法、ワープ魔法辺りは使えるってことか。


「電子界では使えても地球で機能しない魔法もありますけどね。さあ、それより早くロックハンドラの卵について思い出してください!」


ああ。まずカセットは最初……印納さんから受け取ったんだ。その後、砂浜でカセット狙いの黒い雨が降る事件があって、アルテの奴と戦うことになった。カセットの内部には、怪しい雑草が隠されていて……雑草を食したアルテは魔学科法の力を手に入れたんだ……!


こうしてカセットはアルテの手中に収まった。その後、アルテは究極の魔学科法の力を手に入れて、印納さんから帝国を乗っ取ったらしい。カセットはしばらくの間、帝国に保管されていたはずだ。


「や、やはり間違いありません!でも卵がお前の手元にあるということは、まだ続きがあるのですね。この際です。知っていることを全て話しなさい」


確かアルテが帝国を乗っ取ってから約1年後のことだ。俺は校長から正者の手掛かりを探すように頼まれて、ある望遠鏡の少年から大きなヒントを得たんだ。奴曰く、カセットから異空間にある正者の盗品保管庫へ出入りできるって話だった。どうにも皿々がカセットの施錠を解放したらしく、望遠鏡はそのときに盗品保管庫から逃げ出したんだそうだ。


情報を手に入れた俺は帝国に乗り込み、財宝……いや正者の手掛かりを皿々に奪われないために、アルテの部屋に乗り込んだ。だがそこに居たのは、財宝の守護者に体を乗っ取られた皿々の姿だった。守護者は異空星臣と名乗り、なんか王と正者の保管庫から解放されて気分よく暴れていたようだ。乗っ取られた皿々を倒したはいいものの、異空星臣は俺の体を乗っ取ろうと憑依を試みたんだっ!


「つ、ツッコミどころが多い!ですがオチだけ言わせてもらうと乗っ取りは失敗したはずです。神の体に呪いの類は通じませんからねー。そうでしょう雷之 悟?」


うっ、当たってるぜ。結局、その後やってきたアルテが異空星臣をバッジで捕らえちまったんだ。カセットは交渉の末に俺が貰うことになったけどな。……海岸対戦のときにボケ役は、カセットを魅異の上級生に奪われたと話していた。また本来の持ち主が狙っているともな。俺のカセットは上級生の印納さんから受け取ったもの。狙っていた奴、つまり本来の持ち主はアルテ。……これはアルティメットの卵だったという訳だ。どうだ違うかパンレー?


「ええ。違いますね」


「うん。……えっ?な、なにぃ!?」


「ああいえ、情報の追い方としてはよかったと思いますよ。順当に整理すればむしろ模範回答です。ただ誤情報と情報不足によって事実から遠退いてしまったのでしょう」


「ご、誤情報だって?」


「お前は脳内にかつての出来事を言語化して浮かべてますよね。私の魔法は、お前が思い浮かべたシーンをお前よりも鮮明に思い出すことができます。物語を読み返すようにね!」


「専門家でもないのに魔法が便利すぎる……」


「結論から言ってしまうと卵は印納のものです。お前は黒悟の元々の持ち主という言葉でアルテと予想しましたが、黒悟が元々の持ち主と言っていたのはカセット自体ではなく、その中に眠る雑草のこと。つまり魔学科法の力のことを指していたのですよ。お前はカセットの話を振りましたが、海岸対戦の火種が魔学科法の力だったので、黒悟は後者の答えを返してしまったのかもしれませんね」


えっと、カセットは印納さんが宿っていた卵で……。魔学科法の力を印納さんが奪ってカセットに封印していたってことか?


