一話 電子界の不可逆児 ~竜切りの異電波刀
@悟視点@
冬の寒さも落ち着きつつある3月の始まりだ。寝起きではあるが今月も電子界で話を聞いてくるとするか。それじゃあ鏡の前でコートを脱いで……。
[ひゅん]
「ん?うおっ!」
[ぱしぃ!]
玄関ドアの隙間の奥が動いたような気がして視線を向けると、わずかな隙間から1枚のカードが俺の顔目掛けて飛んでくる!あ、危ねえ!反射的に指で受け取ることができたが……俺じゃなけりゃ喰らってたぞ!
「ちっ、何だよ!……果たし状?」
カードには血文字っぽい赤インクで果たし状の文字、そして場所と時間が記されている。今月1日の早朝5時、ここの寮前にて決闘!?って、今日じゃねえか!
「今の時間は……5時だと!?」
慌てて玄関の鍵とドアを開け、外へと飛び出す。すると日も昇っていない寒空の下に確かに人が居る。赤色のサンタ服をマントっぽく風になびかせて数枚のカードをこちらに向けて待ち構えていやがる!まだ見覚えがあるあの顔は……レッド野郎の城赤っ!
「おや。時間ぴったりに来るとは随分と余裕じゃあないか、緑服!」
「レッド野郎!あんな挑戦状寄こしやがって!またカードでボコボコにされたいか!」
「ふふふふ。今の俺はそういうつまらない勝負に興味はないさ。むしろ俺が望むのは君が得意なリアルファイトでの勝負!雷之 悟……まさか俺との勝負から逃げはしないだろうね?」
「えっ!?いやまあ逃げやしないが。……お前が普通に戦うのか?」
「俺を以前のようにカードだけの男だと思わないことだ。確かに君と会ったときの俺はろくに戦闘能力も戦闘経験もない単なる天才カードプレイヤーだった。だけど、君にカード勝負で負けてからは単なるカードゲームの実力だけでは世界は取れないと思い始めてね。カードを扱う修行をしたのさ」
「そしてドアの隙間を通すほどのカード投げを取得したと。へっ、カード投げてるだけで敵が気絶するなら俺だって投げてやるぜ」
「そいつは無理だね!君にはカード一枚拾えやしないっ!ほらっ!」
「っと!へっ、カードなんか仮に当たっても」
[どがあぁん!]
「な、なにぃ!?」
城赤の投げ放ったカードを体をしゃがんで避けたまではいいが、何だあの威力は!あのカード……寮の柱を一本粉砕しやがったぞ!バカなっ、特殊能力にしても並の威力じゃない!どうして非戦闘員っぽい男の攻撃にあそこまでの破壊力があるんだ!?
「ふふふっ、どうした?当たってみなよ!緑服っ!」
「うおおっ!?」
[どがががががあぁん!]
膝辺り目掛けて飛んできた10枚近くのカードを後ろに飛んで避ける。奴の投げたカードは着地した地面を軽くえぐるように粉砕していく!くっ、着弾点の土を粉砕するほど高威力のカードをあれほど連発できるっていうのか!
「ならっ、水圧圧縮砲!」
「軽過ぎる弾だね。そぉら!」
[どがああぁん!どすっ]
「くっ!ダメか!」
水の魔法弾はカードによって散り散りに砕かれ、奴のカードは俺の足元に深々と突き刺さる。一体何なんだこのカードは!?
「ならこっちもカードで!うげっ!?」
足元に突き刺さったカードを拾おうとするが、思ったよりも持ち上がらない!こ、このカードとんでもなく重い!よく見ると、材質も紙じゃなくてよく知らない謎の金属でできていやがる!
「重っ!こ、これは!?」
「言ったじゃないか。君にそのカードは拾えないよ。1枚の重さを約10キロにまで水増しした、勇者社でオーダーメイドした特別なカードだからね」
「10キロ!?オーダーメイドだと!こ、姑息な……!」
「ふっ、これを見るがいい!」
「な、なにぃ!」
城赤がサンタ服の中に来ている分厚い上着を開くと、その内側には隙間なく敷き詰められた大量の内ポケットが姿を現した。胴・袖・首回り……全ての上着の内側ポケットが不自然に膨れ上がっている。いくつかのポケットの隙間からは戦闘で投げていたものと同じカードがちらりと見えている。
「さらに仕込みズボンにもだっ!俺はいたるところにデッキを仕込んでいる!デッキは全て50枚……全身の仕込みだけで100ものデッキを用意しているのさ!」
「つまり5000枚の10キロ……5万キログラムっ!?い、いや、お前はさっき更にサンタ服のポケットからもカードを取り出していた……!」
「ま、挑戦状用の予備カードとかも何枚かあるけどね。だが、ほぼ全てのカードを10キロのオーダーメイドで揃えてあるのさ!」
「過剰に持ち過ぎだろバカ!」
「心配ご無用。確かに普段の俺は1キロの荷物ですら運べないほどの非力な存在。だが、事カードに関しては羽のように軽々と扱えるのさっ!」
「一般人なら限度を考えろっての!水圧圧縮砲!」
[どがあぁん……!]
