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変な星でツッコミ生活!?  作者: 神離人
本編:毎月訪れる電子界通いの男
71/85

三話 ラスボスのお寝ぼけ ~電子界からの竜出

@悟視点@


明日にでも梅雨で降ってきそうな春の季節。時期的には電子界に行く頃合いだし今日行くつもりで俺は頭の中でスケジュールを考えている筈だ。今も間違いなく電子界に向かいたい。だが、何故かはよくわからないが俺の気持ちが外へと引き寄せられている気がする。


「一体なんだってんだ?何かが目に見える訳じゃないが。乗らなきゃ全てを見失うような、そんな流れのようなものを感じるぜ」


これは行った方がよさそうだ。何ていうか、俺が狙われているとでも言えばいいのか?俺以外の誰が行ったとしても今回ばかりはどうにもならないような、そんな予感がする。


「はぁ。行くか」


電子界は帰ってから行くことにしよう。……今はとりあえず予感を信じて流れの元へと向かうことだ。俺にしか解決できない問題があるとすれば、主人公冥利に尽きるってものさ。ただ、くれぐれも流れを外さないように気を付けないとな。




流れを辿るようにして海までやってきた。道中の街並みはいつも通りだってのにどうしたことだ。世界が重く軋んでいるような気がしてならない。目の前の海だってそうだ。見た目は普通に綺麗なはずなのに。もっと別の面が……俺の目の届かないどこかが崩れかけている気がする。


「流れの先は……。あっ」


目を移した先に居たのは天利だ。こちらに背を向けて、海を見ながら立ち尽くしているようだな。ただ、いつもと違う点がある。流れが天利に向かっていることと、天利自身からは他を寄せ付けない風格というか立ち方というか。流れに反する何かを感じる。……いつものラスボスらしく主人公を呼び寄せる天利とはまるで違うな。


「おい天利。こんなところで何やってるんだ?」


「さ、悟!?どうしてここに……」


「何か大事なことを見逃しそうな気がして来たんだよ。流されるようにな。お前が呼んだのかと思ったが違うのか?」


「私が?あっ。力が勝手に溢れてる……。ま、まずい」


目を閉じ、自分の顔の前で拳を握り締める天利。すると流れのようなものは徐々に薄れていく。天利の能力が俺をここまで呼びよせたってことか。……ただ、俺を導いていた流れは消えたものの、未だに何かを取り逃しそうな危うさを感じる。いたるところで俺に見えない何かが崩れている。き、危機はまだ終わっちゃないんだ!


「すまなかった悟。寝ぼけてお前を呼びよせてしまったようだ。だがもう大丈夫。これでお前に自由が戻るはずだ。用が済んだなら寮に帰るんだな」


「おいおい、そこら中の不穏な気配を見てみろよ。とんでもない事態が起きる前兆だろ!天利お前、主人公に隠れて何かやるつもりじゃないのか!」


「悟。私の立場でこんなこと言うのも変かもしれないが……。私は主人公とラスボスの対決をもう終わりにしたいんだ」


「な、なにっ。対決を終わるって……。お前、どういうつもりだっ!?」


「無責任な話になってしまうんだが。私は一度だけ対決して終わりにするつもりだったんだ。だけど、お前との物語の先がどうしても気になってしまってな。……終わらせることができなかった。私は力を使ってお前の物語を追い続け、機会があればラスボス戦を何度も行うようになってしまった」


「別にいいだろ!何が不満なんだ!」


「舞台から降りられないからダメなんだ。もう舞台は終わっているんだよ悟。私たちの勝負は決着がついている。……主人公のお前に酷なことを言っているのはわかる。だが私のために主人公を降りてくれ。……いや違うか。悟、お前がどう望もうが関係ない!私はお前に引き留められはしないし、お前を主人公から引きずり降ろしてやるまでだっ!」


「へっ。いつもの調子が戻ってきたみたいだな。ちょっと安心したぜ。なら話は早い!お前を倒してラスボス続行させるまでだ!水圧圧縮砲!」


「無駄だ!変身中に攻撃は通じない!」


[きぃん!]


「い、いきなり第二形態からかよ!」


天利が眩い光に包まれる。水の魔法弾は天利に届く前に謎の光によって弾かれてしまった。……確か、普段の天利はMPの範囲内でのみだが物事を自由自在に動かすことができるはず。俺を一撃で気絶させるくらいなら訳ない。それをしないってことは、やっぱり主人公とラスボスの熱い戦いが望みなんだろ!