「そうではありません。思い出せなかったようですけど、お前は黒悟から海岸対戦のときにアルテの素性を少し聞いているはずです。彼女は不法侵入者であると」


「そうだったかな?」


「アルテが特星に現れたのには理由があります。これはお前が知る由もないことですが……、アルテはかつて魅異との戦いで敗れ、魔学科法の力を奪われているのですよ。その力を取り返すための無茶な介入を行い、特星の一部と言われている闇の世界に入り込みました」


闇の世界……。新年のときに一度、アミュリー神社から向かったことのある場所だ。特星の不老不死オーラの範囲内だから安全に戦えるし、特星本部の連中も来てたから特星の一部扱いなのは間違いない。他にも究極物質や流双のような物騒な奴らと遭遇した場所でもあるか。


「しかし魅異が闇の世界に力をねえ。そういえば昔のアルテは魅異に執着してたな。今はよくわからんが」


「魅異は魔学科法の力をカセット……孵化済みの印納の卵に仕掛けましたが、その強大な力は、特星に放置するにはあまりにも厄介なパワーを秘めていたのです。しかし直渡しするほど素直でもなかった彼女は、アルテが少し手間を掛けて見つけられるように、特星の一部に闇の世界という隠し場所を用意しました。そして、印納の卵は魔学科法の力と共に闇の世界に置かれたのです」


「ま、待てよ。印納さんの卵はそもそもどこから出てきたんだ!?」


「元々は電子界に用意されたものですね。印納が生まれたときに起きたトラブルで卵は吹き飛んでしまい、地球に流れ着いたところを魅異が回収してしまいました。……電子界は元々、大怪獣ロックハンドラとその伴侶の子孫を生み出すために作られたラブホテルなんですよ」


「ラブホテル……?あー、エイプリル大恐慌前に地球あったっていうエロ施設か!番組の背景とかでよく見かけたぜ」


「今の地球にもラブホテルはありますけど。……でもよく考えてください雷之 悟。人間と星よりでかい大怪獣ですよ。それほどのサイズと種族の壁を超えるにはどうすればいいのか。我々ドラゴンは各専門分野の叡智を結集することで、電子界の卵を作り出し、大怪獣と人間の想いを子孫という形で残すことができました。そう、想いと技術さえあれば、あらゆる種族や物質を越えた子孫を残せるのです!」


「おー。雑魚ベーの親父さんとか泣いて喜びそうだな」


「つまり印納の卵は、印納[電子界]→魅異[地球]→魅異[闇の世界]→アルテ[特星]→印納[特星]→お前[特星]→アルテ[帝国]→お前[特星]。印納の誕生から紆余曲折を経て、お前の手元に舞い込んだということです。この卵は……きっとお前に使われる運命に違いありません」


「運命か。た、確かに……」


このカセットの保管庫を呼び寄せる機能……。これは主人公があり得ない量のアイテムを持ち運べるシステムを踏襲してるからな。更に、種族を越えた愛もモブのイベントとかでよくありそうなパターンだし、そういう奴らを手助けするために使うことになるのかもしれないな。


「………………」


「って、何で恨めしそうにしてるんだよ」


「絶句していました……。お前、私が力を取り戻したらもう容赦はしませんからね。電子界での戦いの決着を付けてやります」


「へっ、ケガしない特星で俺に勝てると思うなよ。……あ。そういえば、カセットが正者の保管庫を引き寄せる理由は何なんだ?」


「ああ。お前が正者の保管庫と呼んでいるのは遺伝子情報の保管場所です。大怪獣ロックハンドラの遺伝子情報はあの規模の保管庫にしか入らないのです。まあ、実際はちょっと容量不足で事故が起きたんですけどね……」


「じゃあ正者があの保管庫を見つけたのは」


「まー保管庫のセキュリティに穴があったのでしょうね。もしも保管庫に本当に財宝が置かれていたなら、それが事故の引き金になっていたかもしれませんけど」


「うん?いや、保管庫に財宝はあったぞ」


「……な、なんですって?」


イメージを思い出すからちょっと待ってろ。……ああほら、俺が正者の保管庫に入ったときには古びた道具や資材がこんなにあったんだ。多分、エイプリル大恐慌のときに盗んで持ち込んだんだと思うぜ。そもそも望遠鏡や番人も保管庫から来たって話だしな。