「うっ、直撃したのにビクともしねえ……!」
「無駄だね。間にカードがある限り、俺への攻撃は半減するっ!更に上級テクを喰らえ!」
「っと!」
[どがあぁん!]
城赤がデッキを1つ構えたかと思うと、そのデッキの真ん中あたりのカードが一直線に飛んでいき俺の顔を掠めていく。そしてカードの銃弾は寮の壁の一部を破壊してしまう。い、今のはまさかデッキのカードを爪で弾き飛ばしたってのか!?
「こ、こいつ!」
「ふっふっふ、そうだよ。カードの扱いに長けた俺であれば狙ったカードを射出するなんてわけはない。今、君を掠めていったのはジョーカーのカードのはずさ」
「ぐっ、確かに寮の壁にはジョーカーのカードが刺さっていやがる。威力の高さから見てもオーダーメイド品の10キロカードで間違いないだろうぜ。だが、やっぱりお前にそのカードを扱うだけの力量があるとは思えない!お前、一体どんなインチキでパワーアップしてやがる!」
「ふん。……つくづく君のような奴にカード勝負で負けたと思うと頭に来るよ。戦闘慣れしていない俺が君に勝つために対策するなら、その方法はひとつじゃないか」
「な、なにぃ?」
「君の特星内でのリアルファイトの勝率については色々調べさせてもらったよ。オーダーメイドの高性能なコート、地球由来の一撃必殺武器エクサスターガン、そして俺と同じく特星のギミックを利用した技の強化。……他にも神とか信仰の話も聞いた気がするなぁ」
「他はわかるが、特星のギミックだと?」
「クリア報酬で水系統の力を永続強化するゲームがあるんだろう?唯一ゲームクリアした男が君だとカードゲーム仲間から聞いた」
「ああ、あのゲームか……」
ゲームクリア後にコントローラーの使い捨てレーザー銃機能をオンにして、ソフトど真ん中を適性距離・適正位置からゲーム内時間ぴったりで撃ち抜いたときに水系の技が強化されたんだったな。攻略法自体は説明書に載ってたはずだが……。ま、ソフト壊すなんて普通はやらねーか。
「ってことは。まさかお前も?」
「そう、君の強さの秘訣で真似できそうなのは一通り真似しているのさ。俺に最も適しているものを用いてね。装備はオーダーメイドの重量級カードや重さに耐えうる衣服を身に着けている!更には特星ギミックにより、俺自身にはカード重量への永続的な強耐性が付与された!」
「カード重量耐性!そんな便利そうな力があるのか!?」
「日頃の行いだよ。カード1億回ドローを毎年行い、10年間続けることが条件だったようだ。この力を身に着けたからこそ君と戦うために色々調べてオーダーメイド品を作ったってわけ」
「年間1億回……!」
一体どんな生活をすればそんな苦行をする羽目に……。いや、だがボケ役自家製のカードを1億5000万枚も持ってたような世間離れした異端者だ。あり得なくはないのか。ちっ、戦利品集めに丁度よさそうな力だと思ったんだが、俺のゲームソフトとは難易度が違い過ぎて達成できそうにないな。
「さて、お喋りはこのくらいにしておこうか。俺のデッキの防御性能は見ての通りの鉄壁だよ。君にこの装備を打ち破る術があるとしたら……、そう、エクサスターガンしかないだろうね」
「なんだって?」
「ふっ、見せてみろよ緑服。噂によると結構な破壊力らしいじゃないか。君の最強装備と俺の最強装備のどっちが強いのか……勝負してみようじゃないか!」
「その必要はないぜ。お前の手は読めてるんだよレッド野郎!」
「な、なんだと?」
城赤の最強装備をエクサバーストで打ち破る。それはつまり俺の戦利品を自らの手で消滅させてしまうってことだ。自分で自分の財産を消滅させる……この勝ち方には覚えがある。そう、俺がカードバトルで奴に仕掛けた破棄戦術とまったく同じ!奴の狙いは、俺の戦利品をわざわざ俺に消滅させて精神的ダメージを与えることってわけだ!
「お前の目的はずばり、お前の身に着けているカードを消滅させることで俺の財産を削ろうって魂胆だろ!以前俺がカード破棄を強要したことを意趣返しする見事な戦術だが、お見通しだぜ!」
「いや、このカードは俺の財産だよ」
「へっ、しらばっくれるなよ!対戦相手の落としたアイテムは基本的に戦利品だ!カードなんて散らばりやすいものを身に着けているのも作戦の内だろ!?大量の戦利品を期待させておき、結果は俺自らの手でカードにエクサバーストして戦利品消滅!ショックを増幅させるって訳だ……!恐ろしい計画性だぜ、全く!」
「落としたアイテムが戦利品だって?そ、そういえばそんな約束事がリアルファイトにあったような……。まさか君、俺のカードを盗る気か!?」
とはいえ、作戦を見破ったからといって完璧に戦利品を入手できる訳でもないんだよな。相手の装備品や所持しているものは当然奪うわけにはいかないし、戦闘終了後から一定期間は返品要請だってできる。それに正当に戦利品を手に入れた相手を逆恨みしてもいいわけだし。……レッド野郎は一体どこまで織り込み済みなんだろうか。
「くっ、一度ならず二度までもカードを奪わせるわけにはいかない!仕方がない、エクサスターガンを使う前に決着をつける!喰らえっ!」
「カード弾は見切った!コートキャッチャー!」
城赤がデッキのカードを弾いて連射してくるのに対し、俺は取り出した予備コートを的確に操って射出されたカードを捕らえていく。さ、さすがに痛い……!1枚カードを捕獲するごとに腕と肩に攻撃を受けたかのような衝撃が伝わる!だ、だが、コートの扱いに長けた俺にとって、コートを通してのダメージは塵みたいなものだぁっ!