「よく見ろ悟!お前の物語を覗いていて編み出した、もう一つの第二形態だっ!」


「なにっ!そ、その姿は!」


光の壁が取り除かれ、天利が姿を現した。だがそれは以前見た魔法少女の衣装じゃない。肩に背負った緑のコートに緑のズボン。中には白いシャツ。お、俺の服装と同じじゃねーか!


「なんで俺の服装を!」


「服装だけじゃないさ!水之長離弾!」


[どかああぁん!]


「ぐうああぁっ!?」


[ざばあぁん!]


天利の手から水の弾が発射され俺の体を吹き飛ばす。とっさに腕でガードしたものの、砂浜を横断するように飛んでいき、俺の体は海の浅い所へと叩き込まれてしまう。……あ、あの水の魔法弾はサイズの割には凄い威力だ。多分、技名と押す力の伸び方からしてスナイパーライフルがモチーフだと思うが。


「いてて。げほっ。お、俺の水圧圧縮砲より高威力じゃねーか!」


「当然だ!第二形態用の技は予め緻密に設定してあるのだからな!私の魔法弾は全てが高威力か高連射!意識も体力もすぐに削り切る!」


天利の第二形態の技はそこまで万能じゃない。代わりにMPを消費することなくタダで撃ち放題だ。この威力の魔法弾を連発されたら相当厳しいぜ。


「技名も前とは全く違う感じに変えやがって!」


「くっくっく。記紀弥にアドバイスをもらったのだ。恐らくお前が私を止めるだろうからわかりやすい技名にしろと」


「ふん。記紀弥には話してたってことか」


「あいつは特別なんだ。お前の主人公という立場も相当なものではあるがな。私の事情を知りたければこの戦いでその気にさせることだ!風之長離弾!」


「おっと!どの道ぶっ倒して聞き出すつもりだ!水圧圧縮砲!」


「くっ」


天利の風の弾は俺から大きく外れた方向へ飛んでいき、俺の発射した水の魔法弾は天利に真っすぐ飛んでいく。だが吹っ飛ばされて距離が離れていたからか容易く避けられてしまう。……距離的には天利の弾は威力や精度に余裕があるはずだが、手の平を向けて発射する都合で命中率は高くなさそうだ。あれだと10メートル以上でまともに命中させるのは難しいだろうな。


「う。海水が重い」


「ならば避けられないほど撃ち込むまでっ!水之短離連弾!」


[ずかかかかかかかかっ!]


「ぐあっ!」


海から砂浜に移動した俺に対し、天利は両手から水の弾を連射しながら俺に標準を近づけてくる。ふらつくように左右に避けるように動くがそれでも何発かの弾が俺のコートにまで届く。この距離だから致命的なほど弾を浴びてはいないが、至近距離でこの技を使われたら十秒もあれば気絶すると思う!


だが、天利の弾は一発外れるごとに命中精度が落ちていく!下は砂浜!撃てば撃つほど砂が舞い散り俺を補足するのが難しくなっていくのさ!もうすでに俺らの射程距離内は砂塵のフィールドに覆われた!天利の多くの弾は見当違いの方角へ飛んでいき、更に砂を撒き散らしているぜ!


「はっはっははは~っ!高性能コートごとズタボロにしてくれる!はははは……はっ!こ、これは」


「気づいたようだな!火力が裏目だってことによ!空気圧分裂砲!」


「そこだっ!」


俺は移動しながら周囲の地面に風の魔法弾を撃ち込んで砂を巻き上げる。そして天利の水の弾は俺が先ほどまでいた位置を集中攻撃して砂を巻き上げる。……これで更にこの辺りの視界は悪くなった!天利は俺の姿を見失っていることだろう!だが、俺の方からははっきりと天利の姿が見える!視力の性能差までは俺を上回れなかったようだな!


俺は気づかれないように闇雲ステップで天利の背後へと回り込む。


「今の悟の声……いつの間にか距離を詰められていたのか!一体どこに」


「背後だ!水圧圧縮砲!」


[どかああぁん!]