「あ、あれはツッコミどころじゃ……」


「聞いた話だから信じてなかったんだな。多分事実だぜ。少なくとも保管庫に正者の財宝が置かれているのを俺は見たからな!」


「じゃあ、私が電子界に閉じ込められた直接の元凶は……あ、あいつだったのかーーーーーっ!!!」


「なら容量不足の事故って、エイプリル事件の盗品が置かれてたから起きたのか。あれだけ詰め込めばそりゃ足りなくもなるよな」


「す、全て繋がりました!正者が異世界から帰ったときに、皿々ちゃんがあいつに絡んだ理由……!エイプリル事件の盗品について正者の独り言を耳にしたんだと思います……!皿々ちゃん、きっと盗品をひとり占めするつもりで私に話せなかったんだ……。そして正者に異電波刀で切られてしまった」


「皿々なら、ひっそり脅して隠し場所を聞き出そうとするだろうな」


にしても異電波刀か……、頭部を切れば記憶が歪むという恐ろしいマジックアイテム。今は偽正者が持っているんだったか。いずれまた持ち主と波乱を巻き起こさないか不安だな。レアアイテムとはいえ、偽正者と共に異空間を彷徨わせておく方がいいかもしれん。


「しかしまあ。皿々に関しちゃ自業自得じゃないのかそれ」


「だとしても私は正者が許せません。いいえあの男は前から気に入りませんでした。皿々ちゃんのように錬金術に心血注ぐ竜がいる一方、あんなやつが錬金術で地球や電子界を大混乱させているなんて。かみ砕いてやりたいです緑色めーっ」


[がぶっ]


「か、嚙み切れない……」


「やめとけ、防刃効果も備えてるコートだぜ」


しかしまあ、カセットの正体を知れたのはよかったな。印納さんの卵だと思うとちょっと不吉ではあるが。印納さん……変人だし謎の多い人物だけど、あの人の強さの秘密がわかった気がする。まさか大怪獣の子孫だったなんてな。意味不明さはむしろ増したかもしれない。


アルテも今回の話のメインではなかったが、魅異とそこまで対立してるとは思わなかった。何だかんだで地球人じゃなさそうだし、何だろうなこいつは。


それと魅異、あいつに直渡しを躊躇するような感情があったなんてな。何が起きても一切動じることのない全てが通じない存在だと思ってたぜ。……よく考えると友達に対する評価じゃねーな。でもまさかパンレーの魔法が通じるとは……。


「お前、思考内での失礼さが凄いですね……」


「おっと悪いな。魅異が何でもできるイメージだったから」


「いや私のことじゃなくて。それよりお前、もう外が明るいですよ」


「っと、長話しすぎたな。晴れの内にいくつかの場所を案内したいんだった。よし行くぞー!」


「おーっ!」




今回パンレーを連れてきたのは特星の必須施設、勇者社だ。アミュリー神社に行くために立ち寄ったが、ここでもやるべきことがいくつかある。その一つが高性能翻訳飴を食べさせることだ。


「ここで何をするんですか?」


「あ、もう心は読んでないのか。特星は普及率が80%程で異世界人とかもたまにいるからな。互いに言葉が通じる体質にする飴を食べておくんだ」


「おっ飴ですかー。私は甘いものには目がないんですよね」


「そりゃよかった。あ、高性能翻訳飴ひとつ頼む。俺じゃなくてこっちね」


「シートに記入どうぞー」


受付からもらったシートに記入すると、高性能翻訳飴が入った小箱を渡される。本来、飴の入手には特星本部に行く必要があるが、勇者社受付でも配布をしてもらうことができる。いやー、ここは本当に便利だぜ。


「ほらこれだ」


「やったー!って、あの。な、何かでかくないですか」


高性能翻訳飴は少し大きめの飴玉だが、パンレーのサイズは小指の爪程しかない。どう見ても飴はパンレーの胃袋に収まりそうにない。


「こ、これ全部食べるんですか。私の4倍くらいの大きさなんですけど」


「あの受付さん。これ全部食わせなきゃダメなのか?」


「どうでしょう……。物知りの社長秘書に聞いてみるのでお待ちください」


慌てた様子で電話を掛けに行く受付。……動きに落ち着きがないな。見た感じ女子中学生っぽいから、多分居なくなった小学生の穴埋めとして雇われているんだろう。最近の勇者社は人手不足で、バイトの給料が上がる一方らしいからな。……よく受付場所を見ると、店員の戦闘サービスは一時提供停止中って紙が張ってある。最近の中学生の強さが気になってたんだけど残念だ。