「うぐおぉ……!こ、これで10枚だぁ!」
「バカな!?」
「コートハンマーぁぁぁ・アタック!」
[どがきいぃぃん!]
「うぐううぅっ!」
10キログラムのカードが10枚入りの予備コートを大きく振りかざし、デッキで固められている城赤のボディへと全力で叩きつける!奴は声を漏らしながら何歩か後ろに引き下がったものの、気絶に至るほどの威力はなかったらしく両手を握り締めて体勢を崩すことなく立っている。
「ま、まだだ……!カード越しのダメージで倒れる訳には……。えっ居ない!?」
「頭にまでは、仕込んでねーよな!?」
「しまった!」
「水圧圧縮砲!」
[どかああぁん!]
「ぐああぁっ!」
城赤の後頭部に突きつけた水鉄砲から水の魔法弾が発射される。いくらこいつでも頭にデッキを仕込んではいなかったようで、そのまま勢いよく地面に倒れ伏した。……コートでの囮攻撃で隙を作って後ろに回り込む作戦だったのさ。もっとも、本当は目くらましのために顔狙いだった一撃が重すぎてボディ狙いになったんだけど。城赤が戦闘の初心者だったおかげで狙いが外れても何とかなったな。
「戦闘に慣れてない割には相当強かったぜ。だが残念だったな。俺はこう見えてもヘッドショットは割と得意なのさ。ま、誰も気にしてないけど」
「う……げふっ。お、おい……」
「うおっ!まだ意識があったのか!?タフな奴だ」
「俺から……離れた方がいいよ。間もなく、カードの全重量が……地面へと直撃する。もうすぐ地面が陥没するだろう……」
「何!?ど、どういうことだ?」
「5万キログラム……。この重さが人間一人分の面積に集められれば、この寮付近の土の地面では耐えられないだろうって話だよ。今はまだいい……。俺の絶妙なカード捌きによって地面への負荷の多くが消失している。だが、俺が意識を失った瞬間……5万キロの重さで地面に穴が開くだろうね。5万キロの負荷で作られた深い穴……落ちたら危ない」
「そ、そうだな。カード捌きで5万キロも消失するのかは疑わしいが……」
「寝てるだけに見えるが、こ、これでもカードの体重移動を高速で行っているのさ。体内でな。ぐっ、だがもうダメだ……!ぐわーっ!」
「っと!」
[ずどががががががあああぁん!]
城赤はうるさい声を上げながら意識を失い、突き抜けるかのように地中へと沈んでいった。俺は一歩後ろに引いた位置から顔だけ出して穴の中を覗いてみる。すると、地中の硬い岩に突き当たって動きが止まっている城赤の姿がそこにはあった。気絶しているがあの状態だと例え目が覚めても動くことはできないだろう。……あそこまでの行動不能状態だと魅異の手を借りることになるかもしれないな。この深さだと人が沈んでることに気づくのは難しそうだし。
「うーむ、慣れない戦闘は事故の元だな。俺にできそうなことはないし戦利品集めて早く電子界に向かうとするか」
[ばさっ]
「……重っ!う、動きそうにないっ」
城赤のカードを包んだ予備コートを回収しようとするが、あまりの重さに引っ張ってもビクともしない。よく考えたら10枚包んで100キログラムだろ?よくもまあ俺はこんなものを振り回せたもんだ……。ノリと勢いってのは恐ろしいな……。
「あーもう!仕方ないな、この予備コートはくれてやる!」
結局、カードを1枚も奪うことなく予備コートも諦めて部屋に戻ることにする。戦利品を得るどころかコートを失って損してしまった。まさか城赤はここまで計画していたんじゃねーだろうな?