天利の脳天に水鉄砲を突きつけ、水の魔法弾を叩き込む。勢いよく砂の地中へと吹っ飛んでいき、天利の上半身は地面に突き刺さった。……天利は子供姿だからな。距離が近いとどうしても上からの攻撃になっちまうぜ。今回は飛びまわってなかったし。


「もう身動きは取れないだろ!俺の勝ちだ!」


「むぐぐ~!」


「へっ。とりあえず引っ張り上げるか」


じたばたする天利の両足を掴み、砂の中から引き上げる。天利は立ち上がって砂を払うと、変身を解除して普通の服装に着替えた。……負けたからって恨めしそうに睨むなよ。


「悟、勝負はお前の勝ちだ。でも私がラスボスを辞めることに変更はない」


「戦いで負けたのにか。酷い話だぜ」


「ああそうだ、酷い話で間違いない。やむ得ぬ理由がある訳じゃない。続けようと思えばいくらでも続けられる。……私がラスボスを辞めるのは完全に私情だ。だから黙って辞めるつもりだったのだがな」


「大体どういう経緯で辞めようと思ったんだよ」


「それを私の口から言うつもりはないぞ。私の素性をお前に知られたくはないからな。せめてお前の中では今の私が全てであってほしいんだ」


「天利の素性……。よく耳にする八つ裂きとかと関係あるのか?」


「いいや。そんな濃い設定とか何にもない私が……。っと口が滑りそうだ。とにかく悟!私はお前に経緯や事情を話すつもりはない!そんなつもりはなかった。だが……。今の戦いで少しだけ欲が出た」


「欲?」


「私の素性を追ってお前が動き回り。私の素性を知るためにお前が考え抜き。しまいには私の全てを解き明かされてしまう。私は気恥ずかしさと嬉しさで涙が溢れ、主人公とラスボスの物語に終止符が打たれる。……こういう展開に期待してしまったんだ」


「お前、本当に素性を知られたくないのか?真逆のこと言ってないか?」


「さあな。だが今の戦いが私に迷いを生じさせたのは確かだ。だから1年間。ラスボスを辞めるまでに1年間だけ猶予を設けようと思う」


「い、1年間。案外短いな」


「悟!もしもお前が真実を知りたければ!この1年の間に全て解き明かしてみるがいい!期限は特星標準時間で3月10日が終わるまで!いつものように気を抜けば、あっという間に過ぎ去るだろう!私がラスボスを辞めるのが先か、お前が全てを解き明かすのが先か!勝負だ悟!」


「ラスボスの概念が消えれば、相手役である主人公の概念も自然消滅するだろうぜ。これが主人公とラスボスの最終決戦ってわけか。……ああいいぜ受けてやるよ!天利!お前が何を隠していようと俺のずば抜けた視力から逃れることはできない!目標が定まったからには、何がなんでもこの対決で勝利してやるぜ!」


俺は天利に背を向けて、その場を後にする。1年間か。普段ならいつの間にか過ぎ去っている時間だ。だけど今回はそのわずかな時間で決着を付けなければならない。天利のラスボス事情に詳しそうな人物……。やっぱり相談がどうのと言っていた記紀弥辺りが最有力候補か?


「……あれ?」


そういえば、そこら中から感じられた危うい気配がなくなっているな。ひとまずこれで良かったってことか?タイミング的に天利がラスボス辞めることに関係してたのかな。




〔寮の方向はそっちじゃないぜ〕


勇者社のワープ装置へ向かう途中、ボケ役の声が頭の中に聞こえてくる。よく考えたらこいつも天利がラスボス辞めることについて何か知ってそうだよな。どうなんだ実際のところ。


〔俺?相当詳しいさ。俺って基本的に魅異の味方でしかないけど、お前達のことも応援しているよ。だから1つアドバイスをしてやる。……早期解決はベストになり得ないぜ〕


ど、どういう意味だ!?……あと、今更思い出したかのように魅異大好き設定を持ってくるなよ。最近そういう素振りなかっただろおめー。


〔ふっ。猶予が1年もあるんだ。それを数日でエンディングに辿り着いたとして、トゥルーエンドの可能性は低いと思わないか?現実的な話をすると、天利が1年もの期間を設けたのには理由があるってことさ。天利の期待している展開には、時間で焦らされる楽しみも含まれている。いきなり寺に向かうのは急ぎ過ぎだ〕