「はい、瞑宰高校の寮向け店です。えっと、とても小さなドラゴンとコートの男性です。……はい緑色で水鉄砲を携えている。あ、わかりました」


「どうだった?」


「あの。社長秘書の方が向かっているそうなので。少々お待ちください」


「お、几骨さんが来てくれるのか。気前良いな」


「あと伝言で、絶対に暴れないでくださいと」


まるで問題を起こすかのような言い方だな……。几骨さんは俺を何だと思っているんだ?勇者社では問題起こすどころか戦闘回数だって少ないはずだが。


「雷之 悟……。お前、特星内で一体どんな振る舞いをしているんですか」


「何も悪いことはしてねーって」


「お待たせしました悟さん。そしてパンレーさん」


「お、几骨さん」


「……あ、受付の仕事はしばらくいいので。あなたはお昼まで休んでいてください」


「はーい」


几骨の指示を受けて中学生は別の階へ去っていく。まあ受付利用するやつなんて少ないだろうけど。わざわざ追い出すってことは何か俺たちに用があるのかな?


「ご名答です悟さん。あなたに依頼したいことがありまして」


「待ってください。もしかしてお前、心を読めるんですか?」


「あ、はいパンレーさん。私の特殊能力は心を読む力。この特殊能力と得意の書記能力で、勇者社の社長秘書を務めさせていただいています」


「だから初対面で名前を。ふぅん、でも人間に心を読まれるのは気分がよくないですねー。ちょいと失礼」


「っつ!?頭痛?……えっ、2人の心が読めない!?」


「何だと!?パンレーお前、魔法で几骨さんの能力を防げるのか!?」


「ふっふっふ。知らなかったのですか?そこの秘書に限らず、私はお前達のいかなる特殊能力をも遮断する術を持っています!」


「何ですって?」


「と、特殊能力を封じれるのか!?」


「詳しい話は省きますが。お前達が特殊能力と呼ぶ力は本来、大怪獣ロックハンドラの有していた力です。特殊能力を発動するための伝達エネルギーを私は熟知している。だから魔法で干渉して阻害できるのです」


「マジか……!き、昨日までは最弱オーラ全開だったのに。人間相手になった途端に無双しそうな雰囲気出しやがって!」


ま、まあ基礎能力が皆無だから敵と戦うのは厳しいだろうが。この特星なら特殊能力を無効化できるだけでもサポートとしては強すぎるくらいだ。


「……驚きました。まさか信仰生物の親玉がこのような力を持っているなんて」


「む、私の素性を知っているようですね。几骨」


「ある程度調べは付いています。というのも悟さんに依頼したい内容が信仰生物に関することでして」


[どかあああぁん!!]


「「「えっ!?」」」


几骨さんが依頼を話そうとした瞬間、勇者社の壁が爆発で吹き飛んだ!そして壊れた壁から何者かの衣服が見え隠れしている。……か、壁の裏に今の爆発を起こしたやつが居る!


「あそこだ!あそこの壁の裏に犯人がいやがる!」


「ふっ……ふっ……ふっ……!」


「何ですかこの笑い声?それに思考が読めませんね。パンレーさん妨害を解除してください」


「几骨、私の心は読めているでしょう?ええとっくに解除しています。それどころか私の魔法ですら奴の心を読むことができません!未知の敵です……!」


「心が読めない敵だと!?」


[どがががあぁっ!]


「うぐおっ!?」


「ううっ!?」


「うあっ!?」


何の前触れもなく脳天の衝撃が走る。……こ、これは岩っ!?後ろに目をやると、持ち上げられなさそうな大きめの岩が俺達3人の背後に落ちていた。岩が何の前触れも落ちてきたっていうのか!?くっ、視界が歪む……!