「ってなことがあってよ。朝から大変だったんだ。むぐむぐ」
電子界のドラゴンが居る部屋で、俺は巨大クッキーの一部を削り食いしながら朝の出来事について話す。このクッキーはドラゴンが魔法で出現させたもので、俺の背丈の何倍ものサイズだ。来訪でお菓子が出るようになったのは嬉しいんだが……こんなに要らねー。
「お前の周りにはろくな人間が居ませんねぇ。お前自身がだらしないから変なのばかり寄ってくることになるのですよ?私のような知的で物知りな人物を参考に精進することです」
「人じゃないのによく言うよ」
「ふふふふ。さて、今日も信仰生物のことを教えてあげましょう。今日は確か……あー、今日は正者ですか。あの男かぁ……」
「お、露骨に嫌そうだな。正者ってドラゴンからも嫌われてるのか?」
「人間の正者とはちょっと因縁がありましてね。信仰生物の正者も……お前と初遭遇する少し前くらいに顔を合わせましたね。だから、あの日の私はちょっとお前に当たりが強かったでしょう?」
「ああ。いきなり踏み殺されかけたな」
「あ、あれはお前ならば生き残れるだろうと信じての愛のムチです!現にお前は生き残りましたね!?それにほら、電子界での傷は外に出たときに反映されません!」
「本当にそこまで考慮してたかなぁ?」
俺を踏んだときには力尽きたか確認してた気がするし、電子界の外にダメージが持ち越されないことも奴は忘れていたような気がするが……。
「話を戻しましょう!正者……特に信仰生物の正者というのは今の日本産業の方向性を定めた人物といっても過言ではないでしょう」
「産業……。も、もしかして今回は難しい話か?」
「お前でもわかる簡単な話ですよ。まずお前は正者によってもたらされた日本の大事件を知っていますか?」
「大恐慌エイプリル……のことだよな?」
「ええ。人間の正者が錬金術の力を用いて日本の資産を奪い尽くした事件です。直接の死者こそ0人でしたが……医療器具の壊滅や自殺など実際はかなりの被害が出ています」
「へー。って錬金術の力?」
「皿々ちゃんがそう言ってましたよ。魔法や信仰の類ではなかったので彼女に調べてもらったんです。当時はまだ電子界が機能していましたからね」
錬金術といえば、いつぞやに皿々やアルテと一緒に錬金術の怪物を倒したことがあったな。それで確か錬金術の怪物が正者の願いを叶えてるっぽい感じだったはずだ。大メインショット郷国にいた謎の女科学者とその側近の影生物も同じようなことを言っていた。多分、正者の錬金術の力ってのはあの怪物のことなんだろうな。……じゃあ皿々は100年近く昔にはあの錬金術の怪物のことを知ってたのか。
「大恐慌エイプリルの被害を受けた日本では再起の際に、国の中心産業を一つ定めました。それが宇宙ロケット開発に限定した製造業でした」
「まあ、ロケット事業は昔からやってるイメージはあるよな」
「そして、そのロケット開発の技術を利用することで実現した新たなる都市構造……地下都市。ロケット製造が飽和して、娯楽や商品のユニークさが重要視され始めた総クリエイター時代に、信仰生物の正者はその構想をある男へと持ち込んだのです。今や総局長と呼ばれる男に」
「今の瞑宰県テレビ局長だな!あ、ところで総クリエイター時代って俺の住んでた頃だけど、正者も黒天利と同時期に生まれたのか?」
「正者の信仰が電子界にやってきたのは大恐慌エイプリルの直後。あの信仰生物3人の中では最古参です。信仰生物としての自我を与えたのも他2人よりも早かったですね」
「そういえば、お前が信仰生物の誕生を早めていたんだっけ」
「ま、実体化したのは黒天利とほとんど同時期ですけどね。ふっふっふ、実体化の要がこれまたおバカさんで世間知らずでして……正者のことを知った時期がその頃なのですよ」
「へえー!正者なんて子供でも知ってそうなのにな。へっ、よほど日本の事情に疎い奴に違いないぜ、そいつ」
「そうですよ。収録番組名を見て、こんな無名のやつに番組持たせるなら俺の出番増やせと文句を言い、正者がどういう人物か説明を受けたというほどの」
「むぐっ!?」
口に入れたクッキーが喉元で止まる。ドラゴンの話に出てくる人物には心当たりがある……ってか俺だよ!しかもこの話には続きがある。……そう確か、せっかく歴史っぽいことを覚えたからって校長に知識自慢しに行ったんだ。で、正者のようなやつが出てくるのは周りの人間が悪いって軽口叩いたら校長が落ち込んで……、1週間は塞ぎ込んでたっけか。今思えば兄のことで色々言われて落ち込んでたのかもな。
「おい、話が逸れてるぞ」
「お前が逸らしたんですよ、お前が。……さっきも言いましたが、信仰生物の正者は大恐慌エイプリル後の電子界がまともだった頃から地球に出入りしています。電子界や一部のドラゴン達の内情についても把握していて、それ故に地球周りの異変を活用できる立場であるともいえます」
「異変の活用だと?」
「地下都市計画に使われる加工技術などがいい例ですね。あれは電波妨害が収束しないことを知っていたからこそ、ロケット関連の一部技術や設備を安値で買い取ることができたのです。まあ、これは正者に入れ知恵された相方のやったことですけど。後は、情報の見返りに支援を受けることで局長候補から総局長にまでスピード出世したりなどです」
「偽正者が裏で手を引いているが、基本的にはテレビ局長がメインで動いてるんだな」
「彼がメインで動いたこともあるにはありますが。テレビ局で信仰生物の天利……黒天利と遭遇した偽正者は資金提供を賭けた勝負を受けてますよ。負けましたけどね」
「そういや黒天利って資金提供の対価になるもの持ってたっけ?」
「挑発に乗って、負けたら渡すという一方的な条件で受けてました。思えば偽正者が自ら何かしたのはその勝負と土地売買とお前が地球に来たときだけですね。……土地売買はこのときに基礎を身に着けて、後でまた活用する機会もありましたが」
「え、そうなの?地球を支配するために色々やってたんじゃないのか」
土地売買ってのは、黒天利のときにも聞いた覚えがある。確か、俺が乗り込んだ秘密基地やそこに続く秘密通路を偽正者が買い集めたって話だ。だが、偽正者はそれ以外にも地下都市に関することで色々やっていた筈じゃないのか?