その言い方だと記紀弥が重要な話を知ってるってことか。だが、そんなラスボス側の事情を考えた動き方で対決ってのも違うんじゃないか。


〔じゃあ正直に言うよ。天利が寺に向かったんだ。今から寺に行くと鉢合わせして凄く気まずいしネタバレ喰らう可能性もあるぞ。あんな別れ方した後にバッタリ会っちまう〕


う、それは俺も嫌だな……。今日は寺に行くのはやめとくか。電子界に向かおう。




「あの天利がそんなことを……。お前が自室で流れを感じるとか独り言を言ってたのは、その件のことでしたか」


電子界のいつもの大部屋にて、俺は電子界のドラゴンにさっきまでの事情を一通り話し終えた。……そういやこいつは魔鏡を通して俺の部屋の様子を知ることができるんだったな。鏡だから声は聞こえないだろうが、こいつの扱える魔法には見た場面を再生する技があるそうだ。朝のシーンの口の動きから俺の言葉を読み取っていたんだろう。……いや、それはそれで暇人すぎやしないか。


「お前は昔から地球を見ていたんだろ。天利がラスボス辞める理由とか心当たりはないか?」


「大方見当が付きますよ。最近のお前は信仰生物たちを追って地球に乗り込んでいました。更には黒天利の登場もあります。地球と黒天利……。物語の力を使ってそれらを見てしまった天利は、昔を思い出した。自分の生き方に疑問を抱いたのでしょう」


「ならお前の起こした事件が発端じゃねーか。よくもまあ自慢げに言えたもんだぜ」


「ふっふっふ。私たちドラゴンは学者気質ですから。自らの非や後ろめたさなんて、事実を見つける可能性に比べればちっぽけなものです」


「さっき言った昔っていうのは?」


「それはわかりません。私の関知していない出来事ですので。ただ、私なりにヒントを出すなら……。私は天利が生まれてから特星に行くまでの全てを知っています。そして昔というのは天利が特星に行く以前の出来事なのです」


「んー?ははん、わかったぞ。これは謎解きヒントだ!1:昔を感知していない、2:特星に行くまでを感知している、3:昔は特星に行くより前。これらは一見矛盾しているようだが違う!天利は2度以上特星に行っていたんだ!2と3の"特星に行く"が別のものを指していれば話は矛盾しない!これが答えだ!そうだろ!?」


「おや、お前にしてはいい線行っていますね。確かに天利は1度地球に帰還しています。……あの帰還で希求が生まれたのでしたね。だからお前の予想通りの考え方もできなくはありません。でも残念ですねー。2と3の"特星に行く"はどちらも同じ、天利が初めて特星に行った際のことを指しています」


「え、じゃあヒントがおかしくないか?」


「おかしくても事実ですからね。大体、考えても見なさい雷之 悟。私が謎解きヒントなんて意地悪をお前に言うわけないでしょう。お前が困っているのを見過ごせないんです私は」


「な、何か今日は好意的だな。逆に怪しい気がする」


「ふふふ、気付きましたか。実はお前が前回持ってきた話のおかげで思いついたのですよ。電子界を脱出する方法をね!」


「え、すげーな。俺は未だにいい方法を思い付いてないのに」


前回持ってきた話っていうとあれか。宿題でベリーから聞いてきた死生観や不老不死の話。でもあの話の中に電子界や信仰の話って出てなかった気がするけど。一体どんな方法を?


「そ、それでですね。脱出の方法というのが私一人だと、その、難しくて。お前さえよければ手伝ってくれないかなー……なんて」


「手伝う手伝う。お前をここから出さないと信仰生物の事件は解決したとは言えないからな」


「で、ですが。あまり他の人に頼むことじゃなくて。お前だって嫌な気持ちになると思いますよ……?今日を忘れられずにトラウマになるかも……。本当にいいんですか」


「今更気を使うこともないと思うぜ」


「よかった……!実は私、先月からずっとひとりで頑張ってたけどどうしても我慢できなくて。もうお前に力づくでやってもらうしか乗り切る方法がなかったんです」


「もう試してたのか。で、お前を電子界から出すには何をすればいいんだ?」


「わ、私の体をめちゃくちゃにしなければなりません。意味は分かりますね?」


「……お前、わざと誤解させる言いまわしをしてやがるだろ。残念ながら、俺は地球生まれだ!その程度のネタに引っかかりはしないのさ!さあ、さっさと本当の脱出方法を言うんだな!何をするのかまで具体的に述べな!」


「嘘は言ってません。私の体を粉々に消し飛ばさなければならないんです。お前は流双戦のとき、電子界だからって自分の首を囮にしてたでしょう。だから他人の体なら尚のこと、気にせず好き勝手するだろうなーって思ったわけです」