「二人共大丈夫か!?」


「「…………」」


だ、ダメだ!几骨さんは非戦闘員だしパンレーの戦闘能力はそれ未満だ!俺と同じように大岩を受けて気絶しちまったらしい!やっぱり壁の向こうのあいつの仕業か!?


「おい壁の裏に隠れてるお前!この大岩はお前の仕業だな!?姿を現しやがれ!」


「獲物は意識不明ですか。……まあいいでしょう」


「な、何っバカな!?お前が……なんでお前がこんなことをっ!?どういうことだ……ウィルっ!?」


壁の裏から姿を現した人物……それはウィルであった。こいつは特星本部に所属している元勇者で、校長などと一緒に問題を起こしたやつらを取り締まる側のはずだ。俺の知っているこいつは真面目な女子高生剣士であり、勇者社の壁を壊すような人物では決してない。くっ、何でこいつが敵役みたいな感じで登場しているんだ!?大岩もウィルの仕業なのか!?


「悟さん、私はあなたの知っているウィル スクロールではありません。洗脳により恐怖の大王一族の幹部として選ばし天才カード術師。それが今の私の姿です」


「恐怖の大王一族!?それにお前がカードだとっ!?」


「私の目的は電子界のドラゴン一匹です。大人しく差し出せば悟さんと秘書さんに危害は加えません。さあ、どうしますか悟さん」


「目的はパンレーってわけか。へっ、すっかり闇落ちムードで羨ましい限りだ!……ウィル!パンレーはお前には渡さない!逆にお前を倒して闇落ちの座を奪ってやるぜ!」


「相変わらずふざけた言動ですね。やはり素直に渡す気はありませんか。ならばこの私、白のカード導師 ・祈りのウィルの力をもって奪い取るのみ!覚悟しなさい小悪党ーーーっ!」


「主人公だっ!水圧圧縮砲!」


「流し受けっ!」


壁際から一気に間合いを詰めてくるウィルに対して、こちらは水の魔法弾で攻撃する。しかしウィルは取り出した剣を魔法弾にわずかに掠らせることで軌道を変え、攻撃を回避する。くっ、やっぱりウィルは元勇者だからか戦闘技術が相当高い!


「この距離なら届く!火球を呼ぶカード!」


[ごおおおぁっ!]


「うおっ!?」


ウィルが1枚のカードを突き出すと、その前方に人を飲み込むサイズの火球が出現して発射される。とっさに俺はコートで火球を防ぐが、その隙にウィルが接近する!


「なら空気圧分裂砲! 炎を纏え!」


「浅い考えです!背水阻止切り!」


[ずばばぁっ!]


「ぐあああああぁっ!」


コートの隙間から大量の空気の魔法弾を撃つことで、それらは炎を纏った必殺の火球の雨となってウィルに襲い掛かった。だが、ウィルは素早く旋回して背後から俺を切りつけた!その勢いで俺は吹っ飛ばされ、前方にある火球や自分の魔法弾に正面から突っ込んでしまう。


「あちちっ!け、結構やるな……!」


「今です!」


「あ、おいっ!」


俺が膝をついている隙にウィルは倒れているパンレーに向かって走り出す。あいつ勝負を放棄して、勝ち負けに関係なく連れ去るつもりか!?


「おっと!撃てば倒れた2人に受け流しますよっ!悟さんの銃弾が友達を襲うでしょうね!」


「なら手が滑った!電圧圧縮砲!」


「何ですって!?……くっ!」


俺が電気の魔法弾を撃つと、足を止めて受け流そうとするウィル。だが電圧圧縮砲に剣が触れた瞬間、電気の一部がウィルの全身に駆け巡るのが見えた。受け流された電圧圧縮砲の一部は天井にぶつかって散り散りになってしまう。