「あの男は単独だと無力なんです。有益な話や他人の弱みを探すことは得意ですが活用する能力が全くない。性格的にも人の思いというものを蔑んでいるので他人を利用することのみで力を発揮するのです。……これは人間の正者の性格を引き継いだ彼が、大恐慌エイプリル後の状況下で最も生きやすい考え方を身につけた結果なのですけどね」
「大恐慌エイプリル後か……」
まあ、恐らくだが当時の正者への不満は物凄いものだったんだろうな。本物の正者は犯行直前、全てのテレビ放送で大々的に自分の仕業だと宣言したそうだし。偽正者がとりかえしのつかない不可逆を名乗ったりテレビ局で活動してたのも実はその辺が影響してるのかもしれん。
「ま、何となく想像はつくけどな」
「逆に本能的な部分は強かったりもしますよ。身に危険が迫れば、どんな犠牲や手段も厭わずに生き延びますし。不可逆を自負するだけのことはあって不安を持つ人間をいともたやすく探し当てますからね。不安な人間が発する電磁波に敏感なんですよ、あの男」
「信仰生物ってのはそういうのまでわかるもんなのか」
「いや、これは多分血筋の問題ですかね。お前の教師である正安も同じように特定の電磁波を察知する力を持っていますから。彼の場合は兄である正者特有の電磁波をキャッチしやすいのです。こういったレーダー的な体質は人間だけでなく各種族で一定以上の割合で出現することがわかっています」
そういえば雑魚ベーも女子小学生の気配がわかると言ってたな。女子小学生が居るか居ないかだけに絞れば特星の反対側でもわかるらしい。案外、面白能力みたいな一芸は誰でも何かしら持ってるのかもしれないな。
「偽正者は地下都市計画の進行や内容を総局長に任せきっていました。地中や空中の新土地制度などは偽正者が提案したものですが、メディアや政治家を巻き込んで採用させたのは総局長の手腕だったりします。あの男の功績は地下都市よりも地上での土地売買にあるでしょう」
「土地売買?」
「総局長から県が地下都市計画に全面協力するという話を聞き、偽正者は地下都市ブームで値下がりした瞑宰県の土地を買い漁ったのです。それもテレビ局の資金や地下都市の権利と引き換えでこっそりと県の大多数の土地を買い集めました。そしてテレビ局と瞑宰県にまとめて高値で売りつけたのです。エレベーターの設置に土地は必須でしたから」
「テレビ局の資産で買い集めた土地を、テレビ局に高値で売ったのか?悪魔みたいな所業だな……」
「これを総局長の個人名義でやっていたので色々と問題が発覚しましてね。結局、地下都市権利の希望者が多かったので総局長と県長が申請者と契約修正することで被害を抑えました。で、普通こんな事態になれば正者は縁を切られるのでしょうが、そうはならなかったのです」
「おや、買った土地から埋蔵金でも見つかったか?」
「お、案外いい線行ってますね!実は、偽正者が買い漁った土地の中にある科学者の家が紛れていましてね。偽正者は家主が残した不用品を回収するためにその家を漁っていたのですが、……そこで現代の技術でも実現されていない発明品の原案を見つけてしまったのです」
「そんなの家主にとっても大事のものなんじゃないのか?」
「いえ、科学者はとっくに亡くなっていて家主は原案の価値を知りません。余談ですが、その科学者は正安やお前の親たちとも顔なじみの男でしてね。死んだそいつが協力していなければ天利の子供化は実現しなかったでしょう。厳密には子供化ではないですが……」
「げ、天利の姿を変えたやつなのか!?」
「偽正者はその科学者の原案の一部を県と地下都市発展のためにという名目で寄付したんです。結果的にはその行為に総局長は心打たれました。提供された原案には新技術に転用可能なものや研究価値のあるものが複数含まれていたのです。……こうして信用を取り戻した偽正者ですが、やはり協力体制をずっと維持する気は毛頭ありませんでした。いずれ行う総局長乗っ取りのための準備を始めたのです」
「それってあの総局長の声と姿をそっくり再現した映像技術のことか?」
「そうです。渡さなかった原案に記された部品をこっそりとオーダーメイド発注したのです。土地売買で儲けたお金の何パーセントかを給料扱いで受け取っていましたから、資金には事欠くことはありません。自分そっくりの本物の戸籍もいくつか持っています」
「他人の金で土地の買取、未公表の原案に価値を見出す。まあ地球では確かに重宝されそうなスキルではあるよな。資金源である総局長の信用も取り戻せてるし。……あいつって本当に単独では無力なのか?」
「うーん?確かに、お前の言うことにも一理あるような。あの男は見てる分には何もできなさそうに見えるので厄介ですね。負けや逃げが目立つから必要以上に弱そうに見えてしまいます」
言われてみれば、俺も偽正者が強そうってイメージは持ってないな。そもそも本物の正者が日本から色々奪い逃げてったから偽もその印象を信仰として引き継いでいるんだろう。信仰生物としてはなるべくしてなったみたいな人物像だな。……でも、奴の姿がおっさんなのは現代の解釈とはいえ、信仰慣れした今となってはどうかなと思う。本来は子供だぜ。