「消し飛ばすくらいならお安い御用だけどよ。でもそれで本当に電子界を脱出できるのか?」


「ええ。ベリーの話に出てきた脳を細かく分けていく例え。あれがヒントになりました。……私の体は電子界の出入り口よりもエネルギーが大きくて出入りできない。ですが、電子界では信仰のように物質未満のものにも仮の体を与えています。例えこの身が散り散りになろうと失うのは仮の体。私自身が死ぬわけではありません」


「粉々にしちまえば電子界の出入り口を通れるってわけか」


「この狂った発想はお前の功績ですよ。お前が流双戦で自らの首を犠牲にした。お前がベリーの話を持ってきた。……私の体を粉砕するというこの責務、常人には任せられません。主人公以外を軽視するお前だから任せるのです」


「いや誰も軽視はしてないけど。一方的に攻撃するのは気が引けるしな。まあでも、壊すしか方法がないのならやってやるさ」


「来なさい雷之 悟。このエクサスターガンの使えない電子界で壊す意思を保ち続けるのです。それしか私を救う道はないっ!」


「ああ!俺を気遣うなら泣き喚くなよっ!水圧圧縮砲!」


俺は両手に水鉄砲を構え、中央で待ち構えるドラゴンに向かっていく。これから電子界の偽の魔法弾だけで、このドラゴンを粉々になるまで攻撃しなければならない。ちっ、長い戦いになりそうだ!




「あああああぁぁぁぁぁ……。疲れた……」


電子界での長い戦いの末、俺はドラゴンを完全に塵にするまで壊し続けることに成功した。体感時間は20時間くらい。頭を倒してもやや小型化して復活するから、10割近くあいつの声が聞こえていた。主人公とはいえ、気を病みそうな戦闘だったよ。


戦いに疲れた俺は魔鏡の前に倒れ伏し、一切の身動きが取れない状態であった。体は疲れていないが心の疲労で何もできそうにない。


〔わああぁ。久々の太陽光です!見てみなさい雷之 悟!私たちは電子界の外に出たんですよ!〕


「無理……」


電子界のドラゴンは無事に外に出ることができた。あいつの体は外にない。幽霊のように姿が見える訳でもない。でも、はしゃぎまわる声が確かに脳内に聞こえてくる。……これが幻覚で、現実では電子界でドラゴンの悲鳴が響き渡ってるっていう鬱展開が頭に浮かぶ。その可能性を考えるほど本当に長い戦いだったんだ。きっと特星の不老不死オーラでも俺の心の疲労はまだ癒しきれないんだろうな。


「本当に俺でよかったのかな……」


〔え?〕


「一度さ、流双来てただろ。あいつ、お前を切って持ち出そうとしてたし……。俺より流双に任せた方が、お前は楽に外に出れたんじゃないかって」


〔それは違いますよ。確かに流双姫であれば、お前の半分の時間で私を粉みじんにするでしょう。でも、お前にやられるよりもきっと何倍も苦しかったと思います。……お前は私を壊す間、ずっと私を気にかけて、心配しながら壊してくれた。お前は私が思っていたよりもずっと人間的で、その身振りが、壊れる苦しさを和らげていた気がするんです〕


「そういや俺のことを主人公以外軽視するって言ってたもんな」


〔う。それはまあ、いい意味で私の見込み違いだったんですよ。私自身、お前や人間を軽視していたのかもしれません。……ただ、流双姫よりお前を信頼していたのは事実です。あの女はいい機会だから私を狙ったに過ぎない。電子界に閉じ込められていた私に会いに来たのは、唯一お前だけでした〕


「魔鏡がなければ流双は電子界に向かえないからな。偽正者も電子界を通った筈だが、まあその様子だとお前に用があったわけじゃなさそうだし」


まあ、俺も最初は信仰生物の事件解決のために会いに行ったに過ぎないけど。でも途中からは本来の目的とは関係なく会いに行っていた気もするな。毎月会いに行くっていう約束は守ってたが、少しずつ会う期間が短くなってたし。


〔感謝していますよ、雷之 悟。……本当にありがとうございます。私が言えたことではないかもですが、今日はゆっくり休んで心の疲れを癒してください〕


「……もう十分疲れは取れたさ。でも折角だ。もう少し休むことにするよ」


〔はい。お休みなさい〕


仰向けになると、いつの間にか梅雨前の日差しが部屋を照らしている。暖かい日の中、俺はゆっくりと目を閉じ、心地よい眠りに落ちるのだった。

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