「ぐうっ!わ、わざと撃ちましたね!」


「俺の水鉄砲は暴発事故が多いのさ!もう一発、電圧圧縮砲!」


「くっ。落石を起こすカード!」


有効そうな電気の魔法弾を続けて撃つが、ウィルが突き出したカードの効果なのか空中に岩が出現する。そして岩の落下によって電圧圧縮砲は押し潰されてしまう。更に、使用したカードは光の粒となり消滅してしまう。……さっきは気づかなかったがカードは使い捨てのようだな。


「もう電気を防ぐ手段が……。くっ」


「おっと位置替えか?だがその位置はパンレーを持っていけるチャンスが減るぜ」


「パンレーさんを拾えば悟さん撃つでしょう!?私は洗脳されていても、気絶者を危険に晒すつもりはありません!例え、一族の処罰対象者でも、引き渡すまでは安全を保障する!それが私のやり方です!」


「ウィルらしいな。だが、そのダメージを負った体で俺に勝てるかな?」


「う。……今日は撤退します。洗脳されている私を取り押さえるのであれば追ってくることです」


お、じゃあウィルを追えば敵の本拠地っぽい場所に乗り込めるってわけか!……いや、追いたいけど気絶してるパンレーを放っておく訳にはいかないか。他の敵が別の階にいるかもしれないからな。だからといってパンレーを連れて乗り込むのもいまいちだ。俺は何かを守る戦闘には向いてない。……ていうか1戦でこれだけ戦闘ダメージを負ってるのがまずい!岩、斬撃、炎、空気圧分裂砲……!実質、技4つ分も直撃喰らってるし!


「安心しなウィル。俺は手負いの奴を追い詰めるほど鬼じゃない。今度はこんな人質のいる戦いじゃなく、正々堂々と決着を付けようぜ」


「どの口が言うんだか……。もしも恐怖の大王一族に立ち向かうなら悟さんにとって辛い戦いになるでしょうね。私も含めた3人のカード術師ですが、偶然にも全員が悟さんの知り合いなのですから。く……く……く……!」


「その不気味な笑いはなんだよ」


「幹部に与えられる栄誉ある笑い方です。では失礼。爆発を呼ぶカード!」


[どかあああぁん!]


ウィルが1枚のカードを突き出すと、少し離れた位置の勇者社の壁が爆発して大穴が開く。そのカードの消滅を見ている間に、ウィルは素早い動きで勇者社を後にするのだった。




「ううぅ。ひ、酷い目に遭いましたね」


「俺も結構ダメージ受けたなぁ。お前も無事でよかったよ」


俺はひとまず岩に潰されていたパンレーを先に救出して、空気をデコピンして目を覚まさせた。パンレーの体はモンスター扱いではないらしく、カードの岩に潰されても外傷はなかったし、意識も思ったより早く取り戻してくれたな。


「さて几骨さんも起こすか」


岩を受けて気絶している几骨さんに近づく。近くに割れたメガネが落ちていて、カードの岩を受けたときに外れてしまったようだ。……そういえば几骨さんが眼鏡を外した姿は見たことないな。うつ伏せだから起きたらすぐに見れそうだ。いやー、なんか依頼内容よりも素顔の方が気になってくるぜ。


「おーい几骨さん。起きなきゃ水圧圧縮砲が降ってくるぞ」


「うう……っ。わ、私としたことが油断を」


「ん?うおおっ!?お、お前が何でここにいやがる!?記述師タナレーっ!」


「えっ?あ。あああぁーっ!私の眼鏡がっ!い、いえ、人違いです。ほらローブじゃなくてスーツです。服装に着目すら悟さんならわかるはずですよ」


「いいや、お前はタナレーだ!俺は肌の細かい細胞まで見えるから間違いない!そ、そういえば今思い返せば几骨さんと顔が同じじゃねーか!くっ、眼鏡ひとつで全くの別人にまで完璧に変装して、俺の目を欺いてたのか!記述師タナレー……さすがは俺から逃げきっただけの女だ!」