「あっ。負けといえば、偽正者はテーナにやられてたな」
「あれは黒天利と偽正者にとっては想定外の出来事でしたね。偽正者は襲撃者のテーナの様子から黒天利が地下都市やその他の権力を狙っていることを悟りました。更には資金提供のときに黒天利から耳にした特星関連の話、そして特星からやってきたお前達の件もあって、黒天利と特星が自分に害を成す存在であると考えました」
「間違っちゃいないな。特星側では校長が兄との決着を付けたがっていたんだよ。地球で暗躍してるのが偽正者だと知った後も自分が止めるんだと張り切ってたぜ」
「正安ですか。彼も大恐慌エイプリル後の日本を知っていますからね。あ、でもその割には本気なのかギャグなのかわからない格好で正者と接触してましたよ。リニアで偽正者に口説かれてました」
「聞いた聞いた。校長自身は真面目過ぎないように普段から変な振る舞いをしてるけど、実際は天然だから肝心なときにも変なことするんだよ」
「お、さすがに詳しいですね」
「親の何千倍も顔合わせてるからな……。でも偽正者は何でわざわざ北界県まで?」
「報復ですよ。黒天利が北界県で舞台を作ってることを奴は知っていましたからね。傷が治り次第すぐにリニアで向かいましたよ。関係者の中で弱ってる人物を暗殺するつもりだったようですね」
偽正者が襲撃されてから少し時間が経ってるようだが、テーナにやられた傷の回復を待ってたってわけか。でも真っ向勝負するつもりはなかったと。こりゃあ校長が居てくれなきゃかなりヤバかった……こともねーか?
「俺は偽正者がそこまで強いとは思わないが」
「真っ向勝負ではそうかもしれません。でも、黒天利が信仰を断って魔法少女化していなければ、彼女の特殊能力封じの舞台は維持されていたでしょう。その状況下なら果たして正安が偽正者を倒せていたかどうか」
「あー、偽正者は特殊能力封じのことを知ってたのか」
「一応、テーナに襲撃されたときに小耳に挟んでいますね。ただ、やはり正面対決でさえなければ勝てる自信があったのでしょう。あいつの所持する異電波刀には強力な物理耐性が備わっています」
「物理耐性!?テーナも物理攻撃無効の魔法を使ったって話だし、最近そういうの多いな」
「異電波刀は電気及び波動に耐性を持っていて、波動耐性が外からの物理エネルギーを抑えるのですよ。しかも異電波刀の恐ろしいところは、耐性が強すぎて切った空間や相手にも若干の耐性を与えてしまうところにあります。耐性付与といえば聞こえはいいですが……わかりやすくいえば毒のようなものですね」
「毒かぁ。ま、確かに地球だと相当厄介だな」
「耐性付与の範囲が若干物質より広く、掠るだけでも耐性の毒が体に残ることがありますからね。異電波刀の刃を瘴気が覆っているようなイメージです。額を掠るだけで意識と脳の一部機能が一時的に失われますよ。その間は耐性付与箇所の傷口も塞がりませんし」
「意識が?それは確かに、特星でも結構強そうな気がするけどさ」
「それに物理性能です。刃付近の物理エネルギーを抑えるので非力でも攻撃を受け止めます。ただ相手側にも若干の耐性付与をしてしまうので、異電波刀からの物理エネルギーも伝わりにくいですけどね。何でも切れますが重みがあるというか……。刃を下に向けて落とすと、地面に落ちるころには柄が下になっていて引っ張られるように落ちます」
「ふーん。随分とその武器について詳しいじゃないか」
「異電波刀は人間の正者が置いていったもので電子界にありましたからね。あの厄介者の子供が異世界帰りに持ってきたマジックアイテムなんです。ただ私たちもちょっと因縁があって……色々試していたんですよ」
……すごく今更かもしれないが、本物の正者って本当に子供だったんだな。いや、まあ校長の話を聞いてたから事件当時が子供なのは知ってたんだけど。信仰生物の偽正者がまったく子供って年齢じゃなさそうだったから実感がなかったんだよな。子供の正者が異世界にねぇ。瞑宰県ってのは意外とやべースポットが多いのかもしれないな。電子界への入り口もあるし。
「因縁ってのは?」
「う。ま、まあ正者にというか異電波刀の性能にやられたというべきなんですが……。実は、皿々ちゃんが正者に異電波刀で切られたことがあるんです」
「あいつが?どっちの正者に?」
「人間の正者に。……正直、相手が子供だからと油断していました。私も人間の一撃では皮膚に傷もつかないだろうと考えてましたから。皿々ちゃんは人間の大人相手でもケガなんてしませんし」
「しかしまた何で正者はお前らを狙ったんだ?」
「正者も皿々ちゃんも喧嘩腰ですからね。あいつがウサギと異世界に向かったときにも皿々ちゃんと口喧嘩してましたよ。そのときはウサギが止めてましたけど」
「……ウサギ?」
「異世界から来た……何て言えばいいんでしょう。着ぐるみみたいなウサギ人間。どうにも異次元ホール内を思い通りに渡航する技術を有しているようです。あ、お前は異次元ホールのことはわかりますか?」
「ああ、異世界に行くときに通る空間だろ。特星でも一部異世界へ定期便が出ててな。雑魚ベーたちの故郷なら木製バスで行けるぜ」
「木製バス!?せ、センスはともかく中々すごい技術力がありますね……。皿々ちゃんが特星にいるというのも納得かも」