そういえば、几骨さんも記述師タナレーも心を読む能力を持っていたな。更に書類仕事のできる女。戦闘能力はどちらも非戦闘員級。声も口調も顔も同じだ。……だが、眼鏡という奇策によってそれら全ての特徴を覆い隠していたわけだ。くっ、頭のキレる知略タイプのやり方か。


「ま、まずい。口止めしないと。正当な秘術継承者が見つかったとなれば、また大メインショット郷国で書類漬けの軟禁生活を送ることに……!こほんっ。お、落ち着いて話し合いましょう悟さん。まずあなたの目的は何ですか、お金ですか?」


「おっと勘違いするなよ記述師タナレー。俺はお前をライバルの一人だと認めているが、敵だとは思っちゃいない。もうお前を追うのはやめたのさ」


「雷之 悟。話から察するに、彼女はどうやら正体を隠したがっているようです。まずお前は記述師タナレー呼びを改めたらどうですか。私と語感が近い名前ですし」


「でも眼鏡かけてないと几骨さんって感じしないからな。完璧秘書と美人怪盗くらいの印象差があるぜ」


「……お前にしては異様に彼女への評価が高くないですか」


「この俺に知略戦で張り合えたのは、記述師タナレーと信仰生物の正者くらいだからな。大メインショット郷国の秘術騒動で俺を出し抜き、ついさっきまで正体を悟られることがなかった。……正直、してやられたって気分だぜ」


「してやる気も出し抜いたつもりもありませんけど……。それより聞いてください。特星本部が今、ある事情で本部長不在になっているのです」


「ある事情?」


「特星本部……特星の維持管理を行う公的機関でしたっけ。昨日お前が言っていた」


「ああ。役所仕事やら事件解決やら色々やってるところだ。実は、さっき襲ってきた奴もウィルっていう特星本部の一員なんだ。で、特星本部長が女子小学生の神離 御衣。……その姉の魅異が、この勇者社の社長で几骨さんの上司だな」


「なるほど。つまり特星には欠かせない組織の勇者社と特星本部を、2人の姉妹が押さえている訳ですね。しかしその片割れが行方知れずと」


「いえ行方はわかっています。特星の現代エリア……つまり居住地域の中で唯一勇者社と特星本部が存在しない場所。そう、アルティメット帝国に特星本部長は捕らわれています!」


「「捕らわれている!?」」


あの特星本部長の御衣が帝国に捕まったっていうのか!?い、いやだが帝国ならあり得る!……というよりも御衣の実力なら帝国以外じゃ難しい!


特星本部長の御衣は、希求と肩を並べるとんでも万能能力者だ。加えて特星本部には、校長やボケ役みたいなワープできる能力持ちが多い。それら全員を相手に特星本部長を捕らえられるのは、魅異に次ぐ実力者であるアルテや印納さんくらいだ。アルティメット帝国の支配者アルテであれば、特星本部長を捕らえておくことは難しくはない。


「だ、だけどアルテは俺が見た感じだと、女子小学生を無理やり捕らえるような奴じゃなかったぜ。あいつが特星本部長を狙うならもっと前に手を出していたはずだ」


「失礼。言い方が悪かったですね。正しくは帝国を離れられない状況下にあると考えています。……お二人はテーナという信仰生物の少女をご存じですね?」


「なるほどテーナですか。几骨……、お前が雷之 悟に頼もうとしていた信仰生物に関する依頼。そこにテーナが関わっているということですね」


「ええ、そうです。実は、特星本部長の御衣さんが直々にテーナさんの事情聴取を行っていたようでして。報告書類によるとテーナさんは帝国に行くことを強く望んでいたそうです」


「それはおかしいですね。テーナは地球で騒動を起こして連行されるまでの間、ずっと電子界か地球に居ました。特星の帝国のことなど知る由もないはず」


「……いや。テーナは地球で黒天利と組んでいたからな。黒天利からある程度は特星の情報を聞いていたに違いない。それに……少なくとも黒天利は帝国に出入りしていた!アルテが帝国の覇権を握ってから程なくして、俺は帝国で黒天利に初遭遇したんだ!」


そして当時、アルテは既に小学生だけの帝国を作るつもりでいた。帝国で戦ったウェリーニアとかいうモブ帝国兵も新帝国に小学生が重視されつつあることを仄めかしていた。住人から帝国の方向性を聞くのは容易いことだ。……地球でその情報が黒天利からテーナに伝わって、そして現在、特星本部から逃げ出したいテーナが帝国に保護を求めた。その可能性は十分にあるぜ。


「過程はともあれ。結果として特星本部長はテーナさんを連れて帝国へ向かいました。その後は音沙汰がありません。そして……同じ時期にもう一つ、帝国行きの船が帝国に辿り着けなくなるという異常事態が発生しています。いえ、船どころか特殊能力ですら到達できません。……この異常発生は今も続いています」


「帝国に辿り着けない!?じゃあつまり帝国は完全に隔離されちまったってことか!」


「ははーん。お前がさっき捕らわれたと言っていたのは、異常事態が帝国側の仕業だと考えているからですね」


「はい。特星本部長は少なくとも仕事の放棄はしません。テーナさんを帝国に匿われたとしても、きちんと本部に戻り報告書類は作るでしょう。というか彼女の特殊能力なら帝国からでも報告作業は可能です」


「特殊能力自体が使えないか、無力化されている可能性があるのか。確かに御衣が捕まっているのと大差ないな。だが俺に依頼したところで帝国に乗り込む手段が無いと助けようがないぜ」


「あ、いえ。依頼したいのは特星本部長のことではありません。テーナさんが帝国に向かったことを雑魚ベーさんに伝えていただきたいのです」


「お前が伝えに行けばいいのではないですか?」


「恥ずかしい話なのですが……。大メインショット郷国での出来事以降、雑魚ベーさんに近づくのを避けていまして。彼はいつ私の正体に気づいてもおかしくありません。だからテーナさんの事情を知る悟さんを通じて、安全に状況説明を行おうと考えていたのですが。まさか正体がバレるとは……」


「大メインショット郷国で面と向かって顔合わせてるじゃん。バレるに決まってるだろ」


「おっしゃる通りです。悟さんであればまず気づくことはないと侮っていました」


「ま、俺を知略で欺いて利用しようなんざ100年早いってことだ!今回ばかりは俺の術中に嵌っちまったったな、記述師タナレーっ!これで大メインショット郷国で取り逃がした雪辱を晴らしたぜ!」


「お前はそれでいいんですか……」


「どうかお願いします。信仰生物という要素が絡むからには、悟さんでなければ適切な話し合いができません。この依頼、引き受けていただけますか?」


「ああいいよ。天気がいいから神社に行くつもりだったし」


「安心しなさい几骨。信仰生物の知識であれば、私と雷之 悟に勝るペアなどこの世に存在しません!お前の依頼は私達が果たして見せましょう!」


「よろしくお願いします。では私はそろそろ失礼しますね。御衣さんの穴埋めとして、特星本部の書類仕事を全部回されていますので」


「おっ、記述師の本領発揮だな。その調子で特星中の書類仕事全部引き受けちゃえよ」


「心配ご無用です。既に9割以上引き受けていますから。では失礼」


余裕のある笑みを浮かべて、この場を後にする記述師タナレー。奴にとって特星の書類仕事全部をカバーするのは造作もないことらしい。正体がバレたショックも回復してるようだし、メンタルはかなり強いようだ。……そんな記述師が逃げ出すほどの書類仕事を用意できるなんて、大メインショット郷国はヤベー世界だよなぁ。


「さて神社行こうぜパンレー。他の勇者社に行くにはテレポート装置を使うんだ」


「テレポート装置があるんですか?地球より科学技術が遅れていると思っていましたが、優秀な分野もあるんですね」


「そうかもな。よーし行くか!」


その後、テレポート装置で俺とパンレーはアミュリー神社へ向かった。……しかし雑魚ベーは外出中で、俺たちを出迎えたのは雨双だった。結局、アミュリー神社で5時間待っても奴は帰って来なかったので、俺たちは神社で昼食を食べて、日を改めて出直すこととなった。

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