「俺はウサギ人間の方が気になるんだが」
もしもそいつが正者を異世界に連れて行ったのなら、日本崩壊の原因は正者っていうよりはそのウサギ人間の仕業かもしれない。まあ、このドラゴンの評判からして本物の正者もろくでもなさそうではあるが。でもウサギ人間が黒幕だったなら校長の気も少しは晴れるってもんだろうぜ。正者のこととなるとらしくない真面目モードになっちまうしな。
「そうですねぇ。電子界が正常だった頃、異次元ホール側から穴があけられてあのウサギが侵入してきました。状況からして穴を空けたのはあのウサギ人間で間違いないでしょう。ですが、皿々ちゃん曰く、空間の壁をぶち破ったのは錬金術の力に近いとか」
「錬金術。確か皿々がよく使ってたな」
「皿々ちゃんは我々ドラゴンの中でも錬金術を専門に研究していました。その皿々ちゃんが錬金術だというのだから間違いないですよ」
「あいつがそんなに凄いとも思えんが。それに近いってことはウサギの使った力は錬金術とは違うんじゃねーのか?」
「あ、いえ。最初は錬金術って言ってたんです。ただちょっと。……私がつい皿々ちゃんの錬金術より凄いかもって言っちゃったから。あんな自然生成されたエネルギーは原理的には同じでも錬金術じゃないって拗ねちゃって」
「……いつだったかに聞いたことあるフレーズだな」
「異電波刀で切られてからは、皿々ちゃんはその記憶を失ったのです。おかげで仲直りは早かったですが。ウサギに関しては錬金術の話以外はわかりません」
「自然発生の錬金術か。確か、大メインショット郷国に封印されていた錬金術の化け物が同じことを話していたはずだ。一緒に封印されていた、悪の科学者エビシディとその側近の影野郎も正者のことを知っていたんだよ」
「その地名はテーナの故郷ですね。信仰の専門家としてお前に補足しておくと、テーナのいた世界と正者のいた世界はほぼ確実に別のものです。どちらも異次元ホール内から信仰が出てますが元の出所は別なので」
「そんなこともわかるのか。ってか、信仰の専門家ってなんだよ」
「あ!錬金術関連で一つ思い出しました!子供の正者が異世界から帰った直後に、皿々ちゃんがまたその錬金術かみたいなことを呟いてましたよ。正者も同じ力を身に着けたのかもしれません」
「う。じゃあやっぱり正者が日本を……」
「そこを気にしてたんですか?そりゃそうでしょう。お前、なんか言ってることが変ですよ。一体何を考えているんですか」
「ああいや。校長が正者のことでいつも気落ちしてるからさ。他の可能性もあるんじゃないかなーって考えてたんだよ」
「ははーん?お前にしては思いやりのあることを言いますね。ですが、事実を追求したいのならそれは結構ですが曲解させて信じ込むのは程々にすることです。お前の言葉で期待し、事実でより深く傷つくことになりますよ」
「む、そういうもんなのか」
「あの教師を安心させたいのであればお前はまず自分を磨くことですね。正安は何だかんだでお前のことを心配しているのですから」
「わかってるよ。近所付き合い歴だけは100年近いんだ。親より顔も合わせてる。校長が相当俺を気遣ってくれてるってことは嫌でも伝わってくるぜ」
「星を移ってもお前達の絆は変わらないようですね。……色々話は逸れましたが、最後に偽正者の顛末だけ話して今回の話を終えるとしましょうか」
「長話すると結構話が変わってくな。本来は偽正者の話を聞きにきたんだけど、正直もうどうでもよくなってたよ。本物の正者やうさぎの方が気になるし」
「そう言わずに聞きなさい。正安に追い詰められたことで偽正者はこの電子界へ逃げ込み、異次元ホールから他の異世界へと逃げていきました。異電波刀も一緒にです」
「だろうな。……そういえば異電波刀は電子界を通れるのか」
「エネルギー量がほとんどなければ魔法も物質も通りますからね。……で、その逃げる直前に気になることを吐き捨てていたのです」
「気になること?」
「ええっと確か……、俺の記憶にはまだ切札が残されている。究極物質……!それさえ見つかれば俺の不可逆を覆す術はない。とか抜かしてましたよ」
「究極物質!?」
「おや。お前はその安っぽそうな物質をご存じで?」
「……特星の闇の世界ってところで皿々が生み出したなんかすげーやつ。ドラゴン仲間なのにお前はご存じないのかよ」
「は、初耳ですけど」
「まあ、材料はパンツらしいから言ってないのも無理ないか」
「パンツぅ~?冗談でしょう?ジョークなら早く白状した方が流す涙は少なくて済みますよ」
「ほ、本当だって。事件後に何人かが言ってたもん」
「むぅー。じゃあ偽正者の切札ってのも大したことないですね。たかだか人間のパンツが材料の物質なんてたかが知れてるでしょうから。皿々ちゃんもお遊びで作ったんでしょう」
「そうかなぁ」
俺が特星で正者の調査をしていたとき、究極物質は皿々本人が探していたものの既にアルテの力となっていた。そして、そのときに対峙した錬金術の怪物……!正者のことを知るあの怪物も、アルテから究極物質を一時的に奪い取っていた!偽正者の記憶にある切札・究極物質の切札たる所以を、あの怪物は何か掴んでいたんじゃないのか?
「お前はまだ何か引っかかっていることがありそうですね。しかし残念ながら、今日の私はこの後少し立て込んでいましてね。次の用意を手短に話しますから一回で理解しなさい」
「え、待てよ。お前って確か100年近く電子界で暇してたんだろ。今更何の用事があるってんだ?」
「で、デリカシーのない奴ですね……!お前が来る前にお菓子を味見していたんですよ。結構な量を。それが久々の食事だったから体が驚いてお花摘みしなきゃいけないんです。……あっ、魔法で済ませますからね勿論!電子界には痕跡一つ残る機会もないのでそこは心配いりません!」
「ああトイレね。ま、確かにお前みたいなのが用を足したら、何を出しても山か海ができるのが目に見えてるもんなー。ん?」
[がしぃ!]
「げっ!?」
し、しまった!完全に油断していたから後ろから迫るドラゴンの手に対応できなかった!やべー、奴の手中で全く身動きが取れない。
「唐突に面白いことを言いますね、人間。お前がそんなに登山や水泳に興味あったとは知りませんでしたよ。それでどちらを選びます?」
「わ、悪かった。今のは俺がデリカシーなかったよ。冬なんだし、俺は寮で大人しくコタツにでも潜っておきたい気分かなーって」
「ふん。私が対等に接しているからって調子に乗りすぎです!次回は今回までとは勝手が違いますからよく聞いておきなさい」
「わかった!わかったから手を放せって!」
な、なんとか解放された。普段なら難なくかわせるところだろうが、今回は最初にお菓子とか出てたから完全に気を許しちまってたよ!次からは回避を念頭において食うしかないな。
「次はテーナの話なんですが、彼女は元が異世界の人間でしかも実体化の遅かった信仰生物です。正直私は彼女のことに詳しくないので話せることがありません。……そこで、彼女に関連したこととして不老不死のことを主に話そうかと思っています」
「不老不死?まあ特星だと馴染み深くはあるが、俺はあんまり詳しくないぞ」
「ま、そうでしょうね。というわけでお前に宿題です。不老不死っぽいことで私と話すネタになりそうなことを何か調べてきなさい。お前にわかるレベルのもので構いませんから」
「宿題って地球の学校みたいだな。……それを忘れたら?」
「んー?じゃあ罰としてお昼寝する私を10時間くらい眺めていてもらいましょうか。ちゃんと芸術品を鑑賞するように神秘的な想いで見るのですよ!」
「あ、あまりに時間の無駄すぎる……!こりゃあ宿題は忘れられねえな」
「よい心がけですね。さてと、これ以上私のお腹具合に無理をさせるわけにはいきません。お前の部屋の魔鏡まで送りますから早く魔法陣に乗るのです」
「ああ。暇になったらまた来るよ」
ドラゴンの出現させた魔法陣に乗ると周りの景色が変わっていく。……そういえば、今回はあのドラゴンの電子界事情とか話さなかったな。俺が電子界に出入りできることを利用すれば取れる手段も増えそうなもんだが、あのドラゴンはどこまで考えているんだろう?
「うおっ、全裸だ!」
あ、相変わらず電子界帰りの全裸状態には慣れねーっ。この衣服とかも全部実際は電子界に入らないんだもんな。信仰なしの俺の体は物質にも満たないってことか。……あいつって電子界を出たら生活していけるのか?
「いずれわかるか。さ、身だしなみ身だしなみ」
鏡でまずコートの具合を確かめながら衣服を着ていく。いつも通りの格好に戻った俺はいつものように特星生活へと戻っていくのさ。まだ宿題には早いんでね。